Monday, September 17, 2007

PE Fundsで「Blocker Corporation」が果たす役割

2007年7月31日にブラックストーンに係るポスティングをした際に新聞記事で「Blocker Corporation」の使用が話題を集めている点に触れた。

この「Blocker Corporation」というのはPrivate Equity FundsまたはHedge Fundsなどをストラクチャーする際に頻繁に出てくる手法。Blocker Corporationの役割を理解するにはPrivate Equify Fundsの基本的なストラクチャーを知る必要がある。

*Private Equity Fundsの基本ストラクチャー

Priavete Equity Fundsのファンドそのものは通常LPS。稀にLLCというケースもあるけど、米国税務上パススルーの形態を取る。株式会社(Corporation)という形態を取るとファンドレベルで課税されるばかりでなく、ファンドの受け取る所得の性格(キャピタルゲイン、配当)をそのまま投資家にパススルーできないというデメリットが発生するため、株式会社という形態を取るケースはまずない。LPSにしてもLLCにしても税務上はパートナーシップなんで同じ取り扱い。

ファンドに対する持分は大別して投資家とファンドのマネージャーに振り分けられる。投資家グループは更に「裕福な米国の個人」「ペンションファンド等の非課税組織」「外国からの投資家」等から構成され、投資家はファンドのリミテッド・パートナーとなる。一方ファンドマネージャーはジェネラル・パートナーとなるが、通常はファンドに直接マネージャーが持分を持つのではなく、ファンドマネージャーのみが所有する別のGPまたはLLCをファンドのGPとするのが通常である。

このファンドマネージャーであるGPは比較的小額のキャピタルのみを出資するが、投資をマネージする報酬の一部としてファンドが投資する企業(Portfolio Company)に係る所得(配当益、キャピタルゲイン)を出資比率とは関係なく20%をキャリーとして受け取る形態を取るのが一般的。

*ファンドがパススルーであるメリット

ファンドがパススルーとしてストラクチャーされることにより、ファンドレベルで課税されないのはもちろんであるが、恩典は他にも沢山ある。主たるものは次の通りである。

ファンドが認識するキャピタルゲインはキャピタルゲインという性格を保ったままパートナーに配賦される。GPとして別のパートナーシップがファンドに参加している場合でも、GPパートナーシップに配賦されたキャピタルゲインはそのままGPパートナーシップのパートナーにパススルーされるため、最終的な持分を持つ個人パートナーは配賦されてくる所得をキャピタルゲインとして申告することができる。通常所得が連邦だけで最高35%で課税されるのに対し、キャピタルゲインは15%が最高税率となるため、キャピタルゲインの性格を持つ所得が配賦されてくるメリットは大きい。

同じことが配当所得にも言える。米国法人または一定の条件を満たす外国法人からの配当はキャピタルゲイン同様に15%の特別税率の対象となるが、ファンドが受け取る配当はその性格を持ったまま最終的なパートナーに配賦されてくることとなる。

また、ファンドがパートナーシップとしてストラクチャーされるために、弾力的な所得分配やそれに準じる配賦が可能である。例えば、投資のリターンが一定となるまではファンドに対するキャピタル出資比率に準じた分配・配賦、一定のハードルレートを超える投資リターンに関しては20%をGPであるファンドマネージャーに優先配賦(これがキャリー)、残りの80%はキャピタル出資比率に準じて投資家に、といった分配・配賦をパートナーシップ合意書に規定することにより基本的に自由に行うことができる。別のクラスの株式を発行することなく各々の投資家、マネージャーに異なる権利を付与することができる。

*投資家が非課税組織である場合の問題点

Private Equityにはペンションファンド、大学の奨学金ファンド、その他の非課税組織が主たる投資家として名前を連ねていることが多い。非課税組織はその名の通り、基本的に税金の対象にならないのだが、それは単に投資所得を受け取って公益な目的に資金を使用している場合に限定される。非課税組織が「事業所得(Unrelated Business Income Tax (UBIT)」を受け取る場合には、非課税組織であっても通常の事業主同様に課税される。

ファンドが受け取る所得が配当、キャピタルゲイン、利子等に限定されている場合には通常は(それらの投資が借入金で賄われている場合を除き)、UBITにはならない。しかし、ファンドがパススルーに投資して事業所得やサービス収入を受け取る場合には、それらの性格がそのまま投資家であるリミテッド・パートナーにもパススルーされるため、非課税組織がUBITを受け取ることになり課税される。ファンドが投資をファンドレベルの借り入れで賄う場合も同じ問題が生じる。そのような面倒を避けるためにファンドと非課税組織の間に株式会社扱いされる事業主体を介在させることがある。これがBlocker Corporationである。

どのような性格の所得であれ、一旦株式会社が受け取りそこから再分配すると、それは配当となり、もともとの所得の性格は株主にはパススルーされない。したがってUBITの性格をブロックすることからBlocker Corporationと呼ばれ、タックスヘブンの国に設立されることもあればデラウェア州で設立されることもある。

*投資家が外国人である場合の問題点

ファンドが受け取るキャピタルゲインに関して、外国人投資家は通常米国では課税対象とされない。また、配当に関しては30%(または租税条約の低減レート)で源泉課税される。したがって、米国で申告書を提出する必要はない。しかし、上述の非課税組織のケース同様に、ファンドがパススルーに投資して事業所得やその他のサービス収入を受け取る場合には、それらの性格がそのまま投資家であるリミテッド・パートナーにもパススルーされるため、外国人が事業所得を直接受け取っているのと同様の取り扱いを受ける。となると外国人投資家は米国にて申告書を提出しなくてはならないことになる。そのような面倒を避けるためにファンドと外国人投資家の間に株式会社扱いされる事業を介在させることがあり、これもBlocker Corporationと呼ばれる。

*Blocker Corporationに対する課税

Blocker Corporationが米国源泉の所得に対して法人税を支払う限り、全体での税額は低くならない。ブロッカーが米国の主体の場合、むしろ、キャピタルゲインに対して通常課税される(法人税法上はキャピタルゲインに対する恩典税率はない)、また一部非課税扱いされるとは言え配当に対しても通常税率で課税されるために米国税負担は増えることがある。ケイマン諸島等のオフショアのブロッカーはキャピタルゲインには通常課税されない。

しかし、もしBlocker Corporationに大きな費用が発生するようだと法人税を圧縮することができる。大きな費用を計上するためにBlockerに借り入れをさせるのが一般的な手法が考えられる。新聞で報道されたブラックストーン上場の際の節税作戦はブロッカーではないけど、上場主体がGoodwill等の償却メリットを享受する毎にもともとのファンドマネージャーにその恩典の多くを補填する点に原因があるようだ。その内容はまた別のポスティングでまとめる。