Tuesday, September 14, 2021

バイデン増税「下院歳入委員会」法文ドラフト(1) まずはオタクな規定から

今、アメリカは9・11明けの月曜日13日だけど、同時テロから20年の月日が経ったんだね。「It was 20 years ago today・・・」(分かるね?この歌詞)。

で、そんな中ついさっき下院歳入委員会が、予算調整法に基づく増税審議のたたき台となる法案ドラフトを公表した。週末に内容の一部がDCで出回ってて、身の丈に余る巨額のお金を使うため、「法人税率は26.5%に」とかWSJ等のプレスで報道されてたけど、詳細な内容は結構面白い。グリーンブックや上院財政委員会の提案との比較で、かなり実務的というか、現実的な提案内容、っていう第一印象。大増税って点はもちろん同じ。

ちなみに憲法上、歳入に関して大きな権限を持つ下院の歳入委員会の提案とは言え、最終的な法律は今後の審議を通じてどんな形になるか全く不明だから、「こんな風になることもあり得るんだね~」程度の参考情報として捉えておく必要がある。余り一喜一憂しないようにね。2017年の時もDBCFTのボーダー調整とか(結局廃案)、下院案の輸入使用税とか(BEATに落ち着く)、結局実現しなかった画期的な改定提案にアレコレ神経を費やした苦い経験を忘れないように。

で、今日は余りメインストリームのメディアは取り上げないようなオタクだけど、米国事業や米国投資検討時に重要な提案から。

ポートフォリ利子免税の条件がタイトに

いきなりオタク過ぎる条文から入るけど、日本企業のように米国外投資家にとっては最重要な提案のひとつとなるポートフォリオ利子免税に関して。債券投資のヘッジファンドに投資を検討したことがある読者の方とかなら知ってると思うけど、国外からアメリカにポートフォリオ投資する際に万一ECIになって申告が必要になるのを嫌う外国投資家、またはDebt FinanceのUBTIを嫌う非課税団体(州のペンション以外)はブロッカーのケイマン法人フィーダー経由で投資するようにストラクチャーされている。パラレルファンドだ。

源泉税はケイマンフィーダーの敵

Trading ExceptionとかでUSTOBがないっていう前提で、その際、唯一の米国税金リークになるのが配当に対する源泉税。当然、ケイマンとアメリカには条約がないから放っておくと30%の源泉税だ。ファンドの投資戦略によってこの点は痛かったり、痛くも痒くもなかったりするけど、何年か前までこの点を気にする投資戦略を持つファンドや米国外投資家は、Notional Principal契約を利用することで実質配当相当の金額を米国外源泉所得として受け取ることで非課税として手当してきた。だけど、配当見合いのデリバティブ所得は実質配当と同じなんだから、源泉税対象っていう法律が導入されてあからさまなトータルスワップみたいな迂回策は機能しなくなってしまった。この法律自体、Cascade効果その他、結構奥深いもので有効となるタイミングは一部遅れてるけどね。Security LendingとかREPOとかも含めてエキゾチックな源泉税の話しはいつかディープに特集してみたいもの。それにしても米国のタックスは特集したいExciting(?)なトピックが多すぎて困るね。う~ん、The Beatlesが言うように一週間が8日だったりしたら1日は北欧のホテルにでも行って缶詰になってリサーチするんだけどね。何それ?

で、Notional Principal戦略に網が掛けられて30%の源泉税が痛い場合、日本のような条約国の投資家は条約を適用することを考える。日米租税条約では投資家が受け取る配当は10%源泉だし、他国の多くのケースでも15%だから、30%よりマシ。そんな理由でケイマンフィーダーを日本法令の視点から見てパススルー(FTE)になるケイマンLPSにしたり、Reverse Hybridを利用することになる訳だ。

利子の源泉税は?

で、配当の話しはよく聞くけど、利子所得の源泉はどうなっちゃうの、っていう点だけど、これは条約ではなく米国内法で源泉が免除されるのが一般的。ポートフォリオ利子免除規定だ。いくつか要件があるけど、ヘッジファンド系の債券投資だったらケイマンフィーダーの法人がW-8を債務者に提出する、またはその下にケイマンパススルーのマスターファンドが存在する場合には、そこ経由で適切なW-8を出せば大概において問題ない。

ポートフォリオ利子免除は銀行が銀行業として融資するケース、また、銀行でなくても10%の資本関係にある関係者からの利子所得には適用がない。この10%は現時点では、議決権(パートナーシップの場合はCapitalまたはProfits持分)だけで判断するんで、ケイマンフィーダーが債務者から10%以上の価値を持つEquityを受け取る場合には議決権ナシの優先株式を利用したりしてた。10%を最初から受け取るケースは分かり易いけど、Distressファンドとかがワークアウトを通じてEquityを受け取ったりするケースは要注意。また、ポートフォリオ利子免除はCFCは利用できないけど、Downward Attributionとかの影響で期せずしてケイマンフィーダーがCFCになっちゃったりする大ピンチ。Attributionを通じて自分で自分の株式は持てない、っていう部分をどう解釈するか、っていう点が大きいけどね。

クロスボーダー課税に外国人から米国人にDownward Attributionが適用されるようになったのは2017年の税制改正からだけど、立法趣旨はインバージョン後のPMIで米国CFCを米国傘下から外す阿漕なプラニングに網を掛ける、みたいな狭義なターゲットを念頭に置いてのものだった。だけど実際に可決された条文はDownward Attribution禁止を完全撤廃してしまったんで、そこから派生する影響や新たなプラニング機会の創出効果、は絶大なものだった。直後に元々の趣旨を反映した狭いターゲットとした法文修正案が出てたけど、米国議会は機能不全だから可決されることなく4年が過ぎた。今回の法案ではDownward Attributionにかかわる修正が提案されていて可決されれば無駄な苦労の多くが無くなるんだけどね。

ポートフォリオ利子免除条件厳格化

で、今回の下院歳入委員会の提案には、ポートフォリオ利子免除不適用の10%の判断に議決権だけでなく、価値も加味するっていうもの。これは「Disjunctive」、すなわち「Or」なので、優先株とかの議決権がないEquityでも価値が10%行ったらポートフォリオ利子免除の適用はできない、ってことになる。議会もいろいろ考える、っていうか納税者がやってること良く知ってるよね。感心。

次回はR&Dクレジットや163(J)とパートナーシップに関して。