Saturday, July 17, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (4)

前回は、60%ルール(60%以上80%未満)に抵触してExpatriated Entityという汚名を着せられるとどういうことが起こるか、っていう点に触れた。このExpatriated Entityだけど、なってしまうと、Section 7874で規定される元祖インバージョン規制以外にも次々と悪いことが起こる。今日は60%ルールに抵触すると、他にどんな副作用があるか、って言う点に関して。60%ルールの恐ろしさを理解した後に、60%テストそのもののメカニズムに移りたい。

BEATへの影響

BEATミニマム税の計算は通常課税所得にBase Erosion Benefitを加算するところから始まるけど、このBase Erosion BenefitっていうのはBase Erosion Paymentに基づいて計上される償却を含むDeductionだ。Base Erosion Paymentには税務上、COGSに計上される支払いは含まれないのが原則。以前のポスティング「COGSとSHIELD」で触れた通り、議会にCOGSを否認する法的な権限は憲法上存在しないと考えられるからだ。

ところが、この点に関してBase Erosion Paymentを規定しているBEATの法律には面白い特例がある。2017年11月10日以降に米国法人がインバージョンして60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人およびそのグローバルグループのメンバーに対する支出は仮にCOGS等のReductionに当たる金額でもBase Erosion Paymentとする、というものだ。え~、「COGSとSHIELD」で触れた通りドラッグディーラーにもCOGSは認めないといけないはずなんで、これを認めないってことはExpatriated Entityってドラッグディーラー以下の取り扱いってこと?凄い。

Transition Taxへの影響

また、今では8年間の割賦払いも半分ほど終わる頃なんで記憶が薄れてきている2017年税制改正時の国外子会社の留保所得一括課税、Transition Taxに関してもExpatriated Entityのみを対象とした厳しい追加措置が規定されている。Transition Taxは、2017年税制改正時に従来のワールドワイド課税制度からGILTI+Sub F+245Aの世界に移行するため、CFCの定義を拡大した10%以上基準のSpecified Foreign Corporation(「SFC」)の原則2017年12月末日に存在する1987年以降の留保所得に一括課税するというもの。旧法下での課税なんでそのままだと35%の法人税率になるんだけど、SFCの現預金の残高次第で8%~15.5%の範囲で低実効税率で課税されるようにできていた。で、GILTIが50%想定控除を通じて10.5%の実効税率になるのと同様に、Transition Tax計算も一旦留保所得を全額合算した後、35%掛けてターゲットの実効税率となるよう逆算して算定する「Participation Exemption」想定控除の計上を通じて低税率課税を達成していた。

で、Transition Taxの対象となる米国株主が2017年税制改正が可決した2017年12月22日から10年以内に60%ルールでExpatriated Entityになると、Expatriated Entityになった課税年度にもともとのTransition Tax計算時に適用したParticipation Exemption想定控除に35%掛けた金額が追加法人税として課せられ、さらに当法人税には税額控除が認められないという懲罰的に規定が設けられている。Participation Exemption想定控除に35%を掛けた金額をもともとのTransition Taxに加算すると、留保所得が計35%の実効税率で課税される結果となる。10年間の縛りだから、2027年12月21日までにインバージョンしてExpatriated Entityになるケースが対象。時は経つのは早いからもうチョッとの我慢?

適格配当除外

そしてもうひとつ、個人が法人から受け取る配当は大概においてキャピタルゲイン優遇税率で課税される。Qualified Dividend Income(「QDI」)規定だ。このQDI、外国法人から受け取る配当ばかりでなく、条約締結国の米国外法人からの配当も含まれるんだけど、2017年の税制改正が可決された2017年12月22日の翌日以降に60%ルールでExpatriated Entityになる場合、インバージョンを実施する相手となる米国外法人から受け取る配当はQDI非適格になってしまう。

ということで、なかなか奥が深いけど、次回はいよいよ60%テストのメカニズムに関して。