Thursday, February 14, 2008

米国のスピンオフ(2)

2008年2月3日に「米国のスピンオフ(1)」のポスティングを書いたがその直後にタイムワーナーが傘下のAOLのネット接続事業をスピンオフする意向であるという発表をした。企業内の特定部門が企業全体の価値を落としていると経営陣が認識した場合に、問題の部門をスピンオフして将来的な再編の選択肢を増やすという戦略だ。先のモトローラ、今回のタイムワーナーの動きからも分かる通り、かなり頻繁に取られる戦略であることが分かる。

*非課税スピンオフ

スピンオフはその形態から正式には「スピンオフ」「スプリットアップ」「スプリットオフ」に区分されることは前回触れた。これらの形態が認められていることからスピンオフのために行われる株式の分配は各株主の持分比率に準じて均等に行われる必要はないことが分かる。何れの形態を選択する場合も、分割が非課税となることが極めて重要である。スピンオフが非課税とならない場合には、株主に分配される分割部門の株式は単純に配当となり、分配を受ける株主レベルで課税されることはもとより、分配をする側でも分割部門の含み益に課税されるという大惨事となるからだ。

同様にスプリットアップが非課税とならない場合には清算として課税されるし、スプリットオフの場合には株式償還の規定に基づいて課税関係が決定される。いずれのケースでも分配する法人と株主の双方で課税関係が発生することとなる。

このため、実務的にはスピンオフ等の分割を実行する際にはIRSに個別通達(Ruling)にて非課税取り扱いとなる旨の事前確認を行うケースがほとんどである。

スピンオフ等の分割を非課税とするためには多くの条件を満たす必要がある。買収系の再編と比べてスピンオフの非課税措置には税法(I.R.C.)そのものに詳細な条件が規定されている。これらの条件は複雑かつ個々の事実関係に拠るところが大きいので実際に分割をしようという場合には専門家と詳細な検討を行うこ必要があることは言うまでもないが、簡単に要点をまとめると次の通りだ。なお、以下、特別に区別が必要となるケースを除いては分割を一括してスピンオフと言及する。

*Active Trade or Business

数多い条件の方でも基幹となるのがこのActive Trade or Business (以下Active Business)である。この条件下では、スピンオフを行うDおよびSubの双方が、スピンオフ後も継続してActiveな事業を行い続ける必要がある。また、これらの事業はスピンオフから遡ること5年間D(またはDグループ)の事業であった必要がある。何が「事業」で何が「Active(経営・事業の管理)」かという点は事実関係の内容次第ではClose Callとなることもあり、相当数の判例、規則が存在する。5年間存続していたかどうかの検討には、どの活動をひとつの事業単位にまとめるかという決定が極めて重要だ。

また、スピンオフの過去5年間以内に事業が課税取引で買収されたケースではこの要件を満たすことはできない。この点に関しては既存の事業を「拡張」する目的での買収は問題ないとされているが、どのような買収が新規事業に係るもので、どのようなものが事業拡張のための買収となるのかは、事実認定の問題であり、その判断は難しいこともある。したがってIRSとの事前確認が大切だ。

Active Business条件の基本的な理由付けは、スピンオフは「納税者が本当に従事していた事業」を対象としたものでなくてはならないというものだ。本来であれば配当されるはずであった現金等の流動資産を利用して付け焼刃的に事業を取得してそれを非課税スピンオフとして分配することは認められない。5年間という条件があるため、非課税スピンオフすることを目的として現金等の流動資産・投資資産を事業と偽ることができない。

このActive Business条件をモトローラの例で考えてみる。モトローラはSECにファイルされている10K(Annual Report)によると「Mobile Devices」「Networks and Enterprise」「Connected Home Solution」と3つのセグメント事業を抱えている。このうちスピンオフが実行されるとなると対象となるのはMobile Devicesのようだ。Active Trade or Business要件を満たすためにはスピンオフされるMobile Devicesが別会社として株主に分配された後も事業として継続される必要がある。また、スピンオフされない事業、すなわち現在のモトローラにそのまま残る事業もスピンオフ後に継続される必要がある。更にこれらの事業は少なくとも過去5年間モトローラが従事していたという実績を持つ必要がある。