余り大騒ぎされることはないが、というか全然誰も騒いでないし騒ぐ必要もないが、今年は連邦政府に法人税・所得税(Income Tax)を課すことが認められて100年となる。連邦制度の下、統治の主たる地位を占める州と異なり、憲法で規定される限定的な権限のみを行使できる連邦政府にはIncome Taxを課す権限は認められていなかった時代が長い。そのままにしておいてくれれば、と嘆く向きもあるだろうが、1913年に合衆国憲法修正16条が可決され、連邦政府は始めてIncome Taxを課すことができるようになる。それまでの連邦政府による歳入徴収法には紆余曲折あったが基本的には外形課税の関税とか、Excise Taxだけだったそうだ。今は昔だが、歳出を抑えて憲法の原点に立ち返れば、Income Taxなんてなくても実はやっていけるじゃん、とか夢を見る今日この頃だ。
記念すべき100周年となる2013年、税法は複雑化する一方で税率は世界一だし、抜本的改正も未だに方向性が見えない。1787年当時の識者の集まりである起草者たちが現在の大きな連邦政府の状況を見たらどのように思うだろうか。
そんな中、オバマ大統領は4月10日に2014年会計年度(2013年10月~14年9月)の国家予算教書を議会に提出した。年末のFiscal Cliff騒動で共和党から譲歩を引き出す形で40万ドル以上の家庭に増税を規定したばかりだというのに、更なる増税が規定されている。共和党は増税に関してはFiscal Cliff騒動の始末をもって終わりと明言しているだけに、今後の反発は必至だろう。増税方法自体、税率を上げるというよりも、控除額に複雑な損金算入制限を設けることで増税を間接的に達成する、だまし舟的な手法によるものが提案されておりギミック的なものに見える。多くの規定は前年までの提案の焼き直しで、目新しいものと言えば適格退職金プランに対する拠出額制限くらいだろうか。
予算案は今後10年で1兆8,000億ドルに上る財政赤字を削減するとしているが、その1/3は増税による歳入増を財源としている。赤字の削減に更なる増税を加味するべきかどうかは民主・共和両党の意見の食い違う部分だ。
*所得税の増税規定
一番大きな歳入増が見込まれているのが、個人所得税の「個別控除(Itemized Deduction)」を制限することで達成される増税だ。個人所得税の税率はFiscal Cliff騒動の結果、40万ドルを超える高所得者に対しては35%から39.6%に増税されているが、今回の提案は税率そのものには変更を加えずに、控除額を減らすことで実質的な増税を狙っている。
具体的には比較的裕福な層に適用される「33%、35%、39.6%」の税率ブラケットで所得税を納める納税者に対して、Sch. Aで控除される個別控除の損金算入額に上限を規定しようとするものだ。個別控除の持つ減税効果は、本来、個々の納税者の限界税率(Top Margin Rate)で効いてくるはずだが、ここに制限を加えて、減税効果の上限を28%とすることで、税金は33%~39.6%で計算されるにも係らず、個別控除は28%のみしか税額を減らしてくれないという状況を作り出す。
また、以前から話題を呼んでいる「Buffet Tax」の提案もある。寄付金控除後の年収が100万ドルを超える納税者は、最低でも30%の税率で所得税を支払ってもらいましょうというものだ。累進税率の米国で所得が100万ドルを超えるのに、なぜ税率が30%を切るか不思議に思われる方もいるかもしれないが、お金持ちほど給与所得とか普通の所得の比率は低く、その代わりに投資活動から発生するキャピタルゲインや配当所得が多いのが現実だ。キャピタルゲインも配当所得も優遇税率の対象で、2012年までは基本的に15%、2013年からはFiscal Cliff騒動の一環で高所得者に対しては20%の税率が適用されるようになっている(それでも通常所得最高税率の39.6%よりはかなり低い)。
また、さらにセコめの規定としては物価スライド調整を算定する際に利用される指標を従来使用しているものとは異なる「新型の指標」とすることで、将来的に高税率区分に属する納税者を多くする、という隠し技的な提案も盛り込まれている。
現状では、物価スライド調整(Cost of Living Adjustment)に利用されているのはアメリカ労働統計局が算定するConsumer Price Index (CPI)だが、以前から諮問機関等によりこのCPIはインフレ率を過大表示する傾向があると指摘されている。そこで労働統計局は2000年から代替の指標としてChained CPU(名づけてC-CPI)と呼ばれるより洗練されたモデルに基づく数値を公表している。
この二つの差異を語る際に頻繁に用いられる例を引用すると次のような感じだ。もし「ふじリンゴ」の値段が高くなって 「デリシャスリンゴ」の値段が低いままだと、多くの人がデリシャスリンゴに乗り換える。このような行動パターンの影響はかなりリアルタイムに現状のCPIにも反映されているようだ。だが、ふじリンゴが高くなると、リンゴを買う代わりに(値段に変動のない)別のフルーツ、例えばオレンジを買う人が増えるという現象も当然起こり得る。このような商品バスケット自体に起こる変動効果を加味するのが、現状のCPIだと2年毎の1月なのに対して、C-CPUは毎月となるそうだ。
このような差異から、C-CPIに基づく物価スライド調整は年間0.25%は低くなるとされている。累進税率の米国では高税率区分に属する最低ラインの所得額を毎年物価スライド調整している。したがって、C-CPIを導入することで将来に亘りより所得の低い納税者を高い税率区分に属させることが可能となる。さらにC-CPIを公的年金の支給に代表される歳出にも同時適用することで歳出サイドを抑えることもできる。一石二鳥の効果が期待できるという訳だ。歳出抑制の側面を持つC-CPIの適用は共和党からの支持を受け易く、他の増税案には反対の共和党もこの案には好感を持っているようだ。
次回のポスティングでは所得税以外の国際課税、遺産税その他に関して触れる。
Monday, April 15, 2013
Friday, January 25, 2013
日米租税条約8年ぶりに改正
現時点で適用されている日米租税条約は2003年に全面改正され(2003年の議定書を含む)2004年から効力を持っているものだが、今日(2013年1月24日)に新たな議定書が両政府により調印され、約8年ぶりの改正となった。改正の事実、その予想される内容はここ一年程話題にはなっていたので特に驚きではないが、正式に発表されたことで「本当になったんだな」みたいな感じだ。
内容的にはほぼ予想通りだが、FIRPTA規定の租税条約の隠れた恩典(後述)が明記されると踏んでいたところ、逆に恩典が正式に撤廃されるという方向に行っていた。これはガッガリ。後、多分入らないだろうとは思っていたが、やっぱり入っていなかったのが適格企業年金の他国での尊重(すなわち、日本の厚生年金の公的でない部分とかを米国で「402 Accrual」しなくてもいいように認めるもの)だ。現実には確定給付型の企業年金に加入している日本人の米国派遣員でこのAccrualをして申告しているケースは皆無と思われることから、逆に租税条約でお墨付きとして欲しいところだった。確か英米の条約にはそのような条項が入っていたような記憶がある。
政府間の合意が見られたが、即有効になる訳ではなく、今後両国で批准手続きの終了を待つ必要がある。批准が終わった後に実際の効力を持つこととなる。米国では条約の批准は上院のみの管轄となる。近年の租税条約、議定書の批准プロセスを見ていると簡単に数日で終わるようなプロセスではなく、早くても今年後半というところではないかと推測される。
*改訂内容
改訂そのものは14条項から成っている。重要性、スコープはまちまちだが、各項目の極ザックリとした内容は次の通り。目玉は配当、利子の源泉税免除拡充、仲裁条項の追加だろう。
I) 20条(教育・研究者の免税)撤廃による「Saving Clause」文言のアップデート。Technical Correctionで大きなインパクトはない。
II)法人のTie-Breakerルール撤廃。両国で居住者となってしまう法人は従来は協議の上、どちらかの居住者として取り扱うとされていたのが、今後はそのようなケースでは租税条約の恩典ナシとする条項。
III) 配当に対する源泉税ゼロ%の要件が若干緩和され、従来の「50%超」「12ヶ月保有期間」が各々「50%以上」「6ヶ月保有期間」となった。
IV)利子に対する源泉税が一定要件を満たすと初めてゼロ%となる。
V) 従来の租税条約では上院の批准趣旨から見て、米国のFIRPTAルールの適用時にUSRPHC(米国不動産持分法人)になるかどうかの判断を、株式売却時点のみの資産状況で決定することができるという解釈が一般的であった。これに関しては批准の文書化で明らかにされているにも係らず、条約そのものの文言が不明確で、本当にそんな解釈をしていいのかどうかという点で疑問を持つ向きもあった。今回の改正でこの疑問が解消されることを願っていたのだが、解消されたのはいいが、方向が逆で、上院の文書化に見られる批准趣旨は無視され、米国FIRPTAルールの内国法そのものが適用されることになった。すなわち通常通り、一定の例外を除き、株式売却時点が5年間遡って判断しないといけない。残念な改正だ。
VI) 日本法人の役員報酬は居住地に係わらず日本で課税できる、という実質内容に見えるが以前からどこが変わったか現時点では理解できてない。もう少し勉強します。
VII) 教育・研究者の免税撤廃。チョッと気の毒な感じ。
VIII) LOB規定の上場定義のTechnical Correction。
IX) 日本がTerritorial課税になったためのTechnical Correctionだが、現時点での解釈と変わらずのような気がする。
X) 利子の源泉税条項変更に伴うNon-Discrimination規定のTechnical Correction。
XI) Arbitration(仲裁条項)の新規追加
XII) 情報交換の拡充(条項全体一新)
XIII) 租税徴収の相互協力拡充(条項全体一新)
XIV) 2003年議定書の改訂で主たるものは相互協議関係。
という訳でJFK―>LAXの機内から取り急ぎ。今週のNYは極寒でした。
内容的にはほぼ予想通りだが、FIRPTA規定の租税条約の隠れた恩典(後述)が明記されると踏んでいたところ、逆に恩典が正式に撤廃されるという方向に行っていた。これはガッガリ。後、多分入らないだろうとは思っていたが、やっぱり入っていなかったのが適格企業年金の他国での尊重(すなわち、日本の厚生年金の公的でない部分とかを米国で「402 Accrual」しなくてもいいように認めるもの)だ。現実には確定給付型の企業年金に加入している日本人の米国派遣員でこのAccrualをして申告しているケースは皆無と思われることから、逆に租税条約でお墨付きとして欲しいところだった。確か英米の条約にはそのような条項が入っていたような記憶がある。
政府間の合意が見られたが、即有効になる訳ではなく、今後両国で批准手続きの終了を待つ必要がある。批准が終わった後に実際の効力を持つこととなる。米国では条約の批准は上院のみの管轄となる。近年の租税条約、議定書の批准プロセスを見ていると簡単に数日で終わるようなプロセスではなく、早くても今年後半というところではないかと推測される。
*改訂内容
改訂そのものは14条項から成っている。重要性、スコープはまちまちだが、各項目の極ザックリとした内容は次の通り。目玉は配当、利子の源泉税免除拡充、仲裁条項の追加だろう。
I) 20条(教育・研究者の免税)撤廃による「Saving Clause」文言のアップデート。Technical Correctionで大きなインパクトはない。
II)法人のTie-Breakerルール撤廃。両国で居住者となってしまう法人は従来は協議の上、どちらかの居住者として取り扱うとされていたのが、今後はそのようなケースでは租税条約の恩典ナシとする条項。
III) 配当に対する源泉税ゼロ%の要件が若干緩和され、従来の「50%超」「12ヶ月保有期間」が各々「50%以上」「6ヶ月保有期間」となった。
IV)利子に対する源泉税が一定要件を満たすと初めてゼロ%となる。
V) 従来の租税条約では上院の批准趣旨から見て、米国のFIRPTAルールの適用時にUSRPHC(米国不動産持分法人)になるかどうかの判断を、株式売却時点のみの資産状況で決定することができるという解釈が一般的であった。これに関しては批准の文書化で明らかにされているにも係らず、条約そのものの文言が不明確で、本当にそんな解釈をしていいのかどうかという点で疑問を持つ向きもあった。今回の改正でこの疑問が解消されることを願っていたのだが、解消されたのはいいが、方向が逆で、上院の文書化に見られる批准趣旨は無視され、米国FIRPTAルールの内国法そのものが適用されることになった。すなわち通常通り、一定の例外を除き、株式売却時点が5年間遡って判断しないといけない。残念な改正だ。
VI) 日本法人の役員報酬は居住地に係わらず日本で課税できる、という実質内容に見えるが以前からどこが変わったか現時点では理解できてない。もう少し勉強します。
VII) 教育・研究者の免税撤廃。チョッと気の毒な感じ。
VIII) LOB規定の上場定義のTechnical Correction。
IX) 日本がTerritorial課税になったためのTechnical Correctionだが、現時点での解釈と変わらずのような気がする。
X) 利子の源泉税条項変更に伴うNon-Discrimination規定のTechnical Correction。
XI) Arbitration(仲裁条項)の新規追加
XII) 情報交換の拡充(条項全体一新)
XIII) 租税徴収の相互協力拡充(条項全体一新)
XIV) 2003年議定書の改訂で主たるものは相互協議関係。
という訳でJFK―>LAXの機内から取り急ぎ。今週のNYは極寒でした。
Wednesday, January 2, 2013
Fiscal Cliff騒動で明け暮れた年末・年始
あけましておめでとうございます。2013年もよろしくお願い致します。
昨年の秋頃から米国は果たしてFiscal Cliffに対応できるのか、という問題が大きく取り上げられるようになっていた。このFiscal Cliffは日本の新聞などでも取り上げられ「財政の崖」などと訳され、一年前は誰も知らなかった用語なのに、今ではまるで一般用語であるかの如く日常お茶の間の会話に登場するようになった。2012年末までには余りに一般化しずぎて「うちの家計がFiscal Cliffで・・・」のような使い方までされる始末だった。
このFiscal Cliff問題、簡単に言うと2001年・2003年に実施されたブッシュ所得税減税が2012年末で自動的に失効するのとタイミングを同じくして、2011年に可決されたBudget Control Actに基づいて米国の国家予算の大きな部分がカットされるという歳出抑制策が2013年1月1日に「Kick-In」するというダブルパンチを意味していた。景気の足元が未だに定かでない状態で、このような二重苦を強いられては経済は一気に不況に逆戻りすると皆が戦々恐々としていた。そんな中、タイムリミットとなる2012年12月31日が刻々と近づいてきたのだった。
中でもブッシュ減税の失効は大半の納税者の所得税を押し上げることからその方向性が注目されていた。ブッシュ減税は個人所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げると同時に、キャピタルゲイン税率を20%から15%に、そして更に従来は通常所得として課税されていた(すなわち最高39.6%だった)配当をキャピタルゲイン同様に15%課税としたのが骨子であり、基本的には富裕層に有利な税制と受け取られている。
このブッシュ減税、実は元々2010年に失効する予定であったものが、2年間延長され、2012年にまた失効の憂き目に合っているというものだ。2010年のバタバタに関しては2010年12月6日のポスティング「ブッシュ減税+AMTパッチやっと延長の方向に」で触れているのでぜひ参考にして欲しい。Fiscal Cliffの幕開け問題とも言える2010年当時のバタバタ振りが分かってもらえるだろう。
*元旦にCliff法可決
2012年後半から民主・共和両党が譲らずに何回も決裂していた法案作成だが、何と2013年1月1日にCliff法がようやく可決した。それにしても、結局は中間地点で手を打てるのなら、何もここまで引っ張らなくてもと思うところだが、議会の先生達も結構見せてくれる。12月31日終了時点ではCliff法はなかったことから、厳密に言うと米国は財政の崖から一度落ちてしまい、落ちていく過程でやっぱりこれはまずい、ということで崖の底辺にクラッシュする前に背中のジェットパックが起動して崖っぷちに押し上げられたような感じかも。Helter Skelterみたいだ。
*ブッシュ減税部分的に恒久化
注目の所得税減税の運命だが、大方の予想通り、中間地点への着地で終焉した。もともと、ブッシュ減税を全て失効させてしまうと民主党の基盤も含む全ての納税者に増税効果があることから、オバマ政権案もさすがにそこまでは増税を望まず、民主党案は年収$250,000までは増税ナシ、それ以上の年収の場合にはブッシュ減税以前(最高税率39.6%)に戻すというものであった。一方の共和党はいかなる増税も認めない、代わりに民主党の好む政府による各種補助金的な歳出を抑えるように求めていた。米国の現状は(選挙後の2013年以降も)下院が共和党、上院が民主党、ホワイトハウスは民主党という勢力図になっており、両院が別の党に支配されていることから、基本的に超党法案でないと可決されないという難しさがある。
両党による調整(主に下院とホワイトハウス)過程では、共和党が$1,000,000以上の年収であれば増税を認めるとした案を出したり、オバマ政権側が$250,000を超える年収に対する増税は必ずしも39.6%でなくてもよい(中間の37%とかでもよい)という案を出したり、綱引きが続いていた。
結局のところ落ち着いたのは年収$400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)は所得税率のアップはなし、それを超える場合にはトップ税率を35%から39.6%にアップというものになった。$250,000でないだけマシと言えるが、米国の事業オーナー的な身分だとおそらく$400,000はチョッと物足りないというのが本音ではないか。$1,000,000ならば余り文句もないレベルだったと思う。また、税率が39.6%まで一気に戻ってしまった点もショックに感じている方も多いと思う。20年ぶりに米国を襲う大きな増税となる。今回のCliff法、基本的には歳出カットは先送りし、その分を富裕層への増税で賄うという図式のものとなっている。歳入増の9割方は年収$1,000,000以上の納税者から見込まれるそうだ。
*キャピタルゲイン・配当
もうひとつの焦点であったキャピタルゲインおよび配当課税だが、こちらも折衷案的な解決が見られた。キャピタルゲインも配当も年収400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)までの納税者に関しては15%は据え置かれるが、それを超える年収の者が受け取るキャピタルゲイン、配当は20%に上昇することとなる。配当が通常所得の39.6%まで戻っていない点には安堵した投資家も多いだろう。
ちなみに、配当に対する所得税率が15%から39.6%に上がるかもしれないという懸念の中、米国上場企業の2012年第4四半期の「駆け込み」配当は例年平均の7.5倍の額に上ったという。さすがに税制に敏感な国の企業の配当ポリシーだ。もっとも、似たような現象は2010年のオリジナルの減税失効不安時にも見られたが。
*結局は国民皆増税
所得税率だけ見ていると分からないが、実際にはほぼ全員が増税の影響を受けるというのが実態のCliff法だ。まず、社会保障税の公的年金部分(日本の社会保険料に相当)の従業員負担部分が4.2%に減額されていたものが1月1日より6.2%に戻る。これは年収レベルに関係なく適用される。
また、所得税を算定する際に認められる「個別控除(Itemized Deduction)」の金額にPhase Outと呼ばれる制限が再開される。このPhase Outは増税以外の何者でもないが、税率の方だけ見ているとその効果が分からないために「隠れた」増税と揶揄されることがある。Phase Outは年収$250,000の納税者(夫婦合算申告のケースでは$300,000)から適用される。また同じレベルの高所得者が計上する扶養家族控除にも同様のPhase Out規定が再開される。つまり年収$400,000行ってなくてもかなり踏んだり蹴ったりの状況となる場合もある。
ひとつグッドニュースはここ何年もサーカスのように時限的なパッチでごまかしてきたAMTの問題が恒久的に解決された点だろう。AMT所得税を算定する際に使用される控除額が物価スライド調整されたものに置き換えられる。AMTパッチに関しては2007年12月27日のポスティング「IRSのAMTパッチ対応Update」等で何回か触れているのでそちらを参照して欲しい。
*R&Dクレジット
もうひとつ多くの日本企業にとっての関心事であったR&Dクレジットだが、こちらは2年間延長された。R&Dクレジットは2011年で失効していたため、2年と言っても2013年までの延長となる。これもAMTパッチ同様に必ず延長されると信じられているがいつまで経っても時限立法の状態にある規定だ。
チョッと気になるのはR&Dクレジットの延長が法律化されたのが1月1日となると、2012年12月末の決算書にR&Dクレジットの影響を盛り込むことができるかどうかという点だ。これは会計原則の問題なので個人的には専門外となるが、FASB 109(Codifyされる前の番号で失礼)では法律が「Enact」された日を含む期にベネフィットを認識となっていたように思うので、1月1日ではどうなるか気になった。
また、日本企業には余り関係ないかもしれないが、タックスヘイブン税制下の「Active Financing」例外規定(GEが恩典を沢山受けているもの)、「Look-through」規定なんかも仲良く2年間延長され2013年まで有効となった。
*Fiscal Cliffこれから
Cliffは一応、軟着陸で乗り越えた。だが、基本的な国家財政の問題はこれからの課題として残り続ける。1月1日の法審議の際に下院共和党では「取り合えずタックスの部分のみ解決させ、財政は今後審議しよう。でないと何の法案も通らないから」という形で最終的には合意を見たと言われている。共和党としては何とか歳出を減らしたいが、そこにこだわり続けると結局、超党の法律は通らず、タックスまでもCliffから落ちてしまうとの懸念が最後は部分的な増税を含む法案にOKを出した形となる。
財政均衡の方向を見ても、両党のイデオロギー的な違いは大きい。米国でなぜいつまでも銃規制が行われないのか、という日本的に考えると不思議な疑問も、米国建国時からのイデオロギー的な戦いの中では簡単な解決策はない。それと同じようなことが今回の年末年始に掛けてのFiscal Cliff騒動に見られた。ということは今後の財政問題も簡単には超党的な解決はないように思える。
*2013年Resolution
最後に毎年のResolutionですが、もっと頻繁にポスティングしなくては!次回は書き始めた「過小資本についてスコティッシュパワー判例から学ぶ」というタイトルに関して半年振りに着手させて頂きます。それでは皆さん良いお年をお迎え下さい。
昨年の秋頃から米国は果たしてFiscal Cliffに対応できるのか、という問題が大きく取り上げられるようになっていた。このFiscal Cliffは日本の新聞などでも取り上げられ「財政の崖」などと訳され、一年前は誰も知らなかった用語なのに、今ではまるで一般用語であるかの如く日常お茶の間の会話に登場するようになった。2012年末までには余りに一般化しずぎて「うちの家計がFiscal Cliffで・・・」のような使い方までされる始末だった。
このFiscal Cliff問題、簡単に言うと2001年・2003年に実施されたブッシュ所得税減税が2012年末で自動的に失効するのとタイミングを同じくして、2011年に可決されたBudget Control Actに基づいて米国の国家予算の大きな部分がカットされるという歳出抑制策が2013年1月1日に「Kick-In」するというダブルパンチを意味していた。景気の足元が未だに定かでない状態で、このような二重苦を強いられては経済は一気に不況に逆戻りすると皆が戦々恐々としていた。そんな中、タイムリミットとなる2012年12月31日が刻々と近づいてきたのだった。
中でもブッシュ減税の失効は大半の納税者の所得税を押し上げることからその方向性が注目されていた。ブッシュ減税は個人所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げると同時に、キャピタルゲイン税率を20%から15%に、そして更に従来は通常所得として課税されていた(すなわち最高39.6%だった)配当をキャピタルゲイン同様に15%課税としたのが骨子であり、基本的には富裕層に有利な税制と受け取られている。
このブッシュ減税、実は元々2010年に失効する予定であったものが、2年間延長され、2012年にまた失効の憂き目に合っているというものだ。2010年のバタバタに関しては2010年12月6日のポスティング「ブッシュ減税+AMTパッチやっと延長の方向に」で触れているのでぜひ参考にして欲しい。Fiscal Cliffの幕開け問題とも言える2010年当時のバタバタ振りが分かってもらえるだろう。
*元旦にCliff法可決
2012年後半から民主・共和両党が譲らずに何回も決裂していた法案作成だが、何と2013年1月1日にCliff法がようやく可決した。それにしても、結局は中間地点で手を打てるのなら、何もここまで引っ張らなくてもと思うところだが、議会の先生達も結構見せてくれる。12月31日終了時点ではCliff法はなかったことから、厳密に言うと米国は財政の崖から一度落ちてしまい、落ちていく過程でやっぱりこれはまずい、ということで崖の底辺にクラッシュする前に背中のジェットパックが起動して崖っぷちに押し上げられたような感じかも。Helter Skelterみたいだ。
*ブッシュ減税部分的に恒久化
注目の所得税減税の運命だが、大方の予想通り、中間地点への着地で終焉した。もともと、ブッシュ減税を全て失効させてしまうと民主党の基盤も含む全ての納税者に増税効果があることから、オバマ政権案もさすがにそこまでは増税を望まず、民主党案は年収$250,000までは増税ナシ、それ以上の年収の場合にはブッシュ減税以前(最高税率39.6%)に戻すというものであった。一方の共和党はいかなる増税も認めない、代わりに民主党の好む政府による各種補助金的な歳出を抑えるように求めていた。米国の現状は(選挙後の2013年以降も)下院が共和党、上院が民主党、ホワイトハウスは民主党という勢力図になっており、両院が別の党に支配されていることから、基本的に超党法案でないと可決されないという難しさがある。
両党による調整(主に下院とホワイトハウス)過程では、共和党が$1,000,000以上の年収であれば増税を認めるとした案を出したり、オバマ政権側が$250,000を超える年収に対する増税は必ずしも39.6%でなくてもよい(中間の37%とかでもよい)という案を出したり、綱引きが続いていた。
結局のところ落ち着いたのは年収$400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)は所得税率のアップはなし、それを超える場合にはトップ税率を35%から39.6%にアップというものになった。$250,000でないだけマシと言えるが、米国の事業オーナー的な身分だとおそらく$400,000はチョッと物足りないというのが本音ではないか。$1,000,000ならば余り文句もないレベルだったと思う。また、税率が39.6%まで一気に戻ってしまった点もショックに感じている方も多いと思う。20年ぶりに米国を襲う大きな増税となる。今回のCliff法、基本的には歳出カットは先送りし、その分を富裕層への増税で賄うという図式のものとなっている。歳入増の9割方は年収$1,000,000以上の納税者から見込まれるそうだ。
*キャピタルゲイン・配当
もうひとつの焦点であったキャピタルゲインおよび配当課税だが、こちらも折衷案的な解決が見られた。キャピタルゲインも配当も年収400,000まで(夫婦合算申告のケースでは$450,000)までの納税者に関しては15%は据え置かれるが、それを超える年収の者が受け取るキャピタルゲイン、配当は20%に上昇することとなる。配当が通常所得の39.6%まで戻っていない点には安堵した投資家も多いだろう。
ちなみに、配当に対する所得税率が15%から39.6%に上がるかもしれないという懸念の中、米国上場企業の2012年第4四半期の「駆け込み」配当は例年平均の7.5倍の額に上ったという。さすがに税制に敏感な国の企業の配当ポリシーだ。もっとも、似たような現象は2010年のオリジナルの減税失効不安時にも見られたが。
*結局は国民皆増税
所得税率だけ見ていると分からないが、実際にはほぼ全員が増税の影響を受けるというのが実態のCliff法だ。まず、社会保障税の公的年金部分(日本の社会保険料に相当)の従業員負担部分が4.2%に減額されていたものが1月1日より6.2%に戻る。これは年収レベルに関係なく適用される。
また、所得税を算定する際に認められる「個別控除(Itemized Deduction)」の金額にPhase Outと呼ばれる制限が再開される。このPhase Outは増税以外の何者でもないが、税率の方だけ見ているとその効果が分からないために「隠れた」増税と揶揄されることがある。Phase Outは年収$250,000の納税者(夫婦合算申告のケースでは$300,000)から適用される。また同じレベルの高所得者が計上する扶養家族控除にも同様のPhase Out規定が再開される。つまり年収$400,000行ってなくてもかなり踏んだり蹴ったりの状況となる場合もある。
ひとつグッドニュースはここ何年もサーカスのように時限的なパッチでごまかしてきたAMTの問題が恒久的に解決された点だろう。AMT所得税を算定する際に使用される控除額が物価スライド調整されたものに置き換えられる。AMTパッチに関しては2007年12月27日のポスティング「IRSのAMTパッチ対応Update」等で何回か触れているのでそちらを参照して欲しい。
*R&Dクレジット
もうひとつ多くの日本企業にとっての関心事であったR&Dクレジットだが、こちらは2年間延長された。R&Dクレジットは2011年で失効していたため、2年と言っても2013年までの延長となる。これもAMTパッチ同様に必ず延長されると信じられているがいつまで経っても時限立法の状態にある規定だ。
チョッと気になるのはR&Dクレジットの延長が法律化されたのが1月1日となると、2012年12月末の決算書にR&Dクレジットの影響を盛り込むことができるかどうかという点だ。これは会計原則の問題なので個人的には専門外となるが、FASB 109(Codifyされる前の番号で失礼)では法律が「Enact」された日を含む期にベネフィットを認識となっていたように思うので、1月1日ではどうなるか気になった。
また、日本企業には余り関係ないかもしれないが、タックスヘイブン税制下の「Active Financing」例外規定(GEが恩典を沢山受けているもの)、「Look-through」規定なんかも仲良く2年間延長され2013年まで有効となった。
*Fiscal Cliffこれから
Cliffは一応、軟着陸で乗り越えた。だが、基本的な国家財政の問題はこれからの課題として残り続ける。1月1日の法審議の際に下院共和党では「取り合えずタックスの部分のみ解決させ、財政は今後審議しよう。でないと何の法案も通らないから」という形で最終的には合意を見たと言われている。共和党としては何とか歳出を減らしたいが、そこにこだわり続けると結局、超党の法律は通らず、タックスまでもCliffから落ちてしまうとの懸念が最後は部分的な増税を含む法案にOKを出した形となる。
財政均衡の方向を見ても、両党のイデオロギー的な違いは大きい。米国でなぜいつまでも銃規制が行われないのか、という日本的に考えると不思議な疑問も、米国建国時からのイデオロギー的な戦いの中では簡単な解決策はない。それと同じようなことが今回の年末年始に掛けてのFiscal Cliff騒動に見られた。ということは今後の財政問題も簡単には超党的な解決はないように思える。
*2013年Resolution
最後に毎年のResolutionですが、もっと頻繁にポスティングしなくては!次回は書き始めた「過小資本についてスコティッシュパワー判例から学ぶ」というタイトルに関して半年振りに着手させて頂きます。それでは皆さん良いお年をお迎え下さい。
Tuesday, July 31, 2012
スコティッシュパワー判例から学ぶ過少資本税制対策(1)
IRSは近年、過少資本の取り締まりにかなり注力している。米国の法人税率が世界一となる中、過少資本は無形資産の海外移転と並んで米国財務省が神経を尖らせている分野となる。逆に、多国籍企業が力を入れている分野と言い換えることもできる。米国における過小資本税制は後述するように判断基準が機械的でなく、また財務省規則も最終化できなかったという混沌とした歴史を持つ。
*タックスプラニングと過少資本税制
世界各国はもちろん各々異なる税率を規定していることから、多国籍企業はトータルで同額儲けるのであれば、その所得のできるだけ多くの比率を低税率国で実現したいと願うのは言うまでもない。
米国が高税率を規定しているため、米国多国籍企業は本国の課税所得を合法的に圧縮しようと長年努めてきている。その成果は米国多国籍企業歴代の決算書を紐解いていくと簡単に見て取ることができる。すなわち40%近い法定税率(州税を含む)で、かつ未だに全世界課税システムを持つ米国を頂点とする企業群のものとは思えない低い実効税率で決算書上の実効税率が終焉しているのに驚かされるだろう。
米国外からの米国投資ストラクチャーも、多くの国(日本以外全て?)の多国籍企業は基本的に米国ではビジネスで儲けた上、課税所得は何とかして圧縮するということを念頭に構築されている。日本企業に関して言うと、未だにこの点に関して工夫されているケースは少ない。製薬等の一部の限られた業界で若干先進的な動きが見られるが、一般的には、日本で海外子会社からの配当が非課税という恵まれた環境にあるにも係らず、グローバル・タックス・プラニングの世界では他国に大きく遅れを取っているのが現状だ。
*米国投資と借入金
ビジネスで儲けた後、米国の課税ベースを最低限とする、すなわち侵食する方法はいくつもあるが、代表的なストラクチャーに価値のある無形資産をできるだけ米国外におくことで、余計な利益が米国に還流してこないようにすると同時に多くの所得が低税率国に落ちるようにするというクラシックな手法がある。米国大手企業はハイテク、製薬ばかりでなく価値のある無形資産を持っているところでは既にやり尽くしている観のあるプラニングだ。
最近、新聞などでGoogle、GE、Appleが実践しているプラニング手法が取り上げられてお茶の間の購読者の注意を引いたかもしれないが、同様のプラニングはもう何十年も「全ての」米国多国籍企業が実践していると言っても過言ではなく、その意味で今更会社名を挙げられた企業も若干当惑気味であったであろう。Appleに至っては低税率国に眠る所得に対して敢えて多めの繰延税金負債(配当したとしたら米国で支払うことになるであろう税負債)を認識することで本当の実力よりも「高い」実効税率を演出しているという内容の報道を見たことがある。この辺りはイメージ戦略的な部分だと思われるが、確かにOccupy Wall Street系の若者の中にはApple製品をこよなく愛している者が少なくないと推測されることから、実効税率を巡る企業イメージは我々が思うよりも事業戦略として重要なのかもしれない。それにしても実力より高い実効税率を表示するなんてタックスプラニングでも余裕が感じられ羨ましい。
米国政府もこの無形資産の海外への移管に関する問題はもちろん承知していて、Excess ProfitsのSubpart F化その他の対抗策が検討されている。最終的には机上の空論でしかないと非難の多い(?)Arm's-Length基準を撤廃する位の勢いで移転価格税制を大改革しない限り問題の解決はないとまで言われており、米国財務省にとっての鬼門と言える。
無形資産と並ぶもうひとつ代業的なプラニングとして、米国オペレーションをできる限り借入金でファイナンスし、支払利息で課税所得を圧縮するという手段がある。米国多国籍企業が(大手会計事務所の国際税務部門が?)徹底的に研究してきた手法だ。もともと外国企業が米国に投資する際に実行し易いプラニングだが、驚いたことに(というか、当然予想されるように、と言うべきか)このプラニングを最もアグレッシブに利用しているのは「元」米国企業で現在では外国企業に変身してしまった「Inverted」法人だという調査結果が出ている。米国企業から外国企業に変身して、米国外所得の課税を大幅に低減した上、さらに米国事業から発生する所得ベースも圧縮してしまうという双方からのアプローチはただ「さすが」と言うしかない。
ここで当たり前のポイントだが、利息を高税率国に支払っては元も子もない。貸し手は低税率国にある関連会社となる。
この点、世界1~2位の税率を米国と争う立場にある日本という国に究極の親会社がある日本の多国籍企業は若干プラニング上のオプションが少ない。すなわち、日本から米国に貸付して、米国から利息を吸い取ったところで、日本で利子所得が課税されるので米国への節税効果を帳消し(場合によっては源泉税分持ち出し)なんてことになりかねないからだ。
そこで元々は日本で資金を借り入れ、低税率国の関連会社に日本から資本注入して、さらに低税率国から米国へのファイナンスしたり、さらにそのファイナンスをハイブリッドにしたりすることができれば、一つのファイナンスから二重、三重の税ベネフィットを得ることが可能となる。
実際のストラクチャー構築時には租税条約(特にLOB条項)、日本でのCFC課税等、慎重な検討が必要だ。また米国サイドで支払利息の損金算入に問題がないかどうかの検討も当然必要となる。この点に関しては大きく分けるとアーニングス・ストリッピング規定と過小資本税制の二つの検討が主となる。アーニングス・ストリッピングに関しては2007年11月の「Earnings Stripping Ruleの今後」というポスティングで触れているで詳しくはそちらを参照して欲しい。
今回のポスティングのテーマは過少資本税制となる。前置きが長くなったが次回のポスティングから実際に最近言い渡されたScottishPowerケースの判例を交えて米国の過小資本税制に関して書いてみようと思う。
*タックスプラニングと過少資本税制
世界各国はもちろん各々異なる税率を規定していることから、多国籍企業はトータルで同額儲けるのであれば、その所得のできるだけ多くの比率を低税率国で実現したいと願うのは言うまでもない。
米国が高税率を規定しているため、米国多国籍企業は本国の課税所得を合法的に圧縮しようと長年努めてきている。その成果は米国多国籍企業歴代の決算書を紐解いていくと簡単に見て取ることができる。すなわち40%近い法定税率(州税を含む)で、かつ未だに全世界課税システムを持つ米国を頂点とする企業群のものとは思えない低い実効税率で決算書上の実効税率が終焉しているのに驚かされるだろう。
米国外からの米国投資ストラクチャーも、多くの国(日本以外全て?)の多国籍企業は基本的に米国ではビジネスで儲けた上、課税所得は何とかして圧縮するということを念頭に構築されている。日本企業に関して言うと、未だにこの点に関して工夫されているケースは少ない。製薬等の一部の限られた業界で若干先進的な動きが見られるが、一般的には、日本で海外子会社からの配当が非課税という恵まれた環境にあるにも係らず、グローバル・タックス・プラニングの世界では他国に大きく遅れを取っているのが現状だ。
*米国投資と借入金
ビジネスで儲けた後、米国の課税ベースを最低限とする、すなわち侵食する方法はいくつもあるが、代表的なストラクチャーに価値のある無形資産をできるだけ米国外におくことで、余計な利益が米国に還流してこないようにすると同時に多くの所得が低税率国に落ちるようにするというクラシックな手法がある。米国大手企業はハイテク、製薬ばかりでなく価値のある無形資産を持っているところでは既にやり尽くしている観のあるプラニングだ。
最近、新聞などでGoogle、GE、Appleが実践しているプラニング手法が取り上げられてお茶の間の購読者の注意を引いたかもしれないが、同様のプラニングはもう何十年も「全ての」米国多国籍企業が実践していると言っても過言ではなく、その意味で今更会社名を挙げられた企業も若干当惑気味であったであろう。Appleに至っては低税率国に眠る所得に対して敢えて多めの繰延税金負債(配当したとしたら米国で支払うことになるであろう税負債)を認識することで本当の実力よりも「高い」実効税率を演出しているという内容の報道を見たことがある。この辺りはイメージ戦略的な部分だと思われるが、確かにOccupy Wall Street系の若者の中にはApple製品をこよなく愛している者が少なくないと推測されることから、実効税率を巡る企業イメージは我々が思うよりも事業戦略として重要なのかもしれない。それにしても実力より高い実効税率を表示するなんてタックスプラニングでも余裕が感じられ羨ましい。
米国政府もこの無形資産の海外への移管に関する問題はもちろん承知していて、Excess ProfitsのSubpart F化その他の対抗策が検討されている。最終的には机上の空論でしかないと非難の多い(?)Arm's-Length基準を撤廃する位の勢いで移転価格税制を大改革しない限り問題の解決はないとまで言われており、米国財務省にとっての鬼門と言える。
無形資産と並ぶもうひとつ代業的なプラニングとして、米国オペレーションをできる限り借入金でファイナンスし、支払利息で課税所得を圧縮するという手段がある。米国多国籍企業が(大手会計事務所の国際税務部門が?)徹底的に研究してきた手法だ。もともと外国企業が米国に投資する際に実行し易いプラニングだが、驚いたことに(というか、当然予想されるように、と言うべきか)このプラニングを最もアグレッシブに利用しているのは「元」米国企業で現在では外国企業に変身してしまった「Inverted」法人だという調査結果が出ている。米国企業から外国企業に変身して、米国外所得の課税を大幅に低減した上、さらに米国事業から発生する所得ベースも圧縮してしまうという双方からのアプローチはただ「さすが」と言うしかない。
ここで当たり前のポイントだが、利息を高税率国に支払っては元も子もない。貸し手は低税率国にある関連会社となる。
この点、世界1~2位の税率を米国と争う立場にある日本という国に究極の親会社がある日本の多国籍企業は若干プラニング上のオプションが少ない。すなわち、日本から米国に貸付して、米国から利息を吸い取ったところで、日本で利子所得が課税されるので米国への節税効果を帳消し(場合によっては源泉税分持ち出し)なんてことになりかねないからだ。
そこで元々は日本で資金を借り入れ、低税率国の関連会社に日本から資本注入して、さらに低税率国から米国へのファイナンスしたり、さらにそのファイナンスをハイブリッドにしたりすることができれば、一つのファイナンスから二重、三重の税ベネフィットを得ることが可能となる。
実際のストラクチャー構築時には租税条約(特にLOB条項)、日本でのCFC課税等、慎重な検討が必要だ。また米国サイドで支払利息の損金算入に問題がないかどうかの検討も当然必要となる。この点に関しては大きく分けるとアーニングス・ストリッピング規定と過小資本税制の二つの検討が主となる。アーニングス・ストリッピングに関しては2007年11月の「Earnings Stripping Ruleの今後」というポスティングで触れているで詳しくはそちらを参照して欲しい。
今回のポスティングのテーマは過少資本税制となる。前置きが長くなったが次回のポスティングから実際に最近言い渡されたScottishPowerケースの判例を交えて米国の過小資本税制に関して書いてみようと思う。
Sunday, July 8, 2012
オバマケアは税法だった?(2)
前回のポスティングでは、6月28日に米国最高裁判所がオバマ政権のシグニチャー的な法律である「オバマケア」は合憲であるという歴史的な判決を下した点に関してその背景に触れた。今回は判決内容そのものに話しを移したい。
*今回の判決
前回のポスティングでも触れた通り、オバマケアの「国民全員に医療保険加入するよう」義務付けた部分(でないとペナルティーが課せられる)は「税法」と位置づけられ、したがって連邦政府の権限内であるという理由で合憲の判断が下された。また、勝敗を分けたのは浮動票で常にキャスティングボートを握るKennedyではなく、保守派守護神その人である主席判事のRobertsだった点も驚きだった。
なぜ保守派守護神のRobertsは裏切った(?)のか。これはRobertsの卓越したバランス感覚と知性の結果としか言いようがない。法律に携わる者にとって、最高の名誉・栄誉は最高裁判事となることだろう。一流法律事務所のトップパートナーになれば何倍もの報酬を得ることができるかもしれないが最高裁判事という名誉はお金では計れない。国中でトップのトップの弁護士から無期限の任期で選ばれる9人。その中でも主席判事は法曹界の頂点だ。Robertsももちろん超優秀な経歴をバックに主席判事として君臨しているが(ハーバードロースクールではLaw ReviewのManaging Editor!)、今回の彼の判断はRobertsを名判事として歴史にその名を残させることになるだろうというコメントが多い。来年以降のLaw Schoolの憲法論(Con Law…、Law Schoolに通った方ならその響きだけで胃が痛くなるのでは)の教科書では、古いJohn Marshalの判決などと並んで紙面を飾ることになるだろう。
もしもオバマケアが違憲とされたなら、米国経済は大きく混乱しただろう。また最高裁判所のクレディビリティーにも少なからず影響しただろう。そこでRobertsはプラグマティックな観点から法律そのものは合憲としておきながら、一方でイデオロギー的な観点からは連邦政府の権限を限定するという離れ業で難所を切り抜けることに成功した。
合憲とした判断の根拠は冒頭でも触れた通り、国民が医療保険に加入しない場合に課せられるペナルティー部分をタックスと位置づけたことによる。立法の段階ではオバマ政権はこれはタックスではないと主張して法制化した経緯があるだけにチョッと皮肉っぽくて面白い判断といえる。
また、このタックスという位置づけには更なるオチがある。今回の法律が合憲か違憲かという判断をそもそも最高裁判所で検討する権限があるのかないのかを決定する上で、これがタックスだとしたら、税徴収のための法律を無効とする訴訟を起こしてはいけないと規定する「Anti-Injunction」法に抵触していたはずだ。もしそうだとすると、事のメリットに係りなく、今回の訴訟はそもそも裁判所で争うことすらできないという理由でその場で却下されるべきとなる。この点に関してRobertsの判決は「議会がペナルティーという命名をしているので、タックスではなくAnti-Injunction規定には抵触しない」としている。その上で事のメリットを論じる段となって「これは実質タックスである」と豹変しているのだ。名判決とは不思議なものだ。
一方でイデオロギー的な部分だが、判決の中で連邦政府が通商条項を盾に立法を行う権限にリミットを設けている点、また州に対してMedicareカバレッジを拡大しない場合にはFundingを打ち切るというような権限はSpending条項下では認められないとしている点に見られる。Liberal派は通商条項に基づく権限限定に関しては反対意見を出しているし、一方の保守派は今後の判決にこの部分の判例を最大限利用するとしている。保守派は「連邦の権限を限定的なものとし、州政府と権限を分けるという米国憲法のストラクチャーを遵守して初めて個人の自由が保障される」としている。
つまり、判決内容をまとめると、タックスに基づく法律は連邦政府が税金を徴収できる権限がある以上、合憲となる一方で、通商条項、Spending条項に基づく連邦政府の権限は限定される、となる。今回の訴訟の争点であった国民が医療保険に加入しない場合にはペナルティーが課せられるという部分がもしも通商条項に基づくものであったなら、連邦政府にはそのような規定を制定する権利はないとされている。言い換えれば、連邦政府に「個人に民間企業(医療保険会社)と取引を強制する権利などない」ということだ。
またSpending条項に関しては連邦政府の希望する方向に州政府が行動した場合に、ご褒美としてFundingを与えることは合憲だが、希望の方向に州政府が行動しない場合にFundingをストップするという懲罰を与える権限はないとし、Medicare拡大に関してのペナルティー規定部分は違憲とされ、この部分のオバマケアは無効となった。面白いことにこちらの判断はRobertsを含む保守派判事5人だけでなく、民主党指名の二人BreyerとKagenも賛同している。Bush v. Gore判決以来のパーティーラインからの決別とも取れる最高裁判所の新しい姿を示しているようにも見える。
今回の判決の本当の勝利者は誰かという点は判決後に多くの議論を呼んだ。多くの連邦法は通商条項、Spending条項に基づいて可決される傾向にあることから、この観点から連邦政府は手詰まりとなることになる。大きな政府を嫌う保守派の狙う方向である。タックスに基づく立法は議会に権限はあるにしても、ポリティクス的には不評なものとなることから実質乱発するのは難しい。今回の判決がマスターピースと言われる所以はこの判決の見た目(民主党勝利)と実体(共和党勝利)が混在する点と言える。
もちろん、保守派にしてみれば違憲判決で大勝利を収めそこなったことに関してはやり切れない思いは残るだろう。なんと言っても浮動票のKennedyは違憲判断だったのだから。まさかRobertsお前が…という思いはあるだろう。でもそこは法治国家。最高裁判所の判決は皆尊重し、Move-Onしていくしかないし、していくだろう。この辺りは以前に書いたインドのボーダフォンケースにおけるインドの状況とは対照的だ。
今回の判決を、実は将来の連邦政府の権限を今までにないレベルまで限定するように仕組まれた一種のDecoyと捉えて納得する向きもある。一方でそんな複雑な意図はなく、これほど議会で討議されて可決された大型シグニチャー法を最高裁判所がパーティーラインの5-4で葬ってしまうことは社会からの信用、裁判所の独立性からも好ましくないという現実主義に基づくものだ、という意見もある。いずれにしても奥深い、複雑な判決であることは間違いない。
これでオバマケアの法律としての地位が揺ぎ無いものとなり、2014年から米国医療保険のあり方が大きく変わる。日本的に考えると世界一の経済大国に、そもそも医療保険がない国民が沢山居ること自体信じられないし、それを実現しようとしている法律になぜここまで多くの者が反対しているかも理解し難いかもしれない。保険に入ろうが入るまいがそんなことは連邦政府に決められたくない、というのがアメリカ風個人自由主義なのかも。New Hampshire州の自動車プレートには「Live Free or Die」とあるが、自己責任のない自由はなく、自由とは時に厳しいものなんだろう。いろいろと考えさせられる判決だった。
*今回の判決
前回のポスティングでも触れた通り、オバマケアの「国民全員に医療保険加入するよう」義務付けた部分(でないとペナルティーが課せられる)は「税法」と位置づけられ、したがって連邦政府の権限内であるという理由で合憲の判断が下された。また、勝敗を分けたのは浮動票で常にキャスティングボートを握るKennedyではなく、保守派守護神その人である主席判事のRobertsだった点も驚きだった。
なぜ保守派守護神のRobertsは裏切った(?)のか。これはRobertsの卓越したバランス感覚と知性の結果としか言いようがない。法律に携わる者にとって、最高の名誉・栄誉は最高裁判事となることだろう。一流法律事務所のトップパートナーになれば何倍もの報酬を得ることができるかもしれないが最高裁判事という名誉はお金では計れない。国中でトップのトップの弁護士から無期限の任期で選ばれる9人。その中でも主席判事は法曹界の頂点だ。Robertsももちろん超優秀な経歴をバックに主席判事として君臨しているが(ハーバードロースクールではLaw ReviewのManaging Editor!)、今回の彼の判断はRobertsを名判事として歴史にその名を残させることになるだろうというコメントが多い。来年以降のLaw Schoolの憲法論(Con Law…、Law Schoolに通った方ならその響きだけで胃が痛くなるのでは)の教科書では、古いJohn Marshalの判決などと並んで紙面を飾ることになるだろう。
もしもオバマケアが違憲とされたなら、米国経済は大きく混乱しただろう。また最高裁判所のクレディビリティーにも少なからず影響しただろう。そこでRobertsはプラグマティックな観点から法律そのものは合憲としておきながら、一方でイデオロギー的な観点からは連邦政府の権限を限定するという離れ業で難所を切り抜けることに成功した。
合憲とした判断の根拠は冒頭でも触れた通り、国民が医療保険に加入しない場合に課せられるペナルティー部分をタックスと位置づけたことによる。立法の段階ではオバマ政権はこれはタックスではないと主張して法制化した経緯があるだけにチョッと皮肉っぽくて面白い判断といえる。
また、このタックスという位置づけには更なるオチがある。今回の法律が合憲か違憲かという判断をそもそも最高裁判所で検討する権限があるのかないのかを決定する上で、これがタックスだとしたら、税徴収のための法律を無効とする訴訟を起こしてはいけないと規定する「Anti-Injunction」法に抵触していたはずだ。もしそうだとすると、事のメリットに係りなく、今回の訴訟はそもそも裁判所で争うことすらできないという理由でその場で却下されるべきとなる。この点に関してRobertsの判決は「議会がペナルティーという命名をしているので、タックスではなくAnti-Injunction規定には抵触しない」としている。その上で事のメリットを論じる段となって「これは実質タックスである」と豹変しているのだ。名判決とは不思議なものだ。
一方でイデオロギー的な部分だが、判決の中で連邦政府が通商条項を盾に立法を行う権限にリミットを設けている点、また州に対してMedicareカバレッジを拡大しない場合にはFundingを打ち切るというような権限はSpending条項下では認められないとしている点に見られる。Liberal派は通商条項に基づく権限限定に関しては反対意見を出しているし、一方の保守派は今後の判決にこの部分の判例を最大限利用するとしている。保守派は「連邦の権限を限定的なものとし、州政府と権限を分けるという米国憲法のストラクチャーを遵守して初めて個人の自由が保障される」としている。
つまり、判決内容をまとめると、タックスに基づく法律は連邦政府が税金を徴収できる権限がある以上、合憲となる一方で、通商条項、Spending条項に基づく連邦政府の権限は限定される、となる。今回の訴訟の争点であった国民が医療保険に加入しない場合にはペナルティーが課せられるという部分がもしも通商条項に基づくものであったなら、連邦政府にはそのような規定を制定する権利はないとされている。言い換えれば、連邦政府に「個人に民間企業(医療保険会社)と取引を強制する権利などない」ということだ。
またSpending条項に関しては連邦政府の希望する方向に州政府が行動した場合に、ご褒美としてFundingを与えることは合憲だが、希望の方向に州政府が行動しない場合にFundingをストップするという懲罰を与える権限はないとし、Medicare拡大に関してのペナルティー規定部分は違憲とされ、この部分のオバマケアは無効となった。面白いことにこちらの判断はRobertsを含む保守派判事5人だけでなく、民主党指名の二人BreyerとKagenも賛同している。Bush v. Gore判決以来のパーティーラインからの決別とも取れる最高裁判所の新しい姿を示しているようにも見える。
今回の判決の本当の勝利者は誰かという点は判決後に多くの議論を呼んだ。多くの連邦法は通商条項、Spending条項に基づいて可決される傾向にあることから、この観点から連邦政府は手詰まりとなることになる。大きな政府を嫌う保守派の狙う方向である。タックスに基づく立法は議会に権限はあるにしても、ポリティクス的には不評なものとなることから実質乱発するのは難しい。今回の判決がマスターピースと言われる所以はこの判決の見た目(民主党勝利)と実体(共和党勝利)が混在する点と言える。
もちろん、保守派にしてみれば違憲判決で大勝利を収めそこなったことに関してはやり切れない思いは残るだろう。なんと言っても浮動票のKennedyは違憲判断だったのだから。まさかRobertsお前が…という思いはあるだろう。でもそこは法治国家。最高裁判所の判決は皆尊重し、Move-Onしていくしかないし、していくだろう。この辺りは以前に書いたインドのボーダフォンケースにおけるインドの状況とは対照的だ。
今回の判決を、実は将来の連邦政府の権限を今までにないレベルまで限定するように仕組まれた一種のDecoyと捉えて納得する向きもある。一方でそんな複雑な意図はなく、これほど議会で討議されて可決された大型シグニチャー法を最高裁判所がパーティーラインの5-4で葬ってしまうことは社会からの信用、裁判所の独立性からも好ましくないという現実主義に基づくものだ、という意見もある。いずれにしても奥深い、複雑な判決であることは間違いない。
これでオバマケアの法律としての地位が揺ぎ無いものとなり、2014年から米国医療保険のあり方が大きく変わる。日本的に考えると世界一の経済大国に、そもそも医療保険がない国民が沢山居ること自体信じられないし、それを実現しようとしている法律になぜここまで多くの者が反対しているかも理解し難いかもしれない。保険に入ろうが入るまいがそんなことは連邦政府に決められたくない、というのがアメリカ風個人自由主義なのかも。New Hampshire州の自動車プレートには「Live Free or Die」とあるが、自己責任のない自由はなく、自由とは時に厳しいものなんだろう。いろいろと考えさせられる判決だった。
オバマケアは税法だった?(1)
去る6月28日に米国最高裁判所はオバマ政権のシグニチャー法と言えるAffordable Care Act(俗にオバマ政権によるヘルスケア法であることから「オバマケア」として知られている法律)は合憲であるという歴史的な判決を下した。オバマケアの中でも「連邦政府にはそんな権限ない」と訴えられていた「国民全員に医療保険加入するよう」義務付けた部分(でないとペナルティーが課せられる)はナント連邦政府には「税法」を制定する権利があるという意外な理由で憲法の下で与えられた連邦政府の権限内であるという判決となった。
オバマケアの行方に関しては国民全員に医療保険加入させる部分ばかりでなく、法律全体が違憲とされ全ての条項が無効となるShow-Downを予想する前評判が多かっただけに、オバマ政権にとってはさよなら逆転満塁ホームラン級のご褒美となり、逆に保守陣営にとっては信じられない逆転負けとなった、かのように見えた。しかし実際には事はそんなに簡単ではないのが今回の判決が「Intriguing」(日本語でいい表現がみつかりませんでした)なところだ。
今回の判決はその発表数ヶ月前から大きな注目を集めており、最高裁判所が休暇に入る最終日となる6月28日は朝早くから判決結果をいち早く報道しようというメディアの熱気ムンムンであった。しかも最高裁主席判事のRobertsが、一瞬、国民全員に医療保険加入を求める部分は違憲とも取れる論調でスピーチを始めたため、多くのメディアはフライングで「オバマケア違憲判決!」という速報を流してしまった。ホワイトハウスでこの速報を見たオバマ大統領は絶句していたと言う。
僕もたまたまミーティングからの帰りでNYのタイムススクエアの事務所に戻ったところだったが、42NDの交差点にある大きなフラッシュ電光掲示板には「違憲」というニュースが煌々と流れていた。予想していたとは言えやはり衝撃は大きく「ええ~やっぱり。アメリカどうなるんだろう…」と唖然とした。EY社内でも最初のBreaking Newsは「一部違憲!」という形で全社員にメールが流れたので、多くの者が「保険業界その他、これからどう対応するんだろう・・」的な反応を示したであろう。
ところが、保守系のオーディエンスおよび4人の保守系の最高裁判事が唖然とする中、Robertsは「医療保険に加入しない者に課されるペナルティーは税金の性格を持っており、連邦政府は税金を課す権限を持つことから、法律は合憲である」と読み進めたのであった。メディアでは当初のニュースの修正作業に追われ、ホワイトハウスも一転祝勝ムードに早変わりしたそうだ。
*キャスティングボートはナント主席Roberts本人
この判決のとても興味深い点は、大方の予想を裏切って、勝敗を分けたのは浮動票で常にキャスティングボートを握るKennedyではなく、保守派守護神その人である主席のRobertsであった点だ。Liberal派4人プラスRobertsによる主判決という異例のアライアンスとなった。日本に居るとその感動は理解し難いかもしれないが、Robertsのこの判断は歴史に残るマスターピースとなると言われている。
*二つのイデオロギーと最高裁判所の構成
アメリカの政治は二大政党に基づくものだ。もちろん、独立党の動きはたまにあるし、保守派の中でもより憲法に忠実で個人の権限を最重要視するLibertarianのような思想は二大政党政治の枠外と取り扱われてもおかしくない。しかし現実には保守の共和党とLiberalの民主党の二つのイデオロギーの戦いが続いている。民主党のクリントン、共和党のロムニーは各々の政党の考え方は基本的に踏襲しながらも中道路線を行くタイプなのに対し、ブッシュ(ジュニア)というかその裏のチェイニーとかはかなり右よりの保守となる。
なにが保守で、何がそうでないのか、という点は分かり難い部分もあるが、代表的な部分で行くと、銃規制反対、中絶反対、キリスト教に近い価値観、小さな政府で低税率、というところが保守の価値観だろうか。すなわちこれの反対がLiberalとなる。もちろん、国民一人一人は「政府は小さい方がいいけど、銃は反対」とか「銃は自分の身を守るために絶対自由に持ちたいけど、政府はできるだけのことをして国民の生活を守って欲しい」とか、全ての価値観に関して一方の政党と完全に共感しているとは限らない。また小さい政府と言っても、必ずしも全て個人任せという感覚(Libertarianはこれに近い)よりも、「連邦」政府の権限は限定しておいて、後は国民により近い存在である州政府に任せるという感覚が強いような気がする。
この辺りの詳しい話しは米国憲法論になるので全て網羅できないが、米国の法律を扱う上の基本中の基本は「連邦議会・政府は限定的権限」のみを持つという点だ。すなわち、州がDefaultであり、連邦憲法で明確に規定してある事柄のみ連邦議会・政府は管轄してよいことになる。憲法に規定されていないことを連邦議会が法制化した場合、それは違憲となり無効となる。この判断をするのは裁判所の役割だ。国全体で管理せざるを得ない国防、移民等の分野はもちろん連邦に委ねられているのだが、連邦議会は他にも多くの法律を通している。連邦議会が法律を制定する上で一番便利な憲法条項に「通商条項(Commerce Clause)」というのがある。これは州間で行われる通商に関しての法律は連邦議会で法律を制定してもよろしいというもので、Due Process条項と並んで広範な法律を制定できる拠り所となっている。例えば、州の法人税計算は、自州の者だけ有利に扱ってはいけないとか、配賦計算をしないといけないとか、また 物販に係る勧誘行為のみを州内で行う者に州は課税できないとか、諸々の法律を連邦議会は通商条項下で制定することができる。しかし、言い方次第で間接的にはほぼどんな法律でも州間の通商に関係するように結び付けることができるため、通商条項は連邦議会にとって便利な条項となる。銃規制とかまでも通商条項に基づいて行おうとしたりすることになる。
連邦議会の権限が大きくなればなるほど連邦は「大きな政府」となる。これは保守派の嫌うところであり、連邦政府の権限拡大は個人の自由を制限すると受け取られる。そこで機会があれば通常条項の利用にも歯止めを掛けたいと願う。また、Roe v. Wadeで示された連邦による中絶容認(一定の期間まで)判決は、保守派から見ると本来、連邦議会・政府の出る幕でない分野に連邦が首を突っ込んでいるという見方となる。今でも大統領選挙で大きな議論となるのは、候補者がRoe v. Wade判決をどう思うかという点だ。CBSニュースのKatie Couricとのインタビューで重要な最高裁判所の判例を挙げることができなくて恥をかいた(読んでる新聞の名前を一つも挙げられなかったのもショッキングだったが)あのサラ・ペーリンでもRoe v. Wadeは知っていた。
連邦の法律が違憲かどうかは独立した司法権を持つ裁判所(究極的には最高裁判所)が下すのだが、最高裁判事を指名するのは欠員が発生した時点の大統領(議会の承認は必要)となる。したがって指名が必要となった時の大統領が共和党なのか、民主党なのかで指名される判事の持つイデオロギーは極端に異なる。現状の最高裁判所は共和党大統領に指名された保守派が5人(Roberts、Scalia、Thomas、Alito、Kennedy)と民主党大統領に指名されたLiberal派が4人(Ginsburg、Breyer、Sotomayer、Kagan)となる。ただしKennedyはレーガン大統領に指名された割にはバリバリの保守という感じではなく、彼の下す判断には強いイデオロギーは感じられない。一方、Scaliaなんかはイデオロギーの塊のような人だ。この陣容から分かる通り、今の最高裁判所は保守派有利であり、それだけに、大きな政府の象徴で個人の権限を侵すとも取れるオバマケアの違憲判決には保守派が大きく期待するところであった。判事の構成からも前評判は「おそらく違憲だろう・・・」というものであった。5人の保守派判事が民主党政権のシグニチャー法を一刀両断(!)という世紀末的なシナリオがまさに現実になろうとしていたのだ。
このように、米国の国としての方向、価値観を決める上で最高裁判事の構成は極めて重要だ。また最高裁判所ばかりでなく米国全土の裁判所にどのようなイデオロギーを持つ裁判官がいるかで国民の生活は大きな影響を受ける。大統領選挙とか州議員の選挙に比べて一般的に興味が低いと言える裁判官の信任投票は実はとても大切なプロセスだ。どのような裁判官を法廷に送り込むかという点にフォーカスして活動している団体もあるらしい。この辺りはJohn Grishamの小説「The Appeal」に生々しく描かれているので興味があれば読んでみると面白いだろう。長くなってきたので今回の判決そのものに関しては次回のポスティングで触れたい。
オバマケアの行方に関しては国民全員に医療保険加入させる部分ばかりでなく、法律全体が違憲とされ全ての条項が無効となるShow-Downを予想する前評判が多かっただけに、オバマ政権にとってはさよなら逆転満塁ホームラン級のご褒美となり、逆に保守陣営にとっては信じられない逆転負けとなった、かのように見えた。しかし実際には事はそんなに簡単ではないのが今回の判決が「Intriguing」(日本語でいい表現がみつかりませんでした)なところだ。
今回の判決はその発表数ヶ月前から大きな注目を集めており、最高裁判所が休暇に入る最終日となる6月28日は朝早くから判決結果をいち早く報道しようというメディアの熱気ムンムンであった。しかも最高裁主席判事のRobertsが、一瞬、国民全員に医療保険加入を求める部分は違憲とも取れる論調でスピーチを始めたため、多くのメディアはフライングで「オバマケア違憲判決!」という速報を流してしまった。ホワイトハウスでこの速報を見たオバマ大統領は絶句していたと言う。
僕もたまたまミーティングからの帰りでNYのタイムススクエアの事務所に戻ったところだったが、42NDの交差点にある大きなフラッシュ電光掲示板には「違憲」というニュースが煌々と流れていた。予想していたとは言えやはり衝撃は大きく「ええ~やっぱり。アメリカどうなるんだろう…」と唖然とした。EY社内でも最初のBreaking Newsは「一部違憲!」という形で全社員にメールが流れたので、多くの者が「保険業界その他、これからどう対応するんだろう・・」的な反応を示したであろう。
ところが、保守系のオーディエンスおよび4人の保守系の最高裁判事が唖然とする中、Robertsは「医療保険に加入しない者に課されるペナルティーは税金の性格を持っており、連邦政府は税金を課す権限を持つことから、法律は合憲である」と読み進めたのであった。メディアでは当初のニュースの修正作業に追われ、ホワイトハウスも一転祝勝ムードに早変わりしたそうだ。
*キャスティングボートはナント主席Roberts本人
この判決のとても興味深い点は、大方の予想を裏切って、勝敗を分けたのは浮動票で常にキャスティングボートを握るKennedyではなく、保守派守護神その人である主席のRobertsであった点だ。Liberal派4人プラスRobertsによる主判決という異例のアライアンスとなった。日本に居るとその感動は理解し難いかもしれないが、Robertsのこの判断は歴史に残るマスターピースとなると言われている。
*二つのイデオロギーと最高裁判所の構成
アメリカの政治は二大政党に基づくものだ。もちろん、独立党の動きはたまにあるし、保守派の中でもより憲法に忠実で個人の権限を最重要視するLibertarianのような思想は二大政党政治の枠外と取り扱われてもおかしくない。しかし現実には保守の共和党とLiberalの民主党の二つのイデオロギーの戦いが続いている。民主党のクリントン、共和党のロムニーは各々の政党の考え方は基本的に踏襲しながらも中道路線を行くタイプなのに対し、ブッシュ(ジュニア)というかその裏のチェイニーとかはかなり右よりの保守となる。
なにが保守で、何がそうでないのか、という点は分かり難い部分もあるが、代表的な部分で行くと、銃規制反対、中絶反対、キリスト教に近い価値観、小さな政府で低税率、というところが保守の価値観だろうか。すなわちこれの反対がLiberalとなる。もちろん、国民一人一人は「政府は小さい方がいいけど、銃は反対」とか「銃は自分の身を守るために絶対自由に持ちたいけど、政府はできるだけのことをして国民の生活を守って欲しい」とか、全ての価値観に関して一方の政党と完全に共感しているとは限らない。また小さい政府と言っても、必ずしも全て個人任せという感覚(Libertarianはこれに近い)よりも、「連邦」政府の権限は限定しておいて、後は国民により近い存在である州政府に任せるという感覚が強いような気がする。
この辺りの詳しい話しは米国憲法論になるので全て網羅できないが、米国の法律を扱う上の基本中の基本は「連邦議会・政府は限定的権限」のみを持つという点だ。すなわち、州がDefaultであり、連邦憲法で明確に規定してある事柄のみ連邦議会・政府は管轄してよいことになる。憲法に規定されていないことを連邦議会が法制化した場合、それは違憲となり無効となる。この判断をするのは裁判所の役割だ。国全体で管理せざるを得ない国防、移民等の分野はもちろん連邦に委ねられているのだが、連邦議会は他にも多くの法律を通している。連邦議会が法律を制定する上で一番便利な憲法条項に「通商条項(Commerce Clause)」というのがある。これは州間で行われる通商に関しての法律は連邦議会で法律を制定してもよろしいというもので、Due Process条項と並んで広範な法律を制定できる拠り所となっている。例えば、州の法人税計算は、自州の者だけ有利に扱ってはいけないとか、配賦計算をしないといけないとか、また 物販に係る勧誘行為のみを州内で行う者に州は課税できないとか、諸々の法律を連邦議会は通商条項下で制定することができる。しかし、言い方次第で間接的にはほぼどんな法律でも州間の通商に関係するように結び付けることができるため、通商条項は連邦議会にとって便利な条項となる。銃規制とかまでも通商条項に基づいて行おうとしたりすることになる。
連邦議会の権限が大きくなればなるほど連邦は「大きな政府」となる。これは保守派の嫌うところであり、連邦政府の権限拡大は個人の自由を制限すると受け取られる。そこで機会があれば通常条項の利用にも歯止めを掛けたいと願う。また、Roe v. Wadeで示された連邦による中絶容認(一定の期間まで)判決は、保守派から見ると本来、連邦議会・政府の出る幕でない分野に連邦が首を突っ込んでいるという見方となる。今でも大統領選挙で大きな議論となるのは、候補者がRoe v. Wade判決をどう思うかという点だ。CBSニュースのKatie Couricとのインタビューで重要な最高裁判所の判例を挙げることができなくて恥をかいた(読んでる新聞の名前を一つも挙げられなかったのもショッキングだったが)あのサラ・ペーリンでもRoe v. Wadeは知っていた。
連邦の法律が違憲かどうかは独立した司法権を持つ裁判所(究極的には最高裁判所)が下すのだが、最高裁判事を指名するのは欠員が発生した時点の大統領(議会の承認は必要)となる。したがって指名が必要となった時の大統領が共和党なのか、民主党なのかで指名される判事の持つイデオロギーは極端に異なる。現状の最高裁判所は共和党大統領に指名された保守派が5人(Roberts、Scalia、Thomas、Alito、Kennedy)と民主党大統領に指名されたLiberal派が4人(Ginsburg、Breyer、Sotomayer、Kagan)となる。ただしKennedyはレーガン大統領に指名された割にはバリバリの保守という感じではなく、彼の下す判断には強いイデオロギーは感じられない。一方、Scaliaなんかはイデオロギーの塊のような人だ。この陣容から分かる通り、今の最高裁判所は保守派有利であり、それだけに、大きな政府の象徴で個人の権限を侵すとも取れるオバマケアの違憲判決には保守派が大きく期待するところであった。判事の構成からも前評判は「おそらく違憲だろう・・・」というものであった。5人の保守派判事が民主党政権のシグニチャー法を一刀両断(!)という世紀末的なシナリオがまさに現実になろうとしていたのだ。
このように、米国の国としての方向、価値観を決める上で最高裁判事の構成は極めて重要だ。また最高裁判所ばかりでなく米国全土の裁判所にどのようなイデオロギーを持つ裁判官がいるかで国民の生活は大きな影響を受ける。大統領選挙とか州議員の選挙に比べて一般的に興味が低いと言える裁判官の信任投票は実はとても大切なプロセスだ。どのような裁判官を法廷に送り込むかという点にフォーカスして活動している団体もあるらしい。この辺りはJohn Grishamの小説「The Appeal」に生々しく描かれているので興味があれば読んでみると面白いだろう。長くなってきたので今回の判決そのものに関しては次回のポスティングで触れたい。
Wednesday, May 30, 2012
Facebook, Inc.上場と創業者利益
Facebook株式のNASDAQ上場は世紀の大型上場として上場前後に大きな注目を集めていた。上場後に株価が38ドルの上場価格から下落したことでインベストメントバンク、経営陣、またシステム障害を起こして上場初日の売買処理に支障をきたしたNASDAQに対する批判的な報道が相次いでいるが、何か目に見える物を製造したりしているような事業でないだけにその事業価値の評価は難しいだろう。
ちなみに僕が所属するErnst & Young(EY)はFacebookの監査人だが、今回のポスティングの内容は全て公にされているデータに基づくものである点一応お断りしておく。上場前には社内メールで「(監査人独立性の観点から)株式を買ったりしないように!」と当たり前の注意が入っていた。チョッと宣伝させてもらうとEYはハイテク、SMN系の産業には滅法強い。Google、Apple、インテルという大御所を監査クライアントに持つばかりでなく、Facebookを含むSMN系のクライアントの多くもEYの監査クライアントだ。余りに強いのでSMNという新しいビジネスに適用される会計処理法を決めているのはEYだというような揶揄が確かFortune(もしからしたらForbus?)に載ったりしているのを目にしたことがある。
*上場とストックオプション
今回のFacebook株式上場はその規模で他を圧倒する。会社の時価総額は1,000億ドル(80円換算(以下同じ)で8兆円!)を超えると評価され、上場でFacebookは160億ドル(1兆3千万円)を調達した。
その規模故に税務面でのインパクトもかなり派手だ。上場前にSECに提出されている文書を見ると創業者であるMark Zuckerbergは1億2千万株におよぶストックオプション(全て権利確定済み)を行使するとされる。オプション行使のタイミングは明確ではないが、オプション行使権が失効するのが2015年となっていることから、上場時に行使される可能性は高い。
オプション行使価格(一株を取得するのに必要となる支払額)はナントたったの「6セント(0.06ドル)」だそうだ。仮に上場価格(38ドル)で行使したとすると、オプション所得は46億ドル(3,600億円)となる。
ここでストックオプションに対する米国税務上の取り扱いに簡単に触れておくと、オプションはISOと呼ばれる適格オプションと、そうでないもの、すなわち非適格(NonqualifiedのStock OptionなのでNQSOと略される)オプションに区別される。ISOは日本の適格オプションがそうであるようにいろいろな条件が付くが、今回のFacebookのような巨額のオプションがISOになるはずもなく、Zuckerbergが付与されているのは当然NQSOとなる。
NQSOは行使時と株式売却日各々で課税関係が生じる。まず、行使時点ではスプレッド、すなわち上の例で言う46億ドル、が給与所得扱いとなる。給与なので雇用者側では同額が損金算入される。その後、オプションを行使して取得した株式を売却すると、行使時点の時価(今回の例だと46億ドル、行使価格が低すぎるのでほぼ時価=スプレッドとなるため)を簿価としてキャピタルゲイン・ロスを認識することとなる。
これらのことから、株価が上場価格前後で推移している時点でオプションを行使すると仮定すると、Zuckerbergは46億ドルの給与所得を認識し、それに対する連邦所得税として16億ドルを支払うことが予想される。おそらく1人の個人納税者からの徴収額としては全米新記録ではないだろうか。Zuckerbergがシリコンバレーのあるカリフォルニア州の居住者であると仮定すると(以外に本人はネバダのHome Officeにしかいなかったりして?)カリフォルニア州所得税だけでも4億ドルに上る。更に給与扱いなので社会保障税FICAの対象となる。公的年金部分は基本給だけで課税標準の上限に達しているだろうから、老齢年金のMedicare部分だけとしても更に1億ドルだ。さすがにFacebook創業者ともなるとスケールが大きい。
基本給と言えば、とてもModest(?)で「僅か」150万ドルだそうだ。しかも本当の給与は50万ドルとオプション所得に比べるとかなり庶民的で、残りのほとんどは社有ジェットの個人使用分(友人と一緒に飛んだりしている部分)、個人のファイナンシャルプラニング費用を会社が支払っている金額、等のみなし給与が占める。会社負担のZuckerbergの身辺セキュリティー(護身)費用は会社のベネフィットのために提供されているということで個人のみなし所得とは取り扱われていないと言われている。同じ身辺セキュリティー費用でも、アマゾンのJeffrey Bezosが全てみなし給与として取り扱っているのと異なり興味深い。ちなみにBozosはほとんど給与を受け取っておらず、開示されている年収のほぼ全てがセキュリティー費用のみなし給与だと聞いたことがある。
更に面白いことに2013年からのZuckerbergの年棒はナンと1ドルだそうだ(プラス実際にはジェット使用、その他のフリンジベネフィットで給与扱いとなる分)。46億ドルのオプション所得があれば1ドルの給料でも喜んで働きたくなるだろう。
*源泉徴収義務
46億ドルは税務上、給与所得と位置づけられることから、通常の給与同様に(金額は大分違うけど)源泉徴収の対象となる。NQSOから発生する給与所得に対する源泉徴収は実際に現金で会社が給与を支給する訳ではないので、天引きの対象となるキャッシュがないというメカニカル的な問題が発生する。
通常であればオプションを行使する者から現金を拠出させるか、または会社が一時立替をすることもある。今回のケースでは上場が絡んでいるので変な立替はSECのルールに抵触したりする可能性もあり、どのように源泉税をファイナンスするかかなり興味深い。もしかしたら、上場をアレンジしたインベストメント・バンクがオプション行使にも関与していて何らかのファイナンスを付けるのかもしれない。
*株式売却のタイミング
オプションを行使しただけではZuckerbergの手元に現金は残らないのでその後、株価のタイミングを見て市場に放出されるだろう。放出のタイミングは株価への影響もあるのでインベストメント・バンクのアドバイスがかなりの影響力を持つはずだ。一時は$50なんていう話もあったが、現時点では上場価格の$38に戻るかどうかというレベルなので、キャピタルゲインを狙うのはもう少し先の話となりそうだ。いずれにしても、2012年以降には個人所得税率アップの可能性もあり、現時点で給与扱い部分の金額はロックしておき、将来的な株価アップ分はキャピタルゲイン税率(こちらも現時点では15%だが2012年以降は20%となる可能性も)を狙っていくことになるだろう。
株価が冴えないので、ショートポジションを取っておくなんてことはInsiderなので法的に認められないはずだが、まさかデリバティブを利用して・・・、なんてことはあるのかも。
*雇用者側への影響
上述の通り、給与所得に相当する46億ドルは雇用者であるFacebook, Inc.にとっては損金算入費用となる。SEC提出文書によると、創業間もない企業としては大きな利益を上げていると言えるFacebookだが、さすがに創業者一族がオプションを行使した場合にはそれに匹敵する課税所得はなく、結果としてNOLに基づく法人税の還付が発生すると予想される。還付額は5億ドルに上る可能性があると開示されている。
とてつもない金額の所得、費用となることから早速「オプション行使に基づく給与所得の損金算入には上限が設けられるべき」とか「巨額のオプションを持つ場合には、株式時価との差額の一部をMark-to-Marketで即刻課税してはどうか」というような「Zuckerbergタックス」案を提唱する者が現れている。金持ちとか権力者をターゲットにする法案の話しが庶民に受けるのは古代ローマ時代から変わりがないようだ。
それにしても2004年に文字通り学生寮の一室から始まったスタートアップがこのような化け方をするとはアメリカンドリームも未だ健在と言えるかもしれない。
次回はFacebookシリーズ第2弾で上場利益を享受する前に米国タックスから逃れるために市民権を返上してしまった方の話に触れたい。
ちなみに僕が所属するErnst & Young(EY)はFacebookの監査人だが、今回のポスティングの内容は全て公にされているデータに基づくものである点一応お断りしておく。上場前には社内メールで「(監査人独立性の観点から)株式を買ったりしないように!」と当たり前の注意が入っていた。チョッと宣伝させてもらうとEYはハイテク、SMN系の産業には滅法強い。Google、Apple、インテルという大御所を監査クライアントに持つばかりでなく、Facebookを含むSMN系のクライアントの多くもEYの監査クライアントだ。余りに強いのでSMNという新しいビジネスに適用される会計処理法を決めているのはEYだというような揶揄が確かFortune(もしからしたらForbus?)に載ったりしているのを目にしたことがある。
*上場とストックオプション
今回のFacebook株式上場はその規模で他を圧倒する。会社の時価総額は1,000億ドル(80円換算(以下同じ)で8兆円!)を超えると評価され、上場でFacebookは160億ドル(1兆3千万円)を調達した。
その規模故に税務面でのインパクトもかなり派手だ。上場前にSECに提出されている文書を見ると創業者であるMark Zuckerbergは1億2千万株におよぶストックオプション(全て権利確定済み)を行使するとされる。オプション行使のタイミングは明確ではないが、オプション行使権が失効するのが2015年となっていることから、上場時に行使される可能性は高い。
オプション行使価格(一株を取得するのに必要となる支払額)はナントたったの「6セント(0.06ドル)」だそうだ。仮に上場価格(38ドル)で行使したとすると、オプション所得は46億ドル(3,600億円)となる。
ここでストックオプションに対する米国税務上の取り扱いに簡単に触れておくと、オプションはISOと呼ばれる適格オプションと、そうでないもの、すなわち非適格(NonqualifiedのStock OptionなのでNQSOと略される)オプションに区別される。ISOは日本の適格オプションがそうであるようにいろいろな条件が付くが、今回のFacebookのような巨額のオプションがISOになるはずもなく、Zuckerbergが付与されているのは当然NQSOとなる。
NQSOは行使時と株式売却日各々で課税関係が生じる。まず、行使時点ではスプレッド、すなわち上の例で言う46億ドル、が給与所得扱いとなる。給与なので雇用者側では同額が損金算入される。その後、オプションを行使して取得した株式を売却すると、行使時点の時価(今回の例だと46億ドル、行使価格が低すぎるのでほぼ時価=スプレッドとなるため)を簿価としてキャピタルゲイン・ロスを認識することとなる。
これらのことから、株価が上場価格前後で推移している時点でオプションを行使すると仮定すると、Zuckerbergは46億ドルの給与所得を認識し、それに対する連邦所得税として16億ドルを支払うことが予想される。おそらく1人の個人納税者からの徴収額としては全米新記録ではないだろうか。Zuckerbergがシリコンバレーのあるカリフォルニア州の居住者であると仮定すると(以外に本人はネバダのHome Officeにしかいなかったりして?)カリフォルニア州所得税だけでも4億ドルに上る。更に給与扱いなので社会保障税FICAの対象となる。公的年金部分は基本給だけで課税標準の上限に達しているだろうから、老齢年金のMedicare部分だけとしても更に1億ドルだ。さすがにFacebook創業者ともなるとスケールが大きい。
基本給と言えば、とてもModest(?)で「僅か」150万ドルだそうだ。しかも本当の給与は50万ドルとオプション所得に比べるとかなり庶民的で、残りのほとんどは社有ジェットの個人使用分(友人と一緒に飛んだりしている部分)、個人のファイナンシャルプラニング費用を会社が支払っている金額、等のみなし給与が占める。会社負担のZuckerbergの身辺セキュリティー(護身)費用は会社のベネフィットのために提供されているということで個人のみなし所得とは取り扱われていないと言われている。同じ身辺セキュリティー費用でも、アマゾンのJeffrey Bezosが全てみなし給与として取り扱っているのと異なり興味深い。ちなみにBozosはほとんど給与を受け取っておらず、開示されている年収のほぼ全てがセキュリティー費用のみなし給与だと聞いたことがある。
更に面白いことに2013年からのZuckerbergの年棒はナンと1ドルだそうだ(プラス実際にはジェット使用、その他のフリンジベネフィットで給与扱いとなる分)。46億ドルのオプション所得があれば1ドルの給料でも喜んで働きたくなるだろう。
*源泉徴収義務
46億ドルは税務上、給与所得と位置づけられることから、通常の給与同様に(金額は大分違うけど)源泉徴収の対象となる。NQSOから発生する給与所得に対する源泉徴収は実際に現金で会社が給与を支給する訳ではないので、天引きの対象となるキャッシュがないというメカニカル的な問題が発生する。
通常であればオプションを行使する者から現金を拠出させるか、または会社が一時立替をすることもある。今回のケースでは上場が絡んでいるので変な立替はSECのルールに抵触したりする可能性もあり、どのように源泉税をファイナンスするかかなり興味深い。もしかしたら、上場をアレンジしたインベストメント・バンクがオプション行使にも関与していて何らかのファイナンスを付けるのかもしれない。
*株式売却のタイミング
オプションを行使しただけではZuckerbergの手元に現金は残らないのでその後、株価のタイミングを見て市場に放出されるだろう。放出のタイミングは株価への影響もあるのでインベストメント・バンクのアドバイスがかなりの影響力を持つはずだ。一時は$50なんていう話もあったが、現時点では上場価格の$38に戻るかどうかというレベルなので、キャピタルゲインを狙うのはもう少し先の話となりそうだ。いずれにしても、2012年以降には個人所得税率アップの可能性もあり、現時点で給与扱い部分の金額はロックしておき、将来的な株価アップ分はキャピタルゲイン税率(こちらも現時点では15%だが2012年以降は20%となる可能性も)を狙っていくことになるだろう。
株価が冴えないので、ショートポジションを取っておくなんてことはInsiderなので法的に認められないはずだが、まさかデリバティブを利用して・・・、なんてことはあるのかも。
*雇用者側への影響
上述の通り、給与所得に相当する46億ドルは雇用者であるFacebook, Inc.にとっては損金算入費用となる。SEC提出文書によると、創業間もない企業としては大きな利益を上げていると言えるFacebookだが、さすがに創業者一族がオプションを行使した場合にはそれに匹敵する課税所得はなく、結果としてNOLに基づく法人税の還付が発生すると予想される。還付額は5億ドルに上る可能性があると開示されている。
とてつもない金額の所得、費用となることから早速「オプション行使に基づく給与所得の損金算入には上限が設けられるべき」とか「巨額のオプションを持つ場合には、株式時価との差額の一部をMark-to-Marketで即刻課税してはどうか」というような「Zuckerbergタックス」案を提唱する者が現れている。金持ちとか権力者をターゲットにする法案の話しが庶民に受けるのは古代ローマ時代から変わりがないようだ。
それにしても2004年に文字通り学生寮の一室から始まったスタートアップがこのような化け方をするとはアメリカンドリームも未だ健在と言えるかもしれない。
次回はFacebookシリーズ第2弾で上場利益を享受する前に米国タックスから逃れるために市民権を返上してしまった方の話に触れたい。
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