Thursday, November 14, 2019

米国過少資本税制385条規則の「Funding規定」緩和策 (4)

前回はFunding規定の概要と、Section 385に付きまとう悲劇的な過去を踏襲するかのように、規則最終化の直後に政権が規制過剰のオバマ政権から規制緩和路線のトランプ政権に変わり、Section 385の規則を常に待ち構えている「撤回」の運命がまたしても忍び寄ったところまで触れた。

時は2017年初頭。1月に発足したばかりのトランプ政権は、さっそくオバマ政権時代に制定された過剰な規制の撤回・緩和に着手していた。2017年4月に大統領令が公布され、納税者に過度の負担を強いている、三権分立の観点から行政府として越権行為に近い、と思われる規則を特定し、対策を検討するよう財務省に命じた。その結果、複数の財務省規則が悪法と特定されるが、その中の一つにSection 385の最終規則が含まれていた。

有害認定を受け、最終規則に規定されていた「文書化要件」は早期適用可の規則草案という手法でかなり迅速に「実質」撤廃されていたが、今回の「新Funding規定」の草案と同時に公表された最終規則で「正式」に撤廃となっている。Section 385のサガは続くね。

ちなみに、最終規則の文書化要件の撤廃を受けて、関連者間の借入に係わる文書化そのものが不要になったように解されるケースがあるみたいだけど、それは違う。関連者間の借入を、米国税務上も借入と認めるかEquityとみなすか、の判断は個々の事実関係に基づく判例ベースっていう点は口酸っぱく言い過ぎて、読んでる方も「we got that」みたいな気分だとは思うけど、Section 385の財務省規則の有無とは関係なく、文書化は必要。判例ベースで、納税者による借入という主張が認められるためには、善意の債権債務者間の関係が構築され、また借入が経済的に合理的である、という2点が重要となる。前者に関して、借入と言う形式が整っている必要があり、そのためには基本的なタームを文書化しているローンドキュメントの存在はMustと言える。後者に関しては基本的には借入を実行する段階で返済・利払いにかかわるリアリスティックな可能性が存在していることを証明できる点が重要。

「そんなんだったら最終規則の文書化要件が撤廃されても意味ないじゃん・・・」って思われる方はあわてんぼうのサンタクロースだ。最終規則に規定されてた文書化要件は判例ベースから最低限必要と考えられるスコープを逸していた。特にデフォルトを明確に規定し、デフォルトが発生した場合に取るべき措置を明記し、さらに実際にデフォルトが発生した場合には文書化に基づいて取るべき措置を本当に取っている旨を同時文書化すること、とかしていた。独立企業間だったらっていうフィクションで考えるという趣旨はもちろん分かるけど、所詮は身内の貸し借りなので資産差し押さえてもしょうがないし、この点は重荷のひとつと考えられていた。さらに場合によっては未収金のようなMiscellaneousな取引に文書化が求められたり、キャッシュプーリングやキャッシュマネージメントにかかわる返済能力の同時文書化も従来の域を超えるものが求められていた。さらに「Killer」だったのは、最終規則に基づく同時文書化が存在しない場合にはその事実のみをもって借入をEquityとみなす、という規定。テクニカルにはDebt/Equity Ratioが1:9でも文書化がないと1はEquityになるし、未収金みたいな取引もEquity(苦笑)になったり、少しやり過ぎでは・・・、と思われていた。なので、最終規則の文書化要件が撤廃された意味は、これらのとてつもない困難が無くなった点にある。普通の関連者間の借入に関する基礎的な文書化は引き続き必要だ。

で、最終規則のもう一方のコア規定となる「Funding規定」だけど、こっちは近々無くなるような気配は漂わせながらも、ひっそりと(?)存続していた。2017年12月の税制改正成立前の段階では、税制改正の立法自体が不透明な状態だったので、税制改正が成立するかどうかを見極めてから、Funding規定の運命を決めるとしていた。「トランプ政権を以てしても即撤廃じゃないんだ・・・」って不思議な感覚はあったけど、まあ確かに米国MNCによるBase Erosion懸念は超Realなので、それはそれで一つの見識ではあった。

そして2017年12月に30年振り、クロスボーダー課税に関しては60年振りの全面改定となる税制改正(「TCJA」)が成立。両院共和党、ホワイトハウスも共和党という大型法案の可決に恵まれた環境を利用して電光石火のように可決されたTCJA。OECDのBEPSアクションプランが草野球に見えるくらい、メジャーリーグ級の新規定乱発。僅か数週間の立法プロセスでクロスボーダー課税100年の常識をいとも簡単に書き換えてしまった。可決から2年近くなるけど、読めば読むほどTCJAは凄い。クロスボーダー課税を裏の裏まで知り尽くした者にしかあの法律はドラフトできないだろう。TCJAの凄まじさに触発されてOECDがBEPS 2.0に着手した点は想像に難くない。GILTIとBEATっぽいピラー2はTCJAとは似て非なるものな点は次回触れたい。で、TCJAには新Section 163(j)、BEAT、Anti-Hybrid、GILTIとこれでもか、というレベルでBase Erosion対策が講じられたことから、Funding規定の必要性はなくなったように思われ、TCJAを花道(?)として全面撤廃のステージが整った。

ステージ作りは終り、全面撤廃をパフォームするアーティストの登壇を待つばかり・・・のはずだったんだけど、2019年10月31日、財務省はいきなりFunding規定に大幅な緩和措置を講じるものの、しばらくは撤廃せずに「新Funding規定」という形で様子を見ると発表する。

具体的には「新規則策定にかかわる事前通知」とでも訳したらいいだろうか、「Advance notice of proposed rulemaking」を公表し、その中で財務省はTCJA後のNew WorldでもDebtプッシュダウンを利用したBase Erosion懸念が完全に払拭された訳ではないとし、緩和こそするもののFunding規定は当面存続させる意図を表明した。う~ん。新Funding規定と来たか。さすがSection 385の最終規則はとことん見せてくれる。

事前通知は、新Funding規定下では6年間のみなし事実認定規定は撤廃すると明言している。これはグッドニュース。その代わり、関連者間の借入が邪な取引の資金に使途されているかどうかは個々の取引の事実関係に基づいて判断するとしている。え~、元々そんなことしたらIRSに勝ち目がないからみなし事実認定規定を導入したんじゃなかったっけ。更にどんな時に個々の事実関係に基づいてそのような判断に至り得るかっていう具体例として、「借入と邪な取引が同一のプラン下で実行されているようなケース」が挙げられている。それはそうだけど、当たり前過ぎて例示の価値がないし、そんな狭義な判断だったら、Funding規定はほぼ骨抜きで、実質廃案に近い。なんか、手続き的に撤回するのは面倒だけど、実質無くそうとしているような変な印象を受けてしまった。まあ、納税者の立場からすると悪い話しではないけどね。

この有難い新Funding規定だけど、現時点での早期適用は認められず、実際に今後公表される予定の草案が最終規則になった日以降に開始する課税年度から始めて適用できるそうだ。ということは、当たり前だけど、その日が来るまではテクニカルにはFull-BlownのFunding規定が適用されることになる。運悪く6年間のみなし規定でEquityになってしまった債権は、新Funding規定施行時には新基準で見直してくれるのかな。そうするとその時点でEquityがDebtにRecapされるんだろうか。借入能力やマーケット金利が異なってたら、DebtのみなしIssue Priceとかどうなっちゃんだろう。E型再編とかになっちゃったりしてね。その辺りも規則で規定されるんだろう。それにしても無くなることが分かっていて、複雑過ぎてIRSによる施行実効性に疑問があり、実務的に対応が困難な規定をしばらく適用しないといけない納税者の負担は無駄に大きい。実際にはIRSは余り気にしなさそうだけど、何かケチが付く可能性があるとしたら、会計監査の際に大手監査法人によるTax Provisionレビューとかで受ける指摘かな。

という訳でSection 385最終規則でした。米国税法の条文って9000番台まであるけど(もちろん必ずしも連番ではなく数字は飛んでるけど、要はたくさんあるってこと)、どれ一つとってもDeepで、楽しめるね(後者はちょっとおかしい?)。