Monday, December 23, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制 (3) 「予算調整法2回どう使い分ける?(2)」

前回、下院・上院案のメリット・デメリットを比較検討する勢いで始めたけど、South DakotaとかFred Korematsuの話しになってしまったんで今日こそ。

下院・上院案のプロコン

下院案の一発巨大パッケージのメリットは前回のポスティングで触れた下院の議席数が僅差にある点の懸念を克服し易いと考えられる点。例えばもし国家財政責任に重点を置くいわゆるDeficit Hawkの共和党下院議員が減税に腰が引けてる場合、同じ法案に国境警備が盛り込まれてないと賛成意欲が削がれるリスクがある。それなんで全てひとつのパッケージ化しておくのが安全と言う理論。前々回触れた通り、下院の議席差異は僅少っていうリスクは十分に加味する必要がある。また同じようなポイントだけど、4月のフロリダ特別選挙まで一議席差が続くとすると、その間に争点が少ないとは言え、第一弾の国境警備法案を可決することができるのか、っていう不安もチラつく。

上院と共にチーム・トランプは下院がこんな懸念を持つこと自体を煙たがってる様子がある。税制改正にはある程度時間が掛かる。米国市民が願っている国境警備に関して第一弾で素早く対処するのは当然という感覚。また税法案のドラフトは複雑で議会と財務省との連携が重要だけどScott Bessentは早期に承認を得られると仮定しても、省内の税務担当も稼働している必要がありこの点でも時間を要する。

さらにチームトランプには第二弾の可決は下院が懸念するほど困難ではないだろう、という読みもある。国防長官候補のHegsethが息を吹き返してることからも共和党議員に対するトランプの影響力は絶大で、増してや選挙公約の減税に反対票を投じるような者は次回のPrimary(予備選)も考えるといないという強気の読みだ。

陸軍・海軍フットボール観戦首脳会談

そんな中、年末恒例の陸軍・海軍フットボール(Army-Navy game)が12月14日メリーランド州ランドーバー で開催された。Army-Navy gameは1890年から続く陸軍士官学校(West Point)と海軍士官学校(Naval Academy)が対決する由緒あるカレッジフットボール。勝者には「Commander-in-Chief's Trophy」が与えられるだけに歴代の大統領(Commander-in-Chief)が観戦することが多い。今年のゲームは現大統領は既に存在感がなくなってるせいかどうか分からないけど、バイデンは姿を見せず(2021年の観戦が最後)、今年は米国内外で既に大統領かのようなプレゼンスになっているトランプが観戦した。トランプと共に登場したのは新政権リーダーWho’s Who。VPのVance、両院リーダーのJohnson、Thune(South Dakota覚えてる?)、そしてどちらかと言うと上院での承認プロセスで精査が厳しそうなHegseth(国防長官)、Gabbard(国家情報長官)、Patel(FBI長官)の3名、DOGEのMusk、Ramaswamy両人、DeSantis(フロリダ州知事)、Chief of StaffのSusie Wilesその他。

で、スイートで観戦しながら予算調整法のアプローチに関してトランプ、下院議長Johnson、上院Majority Leader(2025年から)のThuneの「Big 3」による首脳会談が行われた。JohnsonもThuneも早期に方向性を決めてしまいたい、また最終調整・決断はトランプにしかできない点で意見は一致。報道によると上院ThuneがTwo-Trackを押したのに対して、下院Johnsonはチームトランプが上院案を好んでいることを知っているので必ずしも下院の一発案を押すのではなく、下院歳入委員長のJason Smith を代表とする共和党議員の2回に分けてしまって党内調整が難航する懸念をトランプに十分に伝え、その上で最終決定された戦略には100%従うという出方をしたそうだ。

結局どうする?

結局のところ究極の仲裁人はトランプということで判断はトランプに委ねられたようだけど、チームトランプはDeputy Chief of StaffのStephen Miller等が下院議員と密に連絡を取り調整をしている。その甲斐があってか、下院共和党派閥の中でもDeficit Hawkで硬派のFreedom CaucusがTwo-Trackを公認する旨の書簡を送付するに至っている。ということはほぼTwo-Trackに決まりそうな感じだけど、下院共和党議員にはトランプから直接最終判断を聞きたいという希望があるようだ。一応、方向性が決まれば全員一丸になる用意はできているということらしい。

Two-Trackのもう一つのアキレス腱

税制改正が後半にもつれ込むもう一つのリスクは2026年の中間選挙への影響。ただでさえ大統領が属する党の下院は中間選挙で歴史的に不利な立場にあるけど、税制改正が遅れてその効果を2025年中に有権者が肌で感じることができないと減税が中間選挙の強みっていうかセールスポイントになり難い。2017年のTCJA可決が12月22日までずれ込んだため、2018年の中間選挙は共和党が大きく議席を失ってる。1982年のレーガン政権もそうだ。The Economic Recovery Tax Act of 1981 (ERTA)の可決は1981年8月後半だったけど、1982年の下院で同じく結構な議席を失ってる。トランプ政権が目指す地殻変動的な連邦政府の無駄削減や国境警備強化を4年間継続して徹底するには2026年の中間選挙で下院の多数を死守する必要があり、そのためには2024年早期に税制改正や規制緩和を達成し、有権者がその恩典を肌で感じることができる期間を設けるっていうタイムラインが求められる。大恐慌後の1934年のFDR政権下の下院・上院多数維持みたいな状況が理想だ。

このタイムラインはかなりタイトだ。Two-Trackで2回目により複雑な税制改正を上院が主張するからには、税制改正および規制緩和を2025年の夏、願わくば独立記念日の7月4日までに税制改正を達成するコミットメントがあるかどうかが一つのキー。このコミットメントがあやふやな状況だと下院の言う通り一発で対処してしまう方がいい。このタイムラインを達成するには5月には審議が開始され、6月には両院委員で法案のすり合わせをする必要がある。上述の通り、2つの予算調整法は並行して審議可能だし、また2024年を通して「もしTrifectaになったら」っていうシナリオで予算調整法を想定した税制改正法案の基となる文言を両院で検討していたことから、もしかしたら可能なタイムラインかもしれないけど、それでもかなりタイトなスケジュールだ。

第二弾の早期達成は可能か

だったら下院が言う通り一発で税制改正も含む巨大パッケージにしたらいいじゃん、って思うかもしれないけど、税制改正はより複雑なんで、多数の市民が望む国境警備予算の法案可決が遅れる方のリスクも加味しないといけない。したがって、どうしてもチームトランプの希望としてはまず100日以内に、米国市民の信任を得ている国境警備問題に即対処し、次の巨大法案で税制改正っていうのが落としどころとなる。しつこいかもしれないけど、Two-Trackの場合も、第二弾の税制改正審議は国境警備法案可決を待つ必要はなく、国境警備は下院司法委員会、税制改正は下院歳入委員会が中心にDual Trackで法案をまとめないと時間的に間に合わないだろう。

さらに2025年になったらグラスルーツを総動員して民主党議員にもプレッシャーを掛けて僅差を補うような努力も必要。1986年のレーガン政権による税制改革(今のInternal Revenue Codeは1986年版が元)時には多くの有権者が民主党議員に賛成に回るよう働き掛け、下院を292-136で可決させている。Joint Committeeに行く前の上院バージョンは97対3だったっていうから凄い。もしチップが非課税になる規定が入るような場合、ネバダ州では民主党議員でも反対票は投じ難いだろう。

下院と上院の制度差異

でもそんなことポリティクスに素人の僕が言ってるくらいだったら当然、海千山千の両院議員は百も承知だろうから、そういう風にTwo-Trackで同時審議したらいいじゃん、って思うかもしれないけど、ここが下院と上院の温度差が表面化するところ。2026年の中間選挙では、下院は全議席入れ替わるけど上院は3分の1のみ。すなわち、下院を規定する連邦憲法第I条のsection 2に基づき、下院435全議席は2年が任期。これは下院議員が一般PeopleとOut-of-Touchにならないように、2年毎に定期的にチェックを受けるという連邦憲法の知恵。一方、上院を規定する連邦憲法第I条のsection 3では上院議員の任期は6年。2年毎に行われる選挙では約3分の1づつ入れ替わることになる。Hostile Takeoverの対抗策「Classified Board(3分の1づつ選任することで一気に過半数取られない仕組み)」に似てる。Poison Pillと比較してもClassified Boardはより有効な敵対買収対抗策だ。実際にはHostile Takeoverって今日日の米国ではほとんどないけどね。アクティビストファンドのプレッシャーは敵対買収とは違うからね。

で、上院の6年に亘る時間差選挙だけど、これは急激な民衆の意思変化やそれに伴う議会勢力の短期的変動を避ける目的がある。下院の短期的な民衆の意思の反映と安定性のある上院をかみ合わせた二院制の立法府とすることで民衆の意思は反映しつつも長期的な安定性も確保するっていう制度だ。1788年当時の創立者が継続可能性の高い民主主義にしようとしている思慮深さが反映されている。何と言っても現在機能している憲法としては世界最古だからね。前から頻繁に警鐘を鳴らしてるけど、立派な憲法があっても守らなくなったら終わり。独裁政権や全体主義の国でももしかしたら一見まともな憲法があるかもしれない。

本当の民主主義の国との違いは守るか守らないか。また守らないといけない制度設計になっているかだ。その基本は言論の自由と三権分立にあるだろう。1788年から240年近く連邦憲法が機能し続けているのは、米国における「法の支配」に対する意識が強いっていうのが一つの理由だろう。でも最近は急進派系の議員とかが、自分が気に入らない判決が出たりすると最高裁は不法だ、とか言い出したりするケースがあるけどとても危険なレトリック。一般の人がランダムにそういったことを言うのは仕方がないけど、議員は連邦憲法第VI条に基づき「連邦憲法に忠実であり、憲法を守る」って就任宣言してるんだからその宣誓に忠実に行動しないとおかしい。実際の宣誓文言は連邦法、5 USC section 3331に規定されている。憲法は個人の自由、財産、命を守るためにあるんだから米国も気を付けないとね。

という制度的な背景で中間選挙に対する緊迫度は下院100%とすると上院は30%チョッとっていう感じ。この差が第二弾の税制改正のタイムラインに対する感覚の差になって現れないよう規律を持って対処できるんだったらTwo-TrackでもOKかも。

まとめ

いろいろと書いたんで今日のテーマを簡単にまとめておくと、2回に分けるアプローチに対する下院の懸念はRealなもの。だけどチームトランプがTwo-Trackを好む以上、上院のアプローチに傾きつつある今日この頃。下院と上院で中間選挙に対する温度差があるのは制度上仕方がないけど、Two-Trackとなる場合、第二弾とは言え2025年夏までにはいずれにしても対処しないと2026年中間選挙に弊害が出るので、上院がそれにコミットメントできるかどうかがキーと言える。

Sunday, December 22, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制 (2)「予算調整法2回どう使い分ける?」

前回はチョッと久しぶりなポスティングだったけど、一瞬Zeppelinで危険な局面があったとは言えVan HalenとかThe Beatles、増してやHendrixなどで大きく脱線することなく乗り切り、11月の米国選挙結果そして今後の米国税制審議動向を探り始めた。今回も急に極寒になったNYCでクリスマスのフロリダ行きを目標にフォーカスして頑張ります。 前回のポスティングでは、共和党がTrifectaを達成したとは言え、同床異夢(?)みたいな状況もあり得て、両院のダイナミクス的に2回の予算調整法の活用法に関して既に意見が割れてるって点をプレリュード的に話し始めた。2回の予算調整法をどう活用するべきか巡る駆け引きは2025年の審議を見守る際のキーポイントのひとつなんで今日はもう少し深掘りしてみたい。

予算調整法アプローチ下院・上院案

2回の予算調整法の活用法に関して浮上している下院案と上院案の異なる2つのアプローチの大枠は前回のポスティングで既に触れた通り。軽くおさらいしておくと、下院案は第一弾、っていうか合体一発メガ弾?で国境警備、エネルギー政策、国防、そしてTCJAクリフ対策やトランプ提案の新税制の全てを盛り込んだクリスマスツリー的な巨大パッケージを可決っていうもの。一方の上院案は第一弾予算調整法では争点が少ない国境警備、場合によってはこれにプラスして国防やエナジー関係を盛り込み、こちらは政権発足後直ぐに可決。その後、より複雑な税制改正を第二弾で可決というもの。上院案の第一弾は「Fully Offset」すなわち他の歳出削減等でネット歳出を伴わない法案を想定している。

下院・上院の重鎮プレーヤー

下院案は議長のMike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise、下院歳入委員会のJason Smithらの一派が提言していて、上院案は上院Majority LeaderとなるJohn Thune、上院財政委員会のMike Crapoらによるものっていう点も前回触れた。

上院のJohn Thuneは従来から税制改正には深い関与がある人物。2011年から上院財政委員会のメンバーでTCJAの2017年可決にRyan、Brady、McConnell、Hatchの「Big 4」と同等に尽力した功績を持つ。一貫して増税に反対し個人や事業主の税負担軽減による経済成長を促進する政策を支持してきた。South Dakotaの議員なので農場や牧場事業継承の足かせとなるEstate Taxにも常に反対を表明している。

ちなみにSouth Dakotaと言えば、現知事のKristi NoemがHomeland Security長官に推薦されている。コロナの頃、NYとかCAは州政府・地元の官僚による個人行動の規制が激しかったんで個人の自由が一番尊重されていたSouth Dakotaで夏のひと時を過ごしたりしたけど同じ国でも州政府によって対処が大きく異なり、米国は州が国家主権同様っていうのは頭では以前から理解してたけど、コロナ禍は期せずしてそんな米国の実態を体感する機会になった。South DakotaのNoemはLock-Down系の強制措置は一切取らず、情報提供やその他の対応に限定し、後は州民の自由・責任としていた。他にもArkansas、Iowa、Nebraska、近所のWyomingやNorth DakotaもSouth Dakota程ではないけどオフィシャルなLock-Downオーダーは出てなかったはず。2020年夏のWyomingからSouth Dakotaに向かう途中のハイウェイパトロールの話しは以前「2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (6)」で書いたから見てみてね。これらの州と並びFlorida、Georgia、Texasも比較的緩やかな規制で、コロナ対策と個人や事業主の自由のバランスを取る政策を取っていた。そのため、さすがに冬のSouth Dakotaは寒いんでNYCからはFlorida、CAからはTexasに移住する人やビジネスは多かった。

「クライシス」時に政府やポリティシャンの本性が出るよね。第二次世界大戦時の日系人収用もその一つだね。どう考えても差別で憲法違反だけど最高裁は6対3で容認(「Korematsu v. United States, 323 U.S. 214 (1944)」)。日本人として米国と言う国を考える際に必読の判例(前回から必読が多過ぎ?)。え~読んだことないって?その場合は3名の判事(Murphy、Jackson、Roberts)の反対意見から読むのがいいかも。JacksonやRobertsっていうと今の最高裁にも同姓の判事がいるけど関係なくて1944年当時の判事のことだからね。ちなみにKorematsuで強い反対意見を書いたFrank Murphyは当時の大統領、民主党のFDRに任命されてるけど、日系人収用はそのFDRが大統領令(Executive Order 9066)で決定している。自分を任命してくれた大統領の政策にもかかわらず強烈な反対意見を表明している点、現最高裁判事の一人Amy Coney Barrettが未だTrumpに判事を任命される前にHillsdale Collegeで講演した際、最高裁判事は憲法にのみ忠実でなくてはいけないとし、自分が誰に任命されたとしても判断には一切影響は受けず、ポリティクスに左右されない判事の鏡としてMurphyの名を挙げている。ちなみにKorematsu判決は何の罪もない多くの日系人個人(米国市民)の自由を奪った政策を合憲・合法としたとして一般には米国史に残る誤りと認識されている。

Jason Smithと上院の確執?

で、John ThuneのSouth Dakotaでチョッと脇道に逸れたけど、実は下院歳入委員会のJason Smithと上院の間にはチョッとした不和がある。2025年のTCJAクリフを待たずに、TCJAには前倒しで自動変更された規定がいくつかある。2022年から研究開発支出が費用化の代わりに資産計上の上5年(米国外の活動は15年)償却になったり、支払利息損金算入制限のベースがEBITDAではなくEBITになっている。また100%即時償却も2023年から20%づつ減額される仕組み。これらを変更前の規定に戻すため2024年1月にJason Smithが先導し下院でAmerican Families and Workers Act of 2024(H.R. 7024)が可決され、同法案は上院の手に渡った。法案には他にも、国家主権として認知されていないために租税条約の締結ができない台湾との間に条約以外の形で実質似たような合意をみる規則も盛り込まれていた。ところが上院は法案を審議することなく放置したまま結局可決を見ないままの状態になってしまったっていう経緯。このせいかどうかは分かんないけど上院のTwo-Track案にJason Smithが一番深い懸念を示しているって言われている。

なかなかそれぞれの案のメリット・デメリットの話しに行かなくてごめん。今日は第二次世界大戦とKorematsuの話しで興奮してしまったんでここから次回。

Saturday, December 21, 2024

2024年11月米国選挙結果と米国税制

共和党Trifecta

米国選挙について最後のポスティングしたのが8月末だから、それからあっという間に3か月半の月日が経ってしまった。11月5日の選挙結果は皆さんもご存じの通り、大統領府、議会両院を共和党が制覇し「Trifecta」となった。大統領選に関してはレガシーメディアや世論調査が最後まで大接戦を報じてたけど、蓋を開けてみたら「Not even close」。選挙人ベースでトランプ312対ハリス226、全米得票数ベースでもトランプが多数、スイングステート7州全州、ブルーウォール州全州トランプが勝ち取った。

税制改正の行方

2025年TCJAクリフ対策の具体案やOECDのBEPS 2.0の運命に関しては、選挙でどちらかの党がTrifectaを達成することができるか、また両院や大統領府に関して党がSplitする場合は各府の構図がどうなるか、で大きな影響を受けるって「2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (4)」で触れた。特にどちらかの党がTrifectaを達成すると方向性が明確になるっていうことだったけど、共和党がTrifectaを実現させたので、選挙前よりも容易に今後の動向オプションを占うことができる。

2025年マイルストーン

Trifecta下で起こる税制や通商を取り巻く今後の主たるマイルストーンの第一弾は法的に新政権が発足する2025年1月20日正午。この時点で議会の関与なく大統領権限で実行できるExecutive Orderが複数公表されるだろう。Executive Orderには国境警備強化、学校教育等の社会問題と並び、通商・関税にかかわるものが含まれるって予想される。同日付けでパリ協定からの再度離脱もあり得る。

次のマイルストーンは政権発足後100日のMomentumが高い期間の議会による立法プロセス。上院は60議席に満たないんでFilibusterを回避できず、例によって多数決で法案可決ができる予算調整法を活用することになる。TCJAの多くの規定の延長、場合によってはトランプが選挙活動中に触れていたチップ、公的年金受給、残業代非課税化、国内製造に帰する所得に15%まで更なる法人税引き下げ、JDバンスのCTC拡充、等の税法改正を含む歳入・歳出にかかわる審議が行われる。予算調整法は会計年度一回のWild Cardだけど、国家会計期間が10月から始まるので実は暦年2025年に2回使える。この2回をどんな風に活用するかは見もの(後述)。予算調整法が2回使えることから3つめのマイルストーンは100日の速攻モーメンタム後の第二弾予算調整法審議・可決となる。実は2つの予算調整法は手続き的には並行して審議することができる。したがって第二弾が必ずしも2025年末にずれ込むとは限らない。2026年になると中間選挙が視野に入ってきて大きな法案の審議や可決がタイトになるんで2025年早めに可決させないとただでさえ難しい党内調整がさらに難航するリスクが高まる。

僅少な下院議席差異

下院では共和党が多数を押さえているとは言え、僅少差異なので今後の法案審議時に共和党下院議員が一枚岩になれるかどうかがキー。選挙結果だけ見ると220対215だけど、Defense Secretary候補だったMatt Gaetz(R-Fla)が下院から辞任、キャンパスでのユダヤ人学生差別問題でハーバードやUPennの学長を辞任に追い込んで有名になったElise Stefanik(R-NY)の国連大使就任、Michael Waltz(R-Fla)のNational Security Advisor就任、で3人の欠員となる。既に欠員になってるMatt Gaetzの議席にかかわるフロリダ州特別選挙が実施される4月まではナンと217対215だ。「二議席差か…」って思うかもしてないけど、1人でも寝返ると得票数としては216対216とかになり兼ねず万事休す。法案可決には多数決が必要なことから、ボトムライン全員一致団結が必要になる。

う~ん、下院共和党にできるかな~。共和党下院は党内コンセンサスを取り付けるのが困難っていうのは歴史が証明している。この辺りの熾烈なダイナミクスを描写したノンフィクションに2011年~15年まで下院議長を務めたJohn Boehner(R-OH)の回想録「On the House」っていう本があるけど、米国ポリティクスに興味ある方は必読。ハードロックの天才ドラムに興味ある方はJohn BonhamのMoby Dick必聴(関係ないね…。ここでLed Zeppelinの話しになると長くなるんで我慢しておきます)。Boehnerの後任のPaul Ryan(R-WI)も同じように派閥調整に苦労し、2017年共和党Trifecta下でオバマケア廃案に失敗しその後辞職している。2017年当時との比較で、今回は下院議長のMike JohnsonがトランプにAll-Inなので、トランプと確執が伝えられていたPaul Ryan時代よりはスムーズではないかっていう観測もある。さらに下院共和党派閥にも、2017年は内輪もめで貴重なTrifectaを最大限活用できなかった点の反省、また米国市民の信任を得たトランプ大統領のアジェンダは実行しないといけないっていう使命感は強いだろうからトランプが明確な方向性を打ち出せば「今回こそは・・・」っていう見方もある。でも今週のContinuing Resolution (CR)劇を見も分かる通り、実際にはそんなに単純な話しじゃないんでどうなりますでしょうか。

2回の予算調整法の使い道

暦年2025年に予算調整法が2回使える点は上述の通りだけど、この2回をどんな風に活用するかは見もの。この2回の使い分けは単なるタクティクスを超越した深淵な検討となる。

現時点で大別すると下院案と上院案が異なる形で浮上している。下院筋は第一弾予算調整法に国境警備、エネルギー政策、そしてTCJAクリフ対策やトランプ提案の新税制の全てを盛り込んだクリスマスツリー的な巨大パッケージを希望している。下院議長のMike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise、下院歳入委員会のJason Smithらがこの一派。一方の上院は第一弾予算調整法では争点が少ない国境警備、場合によってはプラスで国防やエナジー関係を盛り込み、こちらは初日とはいかなくても政権発足後直ぐに可決させ、より複雑な税制改正は第二弾で満を持す感じで対処したいという意向を持つ。上院Majority LeaderとなるJohn Thune、上院財政委員会のMike Crapoらがそちらの一派だ。トランプを含む大統領府一派はどちらかというと上院案に傾いてるらしい。

また、税制改正に関しては第一弾でTCJAクリフに対処し、第二弾にトランプ選挙活動中に提案していた新税制にフォーカスっていうマイナーなプランCも報道されている。

下院と上院が希望する異なるアプローチ。どっちも一長一短だけど、その真意や最新のダイナミクスに関しては長くなるんで次のポスティングでまとめてみる。