Wednesday, September 5, 2007

CA州の「LLC Fee」に明日はあるか?

*最強の事業形態「LLC」

LLCという事業形態は、メンバー(株式会社の株主に相当)全員に「有限責任」が認められると同時に、事業主体レベルでの課税がない「パススルー課税」の適用を受けることができるため一般的に最も有利な形態であると言われている。

有限責任に関しては株式会社同様、または場合によってはそれ以上のプロテクションがあるし、パススルー課税も税法上は「パートナーシップ税法」の適用を受けることから「S法人」よりも弾力的なプラニングが可能であり、その意味で数ある事業形態の中でも「最強」である。

*CA州のLLCに対する公課

パススルーなので一般的には事業主体レベルの課税はないのは確かであるが、州法上の取り扱いは各州異なるため注意が必要となる。CA州で設立された、または他州で設立されたがCA州に登記されているLLCは、年間$800のFranchise Tax(実質的には法人税)プラス「LLC Fee」という公課を支払う必要がある。このLLC FeeはLLCの年間総所得の金額により決定される。年間総所得が$250,000に満たないケースではゼロ、その後は累進で金額が増えていき、年間総所得が$5,000,000以上となるとFeeは$11,790となる。

LLC Feeが最高でも$10,000強であることから、ある程度の規模の事業に従事しているLLCにとっては重要性に欠ける、またはLLCという事業主体を利用するメリットを考慮すれば元が取れる金額であると言えるが、小規模事業に従事しているLLCにとっては結構な負担となる。こんなFeeを支払う位であれば、GPを設立して負債に対する無限責任部分に対しては「保険」に入ってカバーするというアプローチを取るケースもある。保険料がLLC Feeより低いのであればそれも一つの考え方であろう。

*CA州のLLC Feeは憲法違反で無効?

このCA州のLLC Feeに対して昨年、CA州裁判所(Superior Court)で憲法違反という判決が2件下されている。まず、2006年3月に下されたNorthwest Energeticでは、CA州以外で設立されたLLCがCA州に登記はしているものの実際にはCA州での活動がないというケースに対するLLC Feeの適用是非が問われた。LLC Feeは州税と異なり、州に対する配賦按分がなく、LLC全体の総所得に基づきFeeが決定される。この配賦がないという点が憲法違反であるとLLC側は主張し、判決ではその趣旨が認められたものである。

2007年8月24日の「拡大する州の課税権」のポスティングで触れたが、米国連邦憲法の規定(「Commerce Clause」「Due Process Clause」)により、州による企業への課税権は制限されている。敢えて簡単に言ってしまうと、まず、その州と何らかの関係、すなわちNexusがないと州は企業に課税権を行使することができない。また、課税権が行使できる場合でも、企業全体の所得のうちその州に関連する金額のみに課税することができる。

今回のケースではLLCがCA州に登記されていることから「Nexus」は間違いなく存在しており、この点に係る問題はない。一方、「企業全体の所得のうちその州に関連する金額のみに課税」という条件は全く考慮されておらず、これがCA州にとっては命取りとなった。この条件は、通常、売上、人件費、資産に基づく配賦%を全社の所得に乗じた金額を課税所得とすることで達成されるが、上述の通りCA州のLLC Feeの算定には配賦%は一切適用されない。

配賦%を適用しないことに対するCA州側の抗弁は「LLC Feeの位置付けはタックスではなくFeeであるので、州税に適用される憲法の規定は無関係」というものだ。しかし裁判所は「Feeという名前で仮装しているものの実質的には州税である」として憲法違反であるという判断を下した。

続く2006年11月にはVentas Financeというケースにて同様にLLC Feeは憲法違反であるという判断が下されている。 Northwest EnergeticケースはLLCがCA州にて何の活動もしていないという極端な事実関係に基づくものであったが、このVentas FinanceはCA州外で設立されたLLCがCA州で全体の10%未満と僅かではあるが活動をしているというケースに対する判決であった。Ventas Financeでも配賦%を適用していない点が憲法に違反するとされた。

*両ケースの持つ意味

ケースは現在控訴されており最終的にどのような結論となるかは現時点では分からない。しかし、LLC Feeの合憲性に大きな疑問が生じていることには間違いがない。Northwest Energeticケースの判決が出た際には、判決の効果はCA州で何もしていないケースにのみ有効となり、それ以外の局面に関してはLLC Feeは有効なのではないかと推測することも可能であった。

しかし、Ventas FinanceではCA州内に活動があるケースでもLLC Feeが憲法違反とされたばかりか、裁判所はLLC Feeを州の所得に按分して部分的に認めるという措置を取らずに、LLC Feeの法律全体が憲法違反と認定し、LLC Fee全額プラス金利を企業側に返金するように求めている。したがって、このままでは州内の活動がどれだけあろうとLLC Fee法そのものが憲法違反なり、時効の範囲で過去のLLC Fee全てが無効となる可能性がかなりある。裁判所が敢えて自らの手で按分%を適用しなかったのは、そのような改訂は州の立法機関の手により行われるべきであるというメッセージであろう。

*CA州立法機関の対応

2007年8月28日にCA州上院には、LLC Feeを決定する際の総所得金額は配賦%を乗じて決定するという法改定案が提出されている。改定案によると法変更の効果は2001年まで過去遡及される。となると今までLLC全体の所得に対してLLC Feeを支払ったLLCは配賦%を乗じてFeeの再計算をし還付請求を行うことができる。時効が成立していると還付が認められないため、古い年度に関しては時効の成立をストップさせるための「Protective Filing」という手続きをして課税年度をオープンにしておく必要がある。

この改定法案が立法化されれば、全てのLLC Feeを還付するというCA州側にとって最悪のケースを避けることができる。しかし、訴訟が進行中であることもあり現時点での立法には反対する向きもある。また、控訴審でもLLC Feeが違憲判決を受けることにより、その後のLLC Fee法の改正には過半数ではなく3分の2の投票が必要とする状況を作り、実質LLC Feeを撤廃に追い込みたいとする一派の思惑もあるとされ今後の方向性は明確ではない。