Saturday, March 13, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(7) 「BEAT, お前もか」

さて、前回まで3回に亘り、GILTI増税案の話しをしてきたけど。今日はBEAT。バイデン政権にはBEATも手緩いと考えている一派がいる。まさしく「BEAT、お前もか」の心境(何それ?)。

BEATも「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」で触れたGILTI立法趣旨同様、米国がテリトリアル課税に移行するにあたり、そのまま移行してしまうと、全世界実効税率ゼロ%となり兼ねないため、想定される派手なBase Erosionに網を掛けるためのものだ。ピラー2のUTPRとIIRの関係とは異なり、BEATはGILTIを補完するために規定されている訳ではなく、全く別の規定としてGILTIと共存している。例えば、米国法人がCFCにロイヤルティーを支払い、仮にそのロイヤルティー所得がCFC側でGILTI対象のTested Incomeの一部を構成するとしても、関係なくBase Erosion Paymentになる。したがって最悪のシナリオだと、まず米国側で損金算入効果がBEAT税率10%に低減され、更にまるで往復ビンタかのように、CFCからTested Incomeとしてフローアップしてくる同額に米国で10.5%(FTC前)課税される。

バイデン政権が抱いている現状のBEATが手緩いという感覚も、GILTIに対する感覚同様、米国外関連者への支払いは全て悪という前提で課税は当然、というアプローチに見え、もともとBEAT導入時の、過度に阿漕なBase Erosionに網を掛ける、というアプローチの更に先を行っているように見える。

で、まずは例によって現状のBEAT規定のおさらいから。ちなみにBEAT課税そのものに関しては2018年から何回か詳細に触れているので、細かい点は過去のポスティングを参照して欲しい。

BEATはIRCのsection 59Aに規定され、法文のタイトルは「Tax on Base Erosion Payments of Taxpayers with Substantial Gross Receipts」。これだけだと、どうして「BEAT」っていうキャッチーな略になるのか分からないと思うけど、これはもともとBEATが、両院が可決した法文のSubtitle D(国際課税部分)のPart IIで section 14401として「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」というヘッディング下に導入され、その後IRCにCodifyされる過程でも、今度は税法上のPart VIIに「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」が足され、その傘下に独立した条文として規定されることになったことによる。「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」なんでBEATなんだけど、これは予めキャッチーAcronymにするために考えて命名されている。GILTIも同様。

ただし、条文名やPartのタイトルとかが何であっても、それらが条文の規定内容や適用可能性に影響を持つことは一切ない。この点はわざわざ税法にも明記されている。「BEAT」という条文名やタイトルを見て「私はBase Erosionを通じたAbuseはしていないので、Anti-Abuse規定の対象ではありませんよ」みたいな屁理屈を封じるためだ。

で、BEATだけど、税額決定をカバーしている税法上の一部に属し、BEATミニマム税がある場合、他の税金に加えて賦課すると規定されている。TCJAで法人に関しては撤廃されたAMTが、同パートのSection 55から59に規定されてたけど、BEATは59A。BEATはAMTの代わりという議会や財政委員会の感覚通りの構成だ。「A」っていうのは、単純に付け加える番号がない場合に便宜的に使われるだけで、263A (UNICAP)、 245A (DRD), 951A (GILTI)とかいろいろあるけど、アルファベットそのものに何か意味がある訳ではない。

AMTは、将来生じる通常法人税にクレジットされるっていう規定があったんで時差だったけど、BEATには同様の規定はなく、BEATミニマム税は一旦賦課されると払い損。この点、AMTの代わりっていうのは語弊があると思うんだけどね。

還付やクレジット不可となると、何がBEATミニマム税なのか、っていう点が当然気になるよね。これはBEAT修正課税所得に10%掛けた暫定BEAT税額が通常法人税を超過する金額。BEAT税率は2026年から12.5%で、銀行や証券会社は常に1%プラス。課税年度毎の算定なので、超過額がなければそれでおしまい。Excess Limitationsを繰り越ししたりして複数年で平準化させるような規定はない。

また、ここで言う通常法人税は一部クレジットを調整して算定するよう法文では規定されてるけど、算式的には財務省規則のアプローチ、すなわち暫定BEAT税額の方を調整すると考える方が分かり易い。一次方程式の世界だから数式の右と左のどっちで調整するかは見せ方の問題で、プラスとマイナスを混同しなければどっちでも結果は同じ。財務省規則風にアプローチすると、BEATミニマム税算定時に比較対象となる通常法人税は全てのクレジットを引いた後となる一方、暫定BEAT税額はR&Dクレジットだけがフルに認められる。更にBEATミニマム税の80%を上限に「低所得者住居」「再生可能エネルギー発電」「一部のエネルギー」クレジットが認められる。超過額がない、または少ない、方がいい訳だから、通常法人税は高く、暫定BEAT税額は低い方がいい。なので、通常法人税にクレジットが全て認められたり、暫定BEAT税額にはクレジットが取れなかったりするのは不利な取り扱いとなる。特に、比較対象となる通常法人税はFTC後なので、暫定BEAT税額にFTCが認められないのは痛い。GILTI後の世界では、CFC所得を合算した後に巨額のFTCでその弊害を除去するのが米国多国籍企業の基本的な姿になるからFTCの影響は多大。しかもR&Dクレジットやその他のクレジットの恩典は2025年までの時限措置で、その後は暫定BEAT税額にクレジットは一切認められなくなる。

BEATミニマム税はBEAT適用法人のみが対象だけど、これは過去3年間の平均売上が$500M以上、そしてBase Erosion%が3%以上の法人。この2つの判断は、法人個社や連結納税グループ単位ではなく、直接間接に50%超の資本関係にある「Aggregate」グループで合算して行う。この合算法だけでも本が書けるくらい複雑だ。

で、適用対象となると、上述のBEAT計算をさせられる。これは法人個社、または連結納税している場合には、連結納税グループ単位の計算。暫定BEAT税額は修正課税所得に10%掛けた金額だけど、修正課税所得っていうのは、通常の課税所得にBase Erosion Tax Benefitおよび繰り越しや繰り戻しNOLを使用している場合にはNOLにBase Erosion%(NOL発生年度ベース)を掛けた金額を加算して計算する。

適用対象となるかどうか、またNOLのうちいくらを加算するか、の判断時に登場するBase Erosion%は、毎課税年度に計上する控除額(=Deduction)総計を分母、Base Erosion Tax Benefitを分子として算定する。Deductionは税法上定義される金額で、特筆すべき点としては棚卸資産への資産計上を経由して控除されるCOGSは含まない。Base Erosion Tax BenefitとはBase Erosion Paymentのうち、対象課税年度にDeductionとして計上されている金額。Base Erosion Paymentとは外国関連者に対する支出。棚卸資産経由のCOGSがDeductionとならないことから、外国関連者に対する支出に基づく費用でも、税法上、棚卸資産に資産計上が求められる金額は、Base Erosion PaymentにもTax Benefitにもならない点は重要。

こんな概要なんだけど、バイデン政権は現状のBEAT制度の2点を問題視している。まずは適用対象法人の決定に適用されるBase Erosion3%基準。3%行くか行かないかで取り扱いが大きく異なるので、2.999%になるよう、Deductionを自己否認することを認める財務省規則が出たりしている。売上$500M要件は多国籍企業にとって回避はできないので、3%基準が重要だけど、この3%要件を撤廃してしまうという案。となると、過去3年の平均売上が$500M以上だど、それだけをもって常にBEAT適用対象法人になることになる。

さらにBase Erosion PaymentやBase Erosion Tax Benefitに棚卸資産に資産計上される支出が含まれない点も問題視している。すなわち、現状ではInversion企業を除き、棚卸資産に資産計上される支出、例えば製造ロイヤルティー、は外国関連者に支払っていてもBase Erosion Paymentには当たらないが、これを改定しようというものだ。

Base Erosion%要件やCOGSとDeductionの関係は2つとも法文に規定されるものなので、バイデン政権得意の大統領令や、または財務省規則ではオーバーライドできない。したがって、議会による税制改正が必要となる。Base Erosion%を3%未満とするために費用を自己否認する規定は、財務省規則ベースだけど、この規則もある意味、税法上、それが可能なため、悪用されないように自己否認法をタイトに規定している側面が強く、その運命は不明。

BEATの運命はいかに。どうなることでしょうか。次回はCbCRの公開義務やバイデン政権とOECDの歩み寄り等に関して。