Tuesday, May 1, 2007

三角合併(2)他手法との比較

米国における合併の基本は前回のポスティングで触れたが、合併の中でも三角合併という手法に関して簡単に触れておく。米国でも日本語の「三角」と全く同じで三角合併は「Triangular Merger」として知られている。三角合併のメカニズムは日本でも今では広く理解されていることと思うが、通常の二社間の合併とは異なり、3社が関与して行われる合併のことである。具体的には買収する側の企業、その子会社、そして買収される企業の3社である。米国における通常の三角合併では、買収する企業の子会社は合併のために新設される特別目的法人の形態を取る。

二社間の通常の合併では、買収する企業が直接存続法人となるため、消滅法人が持っていた債務の弁済に存続法人となる買収側企業の資産がリスクに曝されるという大きなデメリットがある。消滅法人の債務に関してはDue Diligence等を通じて精査をするにはするが、予期せぬ環境問題、訴訟等に基づく簿外の債務が買収後に顕在化する可能性は否定できない。三角合併では、企業統治をきちんと行っている限り、基本的には子会社レベルでリスクを封じ込めることができるというメリットがある。

三角合併は更に「Forward」と「Reverse」に大別される。Forwardは直訳すると「前方向に」という意味であるが、Forward三角合併は「通常」の三角合併のことである。Forward三角合併においては、買収する側の企業が合併のために新規子会社を設立する。新規子会社である必要はないが、大抵の場合は合併目的で設立される特別目的法人である。この子会社は買収企業(子会社からみた親会社に当たる)が自己株式を現物出資する形で設立されることから、子会社には親会社の株式以外に資産は持たない。買収される企業はこの子会社を存続会社として合併されるのであるが、通常の合併と異なり、消滅法人の株主は存続法人である子会社の株式を受け取らず、代わりに親会社の株式を受け取る。三角合併後の組織図は、買収が株式交換にて行われたケースに極めて近い。唯一の違いは、株式交換では買収される側の法人がそのまま買収側の法人の子会社として存続しているのに対し、Forward三角合併では買収側の法人が設立した新規子会社が存続し、もともとの買収される側の法人は合併により消滅しているという点である。

最終結果が株式交換または通常の合併と類似しているにも係らず、三角合併という手法が好まれることがあるには理由がいくつかある。まず、三角合併という手順を踏むことにより、買収される側の法人を必ず100%子会社とできる点が挙げられる。すなわち、買収される側の株主に、仮に買収を望まない少数株主が存在したとしても「合併」という手法を用いることにより、強制的に買収する側の親会社の株式と交換させることができる。株式交換では、州法、手順にもよるが、個々の株主との買収交渉となるため、必ずしも少数株主全員から株式を取得することができるとは限らない。少数株主の存在は、買収する側にとってみると、買収後の戦略決定・実施に当たり、少数株主に不利益をもたらすという訴えを起こされるリスクを常に抱えることとなることから好まれない。これは少数株主が存在する場合には、経営者は少数株主に対しても受託者義務を負うこととなるため、企業として取るアクションが少数株主に不利益をもたらすことがないよう配慮する必要があるからである。これはもちろん悪いことではないが、実務的には弾力的な経営を困難にするような側面もあり、買収する側としては避けたいパターンであるのは間違いないであろう。株式交換という手法を用いる場合にも、州法で「Plan of Exchange」という手法が規定されている場合には、買収に反対する少数株主に対しても株式交換を強制する手段がある場合がある。

また、実務的に多くの株主と個々に株式売買契約を締結することは難しい。この点に関しては「アメリカで三角合併が多用される訳」でUpdateしたのでそちらを参照のこと。

次に、この点も州法によるが、一般的には三角合併実施の手順には買収する側の企業(親会社)の株主の同意を必要としない。すなわち、合併の当事者はあくまでも特別に設立された子会社となることから、その株主である親会社が株主として合併を承認すればいい。親会社が株主という立場で承認を行うケースでは、親会社の取締役が決議をすれば十分であり、その上更に親会社の株主に同意を得る必要はないというのが原則である。ただし、NASDAQ、NYSE等に上場している場合には特別な規定が適用されることもあるので具体的には個々の案件別に証券法専門の弁護士と確認する必要がある。

もうひとつの三角合併である「Reverse」三角合併であるが、Reverseというのは直訳すると「逆向き」ということであり、Reverse三角合併は文字通り、合併の方向が逆となる。すなわち、Foward(通常の)三角合併では、買収用に特別に設立された買収側企業の子会社が存続法人として合併が行われるが、Reverse三角合併ではなんと、特別に設立された子会社が「消滅法人」として買収される側の法人に合併されるという形を取る。具体的なメカニズムは多少複雑であるが、合併合意書に基づき、合併と同時に買収する側の親会社が持っていた特別目的子会社の株式は、買収される企業の株式に転換される。これは、買収される企業が存続し、特別目的子会社は消滅することから当然である。また、買収される企業の株主が持つ株式は、同じく合併合意書に基づき、買収する側の親会社の株式に転換される。この親会社の株式は、特別目的子会社が設立された際に、親会社から子会社に現物出資された株式そのものである。Reverse三角合併の結果達成される組織図は、株式交換により達成される組織図と「同一(Forwardのケースでは類似)」である。すなわち、買収される企業は消滅せずにそのまま買収側の親会社の子会社に落ち着いている。また、買収される企業の株主は、買収される企業の株式の代わりに買収側の親会社の株式を受け取っている。

買収する側の、しかも買収目的で特別に設立した子会社が、合併に伴ってすぐに消滅してしまうReverse三角合併は一見、奇妙な手法と移るかもしれない。しかし実際にはかなりよく見受けられる手法である。まず、Reverse三角合併という手法をとることにより、Forward三角合併のケース同様、買収される側の少数株主を一掃できる。また、買収側の親会社の株主の承認が必要ないという点もForward三角合併と同様である。

Reverse三角合併がForward三角合併よりも好まれるケースを見ると、買収される企業に価値ある契約関係、権利関係等が存在することが多い。本来、合併では、消滅法人の資産、負債に加えて契約関係等の権利関係も法的に(自動的に)存続法人に継承されるのだが、現実には契約上の規定として、当事者の変更(消滅法人から存続法人に契約当事者が変更される)には相手方の承諾が必要であるするケースが多い。契約を結ぶ者にとっては、契約相手が同規模の企業だと思い安心して契約を結んだら、いつの間にか相手が大企業に買収されて、契約の履行に関して不利な状況に追い込まれるというようなケースも想定される。したがって、例え合併を通じてであっても、むやみやたらに相手が変わるリスクを取る必要はなく、このような規定は当然盛り込まれるべき条項である。

また、買収される側が価値の高いライセンスを持っているようなケースもある。合併では法的には権利関係は存続法人が継承するが、ライセンスの条件に合併等によりライセンシーの法人格等に変更がある場合には、ライセンス契約そのものの見直し、ロイヤリティーレートの見直し、等の条項が含まれていることも多い。このようなケースではReverse三角合併という手法を用いることにより、契約主体、ライセンシーの身分の同一性を保つことができ、上のような見直し条項に抵触するリスクをかなり下げることができる。

また、結局は破綻したダイムラーとクライスラーのもともとの合併も、二つの巨大企業を再編する手法のステップのひとつとして米国サイドではReverse三角合併を伴っていたはずだ。ダイムラーとクライスラーの合併は、その規模もさることながら、米国とドイツという異なる国の企業同士の再編であったことから、大手日本企業としても参考になる部分も多い。この合併の手法、税務上の取り扱いに関してはまた別のポスティングで改めて触れてみたいと思う。