Saturday, June 23, 2007

ブラックストーン上場完了と税法の行方

*ブラックストーン上場

6月22日に予定より早く行われたブラックストーンの上場は一応成功に終わったようだ。ロイターの報道によると上場価格に基づく資金調達額はナント史上8位の41億3千万ドル(日本円で5千億弱)となった。初日に株価は13%上昇したのでパフォーマンスはよかったと言える。

6月15日のポスティングで触れた通り、ブラックストーンのパススルーとしての上場には税法改正という切迫したリスクがある。このリスクがなければパフォーマンスは更によかったであろう。ブラックストーンの上場が成功裏に終わったことから、次は「宿命のライバル」であるKKRが上場に名乗りを上げるのではないかという観測がある。今後上場を果たそうとするPrivate Equity Fundsまたはヘッジファンドに関して、先のブラックストーン法案がもし法律化されると、上場初日からPTPがパススルーとならず税務上のコストがかなり高くなることもあり、他のPrivate Equity Fundsがどのような戦略に出るかは必ずしも明確ではない。

*パススルーでの課税

ブラックストーンのPTP持分を取得した投資家の多くはパススルーの課税関係を本当に理解して投資していると信じているが、課税関係が通常の株式投資とは大きく異なるため、後でビックリというようなケースも出てくるであろう。まず、配当に対する課税と異なり、必ずしも現金の分配がなくてもPTP側で所得があればその配賦額が課税対象となる。したがって、課税所得はあっても現金がないような状況も十分に推定され、税金の支払い目的で別の原資から資金の充当が必要となることがある。

また、配当に関して発行される「Form 1099」と異なり、PTPからのパススルーは「Form K-1」で報告されてくる。課税年度の翌年1月末にはタイムリーに送付されてくるForm 1099とは異なり、PTPからのForm K-1が発行されるのは遅いだろう。K-1発行期限は4月15日だからだ。4月15日の期限が延長されることもあり得る。ちなみにブラックストーンは投資家側で個人の申告期限延長が必要となる可能性があることを示唆している。

また、目論見書(S-1)によるとPTPは「Sec.754」に基づく選択を行うとされており、PTPのように持分の譲渡が頻繁に行われるケースでの管理は極めて煩雑である。このことからもForm K-1の作成には時間が掛かるのが当然である。

*ブラックストーン法案その後

6月15日のポスティングで解説したブラックストーン法案に関してはその後いろいろな進展がある。法案に規定されているフォートレスとブラックストーンに対する5年間の「グランドファーザー規定(過渡期間条項)」は「気前が良過ぎる」のではないかという意見があり、5年間が短縮される可能性も出てきている。

また、Private Equity Fundsをターゲットとした別の税法改正に「Carried Interest」に対するキャピタルゲイン扱いを廃止して通常所得として課税しようというものがある。これはPTPばかりでなく、全てのPrivate Equity Fundsに適用されるため、その意味でPTPの法人課税よりもインパクトが強い。案の定、この点に係る法案も出てきており、Private Equity Fundsに対する風当たりは強い。

ここ数ヶ月の急激な法改正案は、ブラックストーンの上場に係る開示資料でPrivate Equity Fundsおよびそのパートナーたちが巨額の富を得ていることが白日の下に曝されたという点に影響を受けていると見るのが自然であり、その意味で今回の上場は資金調達としては成功裏に終わっているが、もっと根本的な問題を提起することとなった。

ブラックストーンの上場を巡っては他にも、中国が3%出資している点から「国家安全保障」面からの問題点、投資家に不当なリスクを負わせることとなるとして上場の延期、などいろいろな形で波紋を呼んだ。

*「Carried Interest」に対するキャピタルゲイン課税

以前からのポスティングで何回か簡単に触れているが、「Carried Interest」がキャピタルゲイン扱いされている点に関しては以前から疑問の声がある。また、余り多く取り上げられることはないが、「Carried Interest」を受け取った時点で全く課税されないという点も、「Carried Interest」に対する特別な恩典だとして問題視する向きもある。

メディアの報道だけを読んでいると「Carried Interest」の取り扱いは金持ち優遇の最たるものであるかのように感じられるかもしれないが、税法的にはこれらの恩典が果たして「Carried Interest」だけに認められている特別なものなのか、それとも通常の税法の適用範囲内と考えるべきなのかの検討は決して一筋縄ではいかない。

また、「Carried Interest」に対する税法の変更はPrivate Equity Fundsとかヘッジファンドのみに適用されるのではなく、古くから「Carried Interest」という商習慣がある資源関係、不動産取引にも適用される。また、ベンチャーキャピタル、エンジェル等にも適用されることになり、熟慮を欠いた税法改正は新企業の育成の妨げになるのではという懸念もある。

「Carried Interest」の取り扱いを税法的に検討する場合にはパートナーシップに対する持分が「キャピタル」と「プロフィット」に大別されるところから始めなくてはいけない。この点は長くなるので次回のポスティングでもう少し詳しく触れたい。