Wednesday, June 26, 2019

GILTI最終規則遂に公表

前回と前々回のポスティングではFDIIの話しを中断して、ここ10年、米国上院が最終化できなかった条約批准手続きに動きがある、というスクープに触れた。批准の動きは活発なようで、今度こそ長いトンネルの先にようやく光、となるといいけどね。FIRPTA適用時の米国不動産法人の定義が現行の条約では世界一有利なので、再編等で条約を利用するんだったら急がないとね。

税制改正に戻るけど、2017年12月22日に税制改正が可決され、この6月22日で18カ月が経った。2019年6月22日までに最終化される財務省規則は、法律可決日に過去訴求して法的な効力を持たせることができるので、当初から重要な規則はこの日をターゲットに最終化を目指してきた。でも、さすがに規定が複雑過ぎ、かつポリシー的なコールに関しては賛否両論、喧喧囂囂となっている規定も少なくなく、22日までに最終化されるのはTransition Tax以外ではGILTI規則だけだろう、と言われていたけど、本当にGILTIは最終化された。しかもSubpart Fや245Aの取り扱いを規定する新規則案やAnti-Abuse系の暫定規則追加3つのパッケージと共に計4部作。総計505ページの超大作だ。財務省やIRSのChief Counsel Officeは本当に優秀。普段、税務調査で遭遇するIRSのAgentと同じAgencyに属するとは思えない(?)。

6月14日午後4時、金曜日ということもありNYCでは早々に仕事を切り上げマンハッタンからハンプトンに脱出するTrafficで、Midtownトンネルに向かうMidtown East辺りからLong IslandのQueens Midtown Expresswayは既に大渋滞に陥っている頃、またロサンゼルスでは未だ午後1時だというのに、いつも通り何の意味もなく時間にも上下線にも関係なく405が大渋滞になっている頃、何の前触れもなくGILTI最終規則が公表された。DCでは金曜日の午後も後半を迎え、しかもFather’s Dayの直前ということで、「出るとしても月曜日だろう・・」とすっかり油断していた矢先の出来事だった。

このパッケージは凄い。2017年の税制改正はGILTIに始まりGILTIに終わると言っても過言ではないけど、GILTIそのものに留まらず、派生的に影響を受ける100%配当控除や従来からのSub Fへの影響など、を一気にパッケージで複数提示しているところに感動。テリトリアル課税の100%配当控除を規定している245Aの使用にかかわるAnti-Abuseは説明が難しいけど、日本企業にもSituation次第では影響がありそう。FDIIのポスティングを続けないといけないとは知りつつ、今回のポスティングでは「旬」の話題としてGILTIの最終規則に簡単に触れざるを得ない状況。

GILTI最終規則の多くの規則の中でいくつかヘッドライン的なものを挙げるとすると、High-Tax Exception、米国パートナーシップの取り扱い、Tested Lossを他のCFCに使用されたCFCの株式簿価の調整メカニズムの撤回、の3つだろうか。実際に申告書を作成する者には、何十年も遡ってADSに基づく償却を計算しなくてもいいかも、っていう明るいニュース部分が一番ハッピーだったかもね。

まずは、「High-Tax Exception(HTE)」。GILTIにかかわるHTEは最終規則には敢えて規定されていないので、最終規則のポスティングとしては変わったキックオフになるけど、同時公表された新らたな規則「案」で提案されている。HTEはGILTIの法文そのものには規定されていないにも関わらず、既存のSub Fに規定される限定的なHTEを利用した財務省の(かなり)Creativeな理論で規則策定の権限を正当化した上での英断。これは超ビッグディール。三権分立的には行政府の規則策定権限の範囲内かどうか疑義が残るが、納税者に有利な規定なので訴訟に持ち込まれることも考え難いし、おそらくいHill(議会立法府)のメンバーとはすり合わせをした上での策定だろうから、実務的にこの点が問題となるリスクは低い。

以前から触れている通り、GILTI合算のベースとなるTested Incomeは、CFCでどれだけ高税率に晒されていても、原則関係なく合算対象となる。これはGILTIの「Low-Taxed Income」という名称から受ける印象と大きく異なる取り扱いだ。GILTI法に明確に規定されているCFC側の高税率にかかわる唯一の例外は、既存のCFC課税に基づきSub Fになるけど、Sub Fに規定されているHTEで所得がSub Fからキックアウトする選択を納税者が行っている場合、Sub Fから除外されるとは言え、それをもってGILTI目的のTested Incomeにはならない、と言う規定。回りくどいけど、すなわちSub FでないCFCの所得は原則Tested Incomeになるけど、HTEでSub Fではないと選択する所得はTested Incomeからも除外してあげましょう、という規定だ。

GILTIが立法される過程の両院Conference Repotの一部に「CFCが米国外で少なくとも13.125%の法人税を支払っていればFTCを通じてGILTI合算に基づく追加税負担は米国で発生しない」と言い切っている部分がある。FTCがきちんとGILTI合算額マイナスGILTI控除の10.5全額教科書通り取れればそうなんだけど、FTCを勉強した人は初日に習うベーシックとして、FTCの枠は米国株主側で計上される費用を外国源泉所得に配賦して制限枠を減額しないといけないので、現実には、米国株主側の支払利息を代表とする「米国の」費用が控除制限枠を圧縮する。簡単に言うと、外国源泉所得に配賦されてしまう費用は21%で課税される、または費用控除が実質否認されているのと同様の効果をもたらす。なんで米国MNCにとって、費用配賦法を規定しているSection 861は最重要規定のひとつと位置付けられるし、FTC規則パッケージ、Transition TaxやGILTI規則でも大きな話題となる。税制改正ではGILTIと100%配当控除対象となる二つの大きな新カテゴリーが外国源泉所得に加えられたので、FTCおよび費用配賦の計算時にこれらの新カテゴリーをどう処理するかは複雑かつ重要な検討となる。100%配当控除に関しては法律でどのように費用処理を考えると簡単に触れられているが、GILTIに関しては特に新規定は設けられていない。ここは財務省がFTC規則案を公表した際に、結構Creativeに既存のExempt Assetに準じる規定をGILTIバスケットに適用し、GILTIは通常の税率の半分の税率で課税されることから、支払利息のように資産ベースで費用配賦計算を行う場合には、GILTI資産として取り扱われるCFC株式簿価の半分を「非課税資産」として取り扱うとしている。この英断のおかげで、GILTIバスケットへの費用配賦額は低くなるけど、それでも費用配賦が存在する限り、CFCの米国外での税負担がどんなに高くても一切関係なく米国で追加の法人税が発生することになる。

上で触れた、従来から存在するSub FのHTEでは、米国法人税率の90%超の法人税率の対象となっている所得は合算課税の対象外とする、っていうもの。以前は法人税率が35%だったので、その90%は31.5%で、そんな高税率の国はもはや世の中に存在しないに近かったので、あんまり役にたつ除外規定とは言えなかった。税制改正で法人税率が21%に下がり、それに準じて90%も18.9%というそれらしい税率に引き下がったのでHTEがにわかに息を吹き返したような状況になっている。

とは言え、先々週の金曜日までは、これはあくまでSub Fの世界の話しでGILTI目的では、原則CFCが認識するTested Incomeが何%の税率に晒されていても関係ない話しだった。数週間前からDCでは、今回の最終規則でTested Incomeが米国外で18.9%等の一定以上の高税率で課税されている場合、GILTI合算計算から除外するような広範なHTEの導入が噂されていたけど、結局は最終規則そのものには盛り込まれなかった。その意味では米国MNC側の落胆は大きいかも。ただ、HTEを常に選択するのがベストとは限らないので、かりにHTEが規定された後も納税者各々が置かれている個々の状況を基に詳細なモデリングを行って選択のメリット・デメリットを見極める必要がある。

で、なんで最終規則に盛りこまれなかったのに、最終規則のポスティングの冒頭にこの話しをしているかと言うと、上述の通り、最終規則と同時に「新たな」規則案が公表され、そこで従来のSub Fに対するHTEと同様のHTEが提案されているからだ。同様とは言え、Sub FとTested Incomeはその性格が大きく異なるので、実際の適用は結構異なる。また、新規則草案が最終規則となるまでは、規則案で提案されてるHTEは使用してはいけない旨が最終規則、規則案の双方に明記されているので、あくまでも案として提案されている状況。過去訴求はないと明記されているので、規則案が正式に公告された後に開始する課税年度からの適用となり、暦年ベースの場合は早くてCFC課税年度の2020年からの適用となる。これだけ明確に未だ使っちゃダメと書いてあるのに、米国MNCや弁護士事務所は2018年の申告書に適用する法的確証度合いはあるか、とか分析しているところが面白い。もちろんMLTNどころかFiling Positionすら怪しいだろう。

次回はGILTIと米国パートナーシップに関して。