Saturday, May 17, 2025

Section 899下院法案バージョン

OBBB

下院法案のMega-Billは「One Big Beautiful Bill(OBBB)」って法案に名称が付されたけど、そんなMega-Billは結局、金曜日にBudget Committeeをクリアすることができなくて、再度日曜日の午後10時に再投票予定。Budget Committeeって本来、下院に11存在するCommitteeがMark-upした各法案を文字通りMega-Billに取りまとめる手続き的なステップを踏むところなんで、ここで躓くっていうのはチョッとBlack Eye。この躓きは前回のポスティングで触れたSALT派の不満もさることながら、SALT派と対極の立場にあるDeficit Hawk派の反逆による。Medicaidの就労義務導入やIRAエネジークレジットの段階的撤廃が2029年以降に先送りされてる点を問題視し、歳出減に対する規律のなさを理由に共和党Budget CommitteeメンバーのChip Roy (R-TX)、Josh Brecheen(R-OK)、Ralph Norman(R-SC)、Andrew Clyde(R-GA)の4名が反対に回った。

実は手続き的には更にもう1人のBudget Committee共和党議員Lloyd Smucker (R-PA) も反対票を投じてるんだけど、Smuckerの反対票は法案そのものに対する反対ではなくBudget Committeeとして再考のチャンスを温存するためって発言している。これは、下院規則では再考後の再投票は反対票を投じた議員のみが要求できるため。Smuckerは反対票を投じることでその後の交渉後に再度投票する機会を温存したことになる(結果、日曜日の午後10時の再投票)。

4月のBudget Resolutionの下院投票時からRoyやNormanは歳出減が手緩い点に懸念を表明してたけど、結局その時点では賛成票を投じ、当時反対に回ったのはBudget Committee外の共和党議員Thomas Massie(R-KY)とVictoria Spartz(R-IN)の2名だった。したがって仮にBudget Committeeとその際の手続きになるRules Committeeを通過したとしても3名を超える造反で可決が阻まれる下院全体の投票は例によってドラマチック。仮に何らかの妥協案に合意される場合、Budget Committeeそのものに法案を改訂する権限はないはずだから、その次のステップとなるRules Committeeで下院のフロア投票用の最終法案に反映されることになる。日曜日から週明けはどんな展開になるでしょうか。

Section 899下院法案バージョン

で、下院法案にSection 899(「下院法案Section 899」)が盛り込まれた点は前々回の「下院法案ドラフト公表「P2対抗法案899・Super-BEAT共に入選」」で速報した。

下院法案Section 899は以前から「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案」シリーズで触れてきたJason Smithの「Defending American Jobs and Investment Act」(従来のsection 899法案)をベースにしてるけど、いくつか特筆すべき変更が加えられている。これらの変更はランダムなものではなく、Budget Reconciliationに基づいた可決を視野に入れている、また財務省と密に連携し財務省の交渉スタンス(後述)と整合性を図った結果って考えられる。

UTPR・DST・ DPTは自動的に対抗規則対象

まずSection 899のタイトルだけど従来のsection 899法案の「Enforcement of Remedies Against Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」から「Enforcement of Remedies Against Unfair Foreign Taxes」に変更されている。以前触れた通り、条文のタイトルそのものには法的拘束力や意味はない。とは言え、条文を読むと下院法案Section 899ではExtraterritorial Taxes and Discriminatory Taxesはそれらを含む総称となる「Unfair Foreign Taxes」に統一されている。下院法案section 899では、Unfair Foreign Taxesを持つ国を「Discriminatory Foreign Country」とし、そんな問題国の市民、法人等に付加税を課す、また問題国の米国子会社にはEstes法案で規定されていたSuper-BEATを適用するとしている。Super-BEATの元々の法案に関しては「ナントUTPR追加対抗法案「The Unfair Tax Prevention Act」も下院再提出」で簡単に触れてるんでそちらもぜひ。

で、ここがパンチラインのひとつだけど、下院法案section 899では「UTPR、DST、DPT」の3つはそれ以上の検討は不要で自動的にUnfair Foreign Taxesに当たるって特定して明言してる。すなわち従来の法案ではExtraterritorial Taxes and Discriminatory Taxesを条文で定義し、その定義だったら当然それらにUTPRは含まれるねっていう結論に至ったり、財務長官がExtraterritorial Taxes and Discriminatory Taxesを持つ国がどこかとか判断することになってたけど、下院法案Section 899ではUTPR、DST、DPTに関してはそんな手続きや検討は一切不要で、これらの3つの問題措置のいずれかを持っている国はUnfair Foreign Taxesを持っている国になり、その国はDiscriminatory Foreign Countryとなり、section 899発動対象国となる。

さらにUTPR、DST、DPT以外の税制に関しては従来のsection 899法案通り、財務長官がどんな税制がExtraterritorial TaxesやDiscriminatory Taxesに当たるかを特定することができる。Extraterritorial TaxesおよびDiscriminatory Taxesの定義は従来のsection 899法案のままだけど、以前はExtraterritorialの定義はUTPRそのものだね、とか話してたけどUTPRはそんな判断を待たずして自動的にUnfair Foreign Taxesに区分されるんでUTPRに関してこの定義はMoot。Discriminatoryに関しても同様にDSTは自動的にUnfair Foreign Taxesに区分されてるんでMootで、後は他の類似課税が潜在的に問題になる。

IIRとかは?米国財務省の対ピラー2「Side-by-side」ポジション

IIRやQDMTは名指しされてないけど、米国財務省のピラー2に対するポジションは米国は米国で主権国家として自国の税法を米国市民が選挙で選んだ議会が決め、他国は他国でピラー2を入れるんだったらそれは勝手だけど「ピラー2は米国法人および他国の米国子会社には一切影響があってはならない」っていう「Side-by-side」アプローチ。この点から米国子会社に対する他国のIIRは問題税制のひとつになってもおかしくない。またQDMTに関してはOECDが勝手にルールを決めて各国に強制している点は受け入れられないとし、各国が主権国家して独自の法律を入れる点を認めるべきってしてる。これは具体的にはOECDはQDMTがGILTIに優先する、すなわち米国でGILTI対象になっているCFCに関してGILTI税負担をプッシュダウンする前にQDMTを計算することって強制して、各国の国家主権を侵害して米国を不利にしてる点を問題視してるものと思われる。

これらの米国財務省のスタンスは財務省Deputy Assistant Secretary for International Tax AffairsのRebecca Burch(この前までEYのNational Taxに居ました!)が再三明言していて、単なるGILTIのGrandfatherやUTPRのTransition Safe Harborの時限延長のような小手先対応では不十分としている。GILTIがこの先どんな風に変更されようと、13.125%のままだろうが全世界ブレンディングだろうが、米国が先にGILTIを策定し、CFC課税だって1962年から他国に先駆けて適用している等、自国なりにProfit Shiftingを取り締まってるんだから、それ以上、米国法人や米国子会社にピラー2などを適用する必要はないし、そんな動きは認められないっていうもの。GILTIは全世界ブレンディングだけど、FTCの枠計算時の費用配賦・案分法やQBAIに基づく減額はOECDよりも不利な規定って考えられる。これらの点をOECDやEUにもちゃんと理解してもらわないと…っていう認識もあるだろう。Rebecca Burchのこれらのスタンスは、財務省Assistant Secretary for Legislative Affairs任命確認待ちで現時点ではCounselor to the Secretaryに当たるDerek Theurer も同じコメントを出している。

Rebecca Burchは、いずれにしてもUTPRのSafe Harborは2025年までのはずだから、今年中にはピラー2は米国に何の影響もない点が明確にならないといけないとしている。

これらの発言から財務省・下院は一丸となってピラー2の米国企業への適用は一切認めないっていうスタンスが明らかになっている。ちなみに米国では、実は下院法案が歳入源が欲しいにもかかわらずGILTI税率が2026年から16%に引き上げられる現行法を改訂してまで13.125%を保ってるのはピラー2の15%に対する不快感表明っていう噂があるほどだ。

米国多国籍企業からは、自国企業のことを第一に考えてくれている財務省・議会の強固な対ピラー2姿勢を高く評価する声が多い。Microsoft、J&J等のTax Directorがこれらの対応は合理的でありがたいってカンファレンスでコメントしたと報道されている。選挙後、ピラー2に対するプッシュバックをしてくれる点は想定の範囲内だったけど、Derek TheurerやRebecca Burchのポジションは期待を上回るものと受け止められてるように思う。

財務長官リストアップ・相手国との交渉手続き要件撤廃

上述のUnfair Foreign Taxesの定義変更と整合性を持たせるため、従来の899法案で規定されていた「財務省長官による問題国のリストアップ、議会への報告、問題国への告知・交渉」にかかわる規則は撤廃されている。この変更により、UTPR、DST、DPTを持っている国は財務長官との交渉等のチャンスなくsection 899が可決されると対抗措置の対象になる。この変更は財務省の今後の交渉時のレバレッジを確保する目的ばかりでなく、財務長官による交渉を待ってたり、どの税制がExtraterritorialやDiscriminatory Taxかっていう点が明確じゃないと歳入効果が図り難く「Scoring」困難って位置付けられてBudget reconciliationに基づく法案対象外ってキックアウトされるリスクに対応した側面がある。ちなみに下院法案ではsection 899の歳入効果はBudget Windowの10年間で$116Bと推定されている。

で、他にも下院法案section 899は従来のsection 899との比較で条約の低減税率と付加税の関係や外国政府(SWF等)の取り扱いに関してアップデートがあるんでこれらは、下院法案section 899に合体されたSuper-BEATと共に次回。その時点で下院法案の審議状況もね。