Tuesday, July 31, 2007

ブラックストーン法案(その後)

Private Equity Fundsが上場して仮に税法上の要件を満たしたとしても「パススルー」の取り扱いを認めないとするいわゆる「ブラックストーン法案」、またPrivate Equity Fundsのマネージャーが手にする「Carried Interest」に対してキャピタルゲインの取り扱いを認めないというする法案が提出されていることは2007年6月15日、6月23日、6月24日等のポスティングで何回かに亘り触れてきた。

これらの法案に係る審理は始まってはいるものの最終的な方向は現時点では全く見えていない。通常はこの手の法案を真っ先に支持する側に回るであろうはずの民主党議員が必ずしも賛成していないのも興味深い。Private Equity Fundsと民主党というと本来「水と油」のような間柄ではないかと思うのだが、大統領候補の民主党John EdwardsがPTPとして上場を果たしているフォートレス(ヘッジファンド)の顧問(「Senior Advisor」)を務めており、またファンドに投資までしていたことが明らかになったり、実際には複雑な繋がりがあるようだ。Private Equity Fundsからの政治献金は両党に浸透しているが、2008年の大統領選挙で民主党有利と見て民主党への献金が増えているという報道もあり、献金が功を奏している側面は否定できないであろう。

就任以来、高所得者層を中心に歴史的な大減税を展開し続けてきたブッシュ政権率いるホワイトハウスはもちろん法案には反対だ。財務省次官補であるEric Solomonは「うまく機能していると言える現行のパススルー税制、キャピタルゲイン税制にむやみやたらと変更を加えるのは危険」として両方の法案に反対の立場を明確にしている。また、ブッシュ大統領は特定の納税者(すなわちPrivate Equity Fundsとそのマネージャー)を対象とする増税案には賛成できないといして、そのような法律が議会で可決されたとしても「Veto(拒否権)」を発動するとしている。

Private Equity Fundsによるロビー活動も引き続き活発だ。Private Equity Funds元祖KKRの設立パートナーであるHenry R. Kravisもワシントンに登場してPrivate Equity Fundsが米国企業の効率化を促し、長期的には雇用を創出し、経済発展に寄与しているという持論を展開した。これはかなり一理ある話しではあると思うが、法案を支持する議員からは冷淡な反応しか返ってこなかったようだ。1980年台後半のRJRナビスコ買収を発端としてLBOに非難の矛先が向けられた時期があったが、その際にもHenry R. Kravisは議会のヒアリング等は避けて、個別にPrivateミーティングでLBOの経済効果を説いて回ったとされている。

一方で現在提出されている法案の内容では未だ手緩いとする向きもある。Carried Interestに対する課税強化案が「骨抜き」とならないよう「Preferred Partnership Interest」全般に係る取り扱いを一から整理する必要があるといった意見である。さらに、2007年6月24日のポスティングでも指摘した点であるが、そもそもCarried Interestを受け取った時点で課税をするべきであるという繰延の恩典を問題視する指摘、また現行の条文(具体的にはSec. 707)を適用することによりCarreid Interestの取り扱いには十分に対処できるのではないかという意見もある。

*ブラックストーン上場に隠された更なるタックスプラニング秘策?

2007年7月13日のNYタイムスには、ブラックストーンが上場直前にGoodwillを利用した高度なタックスプラニングを実行していると報道した。報道によるとブラックストーンのパートナー達はマネージメント会社の持分をグループ内に新設した法人(Blocker Corporation)に売却したとされる。売却時には$37億に上るGoodwillが売却され(簿価はゼロ?)キャピタルゲインとして15%で課税されるが、Goodwillが15年間で償却でき、しかも償却を法人として行うため償却が法人税率である35%の税効果を持つことから、現在価値ベースでもネットでは税金の支払いは帳消しとなるどころか、プラスのインパクトがあるというものだ。

記事を読むとかなり「クリエイティブ」な手法が取られたかのような印象を受けるが、ブラックストーンは翌日に「我々はPrivate Equity Fundsが資産を売却する際に適用するごく一般的な手法を用いたに過ぎない」というコメントを発表している。他のファンドの上場にも同様の手法が適用されるようだ。Blocker Corporationの利用自体はファンドの投資家が非課税組織であったり外国人投資家である場合にはごく一般的ではあるが、今回のような利用法は興味深い。多少ニュアンスは異なるがヘッジファンドのフォレストの上場にもBlocker Corporationは登場していたので、上場とBlocker Corporation、Tax Sharing Agreementまわりのコメントは、再度S-1を読んで別のポスティングにて詳しく触れたい。

*固定サービス収入も「Carried Interest」に織り込み済み?

ファンドのマネージャーが受け取る収入はもちろんCarried Interestばかりではない。2007年6月24日のポスティングでファンドが受け取る複数のタイプの収入の例を挙げた。Carried Interest以外の収入は通常は固定サービス費用であり、35%の通常税率にて課税されるはずだ。Bloombergの記事によるとヘッジファンドのマネージャーは、この固定サービス収入を「辞退」する代わりにCarried Interestの%を上げるという手法を取ることがあるという。経済的に固定費をカバーする金額をCarried Interestとして受け取れば、本来35%で課税されるべき所得が15%で課税されてしまう可能性がある。


*「宿命のライバル」KKRの上場は?

ブラックストーン上場の熱狂も覚めない7月頭に今度はKKRが上場準備の手続きに入った。SECに提出された資料(S-1)によると$12億5千万の資金調達を予定しているとされる。KKRとブラックストーンのS-1を比較すると収益力はブラックストーンの方が上であったことが分かる。ブラックストーンはヘッジファンド、不動産等に投資を多角化しているが、KKRは基本的にLBOを専業としている。また、ヘッジファンドのOch-Ziff Capital Management Groupも上場準備に取り掛かっている。

KKRの上場計画は結果としてタイミングが悪い。ここにきて信用力の低い住宅ローンいわゆるサブプライム問題に端を発した信用収縮により、ファンドへの資金流入が調整期を向かえているからだ。Cerberusによるクライスラーの買収も借入金による資金調達が思うように行かず計画通りに進んでいないという憶測もある。株式市場もにわかに不安定な動きを見せている。ブラックストーンの株価も上場から20%程度下落している。

このような現状では、KKRは上場を中止するべきだと主張するアナリストもいる。KKRのSECへのS-1提出が7月3日であったことを考えると、その3ヶ月後となる9月下旬には上場を完了しているのが通常である。上場が中止されるのであれば近々にその方向性が示されるはずだ。法案の審理状況と合わせて夏の展開が見ものである。