前回のポスティングではオバマ政権が発表した米国国際税務の改定の大枠に触れた。今回はその内容に関して少し掘り下げて検討してみたい。
*Check-the-Box規則使用の制限
前回のポスティングで5月4日のプレス・カンファレンス時点ではCheck-the-Box規定の撤廃かとも思える内容であったため大変ビックリしたと書いたが、Green Bookを読むとそこまで凄い変更ではないので少し安心した。しかし、米国多国籍企業、および米国現地法人の下に外国事業主体を持っている日本企業にとっては再編を行う必要が出てくるところも結構あるだろう。
*Check-the-Box規定とは?
Check-the-Box規定そのものに馴染みが少ない方のために多少バックグランドに触れておく。米国または米国外で事業を行う際には様々な形態の事業主体があり、その選択は投資家の有限責任、税負担の効率性、投資家が破産した際の事業主体に与える影響、事業との整合性、法規制その他の条件を比較して行われる。
一旦、選択された事業主体の位置付けは一義的には会社法にて規定される。例えば米国内であれば、株式会社、LLC、パートナーシップ等の事業主体は州の会社法に基づいて組成され、企業統治、有限責任その他の規定は州の法律に基づいて決定される。一方で、これらの事業主体を「連邦税法上どのように取り扱うか(主に「法人扱い」か「パススルー扱い」かの判断)」は連邦法で勝手に(州の会社法の考え方に必ずしも束縛されないで)決定することができる。州法上の株式会社は常に税法上も法人扱い(S法人の条件を満たせばパススルー)だが、パートナーシップ、LLC等の他の事業主体は条件次第で税務上は法人またはパススルーのどちらにもなり得る。
1997年以前はこの判断を各事業主体が4つの法人独特の性格、すなわち「有限責任」「無期限の存続」「投資家と経営の分離」「持分譲渡の流動性」のうち3つを有していると税務上の法人とされていた。
しかし、上の4つ性格の3つを持たせるかどうかに関してはパートナーシップ契約、LLC合意書等の定款にどのような規定を盛り込むかにより実質ほぼ「任意に」納税者側で決定することができた。また、1990年代前半からLLCというハイブリッド的な事業主体が広く認知されるようになり、税務上のパススルー形態を利用する機会が増えた。
これらの理由から1997年には米国内外の事業主体(株式会社等特定の主体は除く)を米国税務上、「法人」または「パススルー」のどちらと取り扱うかは納税者自らが選択することができるという画期的な規定が成立した。これがCheck-the-Box規定だ。Check-the-Box規定に基づき税務上の取り扱いを選択できるのは「Per se corporation」と呼ばれるリストに指定されている事業主体以外のものだ。例えばリストには日本の株式会社(K.K.)が載っている。ということは日本の株式会社に関して米国税法上の位置付けを決定する必要がある局面があるとすると「法人」以外には選択の余地がない。しかし他の形態(LLC、LLP、また今はないが有限会社、等)は自由に法人とするかパススルーとするかを決定することができる。
これは実に便利な規定だ。米国内で有限責任を実現させながらパススルーの恩典を享受することが簡単になったことから上場企業を除く多くの事業主体がLLC形態で事業を行うことになった。ちなみにLLC形態のまま上場すると通常はその時点で法人扱いとなる。しかし、これにも一部例外があり、その辺りをうまく利用して上場しながらにパススルーを維持するという技を利用しているファンドもある。この点に関しては2007年6月8日の「ブラックストーンはパートナーシップとして上場」を参照。
*改定案
今回、オバマ政権は、外国の事業主体に係るCheck-the-Box規定の使用を制限する改定案を出している。ただし、あくまでも使用の制限であり、Check-the-Box規定の撤廃には遠く及ばないことが分かりホッとした。
改定案によるとCheck-the-Box規定の使用に制限が加えられるのは「構成員(LLCではメンバーと呼ばれる株主のような存在)」が一人(または一社)の「外国」事業主体が対象となる。逆に言えば、外国の事業主体でも複数の構成員がいる場合、 また「米国内」の事業主体に関しては従来通りCheck-the-Box規定に基づく選択が可能だ。
改定案では一定の条件を満たすことができない単独構成員の外国事業主体はCheck-the-Box規定に基づき「パススルー」の取り扱いを選択することができないとされる。すなわち「法人」扱いとなるということだ。これは実質、上述の「Per se corporation」リストの拡大だ。
改定案によると外国事業主体がパススルーの取り扱いを選択できるのは、事業主体がその単独構成員と同一の国で設立されている場合に限るとされる。逆に言えば単独構成員と異なる国に設立された外国事業主体は、米国税法上「法人」と位置づけられることとなる。唯一の例外は、税法回避の目的が無い場合に限り、「米国の単独構成員」によって直接100%所有されている外国事業主体は今後もCheck-the-Box規定の利用ができるとされている点だ。
簡単なようで実は結構複雑なこの改定案、次回のポスティングではもう少し掘り下げてみたい。
Saturday, May 30, 2009
時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(1)
公私共に多忙を極めている間に(簡単に言うとバタバタとしている間に)いつの間に最後のポスティングから長~い時が経ってしまい本当に失礼致しました。あのビートルズですらツアーの合間を縫って(少なくともツアーをしていたRevolverの頃までは・・・)EMIとの過酷な契約(当初は人気が長続きしないのではないかという懸念に基づき売れてる間にできるだけ沢山のリリースをしようという目的で)に基づき半年に一度、完璧なクオリティーのアルバムをレコーディングしていたことを思うとたかがブログの執筆にこんなに期間を空けてはいけないのは明らか。気を取り直して頑張ります。
さて、そんなこんなしている間にAGIのボーナス騒動も沈静化し、新型フルーが到来し、といろいろとあった。しかし国際税務業界を震撼させたのは他でもない2009年5月4日にオバマ大統領自らがプレス・カンファレンスで披露した「米国国際税制の大改定」プランだろう。だいたいからして、米国の大統領自らがカンファレンスで国際課税の規定そのものにかなり具体的に言及して税法改定を提案したこと自体がショッキングというか、以外というか、気合を感じさせてくれるものであった。
当然内容もこの気合に見合ったものである。日本のタックスヘイブン税制に類似する(というか基となる)CFC/Subpart F規定を導入したケネディー政権による改定依頼の大改革だ。
そこで取りあえず、復活第一弾ではこのオバマ政権による国際税務の大改定に関してポスティングしてみたい。内容は一部ショッキングではあるがこれらはあくまでも「案」であってまだまだ法律ではない。これから長い審理プロセスでいろいろな変更が出てくることは十分に予想される。
*5月4日のプレス・カンファレンス
5月4日時点では「海外に留保されている所得に係る費用の損金算入繰延」、そしてナント「Check-the-Box規定の撤廃(ウソでしょう~!!)」、「外国税額控除の乱用禁止」と言った漠然とした内容しか分からなかったので余計にショックが大きかったと言える。
戦費、景気刺激策、減税の乱発で米国の財政はもちろん壊滅状況にあり、その穴埋めは並み大抵の増税では達成できない。国際課税分野でも実に今後10年で2,100億ドル(100円の単純計算で21兆円)も歳入増を見込んでいるということなので、生半可な改定ではないことは分かっていた。が、それにしても・・・。
カンファレンスでチョッと気に掛かったのが、オバマ政権による「大企業が国際取引に関して税法の抜け道(Loophole)を利用して適正な税金を支払っていない」という決め付けだ。個人的にオバマ政権は応援しているのだが、ここの部分は何だかチョッと違うような・・・。現在の国際取引に係る税法の規定は一朝一夕でできたものではなく、熟考された上で議会が制定しているものだ。その規定通りに税金を計算してきた多国籍企業にしてみれば「今更Loophole呼ばわりはないのでは?」と言いたいだろう。場合によっては他の取り扱いをすると法律違反になるようなケースもあり、別に裏をかいて得をしているという訳でもないことが多い。税法の恩典を最大限化してきたことは間違いないがそれはLoopholeではなく、税法で意図された通りの取り扱いに基づくものだ。
また、「現状の国際税務の規定は米国から外国に投資する方が有利なので、悪い多国籍企業が米国外に雇用の機会を持ち去っている」という部分もどうかな、と思ってしまう。多国籍企業として成長が見込まれる海外市場に進出するのは当然で、その際に少なくとも米国企業は(日本企業は必ずしもそうでないのが逆に興味深い?)税務的に最も効率のよい形態を取る。米国企業の国際取引に対する課税を強化すると、当然実効税率が上がるか、会計上の税率はそのままでも、税金をより早いタイミングで支払うこととなりキャッシュフローが悪化する。タダでさえ不景気で収益力が低下しているところにこのような改定が実行されるとますます業績が悪くなり、株価への悪影響も考えられる。単純に考えて今回提案されている税法改定で米国の雇用が増えるとはとても思えない。
それにしても、日本とか英国とかの他諸国が一同に海外で得られた所得の非課税化(Territorial課税制度)に移行している最中に、同所得に対する課税強化を打ち出した米国政権は世界の潮流に真っ向から対立していると言える。
*5月11日「Green Book」公表
そんな懸念を漠然と抱いていた矢先の5月11日には早速、税法改定の具体的な内容を説明した「Green Book」が公表された。この本全体で130ページに亘る実に分厚いマテリアルだが、その中で国際税務の改定に言及している部分は約13ページある。しかも「Loophole Closers(抜け道封じ策)」というタイトルの下に規定されている。
次回ポスティングではGreen Bookに記されている具体的な改定の内容について触れる。
さて、そんなこんなしている間にAGIのボーナス騒動も沈静化し、新型フルーが到来し、といろいろとあった。しかし国際税務業界を震撼させたのは他でもない2009年5月4日にオバマ大統領自らがプレス・カンファレンスで披露した「米国国際税制の大改定」プランだろう。だいたいからして、米国の大統領自らがカンファレンスで国際課税の規定そのものにかなり具体的に言及して税法改定を提案したこと自体がショッキングというか、以外というか、気合を感じさせてくれるものであった。
当然内容もこの気合に見合ったものである。日本のタックスヘイブン税制に類似する(というか基となる)CFC/Subpart F規定を導入したケネディー政権による改定依頼の大改革だ。
そこで取りあえず、復活第一弾ではこのオバマ政権による国際税務の大改定に関してポスティングしてみたい。内容は一部ショッキングではあるがこれらはあくまでも「案」であってまだまだ法律ではない。これから長い審理プロセスでいろいろな変更が出てくることは十分に予想される。
*5月4日のプレス・カンファレンス
5月4日時点では「海外に留保されている所得に係る費用の損金算入繰延」、そしてナント「Check-the-Box規定の撤廃(ウソでしょう~!!)」、「外国税額控除の乱用禁止」と言った漠然とした内容しか分からなかったので余計にショックが大きかったと言える。
戦費、景気刺激策、減税の乱発で米国の財政はもちろん壊滅状況にあり、その穴埋めは並み大抵の増税では達成できない。国際課税分野でも実に今後10年で2,100億ドル(100円の単純計算で21兆円)も歳入増を見込んでいるということなので、生半可な改定ではないことは分かっていた。が、それにしても・・・。
カンファレンスでチョッと気に掛かったのが、オバマ政権による「大企業が国際取引に関して税法の抜け道(Loophole)を利用して適正な税金を支払っていない」という決め付けだ。個人的にオバマ政権は応援しているのだが、ここの部分は何だかチョッと違うような・・・。現在の国際取引に係る税法の規定は一朝一夕でできたものではなく、熟考された上で議会が制定しているものだ。その規定通りに税金を計算してきた多国籍企業にしてみれば「今更Loophole呼ばわりはないのでは?」と言いたいだろう。場合によっては他の取り扱いをすると法律違反になるようなケースもあり、別に裏をかいて得をしているという訳でもないことが多い。税法の恩典を最大限化してきたことは間違いないがそれはLoopholeではなく、税法で意図された通りの取り扱いに基づくものだ。
また、「現状の国際税務の規定は米国から外国に投資する方が有利なので、悪い多国籍企業が米国外に雇用の機会を持ち去っている」という部分もどうかな、と思ってしまう。多国籍企業として成長が見込まれる海外市場に進出するのは当然で、その際に少なくとも米国企業は(日本企業は必ずしもそうでないのが逆に興味深い?)税務的に最も効率のよい形態を取る。米国企業の国際取引に対する課税を強化すると、当然実効税率が上がるか、会計上の税率はそのままでも、税金をより早いタイミングで支払うこととなりキャッシュフローが悪化する。タダでさえ不景気で収益力が低下しているところにこのような改定が実行されるとますます業績が悪くなり、株価への悪影響も考えられる。単純に考えて今回提案されている税法改定で米国の雇用が増えるとはとても思えない。
それにしても、日本とか英国とかの他諸国が一同に海外で得られた所得の非課税化(Territorial課税制度)に移行している最中に、同所得に対する課税強化を打ち出した米国政権は世界の潮流に真っ向から対立していると言える。
*5月11日「Green Book」公表
そんな懸念を漠然と抱いていた矢先の5月11日には早速、税法改定の具体的な内容を説明した「Green Book」が公表された。この本全体で130ページに亘る実に分厚いマテリアルだが、その中で国際税務の改定に言及している部分は約13ページある。しかも「Loophole Closers(抜け道封じ策)」というタイトルの下に規定されている。
次回ポスティングではGreen Bookに記されている具体的な改定の内容について触れる。
Friday, March 20, 2009
ナント90%課税? 「AIGボーナス」騒動(1)
ここ数日のトップ・ニュースは何と言っても大手保険会社AIGのボーナス騒動だろう。AIGは金融危機の影響で債務超過に陥りそうになったところを政府から「救済」資金援助を受けて何とか経営している会社だ。そんな会社の幹部の多くが多額のボーナスを受け取ることが明らかとなり「そんなバカな・・・」ということになっている。
政府からの救済はもちろん国民の税金を資金源としている。税金を支払っている一般庶民が前代未聞の不景気で息も絶え絶えな状態なのに、その税金をもらって何とか生き延びた会社の経営者がボーナスをもらって潤っているのはおかしいということだ。庶民的に分かり易い論点なのでお茶の間レベルで関心が高いニュースだ。
ボーナスへの課税に関心が高いが、そもそもAIGとはどのような経緯で危機に陥り救済を受けることになったのか?
*金融危機誘発の張本人?
AIGとはAmerican International Groupの略でNYに本拠地を持つ世界でも最大規模の保険会社だ。金融危機で経営難に陥り救済が必要になったという点で一見自動車会社のGM等と同じ「被害者」の立場にあるようにも思われるが、GMのケースとはチョッと異なる。
AIGが手元流動性の悪化による危機に瀕したのは、格付けの引き下げに伴い、CDOに係るCDS契約の担保力が不足し、その解消のためのマージンコール、つまり追証を支払うことができなったことに基づくとされている。このCDOとかCDSとかが今回の金融危機を引き起こし、今後の巨額($10Trillion?)の資産減損を引き起こすというものだ。となるとAIGは、金融危機を誘発するような取引に自ら手を染め、その取引は他の金融機関、ヘッジファンド等の同様の取引と一緒に破綻して危機を発生させ、その結果自らののポジションが債務超過となり、それを税金で穴埋めしてもらい、そして幹部は多額のボーナスを受け取った、という皮肉な見方をする者もいるだろう。
*CDO?
「CDOに係るCDS」って「南アフリカのCradock空港に係るアメリカ南部のChildress空港?」と思った方はAirport Codeに詳しい相当な航空分野の専門家だ。しかしここでいう「CDO」と「CDS」はもちろんLAXとかJFKみたいなAirport Codeではなく「Collateralized Debt Obligation」と「Credit Default Swap」のことだ。「C」と「D」が共通なのに基となる単語が異なる点が分かり難い。
CDOもCDSも難しいので詳しい説明はできないが、不正確を承知で敢えて分かり易く表現すると次の通りだ。まず銀行とかがいろんな人にお金を貸す。そして無数のローンを一つのポートフォリオにしてSPC(Special Purpose Corporation-これはお馴染みですね?)に売却し、SPCはそれを証券化する、つまり個々のローンとして転売するのではなく、沢山のローンをまとめた上でそれを小口化して投資家に売り払って設ける。
結果としてCDOはいろんなローンが集まって出来ているポートフォリオを基とする証券となる。ローンを借りている個々の債務者の返済能力は当然異なる。中には返済可能性がかなり低いもの(つまりサブプライム)も含まれる。でも全員が返済不能に陥ることは想定されないので投資家としてはひとつのローンに全てを掛けるよりもリスク分散ができて安心ということになる。しかし、ここが今回の金融危機のカラクリの一部でもあるが、CDOは単なるリスク分散では済まない。
CDOは金融工学に基づくいわゆる「Structured Products」の一種であり、証券化の際には単に金太郎飴のように全ての小口証券に均等のリスクを分散させるのではない。SPCはひとつのポートフォリオを「リスク度」の異なる複数の階層、すなわちトランチに分けて、小口証券化する。もちろん利回りはリスクの大小に準じて異なる。リスクが最も低いトランチは優先的にポートフォリオからのキャッシュフローが配賦されるように設計されているため、損失を被る可能性は低い。AAAとかの格付けがもらえるのはこの理由による。一方、一番格の低いトランチはポートフォリオに損失が生じるとまずそこにしわ寄せが行くようにできているので危険度は極めて高い。もちろんトランチの下に位置するEquityはリスクの塊だ。
それでも多くのローンからのキャッシュフローを基にしていることから、金融危機が顕在化するまでは(ベアスターンのCDOの一部に値が付かなくなるまでは)、リスクの高いトランチでも比較的優良な投資先かのように考えられていた。
CDOの基となる資産はローンでもいいし、社債でも何でもいい点、モーゲージに限定されるREMICよりもかなり弾力的な使用が可能だ。しかし、そこにも落とし穴があり、CDOの中には他のCDOの劣後証券を集めてポートフォリオとしているようなものもある。そのような二次CDOもリスク度に準じてトランチが構築される。キャッシュフローを最優先で受け取ることができるトップトランチは一見、堅い投資に見えるため「AAA」の投資として扱われることもある。しかし、いくらトップトランチでも、基となる資産が他のCDOの劣後部分では全然意味がない。というかリスクの塊だ。そんなものにAAAという今となってみると全く非現実的な格付けが付いたりしていた。CDOの中身が実は何か分からないという恐怖の事実に気付いた時には既に巨額のCDOが世界中に溢れていた。
次回はCDOと米国タックスに関して触れる。
政府からの救済はもちろん国民の税金を資金源としている。税金を支払っている一般庶民が前代未聞の不景気で息も絶え絶えな状態なのに、その税金をもらって何とか生き延びた会社の経営者がボーナスをもらって潤っているのはおかしいということだ。庶民的に分かり易い論点なのでお茶の間レベルで関心が高いニュースだ。
ボーナスへの課税に関心が高いが、そもそもAIGとはどのような経緯で危機に陥り救済を受けることになったのか?
*金融危機誘発の張本人?
AIGとはAmerican International Groupの略でNYに本拠地を持つ世界でも最大規模の保険会社だ。金融危機で経営難に陥り救済が必要になったという点で一見自動車会社のGM等と同じ「被害者」の立場にあるようにも思われるが、GMのケースとはチョッと異なる。
AIGが手元流動性の悪化による危機に瀕したのは、格付けの引き下げに伴い、CDOに係るCDS契約の担保力が不足し、その解消のためのマージンコール、つまり追証を支払うことができなったことに基づくとされている。このCDOとかCDSとかが今回の金融危機を引き起こし、今後の巨額($10Trillion?)の資産減損を引き起こすというものだ。となるとAIGは、金融危機を誘発するような取引に自ら手を染め、その取引は他の金融機関、ヘッジファンド等の同様の取引と一緒に破綻して危機を発生させ、その結果自らののポジションが債務超過となり、それを税金で穴埋めしてもらい、そして幹部は多額のボーナスを受け取った、という皮肉な見方をする者もいるだろう。
*CDO?
「CDOに係るCDS」って「南アフリカのCradock空港に係るアメリカ南部のChildress空港?」と思った方はAirport Codeに詳しい相当な航空分野の専門家だ。しかしここでいう「CDO」と「CDS」はもちろんLAXとかJFKみたいなAirport Codeではなく「Collateralized Debt Obligation」と「Credit Default Swap」のことだ。「C」と「D」が共通なのに基となる単語が異なる点が分かり難い。
CDOもCDSも難しいので詳しい説明はできないが、不正確を承知で敢えて分かり易く表現すると次の通りだ。まず銀行とかがいろんな人にお金を貸す。そして無数のローンを一つのポートフォリオにしてSPC(Special Purpose Corporation-これはお馴染みですね?)に売却し、SPCはそれを証券化する、つまり個々のローンとして転売するのではなく、沢山のローンをまとめた上でそれを小口化して投資家に売り払って設ける。
結果としてCDOはいろんなローンが集まって出来ているポートフォリオを基とする証券となる。ローンを借りている個々の債務者の返済能力は当然異なる。中には返済可能性がかなり低いもの(つまりサブプライム)も含まれる。でも全員が返済不能に陥ることは想定されないので投資家としてはひとつのローンに全てを掛けるよりもリスク分散ができて安心ということになる。しかし、ここが今回の金融危機のカラクリの一部でもあるが、CDOは単なるリスク分散では済まない。
CDOは金融工学に基づくいわゆる「Structured Products」の一種であり、証券化の際には単に金太郎飴のように全ての小口証券に均等のリスクを分散させるのではない。SPCはひとつのポートフォリオを「リスク度」の異なる複数の階層、すなわちトランチに分けて、小口証券化する。もちろん利回りはリスクの大小に準じて異なる。リスクが最も低いトランチは優先的にポートフォリオからのキャッシュフローが配賦されるように設計されているため、損失を被る可能性は低い。AAAとかの格付けがもらえるのはこの理由による。一方、一番格の低いトランチはポートフォリオに損失が生じるとまずそこにしわ寄せが行くようにできているので危険度は極めて高い。もちろんトランチの下に位置するEquityはリスクの塊だ。
それでも多くのローンからのキャッシュフローを基にしていることから、金融危機が顕在化するまでは(ベアスターンのCDOの一部に値が付かなくなるまでは)、リスクの高いトランチでも比較的優良な投資先かのように考えられていた。
CDOの基となる資産はローンでもいいし、社債でも何でもいい点、モーゲージに限定されるREMICよりもかなり弾力的な使用が可能だ。しかし、そこにも落とし穴があり、CDOの中には他のCDOの劣後証券を集めてポートフォリオとしているようなものもある。そのような二次CDOもリスク度に準じてトランチが構築される。キャッシュフローを最優先で受け取ることができるトップトランチは一見、堅い投資に見えるため「AAA」の投資として扱われることもある。しかし、いくらトップトランチでも、基となる資産が他のCDOの劣後部分では全然意味がない。というかリスクの塊だ。そんなものにAAAという今となってみると全く非現実的な格付けが付いたりしていた。CDOの中身が実は何か分からないという恐怖の事実に気付いた時には既に巨額のCDOが世界中に溢れていた。
次回はCDOと米国タックスに関して触れる。
Sunday, February 15, 2009
海外からの配当非課税米国版の「顛末」
日本では海外子会社からの配当金が4月から非課税となる方向だが、米国でも時限措置で一年間(暦年課税年度の場合には2004年または2005年の選択)、海外子会社からの配当を85%非課税とする選択が可能であった。今回の日本の税制との簡単な比較は「2008年5月24日のポスティング」を参照して頂きたいが、米国の制度が日本のものと際立って異なるのは通常の配当ではない多額の配当を米国に戻し、その資金を「米国での雇用・投資を促進する目的に使用される必要があった。
以前のポスティングでも触れた通り、具体的には「米国投資案(Domestic Reinvestment Plan)」というトップ経営陣に承認され文書化されたプランに基づき配当された金額が米国での雇用、従業員教育、設備投資、R&D、雇用創出のための企業の財務体質強化、等の目的に使用される必要があると規定されていた。また、配当を経営陣の報酬に回してはいけないという規定も設けられていた。
しかし、現実には賢い米国企業に裏をかかれ、立派なプランに基づいて非課税で資金は戻ってきたが、実際には米国の雇用、投資にプラスの効果をもたらすような使われ方はしていない、というデータが民間では実しやかに語られていた。
*ついに議会が質問書発行
米国企業がちゃっかりとラッキーして非課税で資金を米国に戻した点に関するコメントは従来はあくまでも民間の非公式なものであった。それがここにきて遂に議会が動き出した。具体的には上院の「Permanent Subcommittee of Investigation」という委員会が2004年または2005年に非課税措置を利用して資金を海外から資金を戻した米国企業に対して「厳しい内容」の質問書を送り付けたのだ。
質問の内容はかなり直接的だ。「Domestic Reinvestment Plan」のコピーを同封して、そのプラン通りに事が運んだのか、プランから逸脱した行為がなかったか、資金がどのように使用されたか、2002年から2008年の従業員数の推移、同期間のR&D支出金額の推移、同期間の自社株式買戻し詳細、同期間の役員報酬の推移、2005年から2008年の借入金返済詳細、等ビシビシと続く。
そして極めつけは「非課税で受け取った資金がどのように米国の雇用、R&Dの増額に寄与したか具体的なデータに基づいて説明せよ」と締めくくられている。非課税で資金を戻した企業が今回の不況より相当前にレイオフを繰り返していたという報道もあり、企業によっては返答に苦慮するようなケースもあり得るが、その辺は創作文章力に富む米国企業なので表面的には「なるほど・・・」と思わせる回答となるだろう。どこまで議会側が表面的な回答の奥まで突っ込みを入れることができるかが真相解明の鍵となる。
*米国企業は非課税措置が病みつきに
米国議会ではおりから景気刺激法案が審理されていたが、このタイミングで質問書が発行されたのは偶然ではない。実は今回の景気刺激策に2004年同様の非課税措置を盛り込むべきだ、というロビー活動がかなり活発に行なわれており、現実に上院では盛り込むかどうかの投票にまで至っている。
しかし、ロビー活動を必死で行なっていた企業の中には2004年の非課税措置で実際には雇用もR&Dも増やさず、株主や役員にその恩典を間接的に回しラッキーしたのではないかと思われるところも含まれているとみる向きがあり、実際には今回の景気刺激策には盛り込まれていない。
その審理の過程で実際に何が起こったのかを見極める必要がある、ということになった。また、2004年時の法審理の際に議会の意思として「これは一回きりの特別措置だ」という記述があり、その点も再登場のネックになったと言われている。
一方で米国企業は甘い汁を一度吸った感覚が忘れられず、「一度あったのだから又ある」という期待を持っているだろう。結果として、米国への資金還流を促進する目的で制定された2004年の法律が、その時限効果が消滅した後は、次の時限立法を待つことで資金を海外に滞留させるという逆効果を持つようになってしまったようだ。また、いかにグローバルベースでの税負担を低く海外から資金を戻すかというプラニングに対する許容度が高くなり、以前よりもアグレッシブなストラクチャーが目立つような傾向にあるという話もある。
そんな中で日本が無条件で海外子会社からの配当を非課税にするというのはとても興味深い方向性であるといえる。
以前のポスティングでも触れた通り、具体的には「米国投資案(Domestic Reinvestment Plan)」というトップ経営陣に承認され文書化されたプランに基づき配当された金額が米国での雇用、従業員教育、設備投資、R&D、雇用創出のための企業の財務体質強化、等の目的に使用される必要があると規定されていた。また、配当を経営陣の報酬に回してはいけないという規定も設けられていた。
しかし、現実には賢い米国企業に裏をかかれ、立派なプランに基づいて非課税で資金は戻ってきたが、実際には米国の雇用、投資にプラスの効果をもたらすような使われ方はしていない、というデータが民間では実しやかに語られていた。
*ついに議会が質問書発行
米国企業がちゃっかりとラッキーして非課税で資金を米国に戻した点に関するコメントは従来はあくまでも民間の非公式なものであった。それがここにきて遂に議会が動き出した。具体的には上院の「Permanent Subcommittee of Investigation」という委員会が2004年または2005年に非課税措置を利用して資金を海外から資金を戻した米国企業に対して「厳しい内容」の質問書を送り付けたのだ。
質問の内容はかなり直接的だ。「Domestic Reinvestment Plan」のコピーを同封して、そのプラン通りに事が運んだのか、プランから逸脱した行為がなかったか、資金がどのように使用されたか、2002年から2008年の従業員数の推移、同期間のR&D支出金額の推移、同期間の自社株式買戻し詳細、同期間の役員報酬の推移、2005年から2008年の借入金返済詳細、等ビシビシと続く。
そして極めつけは「非課税で受け取った資金がどのように米国の雇用、R&Dの増額に寄与したか具体的なデータに基づいて説明せよ」と締めくくられている。非課税で資金を戻した企業が今回の不況より相当前にレイオフを繰り返していたという報道もあり、企業によっては返答に苦慮するようなケースもあり得るが、その辺は創作文章力に富む米国企業なので表面的には「なるほど・・・」と思わせる回答となるだろう。どこまで議会側が表面的な回答の奥まで突っ込みを入れることができるかが真相解明の鍵となる。
*米国企業は非課税措置が病みつきに
米国議会ではおりから景気刺激法案が審理されていたが、このタイミングで質問書が発行されたのは偶然ではない。実は今回の景気刺激策に2004年同様の非課税措置を盛り込むべきだ、というロビー活動がかなり活発に行なわれており、現実に上院では盛り込むかどうかの投票にまで至っている。
しかし、ロビー活動を必死で行なっていた企業の中には2004年の非課税措置で実際には雇用もR&Dも増やさず、株主や役員にその恩典を間接的に回しラッキーしたのではないかと思われるところも含まれているとみる向きがあり、実際には今回の景気刺激策には盛り込まれていない。
その審理の過程で実際に何が起こったのかを見極める必要がある、ということになった。また、2004年時の法審理の際に議会の意思として「これは一回きりの特別措置だ」という記述があり、その点も再登場のネックになったと言われている。
一方で米国企業は甘い汁を一度吸った感覚が忘れられず、「一度あったのだから又ある」という期待を持っているだろう。結果として、米国への資金還流を促進する目的で制定された2004年の法律が、その時限効果が消滅した後は、次の時限立法を待つことで資金を海外に滞留させるという逆効果を持つようになってしまったようだ。また、いかにグローバルベースでの税負担を低く海外から資金を戻すかというプラニングに対する許容度が高くなり、以前よりもアグレッシブなストラクチャーが目立つような傾向にあるという話もある。
そんな中で日本が無条件で海外子会社からの配当を非課税にするというのはとても興味深い方向性であるといえる。
景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ
オバマ政権成立後、僅か数週間で合意に達した「Stimulus Package(景気刺激策)」だが、その中身はここ1~2週間の間に展開された上院・下院、民主・共和両党の「凄まじい」駆け引き、交渉で二転三転した。
中でも日本企業的に一番ダメージというかショックが大きいのは繰越欠損金(NOL)の繰戻規定の大幅な後退であろう。
*一時は全ビジネスに10年の繰戻という話しも・・・
このNOLの繰戻だが、通常は2年間認められている。したがって、2008年にNOLが発生する場合、2006年および2007年の課税所得額がNOL額より大きければ全額を吸収することができる。実際にはAMTの算定目的で使用できるNOLがAMT課税所得の90%に限定されていることから、若干の税金を残して還付を受けることになる。
自動車会社の業績に象徴される通り、多くの米国企業が2008年に「空前」のNOLを計上することが確実となっている。となると、2年間の繰戻期間ではとてもNOL全額を吸収することができない。さらに資金繰りが悪化している企業がほとんどであることからNOLの「現金化」はまさに米国企業にとっても生命線となる。
そこで検討されてきたのがNOL繰戻期間の臨時延長である。一時は10年間の繰戻が認められるという噂も流れ、期待が高まっていた。
*5年間の繰戻と10%減額
しかし、景気刺激策の内容が明らかになるにつれ、10年という話しはなくなっていった。5年という期間で規定が具体化されてきたのである。「まあ5年でもいいか」というのが大方の見方であった。
2008年に多額のNOLが発生し、繰戻で吸収できないとなると当然残りは繰延となる。2008年の業績が最悪であり、かつ景気回復の見込みの全く立たない状況で、将来の繰越に係る税効果資産を認識するのは難しい。となると繰戻の延長が規定されれば、その時点(暦年であれば第一四半期)でNOLの資産価値(繰り戻しによるReceivable)を認識することができる。ということで繰戻5年の規定成立を待ち焦がれているケースは多かった。
下院で審理が進むにつれ、5年の繰戻に尾ひれが付くこととなった。5年の繰戻を選択するとナントNOLの金額が「10%減額」になるというのだ。チョッとセコイ気がしたが「それでもしょうがないね・・・」というのが率直な感想だった。
*期待の上院も・・・
そこで頼もしく登場したのが上院であった。当初の上院バージョンではNOLを5年繰り戻しても10%の減額は盛り込まれていなかった。「上院バージョンで最終化しますように」と祈っていたのも束の間、話は変な方向に行ってしまった。
*なんだこれ?
景気刺激策の財政的なコストを下げるために両院であれこれ調整している間にNOLの5年繰戻はとんでもない方向に行ってしまった。ナント5年間の繰戻が認められるのは過去3年間平均の年間総収入(Gross Receipt)が1500万ドルを超えない事業主体のみと規定されたのだ。
この1500万ドルの算定には、50%超の資本関係にある「Control Group」(通常のControl Groupは80%以上の資本関係だがNOL繰戻規定下では50%超が基準となる)が「ひとつの事業主体」と取り扱われるためチョッとしたサイズの日本企業米国子会社は簡単に超えてしまう。つまり5年間の繰戻は使えない。
NOLの繰戻を規定している部分の法タイトルも「Small Business Provision」(小規模事業規定)となってしまっており、その名の通り小規模の事業のみが恩典を受けることとなった。
今回の景気刺激策に盛り込まれた税法改正はBonus Depreciation等他に恩典を受けることができそうなものもあるが、注目度一番のNOL繰戻が空振りに終わってしまったことから、多くの日本企業にとっては肩透かしをくった感は否めないだろう。
中でも日本企業的に一番ダメージというかショックが大きいのは繰越欠損金(NOL)の繰戻規定の大幅な後退であろう。
*一時は全ビジネスに10年の繰戻という話しも・・・
このNOLの繰戻だが、通常は2年間認められている。したがって、2008年にNOLが発生する場合、2006年および2007年の課税所得額がNOL額より大きければ全額を吸収することができる。実際にはAMTの算定目的で使用できるNOLがAMT課税所得の90%に限定されていることから、若干の税金を残して還付を受けることになる。
自動車会社の業績に象徴される通り、多くの米国企業が2008年に「空前」のNOLを計上することが確実となっている。となると、2年間の繰戻期間ではとてもNOL全額を吸収することができない。さらに資金繰りが悪化している企業がほとんどであることからNOLの「現金化」はまさに米国企業にとっても生命線となる。
そこで検討されてきたのがNOL繰戻期間の臨時延長である。一時は10年間の繰戻が認められるという噂も流れ、期待が高まっていた。
*5年間の繰戻と10%減額
しかし、景気刺激策の内容が明らかになるにつれ、10年という話しはなくなっていった。5年という期間で規定が具体化されてきたのである。「まあ5年でもいいか」というのが大方の見方であった。
2008年に多額のNOLが発生し、繰戻で吸収できないとなると当然残りは繰延となる。2008年の業績が最悪であり、かつ景気回復の見込みの全く立たない状況で、将来の繰越に係る税効果資産を認識するのは難しい。となると繰戻の延長が規定されれば、その時点(暦年であれば第一四半期)でNOLの資産価値(繰り戻しによるReceivable)を認識することができる。ということで繰戻5年の規定成立を待ち焦がれているケースは多かった。
下院で審理が進むにつれ、5年の繰戻に尾ひれが付くこととなった。5年の繰戻を選択するとナントNOLの金額が「10%減額」になるというのだ。チョッとセコイ気がしたが「それでもしょうがないね・・・」というのが率直な感想だった。
*期待の上院も・・・
そこで頼もしく登場したのが上院であった。当初の上院バージョンではNOLを5年繰り戻しても10%の減額は盛り込まれていなかった。「上院バージョンで最終化しますように」と祈っていたのも束の間、話は変な方向に行ってしまった。
*なんだこれ?
景気刺激策の財政的なコストを下げるために両院であれこれ調整している間にNOLの5年繰戻はとんでもない方向に行ってしまった。ナント5年間の繰戻が認められるのは過去3年間平均の年間総収入(Gross Receipt)が1500万ドルを超えない事業主体のみと規定されたのだ。
この1500万ドルの算定には、50%超の資本関係にある「Control Group」(通常のControl Groupは80%以上の資本関係だがNOL繰戻規定下では50%超が基準となる)が「ひとつの事業主体」と取り扱われるためチョッとしたサイズの日本企業米国子会社は簡単に超えてしまう。つまり5年間の繰戻は使えない。
NOLの繰戻を規定している部分の法タイトルも「Small Business Provision」(小規模事業規定)となってしまっており、その名の通り小規模の事業のみが恩典を受けることとなった。
今回の景気刺激策に盛り込まれた税法改正はBonus Depreciation等他に恩典を受けることができそうなものもあるが、注目度一番のNOL繰戻が空振りに終わってしまったことから、多くの日本企業にとっては肩透かしをくった感は否めないだろう。
Sunday, February 1, 2009
長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(2)
前回から触れているオバマ政権の長官候補であるDaschle氏の税金問題を続ける。今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、の3つに区分されるが、フリンジ・ベネフィットに関しては前回触れたので今回は他の二つに触れる。また最後に修正申告のタイミングに関して考えてみたい。
*Form 1099MISC金額漏れ
Daschle氏にリムジンの供与を行なっていた個人が社長を務め、Daschle氏自身が「Advisory Board」を勤めるPE Fundsは、Daschle氏にBoardの報酬として年棒$1,000,000を支払っていた。そのうちの一月分である$83,333が未申告となっていたということだ。未申告の直接的な原因はPE Funds側が報酬をIRSに報告するために作成するForm 1099MISC(従業員の受け取る源泉徴収票のようなものだが、従業員ではないので源泉徴収はない)から一月分の金額が漏れていたからというものだ。
支払い側としては正確な金額をForm 1099MISCにて報告する義務があるのはもちろんだが、納税者側としてはForm 1099MISCの金額に係らず、正しい金額を申告する必要がある。Form 1099MISCはあくまでも報告義務に係る問題で、そこの金額が間違っていても報酬を受け取る側の申告義務は変わらない。例えば銀行からの利子所得はForm 1099INTで報告されてくるが、報告の有無または金額の正確性は銀行のIRSに対する報告義務に係る問題であり、1099INTが来ても来なくても納税者側には利子所得を報告する義務があるのはもちろんである。
ただし現実的にはForm 1099MISCに準拠して申告書を作成してしまうケースは多いだろう。それ以外に正確な年収をパッと把握する書類がないようなケースでは特にだ。。今回のケースでは年収が$1,000,000という丸い数字であったことから検証は容易であったのではないかとも思われるが。
*不適格寄付金
米国ではNPOその他の慈善団体に寄付をするのはとても一般的なことであるが、寄付が税務上に費用となるかどうかに関してはいろいろな規定がある。その中でも最も重要なのは、寄付を行なう先が税法に規定される「適格団体」であるかどうかだ。この適格団体は「米国の団体」に限定されていることから、日本人派遣員のケースでは、日本の団体に寄付をしても費用化は認められない。
Daschle氏のケースだが、一部の寄付金控除に関して、イラク兵士に係る寄付金をしていたが、よくみたら寄付の相手となる団体が適格団体ではなかったというものだ。確かにいろんな団体がありどこが適格となるかは分かり難いが、IRSのウェブサイトのリンクとかで調べることが可能であり、多少ずさんな感は免れない。
*修正申告のタイミング
上の3つの項目を修正することにより過去3年分合計で$140,000以上の税額(利息込み)を支払ったということだ。オバマ政権側のディフェンスとしては「IRSからの連絡があった訳でもないのに自ら修正申告書を提出しているのだから清く正しい」ということなのだが、実際に修正申告書が提出されたのは、Geithner氏のケース同様、Daschle氏が長官候補として白羽の矢が立てられた後というタイミングであった。長官の指名確認プロセスでは厳しい身元チェックが行なわれ、確定申告内容も当然精査されることになるのは百も承知であったであろうことから、今回の指名がなければ修正されていたかどうかは微妙だ。
リムジンの提供に関しては「課税かな~とも思ったがお抱え会計士が処理してくれていると思ったし、金額もこんなとは思わなかったし・・・」というようなコメントがあったと報道されている。サービスの享受なので、銀行口座等を見ても分からないだろうし、会計士側も知らなかったのではないだろうか。技術的にはこのような便宜を提供している側にみなし報酬としてForm 1099(雇用関係がない場合)またはForm W-2(雇用関係がある場合)による方向義務があったと考えられる。Form 1099ナシの状態で会計士側でこの所得の特定をするのは困難であっただろう。
先のGeithner氏のケースでも慌てて修正をしていたことで「悪者感」が出ていたが、今回はそれに加えて「おいしい待遇」の享受を事の発端とするタックス問題であることから、今後の審理もより厳しいものとなるだろう。
*Form 1099MISC金額漏れ
Daschle氏にリムジンの供与を行なっていた個人が社長を務め、Daschle氏自身が「Advisory Board」を勤めるPE Fundsは、Daschle氏にBoardの報酬として年棒$1,000,000を支払っていた。そのうちの一月分である$83,333が未申告となっていたということだ。未申告の直接的な原因はPE Funds側が報酬をIRSに報告するために作成するForm 1099MISC(従業員の受け取る源泉徴収票のようなものだが、従業員ではないので源泉徴収はない)から一月分の金額が漏れていたからというものだ。
支払い側としては正確な金額をForm 1099MISCにて報告する義務があるのはもちろんだが、納税者側としてはForm 1099MISCの金額に係らず、正しい金額を申告する必要がある。Form 1099MISCはあくまでも報告義務に係る問題で、そこの金額が間違っていても報酬を受け取る側の申告義務は変わらない。例えば銀行からの利子所得はForm 1099INTで報告されてくるが、報告の有無または金額の正確性は銀行のIRSに対する報告義務に係る問題であり、1099INTが来ても来なくても納税者側には利子所得を報告する義務があるのはもちろんである。
ただし現実的にはForm 1099MISCに準拠して申告書を作成してしまうケースは多いだろう。それ以外に正確な年収をパッと把握する書類がないようなケースでは特にだ。。今回のケースでは年収が$1,000,000という丸い数字であったことから検証は容易であったのではないかとも思われるが。
*不適格寄付金
米国ではNPOその他の慈善団体に寄付をするのはとても一般的なことであるが、寄付が税務上に費用となるかどうかに関してはいろいろな規定がある。その中でも最も重要なのは、寄付を行なう先が税法に規定される「適格団体」であるかどうかだ。この適格団体は「米国の団体」に限定されていることから、日本人派遣員のケースでは、日本の団体に寄付をしても費用化は認められない。
Daschle氏のケースだが、一部の寄付金控除に関して、イラク兵士に係る寄付金をしていたが、よくみたら寄付の相手となる団体が適格団体ではなかったというものだ。確かにいろんな団体がありどこが適格となるかは分かり難いが、IRSのウェブサイトのリンクとかで調べることが可能であり、多少ずさんな感は免れない。
*修正申告のタイミング
上の3つの項目を修正することにより過去3年分合計で$140,000以上の税額(利息込み)を支払ったということだ。オバマ政権側のディフェンスとしては「IRSからの連絡があった訳でもないのに自ら修正申告書を提出しているのだから清く正しい」ということなのだが、実際に修正申告書が提出されたのは、Geithner氏のケース同様、Daschle氏が長官候補として白羽の矢が立てられた後というタイミングであった。長官の指名確認プロセスでは厳しい身元チェックが行なわれ、確定申告内容も当然精査されることになるのは百も承知であったであろうことから、今回の指名がなければ修正されていたかどうかは微妙だ。
リムジンの提供に関しては「課税かな~とも思ったがお抱え会計士が処理してくれていると思ったし、金額もこんなとは思わなかったし・・・」というようなコメントがあったと報道されている。サービスの享受なので、銀行口座等を見ても分からないだろうし、会計士側も知らなかったのではないだろうか。技術的にはこのような便宜を提供している側にみなし報酬としてForm 1099(雇用関係がない場合)またはForm W-2(雇用関係がある場合)による方向義務があったと考えられる。Form 1099ナシの状態で会計士側でこの所得の特定をするのは困難であっただろう。
先のGeithner氏のケースでも慌てて修正をしていたことで「悪者感」が出ていたが、今回はそれに加えて「おいしい待遇」の享受を事の発端とするタックス問題であることから、今後の審理もより厳しいものとなるだろう。
長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(1)
財務長官候補に指名されていたGeithner氏(後に指名確定)に年金未納問題が発覚していたことは1月17日のポスティングで触れたが、今度はHealth and Human Services(何て訳されているのかしらないが「厚生省医政庁」みたいな感じ?)の長官候補に名前が上がっているDaschle氏に係るタックス・スキャンダルが広く報道されている。
オバマ政権下で米国の医療保険システムを見直すという大役を仰せつかる長官候補だけに倫理感と透明性を掲げる同政権としてはチョッとイメージ的に頭の痛い問題だろう。しかも、前回のGeithner氏の場合にはIMFと社会保障税というどちらかと言うと地味めな設定下での話しであったが今回のDaschle氏のケースはもう少し設定が派手だ。
Daschle氏に係る報道を読んでいると、どこの国でも政治家というのは本職以外でいろいろと儲かる機会が多いんだな~っていう、そんな「おいしい」アレンジの実態を垣間見ることができる。それだけに今後の審理過程でGeithner氏のケース以上の突っ込みを入れられることは間違いないだろう。
今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、という区分される。下で各々の項目に関して簡単に説明した上で、最後に修正申告のタイミングに関して触れる。
*フリンジ・ベネフィット課税
報道に基づくと事の経緯はこうだ。Daschle氏は、自らが「Advisory Board」メンバーを務めるPrivate Equity Fund(PE Fund)の社長でありかつ民主党のサポーターである個人から無償でリムジンサービスが供与されていた。リムジンサービスとは運転手付きの黒塗り自動車を提供されていると思えばいい。車種はリンカーン・タウンカーが一般的だが、ハイエンドのケースはメルセデスSタイプが頻繁に使用されるので今回はどちらかというとSタイプのイメージを想定してしまう。
リムジンサービスが業務用に使用されているのであれば問題はないが、個人使用分があるとそれは当然「みなし報酬」となる。Daschle氏側の説明によるとナント80%が個人使用だったということなので、ほとんど業務には使用していない。私用目的で運転手付きのSタイプ(車種は想像)を好き放題乗り回せるというリッチな状況だった訳だ。
米国では、現金の報酬はもとより、現物支給、サービス供与の全てを「時価評価」して課税対象とする。税法的には「あらゆる個人資産の増加」が課税所得であると規定されており、具体的に「非課税」と規定される項目以外は全て課税となる。税法の基本的な構造が「全て課税」と規定された上で、「ただし、これとこれは非課税」という例外規定を付けていることから、例外規定に当てはまらないものは全て課税所得となる。条文解釈の超基本であるが、例外規定は「狭義」に解釈されるため、そのハードルは高い。
今回のようなフリンジ・ベネフィットに対しては若干の例外規定(=非課税規定)が税法132条に儲けられているが、少額フリンジ(例、会社のコピーを私用に数ページ使ってしまった)とか通勤に係る特定プログラム下での交通費援助(米国では通勤費用は「私費」!)とか、黒塗りSタイプを好きなだけ私用に利用できるようなケースには当てはまらない。
また、報酬額は時価換算されるため結構なものとなるだろう。個人的にもとてもタイトな日程の出張(空港に直ぐに戻る必要があるようなケース)とかレンタカーが実用的でないマンハッタン近辺ではカーサービスを利用することがあるが(もちろんSタイプではなく、タウンカーっぽいやつ。念の為・・・)3~4時間でも数百ドルはいくので、Daschle氏のリムジン使用時間が多いとかなりのみなし所得となる。実際に一部の報道では2005年から2007年までの3年間で年間平均$80,000を超える金額に上るとされている。
この時価評価であるが、日本人の派遣員のケースでは、会社負担の家賃、一時帰国費用、健康診断、その他多くのフリンジに適用される。日本では従業員に対する社宅供与は時価よりかなり低い金額で所得を認識することが許されていると理解している(一方で役員の「豪華」社宅は時価評価)。給与を現金で受け取り、自ら家賃を支払うケースと、同じ物件を会社が借りて個人に供与するケースで、課税関係が異なるのも変な気がするが、米国では社宅が「あばら家」であれ「豪華物件」であれ、時価評価(実勢レント)でみなし所得となる。契約主が個人の名前でも会社の名前でも関係ない。(続く)
オバマ政権下で米国の医療保険システムを見直すという大役を仰せつかる長官候補だけに倫理感と透明性を掲げる同政権としてはチョッとイメージ的に頭の痛い問題だろう。しかも、前回のGeithner氏の場合にはIMFと社会保障税というどちらかと言うと地味めな設定下での話しであったが今回のDaschle氏のケースはもう少し設定が派手だ。
Daschle氏に係る報道を読んでいると、どこの国でも政治家というのは本職以外でいろいろと儲かる機会が多いんだな~っていう、そんな「おいしい」アレンジの実態を垣間見ることができる。それだけに今後の審理過程でGeithner氏のケース以上の突っ込みを入れられることは間違いないだろう。
今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、という区分される。下で各々の項目に関して簡単に説明した上で、最後に修正申告のタイミングに関して触れる。
*フリンジ・ベネフィット課税
報道に基づくと事の経緯はこうだ。Daschle氏は、自らが「Advisory Board」メンバーを務めるPrivate Equity Fund(PE Fund)の社長でありかつ民主党のサポーターである個人から無償でリムジンサービスが供与されていた。リムジンサービスとは運転手付きの黒塗り自動車を提供されていると思えばいい。車種はリンカーン・タウンカーが一般的だが、ハイエンドのケースはメルセデスSタイプが頻繁に使用されるので今回はどちらかというとSタイプのイメージを想定してしまう。
リムジンサービスが業務用に使用されているのであれば問題はないが、個人使用分があるとそれは当然「みなし報酬」となる。Daschle氏側の説明によるとナント80%が個人使用だったということなので、ほとんど業務には使用していない。私用目的で運転手付きのSタイプ(車種は想像)を好き放題乗り回せるというリッチな状況だった訳だ。
米国では、現金の報酬はもとより、現物支給、サービス供与の全てを「時価評価」して課税対象とする。税法的には「あらゆる個人資産の増加」が課税所得であると規定されており、具体的に「非課税」と規定される項目以外は全て課税となる。税法の基本的な構造が「全て課税」と規定された上で、「ただし、これとこれは非課税」という例外規定を付けていることから、例外規定に当てはまらないものは全て課税所得となる。条文解釈の超基本であるが、例外規定は「狭義」に解釈されるため、そのハードルは高い。
今回のようなフリンジ・ベネフィットに対しては若干の例外規定(=非課税規定)が税法132条に儲けられているが、少額フリンジ(例、会社のコピーを私用に数ページ使ってしまった)とか通勤に係る特定プログラム下での交通費援助(米国では通勤費用は「私費」!)とか、黒塗りSタイプを好きなだけ私用に利用できるようなケースには当てはまらない。
また、報酬額は時価換算されるため結構なものとなるだろう。個人的にもとてもタイトな日程の出張(空港に直ぐに戻る必要があるようなケース)とかレンタカーが実用的でないマンハッタン近辺ではカーサービスを利用することがあるが(もちろんSタイプではなく、タウンカーっぽいやつ。念の為・・・)3~4時間でも数百ドルはいくので、Daschle氏のリムジン使用時間が多いとかなりのみなし所得となる。実際に一部の報道では2005年から2007年までの3年間で年間平均$80,000を超える金額に上るとされている。
この時価評価であるが、日本人の派遣員のケースでは、会社負担の家賃、一時帰国費用、健康診断、その他多くのフリンジに適用される。日本では従業員に対する社宅供与は時価よりかなり低い金額で所得を認識することが許されていると理解している(一方で役員の「豪華」社宅は時価評価)。給与を現金で受け取り、自ら家賃を支払うケースと、同じ物件を会社が借りて個人に供与するケースで、課税関係が異なるのも変な気がするが、米国では社宅が「あばら家」であれ「豪華物件」であれ、時価評価(実勢レント)でみなし所得となる。契約主が個人の名前でも会社の名前でも関係ない。(続く)
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