Friday, July 9, 2021

バイデン政権「グリーンブック」で増税案詳細公表(5) インバージョン (3)

前回は、初期「Naked」インバージョンに対抗するため、株主レベルの課税を規定したHelen of Troy Regulationsが制定された経緯等に触れた。その後、インバージョンすると企業価値が増大するんで、株主に課税する位ではインバージョン抑止効果はないことが判明する。マーケットは正直だよね。また、株主課税を規定しても、株主グループの中には課税関係を気にしないタイプ、例えばTax-Exempt、パススルーのファンド、いずれにしても換金して課税される覚悟のArbitrager、とかも多い。さらにキャピタルゲイン税率が低くなってからは、通常の個人株主のキャピタルゲイン課税に対する抵抗も低下傾向にあったといえる。

この点はインバージョンに限らず、2000年代前半からのM&A一般に見られる面白い傾向で、2003年以降、上場企業のM&A時に敢えて課税取引としてストラクチャーするケースが多くなったように感じる。しかも買収対価が全額現金だったら課税でも当然だけど、Reverse Sub Mergerで対価の70%が株式でストラクチャーされてたりするのを見るとビックリ。80%だったら非課税なのに。もちろん80%Equityでも現金Boot部分はGainがあれば課税だけど、70%EquityだったらEquity部分も含めて全額課税だからね。課税取引にすると確かに株式の簿価はステップアップするけど、株主に税金払わせてステップアップさせるかな、って不思議。もちろん多くの株主が含み損を抱えていると予想される場合には議決権のない株式とかを利用して敢えて課税取引にするようなストラクチャーも考えられる。金融危機の際に見られたパターン。含み損をトリガーさせる作戦は異常事態が発生しているケースに限定されるんで、一般的な観測としてはマーケットにおける株主レベルの譲渡益課税に対する許容度はどんどん高くなってきたって言えるのは確か。ここに来てバイデン政権は連邦だけでキャピタルゲイン43.4%(オバマケア付加税込)に増税する提案をしてるけど、そんなことなったらディール・ストラクチャーへのインパクトは大きい。2003年以降20年弱続いたトレンドはリバースする可能性大だ。マーケットが税率とか、特別な税率に適格となる所得のタイプの変更に敏感に反応する点はキャピタルマーケットの先進性を物語っている。

インバージョンに関しては、株主課税だけでは上場企業のインバージョンに歯止めが効かないという経験から、2004年に法人レベルの課税強化を規定したSection 7874が制定される。ブッシュ政権のAJCAだ。今日ではインバージョン規制法というとまずはSection 7874を思い浮かべるケースがが多い。ちなみにグリーンブックでバイデン政権が強化しようとしているのもSection 7874だ。

60%ルール

Section 7874は、インバージョン企業(「Expatriated Entity」)の課税所得はインバージョンから10年間を含む課税年度において、「インバージョン譲渡益」額を下回ることは認められない、という規定で始まる。この規定は後述する持分テストが60%~80%となる場合に適用される。

ここで言う10年間は細かく言うと、Expatriated Entityの米国資産が初めて米国外に移管されたと取り扱われる日の翌日からカウントされ、資産移管が終了した日から10年後に終わる。で、しかもその判定で決まる10年+の期間を一日でも含む課税年度はインバージョン規制に引っ掛かるという仕組み。全資産が一発で移管される場合には期間の決定は比較的分かり易いけどね。

で、インバージョン譲渡益っていうのは、Expatriated Entityによる株式その他の資産(棚卸資産除く)を米国外関連者へ譲渡して発生する譲渡益およびライセンス所得を意味する。米国外関連者は50%超の直接・間接の資本関係にある者、また米国移転価格税制で関連者となる者、とされる。米国の移転価格税制上の関連者は必ずも資本関係だけで決定されないのはみんなも知っているよね。特にActing in Concertとかのケース。

インバージョン譲渡益に対する課税強化は、インバージョンの話しの冒頭に触れたインバージョンした後にCFCその他の資産を米国傘下から外すPMIに網を掛けようとするもので、これらの所得には繰越欠損金や同じ課税年度に生じる他の損失との相殺が認められない。また、インバージョン取引自体が資産譲渡を通じて行われる場合には、その譲渡益そのものがインバージョン譲渡益と取り扱われる。さらにインバージョン譲渡益に対する課税から生じる法人税には税額控除は認められない。例外は外国税額控除なんだけど、インバージョン譲渡益は米国内源泉所得と取り扱うとしているので枠がない。

例えば、米国企業Xが株式交換を通じて米国外企業Yに買収され、Xの旧株主が買収後Yの株式の60%以上80%未満を所有するとする。その後のPMIでX傘下にあるCFCの一社FSがYにIPを譲渡して100の譲渡益を認識して、FS所在国で20の法人税を支払ったとする。米国内外の簿価の差異や為替その他の実務的な問題はここでは一旦全て無視するとして、FSが認識する譲渡益80がSub FになってXはCFC課税に基づき80を合算するものとする。FTCを取ろうとXは80のSub Fにみなし配当グロスアップ(Section 78)の20を加算して合計100の合算が生じることになる。ここまでは普通の税法の話しと同じ。

で、インバージョン規制のSection 7874的に考えると、Expatriated EntityはX。その後の取引で実際に譲渡益を認識するのはFSだけど、FSが米国外関連者Yに対する資産譲渡から認識する譲渡益がXの手でSub F合算課税になるので、Expatriated Entityが認識するインバージョン譲渡益となり、グロスアップ20を含む100がインバージョン譲渡益と取り扱われる。結果としてXはNOLとか税額控除で100に対する課税を減額することができない。もちろんだけど、Xが直接FS株式をYに譲渡するケースも同様。

なかなか痛いところを突いてるし、多国籍企業の行動パターンを観察した上で良く考えられた規定だ。次回はどんな時に米国法人がExpatriated Entity扱いされるか、っていう話しに移りたい。