Saturday, February 2, 2008

マイクロソフトのヤフー買収案

つい先日モトローラが「スピンオフ」に基づく再編案を検討しているという報道があり、スピンオフに関するポスティングを書いていたら、いきなりマイクロソフトによるヤフーの買収案が報道された。スピンオフにしても買収にしても米国では珍しいことではないが、マイクロソフトのヤフー買収案は注目度が極めて高いので、スピンオフは次回として急遽マイクロソフトの買収案に関して触れる。ネット検索・広告分野でのグーグルへの対抗という今回の買収の戦略的な部分に関しては既にいろいろと報道されているので、ここではその手法、税務上の検討事項等を公になっている情報から推測してみたい。

*買収手法

最初に「敵対買収」という報道があったため、一瞬「Tender Offer」(具体的にはTender Offerの後、Merger)かと思ったが、Microsoftが公開したYahoo取締役会にあてたレターの内容、2月1日のアナリスト向けカンファレンスコールのプレーバック等の情報から、買収はMerger(合併)という形で提案されていることが分かった。Tender OfferとMergerの基本的な違いに関しては以前のポスティングでも触れたことがあるが、、Tender Offerは株主に直接株式交換、現金取得を提案するもので、買収先の取締役の承認を必要としない。一方でMergerは買収先の合意が必要となることから相手法人の取締役との交渉となる。

Tender Offerでは判断が個々の株主に委ねられるため、上場企業の全株式を取得することはできない。したがって、Tender Offerで過半数の株式を取得した後、Mergerにて100%子会社化という第二ステップが取られることも多い。過半数の株式を取得すればMergerの交渉相手となる取締役は実質買い手にコントロールされているのでMergerの障害となるものはない。

*今回のMerger提案

マイクロソフトの提案によるとMergerの対価はヤフー一株当たり「$31の現金」または「マイクロソフト株式0.9509」のいずれかということだ。マイクロソフト株式0.9509は1月31日の終値ベースで$31となる。

各株主が一旦どちらの対価を取るか選択することができるが、最終的にはMerger対価が合計ベースで50%が現金、残り50%が株式となるように調整されると読める。すなわち、仮にMergerが承認されたとして、もしYahoo株主の半数が現金が欲しいと言い、残りの半分が株式がいいと言ったとすると、それ以上の調整は必要とされない。もちろん現実には株主のピッタリ半数の者が現金、株式の対価を選択することは考えられない。その場合、もし現金を選択する株主が過半数を超えたら、全体の対価の50%を超える部分に関しては強制的に株式が支給されることになるだろう。その場合、最初から株式を希望した株主には希望通り対価全額が株式で支給されることとなる。

このMerger対価の調整に関しては、株式が欲しいという希望を持つ者が50%を超える場合にのみ調整がされるようなMerger契約もあり得る。その場合、現金を欲しがる株主が50%を超えても調整が行われないこととなるが、そのような形態は株式%が低くなっても非課税取引が認められるダブル・ダミー形態を取るケースに多く、今回のようないわゆる「Reorg」系の再編に関しては少なくとも50%の株式対価は確保されるのではないかと思われる。これらの細かい点に関しては実際のMerger契約書を見れば全てクリアになる。

*Merger形態

最終的にMergerの対価に占める株式の割合が50%とされていることから、通常の二社間合併、またはForward三角合併であれば、他の条件を満たすという前提で非課税のA型再編となる。通常、少なくとも40%の対価が株式であればA型再編(Foward)の持分継続規定は満たすことができるからだ。

非課税とならない現金買収の場合には通常Reverse三角合併という手法が用いられ、Forwardの二社間合併または三角合併は税務上のコストが高すぎて非現実的であることが多い(この点に関しては2007年12月16日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/12/blog-post.html)。しかし、今回の取引のように非課税再編となるのであればForwardでもいい。株式の対価が50%に限定されることからReverse三角合併として非課税再編とすることはできず、Forward合併となるであろう。

どのようなMergerでもそうであるが、Mergerをすると消滅法人のオフバランス、偶発債務を含む全ての負債が存続法人の負債となる。このことから、巨額のネット資産を有するマイクロソフト本体が合併の受け皿となるとは考え難い。となるとマイクロソフトがMerger Subを設立しそこにヤフーが合併されてくることになる。その場合、Merger Subが株式会社であればForward三角合併となり、LLCであれば税務上は通常の二社間Mergerと扱われる。

Forward三角合併の場合、二社間合併と比較して、若干非課税要件が厳しい部分があり、特にヤフーに不必要な資産がありそれを合併前にスピンオフするようなことがあると、三角合併の形態で非課税とすることができない。そのようなケースではLLCの利用も考えられる。

二社間にしても、三角合併にしてもForward Mergerとなる場合には非課税取引とすることが「Must」である。でないとヤフー法人レベルでGoodwillを含む事業含み益全てに課税されるという大惨事となるからだ。IT企業は資産簿価と事業価値の差異が巨額であることが多いのでこの点はとても重要である。このことから両法人の弁護士事務所による「このMergerはA型再編となる」というオピニオンがClosingの条件となることも十分に考えられる。

*株式 v 現金

A型再編(Forward三角合併を含む)となる場合でも、現金を受け取る株主はその部分が課税取引とされる。したがって、ヤフー株主がMerger対価を現金、株式のどちらを選択するかは基本的に課税取引としたいかどうかという検討となる。ゲインが出るようであれば非課税を好む株主が多いかもしれない。しかしヤフーの株価はITバブル時代には$100以上で取引されていた実績を考えると現在の株価に60%以上のプレミアムを足した$31という金額でも、キャピタルロスを認識する株主は少なくないかもしれない。その場合には、敢えて課税取引としたいと考える株主もいるだろう。

*今後の進展

現時点では未だMergerが成立した訳ではない。双方によるDue Diligence(マイクロソフトの株式が対価となるため、ヤフー側もマイクロソフトに対するDue Diligenceを行うのが一般的)、独禁法その他のRegulatory問題、を経てプロセスは今後最終化されていく。

また、上述の通り、Mergerを実現させるにはヤフーの取締役会の合意が必要となる。取締役会には株主のことを第一に考える「Fiduciary Duty」があり、他に有力なオプションがない限り$31という提案を拒否するのは簡単なことではない。どのような選択をしても株主訴訟が待ち受けている可能性が高く、M&A専門の弁護士、投資銀行が取締役会に張り付いて迅速な意思決定が行われるであろう。代替案が浮上してくる場合には、それが他の買収案なのか、単独Recapなのか、どのようなものとなるのか極めて興味深い。

マイクロソフトのレターによると合併に応じない場合には、他の手段を取るというコメントがある。これはTender Offerを含む強制的な敵対買収のことであろう。仮に最終的にヤフー取締役会がマイクロソフトと合併すると決定するにしても、代替案を提示したり、その他の戦法で買収価格を上げるというようなこともあるかもしれない。米国のM&Aがサブプライム問題でスローダウンした矢先に出現した面白い戦略的買収案だ。Private Equity等のFinancial Buyerによるバイアウトとは若干異なる見所が沢山あり、ヤフー取締役会の反応を見るのが楽しみだ。