前回の米国のスピンオフ(8)で始めたMorris Trustケースの解説を続ける。
*「Active Trade or Business」条件
IRSの基本的な主張は「Active Trade or Business」条件が満たされておらず、したがって非課税スピンオフには適格ではないというものであった。Active Trade or Business条件に関しては「米国のスピンオフ(2)」にて解説している。もしスピンオフが非課税でないとすると課税されるのは株主ばかりではない。株主には配当益(E&Pの範囲で)が課税されるが、スピンオフとならないということは、Dによる保険業の現物出資がD型再編とならないことも意味する。したがって、保険業の含み益に対してDが課税されることになる。
Dの銀行業は合併後も第三者Pにより継続されるが、IRSの言い分はDが消滅することからDによる事業継続とは認められないというものであった。
これに対して裁判所は、Active Trade or Business条件の歴史的背景には現金等の「流動資産」をスピンオフと仮装して株主に配当するようなケースに網を掛ける目的が存在する点、また、1954年の税法改正により、Active Trade or Businessはスピンオフ「以前」に5年間という厳しい規定が設けられる一方でスピンオフ後の経緯に関してはその「直後」にActive Trade or Businessが存在していれば問題がないとされている点、等を指摘した。その上で、Morris Trustのケースでは流動資産を配当するような事実関係、また他の脱法的な取引に見られるような意味のないステップ、ダミー法人等の存在がないこと、銀行業は立派に合併後も継続していること、合併という「法人形態」のみを変更して事業を継続していくことは非課税再編の促すところであること、十分な事業目的が存在する取引であること、等の理由でActive Trade or Business条件に違反はなく、条件は満たされているという判断を下した。
IRSの指摘は合併の存続法人が「たまたま」Pであったがために発生しているものであり、もし存続法人がDであったならばIRSの主張(=Dが事業を継承していないという主張)は通り得ない。判決では、合併の存続法人の方向のみで課税関係が決定されるのは不合理だとしている。これに対してIRSは例えDが存続法人であったとして非課税とはならないというようなことを主張したようだが、そのような解釈はDが単に何らかの再編に関与する度にActive Trade or Business条件が違反されるような結果となり、法律の規定から逸脱すると判決では片付けられている。
*持分継続
裁判所の判決で面白いのは、Active Trade or Business条件が満たされているとする際に、上述の多くの理由に加えて「DとPの合併によりDの株主は存続法人株式の54%を受け取ってるために持分継続条件を満たしている」という理由も述べている点だ。Dの方がPよりも規模的に大きいために旧D株主は合併後の法人の過半数の持分を有するに至っている。「持分継続」はスピンオフのひとつの要件であるが、この点を別の条件と位置づけるのではなく、あくまでもActive Trade or Business条件を満たすための一要件かのように処理しているところが興味深い。
持分継続に関しては例え合併によりDの株主の合併後の存続法人に対する持分が大きく低下したとしても、合併対価としてEquityを受け取っているのであれば、もともとスピンオフがあった時点で持分継続が満たされていたとして、問題はないはずだ。持分継続の判断はあくまでも合併前のDの状態に照らし合わせて判断し、その後の合併時にはBoot(もしあれば)がその持分継続に影響を与えないかどうかを検討すればいいと思われる。
ただし、スピンオフ後の合併等の買収でD株主が受け取る持分が過半数に至るかどうかは後に1997年の税法改正時に最重要条件として再び浮上してくることとなる。
*Control条件
次にIRSはDが合併されたしまったために「Control」条件が満たされていないのではないかという主張もしている。Control条件に関しては「米国のスピンオフ(3)」にて解説している。しかしControl条件はあくまでもCに対する持分の問題であり、Dの持分に関しては規定されていない。したがって、Dが合併されてもCの持分には何の関係もないことから問題はないとされた。
*買収と分割再編
また、分割型再編であるスピンオフとその後の合併(=買収型再編)を一緒にすることは本質的に非課税スピンオフ法の意図に反するという主張もなされている。しかし、この点に関しても法律にそのような限定的な意図はなく、再編の後に再編という局面は他にも沢山あり、D型再編、スピンオフもその例外ではないとされた。
*結果
上の理由により、例えスピンオフ後にDが合併されていても今回の事実関係に基づく限りスピンオフは有効であり非課税であるとされた。その結果、D型再編も有効となり、株主が受け取るC株式ばかりでなく、DによるCの現物出資も非課税とされた。
Morris Trustの事実関係は保険業の兼業が法律で禁止されている等、かなりクリーンな取引であるが、この判決を基にその後の「買収のためのDivestiture手段としてのスピンオフ」という手法が確立されていき、その手の取引が一般に「Morris Trust取引」として知られていく。また、Dの代わりにCが買収される「Reverse Morris Trust取引」という用語も確立されていく。その辺りの状況、そして遂にMorris Trust(見方によってはAnti-Morris Trust)が条文法として立法化される1997年までの展開は次回のポスティングで説明する。
Tuesday, April 22, 2008
米国のスピンオフ(8)
買収のターゲットとなる企業に不必要な事業が存在するケースは多くある。その場合に不必要な事業を非課税でスピンオフすることができればその恩典は大きい。すなわち、Dは買収される前段階で、Dをターゲットとしている買い手が不必要とする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。言うまでもないが下のコメントは全て私見である点、この分野の検討が余りに複雑な点を鑑みて敢えて再度お断りしておく。
*Morris Trustケース
この手の取引に関して触れる際に避けて通ることができないのが1966年に下されたランドマーク・ケース「Morris Trust」だ。Morris Trustケースは最高裁の判決ではなく、4th Circuitの判決である。今回のポスティングではこのMorris Trustケースを詳しく見ていくがかなりヘビーな内容となるため、2回のポスティングに分ける。
Morris Trustでは買収ターゲットとなるDに「銀行業」と「保険業」が共存していた。規制上の問題から買い手はDの銀行業のみを必要とし、保険業をも兼業しているDをそのまま買収の対象とすることができなかった。そこでDは買収前に保険業をスピンオフしてDの株主に分配した。このスピンオフは保険業が元々D法人の一部に存在したため、第一ステップとして保険業を子会社化しており、D型再編を伴うスピンオフ、すなわちD-355である。その後、銀行業のみとなったDは合併という非課税再編を経て第三者に買収された。Morris Trustにはいくつかポイントがあるがそれらを詳しく解説すると次の通りだ。
*合併とDivestiture
Dは州の銀行法に基づき設立されている「State Bank」であったが、合併相手となるPは連邦財務省の銀行法に基づき設立されている「National Bank」であった。規模的にはDの方がPよりも大きかったが(この点は極めて重要な事実関係となる)、存続法人はNational Bank格を持っている方がよいという判断から規模的には小さいPとすることが合意された。
ここで一つの問題が生じる。National Bankとなる銀行は一部限定的な例外を除き保険業を兼業することが法律で禁じられているが、Dは長年State Bankとして保険業に従事しているという点だ。そこで合併を予定通りに実行するためにDは保険業を売却・分離(Divestiture)する必要に迫られる。ここで登場するのがスピンオフだ。
ケースの事実関係とは直接関係がないが、Dにはもちろん保険業を売却するというオプションもあったはずだ。しかし売却するとゲインに課税される。スピンオフを非課税で行うことができれば余計なタックスを支払うことなくDivestitureを実行できるために極めて有利な取り扱いとなる。「米国のスピンオフ(4)」で触れたがスピンオフする際に分配対象となる子会社CからDが配当を非課税で受け取ることがよくある。スピンオフが非課税であれば、このような取引はまさしくCの売却を非課税で実行しているに近い。
Morris Trustに話は戻るが、Dは保険業をCという新規設立100%子会社に現物出資し、その直後にC株式をDの株主にスピンオフとして分配した。
これに対するIRSの対応を次回のポスティングにて詳細に解説したい。
*Morris Trustケース
この手の取引に関して触れる際に避けて通ることができないのが1966年に下されたランドマーク・ケース「Morris Trust」だ。Morris Trustケースは最高裁の判決ではなく、4th Circuitの判決である。今回のポスティングではこのMorris Trustケースを詳しく見ていくがかなりヘビーな内容となるため、2回のポスティングに分ける。
Morris Trustでは買収ターゲットとなるDに「銀行業」と「保険業」が共存していた。規制上の問題から買い手はDの銀行業のみを必要とし、保険業をも兼業しているDをそのまま買収の対象とすることができなかった。そこでDは買収前に保険業をスピンオフしてDの株主に分配した。このスピンオフは保険業が元々D法人の一部に存在したため、第一ステップとして保険業を子会社化しており、D型再編を伴うスピンオフ、すなわちD-355である。その後、銀行業のみとなったDは合併という非課税再編を経て第三者に買収された。Morris Trustにはいくつかポイントがあるがそれらを詳しく解説すると次の通りだ。
*合併とDivestiture
Dは州の銀行法に基づき設立されている「State Bank」であったが、合併相手となるPは連邦財務省の銀行法に基づき設立されている「National Bank」であった。規模的にはDの方がPよりも大きかったが(この点は極めて重要な事実関係となる)、存続法人はNational Bank格を持っている方がよいという判断から規模的には小さいPとすることが合意された。
ここで一つの問題が生じる。National Bankとなる銀行は一部限定的な例外を除き保険業を兼業することが法律で禁じられているが、Dは長年State Bankとして保険業に従事しているという点だ。そこで合併を予定通りに実行するためにDは保険業を売却・分離(Divestiture)する必要に迫られる。ここで登場するのがスピンオフだ。
ケースの事実関係とは直接関係がないが、Dにはもちろん保険業を売却するというオプションもあったはずだ。しかし売却するとゲインに課税される。スピンオフを非課税で行うことができれば余計なタックスを支払うことなくDivestitureを実行できるために極めて有利な取り扱いとなる。「米国のスピンオフ(4)」で触れたがスピンオフする際に分配対象となる子会社CからDが配当を非課税で受け取ることがよくある。スピンオフが非課税であれば、このような取引はまさしくCの売却を非課税で実行しているに近い。
Morris Trustに話は戻るが、Dは保険業をCという新規設立100%子会社に現物出資し、その直後にC株式をDの株主にスピンオフとして分配した。
これに対するIRSの対応を次回のポスティングにて詳細に解説したい。
Saturday, April 12, 2008
申告書で取れるポジションの基準は一転緩和?
*申告書作成とペナルティー
会計事務所のような申告書を作成する立場にある者に対するペナルティーが強化された点とその後の混乱に関しては2007年6月の時点で「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったか(1)」と「同(2)」で解説した。簡単におさらいしておくと、以前は申告書の税務ポジションは「Reialistic Possibility」基準を満たしていれば会計事務所に対するペナルティーはなかったものが、2007年6月の法改正でいきなり「More Likely Than Not」基準に引き上げられた。更にペナルティーの対象となる申告書の種類も拡大され、ペナルティーの金額も増額された。
この「More Likely Than Not」という基準はあくまでも申告書を作成する立場にある者に対するペナルティー有無の判断をする際に適用されることとなるが、一方で納税者そのものに対しては「Substantial Authority」基準が満たされていればペナルティーは課されないという従来からの取り扱いが続いている。
Substantial Authorityというのはザックリ言ってしまえば40%程度の確証度であることから、50%超の確証度が求められるMore Likely Than Notより低い。したがって、仮に40%程度の確証度のある税務ポジションを申告書に反映させ、後のIRS税務調査でそのポジションが問題視された場合には、納税者にはペナルティーはないが(Substantial Authorityを満たしているので)、会計事務所にはペナルティーが課されるというおかしな状況となった。会計事務所に対して従来は30%程度の確証度であるRealistic Possibility基準が適用されていたため、2007年6月の法改正の前の状態では、納税者に要求されている基準(Substantial Authority=40%)の方が会計事務所に求められる確証度よりも高かったこととなる。これを逆転させてしまった2007年6月の法律のインパクトは大きい。
*Taxpayer Assistance and Simplification Act
「Taxpayer Assistance and Simplification Act」というタイトルの法案が下院の税務委員会を通過した。それにしても米国の法律の名前はJob Creation Actとかどことなく恩着せがましいものが多い。話は逸れるが、最近話題の北京オリンピックとチベットの問題に関連して、ブッシュ大統領は開会式に出席するべきではないという法案が米国議会に提出されているが、その法案の名前が「Communist Chinese Olympic Accountability Act」という、法案の名前だけでも喧嘩を売っているかのようなものまで登場していた。いずれにしても法案・法律の名前がわざとらしいものが多い。
話は戻り、この「Taxpayer Assistance and Simplification Act」法案に盛り込まれているいくつかの規定の中で個人的に最も注目したのが、上述の会計事務所に対するペナルティー基準の「下方修正」である。ナント驚いたことに2007年6月の法律で義務付けられたMore Likely Than Not基準を一転廃止して納税者の基準と同じ「Substantial Authority」に統一しようとしている。なお、ペナルティーの対象の拡大、金額の増額、は2007年6月の規定のままとなる。
*納税者と同じ土俵に
納税者がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションと会計事務所がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションの基準が異なるというのは変な話である。それでも会計事務所は少なくとも30%の確証度を必要とし、納税者がより高い40%の確証度を必要としていた2007年6月以前は問題は少なかった。納税者のことを考えれば会計事務所も少なくとも40%の確証度を求めるのが一般的であったからだ。一方、2007年6月の法律変更以降(正確にはIRSが適用を2008年に提出される申告書からに延期)は納税者が40%の確証度でハッピーであるにも関わらず、会計事務所がより高い確証度を追い求めるという歪な構造になっている。
そんな不合理を解消するために「納税者に適用される基準=会計事務所に適用される基準」という統一を望む声が大きくなっていった。ただし、その際には、より厳しい基準となっている会計事務所基準、すなわちMore Likely Than Notに納税者の基準も統一されるのであろう、という暗黙の了解のようなものがあった。しかし、今回の下院の法案では逆に低い基準の「Substantial Authority」に統一しようとしている。これは率直に「うれしい驚き」であるといえる。
*ペナルティー基準の今後
法案は下院の審理が終了したばかりで今後このままの形で法律化される確証はない。もし認められれば、会計事務所に適用されるMore Likely Than Not基準は極めて短命に終わることとなる。その場合、納税者と会計事務所、共に通常のポジションは「Substantial Authority」、法的な取り扱いがグレーであることに関わる特別な開示が行われるポジションに関しては「Reasonable Basis」、タックスシェルターまたはReportable Transactionsに対しては「More Likely Than Not」という基準が適用されることになる。分かりやすい基準であり、ぜひとも最終法律として成立して欲しい法案だ。
会計事務所のような申告書を作成する立場にある者に対するペナルティーが強化された点とその後の混乱に関しては2007年6月の時点で「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったか(1)」と「同(2)」で解説した。簡単におさらいしておくと、以前は申告書の税務ポジションは「Reialistic Possibility」基準を満たしていれば会計事務所に対するペナルティーはなかったものが、2007年6月の法改正でいきなり「More Likely Than Not」基準に引き上げられた。更にペナルティーの対象となる申告書の種類も拡大され、ペナルティーの金額も増額された。
この「More Likely Than Not」という基準はあくまでも申告書を作成する立場にある者に対するペナルティー有無の判断をする際に適用されることとなるが、一方で納税者そのものに対しては「Substantial Authority」基準が満たされていればペナルティーは課されないという従来からの取り扱いが続いている。
Substantial Authorityというのはザックリ言ってしまえば40%程度の確証度であることから、50%超の確証度が求められるMore Likely Than Notより低い。したがって、仮に40%程度の確証度のある税務ポジションを申告書に反映させ、後のIRS税務調査でそのポジションが問題視された場合には、納税者にはペナルティーはないが(Substantial Authorityを満たしているので)、会計事務所にはペナルティーが課されるというおかしな状況となった。会計事務所に対して従来は30%程度の確証度であるRealistic Possibility基準が適用されていたため、2007年6月の法改正の前の状態では、納税者に要求されている基準(Substantial Authority=40%)の方が会計事務所に求められる確証度よりも高かったこととなる。これを逆転させてしまった2007年6月の法律のインパクトは大きい。
*Taxpayer Assistance and Simplification Act
「Taxpayer Assistance and Simplification Act」というタイトルの法案が下院の税務委員会を通過した。それにしても米国の法律の名前はJob Creation Actとかどことなく恩着せがましいものが多い。話は逸れるが、最近話題の北京オリンピックとチベットの問題に関連して、ブッシュ大統領は開会式に出席するべきではないという法案が米国議会に提出されているが、その法案の名前が「Communist Chinese Olympic Accountability Act」という、法案の名前だけでも喧嘩を売っているかのようなものまで登場していた。いずれにしても法案・法律の名前がわざとらしいものが多い。
話は戻り、この「Taxpayer Assistance and Simplification Act」法案に盛り込まれているいくつかの規定の中で個人的に最も注目したのが、上述の会計事務所に対するペナルティー基準の「下方修正」である。ナント驚いたことに2007年6月の法律で義務付けられたMore Likely Than Not基準を一転廃止して納税者の基準と同じ「Substantial Authority」に統一しようとしている。なお、ペナルティーの対象の拡大、金額の増額、は2007年6月の規定のままとなる。
*納税者と同じ土俵に
納税者がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションと会計事務所がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションの基準が異なるというのは変な話である。それでも会計事務所は少なくとも30%の確証度を必要とし、納税者がより高い40%の確証度を必要としていた2007年6月以前は問題は少なかった。納税者のことを考えれば会計事務所も少なくとも40%の確証度を求めるのが一般的であったからだ。一方、2007年6月の法律変更以降(正確にはIRSが適用を2008年に提出される申告書からに延期)は納税者が40%の確証度でハッピーであるにも関わらず、会計事務所がより高い確証度を追い求めるという歪な構造になっている。
そんな不合理を解消するために「納税者に適用される基準=会計事務所に適用される基準」という統一を望む声が大きくなっていった。ただし、その際には、より厳しい基準となっている会計事務所基準、すなわちMore Likely Than Notに納税者の基準も統一されるのであろう、という暗黙の了解のようなものがあった。しかし、今回の下院の法案では逆に低い基準の「Substantial Authority」に統一しようとしている。これは率直に「うれしい驚き」であるといえる。
*ペナルティー基準の今後
法案は下院の審理が終了したばかりで今後このままの形で法律化される確証はない。もし認められれば、会計事務所に適用されるMore Likely Than Not基準は極めて短命に終わることとなる。その場合、納税者と会計事務所、共に通常のポジションは「Substantial Authority」、法的な取り扱いがグレーであることに関わる特別な開示が行われるポジションに関しては「Reasonable Basis」、タックスシェルターまたはReportable Transactionsに対しては「More Likely Than Not」という基準が適用されることになる。分かりやすい基準であり、ぜひとも最終法律として成立して欲しい法案だ。
Wednesday, April 9, 2008
ヤフー、Bear Stearns買収案その後
マイクロソフトによる「ヤフー買収案」、JP Morganによる「Bear Stearns買収案」に関しては過去のポスティングで触れたが、その後の展開がかなり興味深いので簡単に動向を追ってみたい。
まずヤフーだが、依然としてヤフー経営陣は買収案を拒否しているのはご存知の通りだ。株価に関しては買収案直後に$30弱に上がって以来、$20台後半で推移している。マイクロソフトが$31で買うと言っているにも関わらずそこまで株価が上がらないのは通常の買収発表時に常に見られる現象である。買収は発表されても、最終的に実現するまでには株主の承認、独禁法の問題、その他いろいろな不確実性がある。それを織り込むと買収価格までは上がらない。不確実性が大きければもちろん買収価格との差異も大きくなる。「買収が成立する」と信じているのであれば$20台後半で株式を買い、買収が$31で成立した時点でキャピタルゲインを期待することができる。ちなみにこれは現金で$31もらえる場合に有効な考え方であるが、後述の通り、対価が株式となる場合にはもう少し複雑となる。
当初はマイクロソフトが買収価格を上げるのではないかという憶測もあったが、ここに来て逆に価格を下げるのではないかという報道もある。他に救世主が現れないままだが、ヤフー経営陣が買収発表から2ヶ月間頑張っている。
買収対価が株式となる場合には「買い手」側の株価の推移が買収価格に影響を与える。AOL株式が下落してプレミアムが消滅したAOLとTime Warnerの合併がいい例であろう。今回の買収案では対価の50%相当が株式で支払われる。したがってA型非課税再編となるであろう点は前回のポスティングで触れた通りである。具体的にはヤフー一株当たりに対してマイクロソフト株式0.9509株が支給される。マイクロソフト0.9509株は買収案発表時点でこそ$31の価値があったのだが、その後株価が落ちたため今ではそれより低い。したがって、買収時点で$20代後半でヤフー株式を購入してキャピタルゲインを狙ったとしても、マイクロソフトの株価が落ちる限りキャピタルゲインの金額が確定しない。その場合にはヤフー株式を購入すると同時に、マイクロソフトの株式を空売り(Short Sale)しておけば理論的にはリスクヘッジが可能なはずだ。
一方のBear Stearnsに関しては当初の買収価格が$2であったが、株価は買収発表後も$2まで下がることはなかった。最低でも一瞬$3弱となっただけでしばらくは$4~5位でさまよっていた。上述のヤフーのケースで見られる通り、買収の発表があると買収が成立しないリスクが織り込まれて買収価格よりも若干低い株価で推移するのが一般的だが、それは買収がプレミアム価格で行われる際にしか通用しない常識のようだ。Bear Stearnsのケースではどちらかと言うと「最終的に$2ってことはないだろう」と読んだ投資家が多かったのであろうか株価は$2まで下がることはなかった。案の定、数日後にはあっさりと買収価格は$10に増額されている。それでもここ一年だけで見ても$150の株価をつけた銘柄であるだけにサブプライム問題恐るべしと言える。
まずヤフーだが、依然としてヤフー経営陣は買収案を拒否しているのはご存知の通りだ。株価に関しては買収案直後に$30弱に上がって以来、$20台後半で推移している。マイクロソフトが$31で買うと言っているにも関わらずそこまで株価が上がらないのは通常の買収発表時に常に見られる現象である。買収は発表されても、最終的に実現するまでには株主の承認、独禁法の問題、その他いろいろな不確実性がある。それを織り込むと買収価格までは上がらない。不確実性が大きければもちろん買収価格との差異も大きくなる。「買収が成立する」と信じているのであれば$20台後半で株式を買い、買収が$31で成立した時点でキャピタルゲインを期待することができる。ちなみにこれは現金で$31もらえる場合に有効な考え方であるが、後述の通り、対価が株式となる場合にはもう少し複雑となる。
当初はマイクロソフトが買収価格を上げるのではないかという憶測もあったが、ここに来て逆に価格を下げるのではないかという報道もある。他に救世主が現れないままだが、ヤフー経営陣が買収発表から2ヶ月間頑張っている。
買収対価が株式となる場合には「買い手」側の株価の推移が買収価格に影響を与える。AOL株式が下落してプレミアムが消滅したAOLとTime Warnerの合併がいい例であろう。今回の買収案では対価の50%相当が株式で支払われる。したがってA型非課税再編となるであろう点は前回のポスティングで触れた通りである。具体的にはヤフー一株当たりに対してマイクロソフト株式0.9509株が支給される。マイクロソフト0.9509株は買収案発表時点でこそ$31の価値があったのだが、その後株価が落ちたため今ではそれより低い。したがって、買収時点で$20代後半でヤフー株式を購入してキャピタルゲインを狙ったとしても、マイクロソフトの株価が落ちる限りキャピタルゲインの金額が確定しない。その場合にはヤフー株式を購入すると同時に、マイクロソフトの株式を空売り(Short Sale)しておけば理論的にはリスクヘッジが可能なはずだ。
一方のBear Stearnsに関しては当初の買収価格が$2であったが、株価は買収発表後も$2まで下がることはなかった。最低でも一瞬$3弱となっただけでしばらくは$4~5位でさまよっていた。上述のヤフーのケースで見られる通り、買収の発表があると買収が成立しないリスクが織り込まれて買収価格よりも若干低い株価で推移するのが一般的だが、それは買収がプレミアム価格で行われる際にしか通用しない常識のようだ。Bear Stearnsのケースではどちらかと言うと「最終的に$2ってことはないだろう」と読んだ投資家が多かったのであろうか株価は$2まで下がることはなかった。案の定、数日後にはあっさりと買収価格は$10に増額されている。それでもここ一年だけで見ても$150の株価をつけた銘柄であるだけにサブプライム問題恐るべしと言える。
Thursday, March 27, 2008
ドル紙幣を刷れない州の苦悩と「Decoupling」
*州の法人税
州法人税の法的な検討の多くは「連邦憲法」に基づく。州はもちろん課税権を持つが、事業が複数の州にまたがって展開されている場合、連邦憲法上、課税を行う州と課税対象となる事業主体の間に何らかの「接点」(Nexus)が存在する必要がある。自分の州に何の関係もない事業主体をむやみやたらに課税対象とできないということだ。また、課税対象となる場合でも、州税算定は事業主体全体の所得をその州に按分した部分の金額のみが対象となる。これらの制限は基本的に連邦憲法の定める「Commerce Clause」、「Due Process」、また場合によっては「Privileges and Immunities Clause」に基づく検討事項だ。(Nexus等に関する概要は2007年8月24日にポスティングした「拡大する州の課税権」を参照。)
したがって州法人税の算定の際には州に全体の所得の何%を按分するかという配賦方法がメインの検討事項となることが多い。一方で、配賦%を考える前に事業主体全体(ユニタリー課税の場合にはユニタリーグループ全体)の所得を算定する必要があるが、この算定は多くの州で連邦税法に準じる計算となるために州税の検討をする際には話題に上ることは比較的少ない。しかし、この点が注目を集めることがある。
*連邦税法と州法人税
例外はあるが、配賦%を掛ける前の課税所得は多くの州で連邦税法である「Internal Revenue Code」に準じて算定することと規定されている。「自動的に全て準じる」、「何月何日時点の連邦税法に準じる(日付は定期的に更新される)」その他、連邦税法への準拠の仕方は州によりまちまちだ。州によっては全て準じてしまうというのではなく、CA州のように条文毎に準じる準じないが規定されるところもある。
*ボーナス減価償却と州財政
ほぼ自動的に連邦税法に基づいて法人税を算定する州では、連邦議会が増税、減税法を通すと、それが州の財政を直撃することとなる。2002年に規定されたボーナス減価償却はその好例である。2002年のボーナス減価償却は同時テロによるショックから経済を立て直すために緊急措置として立法された設備投資減税だ。一定の条件を満たす場合には取得時に最高50%までの一括償却を認めるというものだ。残りの簿価は通常の減価償却の対象となる。2002年にはこれを過去訴求しても良いとされた。
そのような大きな償却で税収入が減るのは多くの州の財政上受け入れが困難であった。そのため、通常は連邦税法に準拠して課税所得を算定する州でもボーナス減価償却だけは認めないという「特別分離措置」が多くの州で取られた。これが「Decoupling」だ。
今回、2008年にもまたしても景気対策として同様のボーナス減価償却が立法された。ただでさえ財政難にある州政府にとって追い討ちとなるボーナス減価償却は受け入れ難いケースが多く、またしてもDecouplingとする州が多いようだ。ただ、州によっては簡単にDecouplingを実行できないような法体系となっているところもあり、その場合は苦しい。
*ボーナス減価償却と州内の設備投資
州がDecouplingできない場合に、Decouplingしないということ、すなわち「うちの州ではボーナス減価償却が取れますよ・・・」という点を売り物にして州内の設備投資を促せるのではないかと考えられる方もいるかもしれない。しかし、これは全然効果がない。
というのは、課税所得の算定時には、設備投資をした州がどこであるかに関わらず減価償却が計上されるためだ。ある州でボーナス減価償却を認める場合、その州の配賦前の課税所得は他の州にて設備投資した資産も含めて全てボーナス減価償却の対象として算定される。もちろん「たまたま」その州の設備投資のケースもあるだろうがそれはあくまで偶然の出来事だ。そもそも景気が悪い時にボーナス減価償却があるからといって急に本来行わない設備投資を行うだろうか?その辺の統計は知らないのであくまでも推測に過ぎないが、せいぜい来年取得する予定だった機械を今年の年末に取得してラッキーする程度の事業主体が多いのではないだろうか。
*州は「ドル紙幣」をすることができない
財政が厳しいのは州ばかりでなく連邦も同じはずだ。ではなぜ連邦政府は次々とボーナス減価償却だの、戻し減税だのという「Stimulous Package」を連発できるのだろうか?それは単純にお金が足りなくなれば連邦政府にはドル紙幣を印刷するという隠し技があるからだ。州はそうはいかない。バランス・バジットにならない場合には借りるしかない。連邦は税収、借入という二つの資金源に加えて「ドル紙幣を刷る」という必殺技を持っている点で州とは事情が大きく異なる。
しかしこの必殺技を使いすぎると世界中にドルが溢れる。となると、ものの本質的な価値が同一だとすればドル表示での価格はもちろん高くなる。すなわちインフレとなる。これは単純なことであり、米国政府も分かっている(というか分かっていて欲しい?)と思うのであるがドル供給量は危険レベルに達しているのではないかと見る向きもあるようだ。マネーサプライを図るひとつの指標であるM3をFRBが2006年前半から公開しなくなったのは有名な話しであるが、余りにマネーサプライが膨らんできたのでとてもそれ以上公表できなくなったという説もある。この点に関しては先日の米国議会公聴会で歯に衣着せぬRon Paul大先生がFRB議長のBernanke氏を窮地に追い込める質問を浴びせている。もし削除されていなければ見てみると面白い(Ron Paul v. Bernanke)。
この辺りの話は経済の専門家に譲るが、ドル紙幣を刷ることができないためにDecouplingをせざるを得ない州の財政は実は透明感が高く最終的にはどちらかというと健全であると言える。
州法人税の法的な検討の多くは「連邦憲法」に基づく。州はもちろん課税権を持つが、事業が複数の州にまたがって展開されている場合、連邦憲法上、課税を行う州と課税対象となる事業主体の間に何らかの「接点」(Nexus)が存在する必要がある。自分の州に何の関係もない事業主体をむやみやたらに課税対象とできないということだ。また、課税対象となる場合でも、州税算定は事業主体全体の所得をその州に按分した部分の金額のみが対象となる。これらの制限は基本的に連邦憲法の定める「Commerce Clause」、「Due Process」、また場合によっては「Privileges and Immunities Clause」に基づく検討事項だ。(Nexus等に関する概要は2007年8月24日にポスティングした「拡大する州の課税権」を参照。)
したがって州法人税の算定の際には州に全体の所得の何%を按分するかという配賦方法がメインの検討事項となることが多い。一方で、配賦%を考える前に事業主体全体(ユニタリー課税の場合にはユニタリーグループ全体)の所得を算定する必要があるが、この算定は多くの州で連邦税法に準じる計算となるために州税の検討をする際には話題に上ることは比較的少ない。しかし、この点が注目を集めることがある。
*連邦税法と州法人税
例外はあるが、配賦%を掛ける前の課税所得は多くの州で連邦税法である「Internal Revenue Code」に準じて算定することと規定されている。「自動的に全て準じる」、「何月何日時点の連邦税法に準じる(日付は定期的に更新される)」その他、連邦税法への準拠の仕方は州によりまちまちだ。州によっては全て準じてしまうというのではなく、CA州のように条文毎に準じる準じないが規定されるところもある。
*ボーナス減価償却と州財政
ほぼ自動的に連邦税法に基づいて法人税を算定する州では、連邦議会が増税、減税法を通すと、それが州の財政を直撃することとなる。2002年に規定されたボーナス減価償却はその好例である。2002年のボーナス減価償却は同時テロによるショックから経済を立て直すために緊急措置として立法された設備投資減税だ。一定の条件を満たす場合には取得時に最高50%までの一括償却を認めるというものだ。残りの簿価は通常の減価償却の対象となる。2002年にはこれを過去訴求しても良いとされた。
そのような大きな償却で税収入が減るのは多くの州の財政上受け入れが困難であった。そのため、通常は連邦税法に準拠して課税所得を算定する州でもボーナス減価償却だけは認めないという「特別分離措置」が多くの州で取られた。これが「Decoupling」だ。
今回、2008年にもまたしても景気対策として同様のボーナス減価償却が立法された。ただでさえ財政難にある州政府にとって追い討ちとなるボーナス減価償却は受け入れ難いケースが多く、またしてもDecouplingとする州が多いようだ。ただ、州によっては簡単にDecouplingを実行できないような法体系となっているところもあり、その場合は苦しい。
*ボーナス減価償却と州内の設備投資
州がDecouplingできない場合に、Decouplingしないということ、すなわち「うちの州ではボーナス減価償却が取れますよ・・・」という点を売り物にして州内の設備投資を促せるのではないかと考えられる方もいるかもしれない。しかし、これは全然効果がない。
というのは、課税所得の算定時には、設備投資をした州がどこであるかに関わらず減価償却が計上されるためだ。ある州でボーナス減価償却を認める場合、その州の配賦前の課税所得は他の州にて設備投資した資産も含めて全てボーナス減価償却の対象として算定される。もちろん「たまたま」その州の設備投資のケースもあるだろうがそれはあくまで偶然の出来事だ。そもそも景気が悪い時にボーナス減価償却があるからといって急に本来行わない設備投資を行うだろうか?その辺の統計は知らないのであくまでも推測に過ぎないが、せいぜい来年取得する予定だった機械を今年の年末に取得してラッキーする程度の事業主体が多いのではないだろうか。
*州は「ドル紙幣」をすることができない
財政が厳しいのは州ばかりでなく連邦も同じはずだ。ではなぜ連邦政府は次々とボーナス減価償却だの、戻し減税だのという「Stimulous Package」を連発できるのだろうか?それは単純にお金が足りなくなれば連邦政府にはドル紙幣を印刷するという隠し技があるからだ。州はそうはいかない。バランス・バジットにならない場合には借りるしかない。連邦は税収、借入という二つの資金源に加えて「ドル紙幣を刷る」という必殺技を持っている点で州とは事情が大きく異なる。
しかしこの必殺技を使いすぎると世界中にドルが溢れる。となると、ものの本質的な価値が同一だとすればドル表示での価格はもちろん高くなる。すなわちインフレとなる。これは単純なことであり、米国政府も分かっている(というか分かっていて欲しい?)と思うのであるがドル供給量は危険レベルに達しているのではないかと見る向きもあるようだ。マネーサプライを図るひとつの指標であるM3をFRBが2006年前半から公開しなくなったのは有名な話しであるが、余りにマネーサプライが膨らんできたのでとてもそれ以上公表できなくなったという説もある。この点に関しては先日の米国議会公聴会で歯に衣着せぬRon Paul大先生がFRB議長のBernanke氏を窮地に追い込める質問を浴びせている。もし削除されていなければ見てみると面白い(Ron Paul v. Bernanke)。
この辺りの話は経済の専門家に譲るが、ドル紙幣を刷ることができないためにDecouplingをせざるを得ない州の財政は実は透明感が高く最終的にはどちらかというと健全であると言える。
Sunday, March 23, 2008
米国のスピンオフ(7)
*持分継続(COI)
「買収系」の非課税再編には持分継続条件(Continuity of Interest - COI)条件がつきものである点は過去のポスティングで何回か触れた。特に60%まで株式以外の対価が可能となるA型再編ではCOI条件の検討が重要だ。一方、スピンオフという局面でもCOI条件は存在する。再編、分割共に非課税となるからには取引が単なる形態変更にとどまる必要があり、その意味で持分の継続が求められる。
*スピンオフとCOI
スピンオフに対するCOI条件は分割される前のDの株主が総計で(個々の株主の持分ではなく)スピンオフ後のDとSubに十分な持分を継続的に持っている場合に満たされると取り扱われる。すなわち、スピンオフと前後してDまたはSubの株式の多くが譲渡されてしまうようなケースでは原則的にCOI条件は満たされない。この条件を読まれて気づかれた方もいるのではないかと思うが、これは「米国のスピンオフ(5)」で詳しく触れた「Device規定」と似ている。財務省規則ではCOI条件は他の条件から独立した別個の条件であるという趣旨の文言があるが、Device規定という条文法を設けることにより、判例を通じて進化してきたCOI条件を補足しているような関係となるだろう。
このようにスピンオフにもCOI条件は適用されるのだが、その内容は買収系の非課税再編に対するものと異なる。買収系の非課税再編に関しては近年の財務省規則の規定下、ターゲット株主が再編で受け取る買い手の株式を直ぐに売却してもCOI条件の達成には問題がないとされる。これは上のスピンオフに係るCOI条件とは相容れない。このため、分割のためのD再編およびスピンオフという局面でのCOI条件の検討時には一般的なCOI条件を規定した財務省規則は適用されないとされる。スピンオフに係るCOI条件としてどのようなものが適切かに関しては今後も財務省が検討を続けるものとしている。
*買収の準備としてのスピンオフ
スピンオフが行われる局面のひとつにDが買収される見込みであるが、Dに買い手が欲していないラインの事業が存在するというものがある。すなわち、Dは買収される前段階で、Dの買い手が不必要であるとする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。ランドマーク・ケースである1960年代の「Morris Trust」判例から1997年の税法改正までの歴史を含めてこの点は次回のポスティングで触れたい。
「買収系」の非課税再編には持分継続条件(Continuity of Interest - COI)条件がつきものである点は過去のポスティングで何回か触れた。特に60%まで株式以外の対価が可能となるA型再編ではCOI条件の検討が重要だ。一方、スピンオフという局面でもCOI条件は存在する。再編、分割共に非課税となるからには取引が単なる形態変更にとどまる必要があり、その意味で持分の継続が求められる。
*スピンオフとCOI
スピンオフに対するCOI条件は分割される前のDの株主が総計で(個々の株主の持分ではなく)スピンオフ後のDとSubに十分な持分を継続的に持っている場合に満たされると取り扱われる。すなわち、スピンオフと前後してDまたはSubの株式の多くが譲渡されてしまうようなケースでは原則的にCOI条件は満たされない。この条件を読まれて気づかれた方もいるのではないかと思うが、これは「米国のスピンオフ(5)」で詳しく触れた「Device規定」と似ている。財務省規則ではCOI条件は他の条件から独立した別個の条件であるという趣旨の文言があるが、Device規定という条文法を設けることにより、判例を通じて進化してきたCOI条件を補足しているような関係となるだろう。
このようにスピンオフにもCOI条件は適用されるのだが、その内容は買収系の非課税再編に対するものと異なる。買収系の非課税再編に関しては近年の財務省規則の規定下、ターゲット株主が再編で受け取る買い手の株式を直ぐに売却してもCOI条件の達成には問題がないとされる。これは上のスピンオフに係るCOI条件とは相容れない。このため、分割のためのD再編およびスピンオフという局面でのCOI条件の検討時には一般的なCOI条件を規定した財務省規則は適用されないとされる。スピンオフに係るCOI条件としてどのようなものが適切かに関しては今後も財務省が検討を続けるものとしている。
*買収の準備としてのスピンオフ
スピンオフが行われる局面のひとつにDが買収される見込みであるが、Dに買い手が欲していないラインの事業が存在するというものがある。すなわち、Dは買収される前段階で、Dの買い手が不必要であるとする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。ランドマーク・ケースである1960年代の「Morris Trust」判例から1997年の税法改正までの歴史を含めてこの点は次回のポスティングで触れたい。
Monday, March 17, 2008
JP MorganによるBear Steans買収
「エエエエエエ、たったの2ドル!?」。先週金曜日、JP MorganがBear Stearnsに緊急融資を実行した際に「Permenent Finance」を模索しているというようなコメントが発表されていたため、JP MorganによるBear Stearns買収もありかなと思っていた人は多いであろう。しかし、その直後、しかも週末である日曜日に買収が発表されるとは思わなかった。そして一番の驚きは買収価格だろう。ナント一株当たり$2である。スーパーに行っても$2で買えるものは少ない。本気で$2なのか?少なくとも直近の決算書の「Book Value」ベースでも一株当りの資産簿価は$80を超えている。余りにビックリしたので日曜日の夜に緊急に開催された一般投資家・アナリスト向けのカンファレンス・コールを聞いてみた。
*買収形態は?
タックス専門家としてはまず基本的な買収形態が気になるところだが、プレスリリースでは「株式交換」(Stock for Stock Exchange)と表現されている。しかし厳密には株式交換ではなく、あくまでも法的には合併となるであろう。上場企業であるBear Stearnsの株主一人一人と株式交換契約を締結するのは不可能だからだ(この点に関しては過去のポスティング「アメリカで三角合併が多用される訳」を参照)。また、プレスリリースの後半にはSECにMerger Agreementのコピーが今後提出されるであろう記述があることからもこの点は間違いがない。したがって、買収形態はJP Morganの株式を対価とする合併ということになる。
Bear Stearnsの現状を考えると多くの偶発債務、訴訟リスクがあって当然であると思われることから、JP Morgan本体に合併してくるというのも考え難い気がする。となると新設子会社を利用した三角合併だろうか?対価が株式であることからA型非課税再編とされる可能性が高く、その場合にはReverse三角合併でなくても、Forwardでもいい。新設子会社がCorporationであればA型の三角合併となり、通常のA型再編よりも若干条件が厳しい。もし厳しい条件が不都合な場合にはLLCを利用して通常のA型再編とすることもできるだろう。現時点ではこれらの細かい点は明らかではないがMerger Agreementのコピーが公開された時点で具体的な形態が明らかとなる。Merger Agreementの公開が待ち遠しい。
ただ、$2では非課税再編となったところでゲインが発生することはなく、単に損失が繰り延べされるだけの話しとなる。
*日曜夜のカンファレンス・コール
JP Morganによるカンファレンス・コールはCFOであるMike Cavanaghが中心に行われた。最初に今回の取引のメリットが説明され、その後、買収の基本的な内容に関して簡単な説明があった。次のような点が興味深かった。
*MACがない?
まず、今回のMerger Agreementには「MAC」条項がないということだ。MAC条項とは「Material Adverse Change」条項のことで、合併のSigningからClosingの間にターゲット企業に想定外の大惨事があり買い手側が買収に合意した基本的前提が崩れ去った際に買い手が買収をキャンセルできるという買い手のProtectionである。何がMACとなるかはMerger Agreement内容の交渉事であるが、今回のMeger Agreementにはそれがないというのだ。
考えてみれば既に余りに想定外の事態に追い込まれているBear Stearnsを買収するというのだからこれ以上のMACは必要はないかもしれない。したがって、簡単に言えば今後Bear Stearnsに何が起ころうともJP MorganはBear Stearnsを買収しないといけないということになる(もちろん株主総会の承認を得られればだが。この点は後述)。このリスク負担が株式$2という破格のPricingのひとつの理由であることは間違いがない。逆に言えばここまで破格であればMACなど要らないということであろうか。
*取引に対する信用保証は即時有効
更にBear Stearnsの取引に対してJP Morganは保証を提供するとしているが、これは即時有効となる。万一合併が承認されない場合にはその時点から後には保証は効かないがそれまでは保証が有効だということだ。どのようなメカニズムかははっきりしないが、最初の株主総会で株主承認が得られない場合も、12ヵ月以内に承認があればいいというような内容にも取れるコメントがあった。この部分もMerger Agreementのコピーを読めば明確となるだろう。
*Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?
一番興味深い質問はメリルのアナリストからのものだ。「Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?」という、まさに今回の買収の核心に迫る質問である。質問の前のカンファレンス・コールの説明部分で買収コストに加えて、訴訟、De-Leveraging、合理化その他の関連コストが$6 Billion掛かると予想されている、というコメントがあった。したがって、$2の株価にプラスで$6 Billionのコストが掛かる。それでもBook Valueには及ばない。
この点に対する回答はどことなく歯切れが悪かった。短時間のDue Diligence、リスクに対するクッション、JP Morganの株主に対する受託者義務等を考えるとこれが適切な金額であるという回答だ。差額の多くはモーゲージ資産の評価か、という突っ込みもあったがこの点に対する明確な回答はなかったと思う。また、最後の質問はマンハッタンにあるBear Stearnsの豪華な本社ビルはBear Stearns所有か?という質問があり、所有されている点も確認された。あのビルだけでも相当な価値だろう。
*合併には株主の承認が必要
カンファレンス・コールを通じてJP Morganは「今回の合併案が株主総会で否決することは考えられないが・・・」というスタンスであった。本当にそうだろうか?つい最近まで$100を超える金額で取引されていたBear Stearnsの株式である。$2という金額でハッピーな株主がいるとは思えない。問題は他に代替案があるかどうかである。代替案としては、更正法適用、清算というオプションがある。また、他の買い手が現れて高い金額を提示してくれるという代替案も考えられる。
Merger AgreementにはおそらくBear Stearnsの経営陣が他の買い手を探してはいけない「No Shop」条項が盛り込まれているはずだが、デラウェアの会社法、判例に基づき「Fiduciary Out」条項も盛り込まれているはずだ。すなわちより価値の高い提案(Superior Proposal)が舞い込んできた場合には、それを検討しなくてはいけない。目的はあくまでもBear Stearnsの株主価値の最大限化にある。その場合にはJP MorganにいくらのBreak-upコストを支払うことになるのか等も全てMerger Agreementが公開されれば明らかになるはずだ。
予断となるが、カンファレンス・コールには、明らかに怒っていると見られるBear Stearnsの株主から「$2という価格はBear Stearnsの株主にとって正当なものか?」という質問があった。回答は「それはBear Steansに聞いてくれ」という素っ気無いが正しいものであった。質問した株主は一瞬シーンとなったが「僕は合併は承認しない」と発言していた。JP Morganサイドは「OK. 次の質問・・・」という対応であった。
全体を通して、JP Morgan側がBear Stearns株主のよる合併承認にかなり強気であったのが印象的だった。大口の株主と既に「Shareholder Agreement」か何か締結しているのだろうか?またまた今後の展開に目が離せない案件が増えた。
*買収形態は?
タックス専門家としてはまず基本的な買収形態が気になるところだが、プレスリリースでは「株式交換」(Stock for Stock Exchange)と表現されている。しかし厳密には株式交換ではなく、あくまでも法的には合併となるであろう。上場企業であるBear Stearnsの株主一人一人と株式交換契約を締結するのは不可能だからだ(この点に関しては過去のポスティング「アメリカで三角合併が多用される訳」を参照)。また、プレスリリースの後半にはSECにMerger Agreementのコピーが今後提出されるであろう記述があることからもこの点は間違いがない。したがって、買収形態はJP Morganの株式を対価とする合併ということになる。
Bear Stearnsの現状を考えると多くの偶発債務、訴訟リスクがあって当然であると思われることから、JP Morgan本体に合併してくるというのも考え難い気がする。となると新設子会社を利用した三角合併だろうか?対価が株式であることからA型非課税再編とされる可能性が高く、その場合にはReverse三角合併でなくても、Forwardでもいい。新設子会社がCorporationであればA型の三角合併となり、通常のA型再編よりも若干条件が厳しい。もし厳しい条件が不都合な場合にはLLCを利用して通常のA型再編とすることもできるだろう。現時点ではこれらの細かい点は明らかではないがMerger Agreementのコピーが公開された時点で具体的な形態が明らかとなる。Merger Agreementの公開が待ち遠しい。
ただ、$2では非課税再編となったところでゲインが発生することはなく、単に損失が繰り延べされるだけの話しとなる。
*日曜夜のカンファレンス・コール
JP Morganによるカンファレンス・コールはCFOであるMike Cavanaghが中心に行われた。最初に今回の取引のメリットが説明され、その後、買収の基本的な内容に関して簡単な説明があった。次のような点が興味深かった。
*MACがない?
まず、今回のMerger Agreementには「MAC」条項がないということだ。MAC条項とは「Material Adverse Change」条項のことで、合併のSigningからClosingの間にターゲット企業に想定外の大惨事があり買い手側が買収に合意した基本的前提が崩れ去った際に買い手が買収をキャンセルできるという買い手のProtectionである。何がMACとなるかはMerger Agreement内容の交渉事であるが、今回のMeger Agreementにはそれがないというのだ。
考えてみれば既に余りに想定外の事態に追い込まれているBear Stearnsを買収するというのだからこれ以上のMACは必要はないかもしれない。したがって、簡単に言えば今後Bear Stearnsに何が起ころうともJP MorganはBear Stearnsを買収しないといけないということになる(もちろん株主総会の承認を得られればだが。この点は後述)。このリスク負担が株式$2という破格のPricingのひとつの理由であることは間違いがない。逆に言えばここまで破格であればMACなど要らないということであろうか。
*取引に対する信用保証は即時有効
更にBear Stearnsの取引に対してJP Morganは保証を提供するとしているが、これは即時有効となる。万一合併が承認されない場合にはその時点から後には保証は効かないがそれまでは保証が有効だということだ。どのようなメカニズムかははっきりしないが、最初の株主総会で株主承認が得られない場合も、12ヵ月以内に承認があればいいというような内容にも取れるコメントがあった。この部分もMerger Agreementのコピーを読めば明確となるだろう。
*Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?
一番興味深い質問はメリルのアナリストからのものだ。「Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?」という、まさに今回の買収の核心に迫る質問である。質問の前のカンファレンス・コールの説明部分で買収コストに加えて、訴訟、De-Leveraging、合理化その他の関連コストが$6 Billion掛かると予想されている、というコメントがあった。したがって、$2の株価にプラスで$6 Billionのコストが掛かる。それでもBook Valueには及ばない。
この点に対する回答はどことなく歯切れが悪かった。短時間のDue Diligence、リスクに対するクッション、JP Morganの株主に対する受託者義務等を考えるとこれが適切な金額であるという回答だ。差額の多くはモーゲージ資産の評価か、という突っ込みもあったがこの点に対する明確な回答はなかったと思う。また、最後の質問はマンハッタンにあるBear Stearnsの豪華な本社ビルはBear Stearns所有か?という質問があり、所有されている点も確認された。あのビルだけでも相当な価値だろう。
*合併には株主の承認が必要
カンファレンス・コールを通じてJP Morganは「今回の合併案が株主総会で否決することは考えられないが・・・」というスタンスであった。本当にそうだろうか?つい最近まで$100を超える金額で取引されていたBear Stearnsの株式である。$2という金額でハッピーな株主がいるとは思えない。問題は他に代替案があるかどうかである。代替案としては、更正法適用、清算というオプションがある。また、他の買い手が現れて高い金額を提示してくれるという代替案も考えられる。
Merger AgreementにはおそらくBear Stearnsの経営陣が他の買い手を探してはいけない「No Shop」条項が盛り込まれているはずだが、デラウェアの会社法、判例に基づき「Fiduciary Out」条項も盛り込まれているはずだ。すなわちより価値の高い提案(Superior Proposal)が舞い込んできた場合には、それを検討しなくてはいけない。目的はあくまでもBear Stearnsの株主価値の最大限化にある。その場合にはJP MorganにいくらのBreak-upコストを支払うことになるのか等も全てMerger Agreementが公開されれば明らかになるはずだ。
予断となるが、カンファレンス・コールには、明らかに怒っていると見られるBear Stearnsの株主から「$2という価格はBear Stearnsの株主にとって正当なものか?」という質問があった。回答は「それはBear Steansに聞いてくれ」という素っ気無いが正しいものであった。質問した株主は一瞬シーンとなったが「僕は合併は承認しない」と発言していた。JP Morganサイドは「OK. 次の質問・・・」という対応であった。
全体を通して、JP Morgan側がBear Stearns株主のよる合併承認にかなり強気であったのが印象的だった。大口の株主と既に「Shareholder Agreement」か何か締結しているのだろうか?またまた今後の展開に目が離せない案件が増えた。
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