Friday, May 28, 2010

かなり強力「Closing Tax Loopholes Act」(2)

前回のポスティングでは近々に何らかの形で法律化されると噂される草案「Closing Tax Loopholes Act」の内容が実に手強いものである点に触れた。中でも外国税額控除の濫用に対する辛口の対抗策が盛り沢山となっており、今回のポスティングでは外国税額控除に関して触れてみたい。

*High Tax Poolのプラニングに果たす役割

High Tax Poolが国際課税プラニングにおいて果たす重要な役割に関してはオバマ政権の2010年予算案に関して触れた2009年7月辺りの「時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(7)」シリーズでかなり詳しく触れている。そこで紹介しているテクニックのひとつに、外国企業買収時に米国目的のみ資産の税務簿価をステップアップさせて米国から見た外国での実効税率を上げるというものがある。以前のポスティングでそのメカニズムは詳解しているが、簡単におさらいすると次の通りだ。

米国企業が外国子会社から配当を受け取る際には、配当が課税される代わりに外国子会社が外国で支払った法人税を間接税額控除として計上することができる。2009年3月までの日本の取り扱いと同様だ。米国の税率(連邦)が35%だから、そのより低い税率で課税されている原資から配当を受け取ると税額控除を取ったとしても米国で法人税の追加払いが生じる。

したがって実効税率が低い配当原資(Low Tax Pool)からの配当は不利であり、同じお金を米国に持ち帰る際に敢えてLow Tax Poolから配当を受けるというケースは少ない。米国に海外からお金を還流させる際にはHigh Tax Poolから配当を受けるようにして、米国で追加の税金払いがないようにするのが通常だ。さらにHigh Tax Poolからの配当で米国の税率35%を超える税率の外国税金を控除対象とし、35%を超える部分はLow Tax Poolからの他の配当、または低い(またはゼロの)源泉税で米国が受け取っているロイヤリティー収入等のPassive所得に対する米国税負担をも減らしてしまうCross Creditを検討することも多い。

*High Tax Poolの人工的創出

このことから、いかに海外の配当原資をHigh Tax Poolとするかというのがひとつの重要課題となる。日本のようにそもそも法人税率が41%で世界一というような国に米国法人の子会社がある場合には放っておいても自然にHigh Tax Poolの配当原資が溜まる。しかし「実際には外国でそんなに高い税率で課税されている訳ではないが、米国の外国税額控除目的ではHigh Tax Poolのように見える」というような局面が演出できれば米国企業にとっては更に都合がいい。そんな調子いいことできるの?、と思われるかもしれないが、実は米国企業が外国企業を買収する際にはむしろこのプラニングが実行されないケースの方が珍しいと言っても過言ではない。それほど当たり前で日常茶飯事に行われているプラニングだ。

このようなプラニングが比較的容易に実行できるその秘密は外国の所得の算定方法の米国・外国間での差異にある。外国で支払う税金は(当たり前だが)外国の法律下で算定される所得に基づく。一方で配当を受け取り、間接外国税額控除を算定する際に、その配当に関して外国でいくら税金を支払ったとみなすかという実効税率の算定は米国の法律で算定される所得に基づくことになる。

例えば外国の税率が20%として課税所得が100(外国の算定法で)あったとする。20の税金を支払うことになり、この20という金額は米国の取り扱い上も「外国で20の税金を支払いました」という点で変わりはない。一方で所得の金額は米国風に算定をしてみたら仮に50になったとする。そうすると外国の税率は20%であるにも係らず、米国から見るとあたかも40%の実効税率だったかのように見える。

このようなTax Poolから8の配当を受け取ったとすると、実際には10の税引前所得を原資とし、そこから20%の2の外国税金が引かれネットで8を米国で受け取っているというのが本来の姿だ。源泉税はないものと仮定し、もしこのような算定となると米国では10の配当益が認識され(キャッシュで受け取るのは8だが外国税金のグロスアップで10となる)、税率35%に基づき3.5の法人税が課せられる。ここから2の外国税金を控除してIRSには1.5の支払いをすることとなるだろう。

ところが米国目的ではあたかも40%のPoolから配当されていることとなると、8の配当は、13.3の税引前所得を原資とし、その40%の5.3の外国税金が引かれ8が税引後という姿となる。この状態で米国の法人税を算定すると、まず13.3の配当益が認識され(キャッシュで受け取るのは上と同様8だが外国税金のグロスアップで13.3となる)4.7の法人税が課せられる。しかしここから5.3の外国税金が控除されるのでIRSへの支払いはナンとゼロとなる。そればかりでなく、米国35%の税金である4.7を超える部分の外国税金0.6は他の外国源泉所得に対する米国税金をも減らす効果を持つ。

ポイントは「同じ8の配当」を受け取っても、米国目的のためだけに算定される「見た目」の実効税率を上げることにより、配当額に対して経済的に負担している金額より大きな外国税金で米国の税負担を圧縮することができるというマジックが可能になる点だ。

*Covered Asset Acquisitions

それではどのようにして外国での実際の課税所得は100なのに、米国目的では50になり得るのか?そのテクニックは上で触れている通り、基本的に買収した企業の資産(Goodwillを含む)の税務簿価を米国目的のみでステップアップさせるというカラクリに基づく。資産の簿価が高くなればそれだけ減価償却・Amortizationの費用が大きくなり課税所得が低くなる。

Closing Tax Loopholes Actではこれらの手法を「Covered Asset Acquisitions」と一括りに認定し、このような過大計上を認めないと規定されている。Covered Asset Acquisitionsに関しては次のポスティングで続ける。