Wednesday, June 6, 2007

Private Equity Fundsが享受する税務上の恩典

クライスラーAGが投資ファンド(Private Equity Funds)のひとつであるCerberusに買収されることになったのをきっかけに、Private Equity Fundsのパワーに再び注目が集まっている。クライスラーAGの買収はアメリカのBIG3自動車会社のひとつという、アメリカの魂のような企業が関与しているだけに「象徴的」に注目を集めている感があるが、Private Equity Fundsの勃興は今日に始まったことではない。

全てのPrivate Equity FundsがLBOで企業買収をする訳ではないが、Private Equity Fundsを語る上で1980年代のM&Aブームで時代の寵児となった「KKR」とジャンクボンドの帝王(なぜか必ずこの形容が使われる)Michael Milken率いる「Drexel」を欠かすことはできない。KKRは「借金」をして企業を買収するというLBO手法を極めた1980年代のM&Aブームの元祖であることは周知の通りである。KKRは自己の元手は最小限とし、金融機関、保険会社等からの借り入れ、ペンションファンドからの投資、そしてDrexelのような証券会社が手当てするジャンクボンドの発行により資金を集めて買収の原資とする。買収した企業のオペレーションは徹底的にコストカット、効率化を進め、借金返済を進めると同時に企業価値を高め、最終的には第三者に企業を売却して巨額の利益を得るというのが基本的なLBOの構図である。ポイントはKKR自身は自分の懐を痛めずに潜在的に大きな利益を見込むことができるという点(そして現実に大きな利益を得てきた点)である。日本的な感覚で言うと「米国=借金」という構図は米国古来からのものであろうと考えがちであるが、企業経営に関して言えば借金を良し、むしろ好ましいとする風潮は、1980年代のLBOを通じて形成されたと考えるべきであろう。

借金をして投資をすれば金利コストを差し引いた後でも、元手が少なくて済む分「Return on Equity」が上昇する。この単純な仕組みに加えて、KKRのようなLBO手法を成功に導いた大きな要因のひとつは借金することにより発生する「税務上の恩典」であろう。

この借金の効用に関しては、僕が英国の公認会計士試験を受けていたその昔に、Financial Managementという科目で紹介されていた「Modigliani-Miller Theorem(MM理論)」を思い出す。MM理論自体は古くからあり、当時はそんなこと言っても実社会で機能するのか疑問に感じた記憶があるが、LBO手法はまさしくMM理論の借金の効用を最大限に利用しているものである。現実には借入の比率が高くなり過ぎて買収後の企業が立ち行かなくなり破産に追い込まれるなど、1980年代後半から1990年に掛けては逆風も吹いた。その教訓から今日のLBOは一般に以前よりも借入比率が低く、1980年代に見られたものよりも成長重視の健全なものが多い。一般株主に財務体質、四半期毎の収益性を精査されている上場企業と比べてPrivate Equity Fundsに取得され未上場となった企業は自由に借入を増やせる、大胆な策を講じることができるというメリットがある。

借金の税務上の効用というのは基本的に「支払利息を損金算入」できるということである。Equityに対するReturnである配当は損金算入できないため「税引後」の利益から支払われるが、利息は税引前だ。これにより借金をすればする程、買収企業に対してより高い取得価格を提示することができるというおかしな結果となる。このような過度の借金の効用に対して制限を加えるため、米国議会は1990年代に税法を一部改正等して対応してきたが借金パワーを押さえつけるには至っていないようだ。制限の内容、特に日本企業に関連の深い「Earnings Stripping Rule」に関してはそのうち別のポスティングで触れたいと思う。

借金を利用して買収した企業からのReturnを最大限化した後にもPrivate Equity Fundsの税務上の恩典は続く。Private Equity Fundsの多くが複雑に重なるLP、LLCというパススルー形態を取ることから、事業主体レベルでの課税がないに近い。さらにその先Private Equity Fundsのパートナーに課せられるタックスは、買収した企業の価値が上がり、その他の果実がキャピタルゲインとなることから、15%という優遇税率にて算定されることが多い。買収企業のマネージメント代として付与される「Carried Interest」と呼ばれる報酬に対してキャピタルゲインの取り扱いが適用されているのもかなり有利であろう。パススルーとしてキャピタルゲインを受け取る個人のパートナーは優遇税率である15%でタックスを支払えばいいからだ。税務上の法人が受け取るキャピタルゲインには優遇税率が規定されていないことから、Private Equity Fundsが法人として課税されていたらその時点でキャピタルゲインにも35%課税されていたことになる。

これら諸々のタックス戦略を駆使することのインパクトは相当に大きい。Private Equity Fundsの税金コストは公開されていないケースも多いが、驚く程低い実効税率を実現していると言われている(以前にFinancial Times紙がブラックストーンの税率は2%にも満たないと報道していた)。パートナーレベルでの課税を加味したとしても、投資家が通常の株式会社を通じて得られる税引後のReturnとは比べものにならない程有利な運用となる。言うまでもないが、これらの戦略は完全に「合法」なものであり、適用に何ら後ろめたい部分はない。

最近、Private Equity Funds自体(Private Equity Fundsが投資する企業ではなく)が上場を検討するようなケースがある。BlackstoneというPrivate Equity Fundsが上場を計画しており、SECに対するファイリングによると「Master Limited Partnership(MLP)」という形態が検討されているそうだ。巨大化に伴い様々な批判を受けるような局面が多い今日この頃、そのような税務戦略が最終的にどのように受け入れられるか極めて興味深い。MLPの効用、制限等に関してはまた別の機会に触れたい。