Saturday, May 24, 2025

Section 899下院法案バージョン (2)

3つ前のポスティング「Section 899下院法案バージョン」で下院法案に盛り込まれた改訂Section 899に関して触れたけど、その後あっという間に下院本会議を通過してSection 899はそのまま上院に送り込まれた。

以前のポスティングで触れた通り、Section 899下院法案バージョンは「UTPR・DST・ DPT」の3つを(制度的に米国法人・市民および米国税法上のCFCに適用がないケースを除き)自動的にUnfair Foreign Taxesと認定し、それらの税法の一つでも採択している国は「Discriminatory Foreign Country」に当たり、そんな国の法人・市民が899対抗規則対象になる。この3つ以外の税制は従来通り、財務長官が域外課税とか差別的課税か判断するんでその公表があって初めてUnfair Foreign Taxになる。

また、従来の法案では実際に対抗措置がトリガーされる前のメカニズムとして財務長官による議会への報告、問題国と一定期間交渉手続き、等の要件が規定されていた(「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (2)」)。これらの手続きは(従来の)899案のフォーカスは必ずしも対抗措置をトリガーすることよりも米国に対する域外課税や差別的課税を取り下げさせる点にあったように見える。下院法案バージョンでは交渉要件は撤廃され、UTPR、DST、DPTを持っている国は財務長官との交渉等のチャンスなくsection 899が可決されると対抗措置の対象になる。この変更は歳入効果の定量化を容易にし、「Scoring」を可能にすることで上院でBudget reconciliationの要件を満たすように工夫されている。結果10年間で$116Bの歳入源になってるけど、この数字は結構大きい。

Section 899下院法案バージョンの対抗措置メカニズム

Section 899下院法案バージョンの「対抗措置メカニズム」そのものは(Super-BEATが加わった以外は)従来の規定とほぼ同じで通常の税率に毎期5%上乗せしますっていう全体像。付加%税率の対象に当たる税金タイプも従来のバージョンのまま。これらは以前のポスティング「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (3)」で結構細かく触れてるんでここでは省くけどぜひ読んでみて欲しい。

たかが付加%されど…

どんなタイプの税金が付加%の対象になるかって考える際、超ベーシックなレベルで税金は大別して「Substantiveな税金(所得税・法人税)」と「徴収メカニズムに当たる源泉税」の2つがあるっていう点を常に念頭に置いておくと複雑な899メカニズムの理解が進む。前者は問題国の法人・市民に対する税金だけど、後者の源泉税は大概において米国人に課せられる法的義務。両者はミラーイメージなことも多いけど、別の規則に規定される異なる法的義務だからね。この区別に基づく899の複雑性は後述する。

さらにFIRPTAに関するSubstantiveな税金と源泉徴収メカニズムの関係は、最初にFIRPTAが制定された頃はFIRPTA源泉徴収っていう制度は存在しなかったことからも分かる通り、何となくHand-in-handな感じだけど、両者はミラーイメージとなる設計ではない。FIRPTA源泉徴収は源泉税っていうより実質予定納税だし、込み入ったペーパーワークに基づく減額や免除措置があったり元々複雑怪奇なんで、これらに付加%規則をOverlayさせてる899は相当難解。FIRPTAと899の関係は現時点ではOver-the-topな話しになり兼ねないんで899が上院通過したらそのバージョンに基づいて詳しく触れたい。

付加税率とApplicable Date

で、Super-BEAT以外の899対抗措置となる5%から始まる付加%だけど、前述の通り、下院法案バージョンでは財務長官によるリストアップ・相手国との交渉手続き期間等がなくなった関係で付加%が累積していくスターティングポイントは以前よりも早くなる。特定のタイミングで何%付加されるかを判断する際のスターティングポイントは「Applicable Date」っていう概念で管理されるけど、テクニカルにこのApplicable Dateっていう概念は各国単位で付加%が何%なのかっていう判断にのみ影響があり、付加%がどのように899対抗措置として実際に各納税者(源泉税徴収義務者含む)に適用されるかっていうタイミング認定時には登場しない。この部分の条文は良く読まないとかなり難しいよね。この差異は899対抗措置をトリガーするDiscriminatory Foreign Countryっていう認定は個々の企業行動やストラクチャリングではなく各国の法令に基づいて判断される一方、実際に対抗措置で迷惑を被るのはそんな国の納税者っていう制度上の位置づけに起因する。

適用付加%と条約

下院法案バージョンが出る前の1月の899法案では、Discriminatory Foreign Countryの法人・市民に対する法人税・所得税・源泉税に対する付加%上乗せ後の税率は「条約を無視して」決定することになっていた(「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案 (4)「最新条文はやっぱりさらに強化」」)。この点に関して下院法案バージョンでは緩和があり、付加%は条約適格の納税者に関しては条約レートにプラスするって規定されている。これは条約相手国を慮っての緩和措置と言うよりは、批准手続きを含む条約を取り巻く法的管轄権は上院にあるんで、899法案の上院審議を援護射撃するための配慮っていう背景の方が強かったと思われる。元々、なぜ対抗措置を取ってるかっていうと、基本的にUTPRとかは米国租税条約を無視した課税って米国では考えられてるから下院に相手国を慮ってソフトタッチにする理由はなかったと推測される。

適用付加%

で、付加%がいくらなのかっていう判断法だけど、上述の通り、この判断時にキーとなる概念は「Applicable Date」で対抗措置有無は諸国の税法ベースなんで国単位の判断になる。Applicable Dateは次の3つのタイミングの一番遅い日またはその後に開始する「暦年の1月1日」って規定される。3つのタイミングとは1)Section 899可決(大統領署名)日から90日後、2)Unfair Foreign Taxが可決された日から180日後、3)Unfair Foreign Taxの制度上の適用開始日。UTPR・DST・DPTは、米国法人・市民または米国税法上のCFCへの適用が免除されていない限り、自動的にUnfair Foreign Taxになるんで、これらに関しては単純に特定の国がこれをいつ可決し、その国の法令に基づいていつから適用が開始するかを基に判断する。

Applicable Dateは常に暦年の1月1日。適用付加%が5%ずつ増えていくタイミングもApplicable Dateから暦年何年目かを基に累積計算していく。すなわち、3つのタイミングに基づいて決まるApplicable Dateとなる1月1日から始まる暦年一年目は5%、翌年以降は毎1月1日が訪れる度にそこから始まる暦年に5%づつプラスされた数字が適用付加%になる。

で、話しがややこしくなるのは、「国単位」および「暦年単位」で適用される付加%を決めた上で、次に各納税者に適用される付加%の概念が登場してくる点。源泉税以外の所得税・法人税はその計算や課税が特定の日の数字で決まる訳ではなく、常に課税年度単位になることから課税年度が暦年ではないFiscal Yearの納税者の課税年度には(特別な事情でShort Yearになってない限り)必ず2つの暦年が含まれる。こんな状況に適用される付加%は、課税年度に含まれる各暦年の付加%を日数加重平均した混合税率。日数加重平均%を算定する際、納税者が属する問題国に適用される最初のApplicable Date前(すなわち前年12月31日以前)の適用付加%はゼロと考える。例えばApplicable Dateが2026年1月1日となる問題国の納税者が3月課税年度の法人だとすると、その法人に適用される2027年3月期の付加税は約6.26 %になるはず(26年4月~12月が5%で27年1月~3月が10%の日数加重平均による混合税率。計算合ってる?)。Applicable Dateが2027年1月1日の場合、同様に2027年3月期に適用される付加%は約1.23%になるはずだけど、後述の通りこのパターンではまず2027年3月期に付加%が適用されるかどうかの見極めが求められる。

一方、源泉税は課税年度単位の税金ではなく支払い時点の一発勝負なんで、単純に源泉税支払い時点で適用される付加%を参照するって規定されている。例えば上の例で2027年1月1日がApplicable Dateの場合、2026年12月31日以前の源泉税に付加%はなく、2027年1月1日以降は同12月31日まで5%、2028年1月1日から付加は10%…って続いていくんだろう。この目的では受け手の外国法人の課税年度が暦年でもそうでなくても関係ない。

源泉税徴収義務Safe Harbor

源泉税の付加%部分は、財務省がDiscriminatory Foreign Countryのリストを公表するまでは徴収義務が免除される。899が可決した後、比較的直ぐにリストが公表されるんじゃないかって推測され、Applicable Dateまでに公表される場合、Safe Harborは効果がないことになる。さらに私的財団および信託に関してはリスト公表後90日間Safe Harborの延長が認められる。

おそらく所得税・法人税は自らの話しなんで自分がどこに国に属してて899の対象だな、とか判断が容易だけど、場合によっては多くの国に関して源泉税を徴収する義務がある米国人に「この国はDSTがあるな…」とか個々に判断させるのは負荷が高すぎるっていうような理由で規定されるSafe Harborなんだろうか。

付加%の上限Cap

Applicable Date以降の暦年毎に累計で付加される%は付加した結果の累計税率が法定税率プラス20%を上限Capとするって規定されている。例えば源泉税だったら法定税率は30%だからCapは50%で、法人税だったら21%に20%加えて41%。毎期の付加%を加える基となる税率は条約を加味してもいいって規定されてる点は上述の通りだけど、上限Capに関しては条約税率は加味されない。例えば配当に関する源泉税の条約税率が0%の場合、5%を付加した5%源泉税率から始まって、10%、15%って10年かけて50%まで上昇することになる。そんな長期間に亘って899に抵触し続けないことを願うけどね。

で、ここまでは何%付加するかっていう判断の話しで、適用付加%が関係する法人税・所得税および源泉税にかかわる話しとなり、後述のSuper-BEATに付加%っていう概念はないんで、これらの付加%の規則はSuper-BEATには関係がない。

899対抗措置適用対象課税年度

で、次に各納税者のどの課税年度から899対抗策の適用があるかっていう判断法が規定されている。この判断は付加が何%かっている判断とは異なるもの。

課税年度単位の税率っていうのは所得税・法人税の世界の話しなんで、この規則は通常の所得税・法人税およびSuper-BEATに関係する話し。源泉税には付加%の判断同様常に支払日ベースで適用有無が決まる。

納税者の所得税・法人税の話しなんで課税年度単位での計算になることから(もちろん課税年度が暦年のケースは暦年の話し)、一体どの課税年度から所得税・法人税に付加%が適用されたり、Super-BEATでBEAT計算するのかを見極めないといけなくなる。この判断はApplicable Dateの決定に似てるけど暦年や1月1日っていう単位ではない。すなわち判断に使用される日はApplicable Date同様に1)Section 899可決(大統領署名)日から90日後、2)Unfair Foreign Taxが可決された日から180日後、3)Unfair Foreign Taxの適用開始日、の3つだけど、この3つの一番遅い日の後(After)に開始する課税年度から所得税・法人税に付加%およびSuper-BEATが適用される。Applicable Dateは「on or after」なんだけどこの目的では単に「After」。超紛らわしいけど、「on or after」と「after」の差異は課税年度初日とUnfair Foreign Tax適用日が同じ日(例、4月1日)の場合、多大なインパクトがある。

判断時に使用される3つの日にちが付加%のApplicable Date判断時に使用される3つの日とダブってて分かり難いかもしれないけど、この考え方でどの課税年度から所得税・法人税に付加%やびSuper-BEATが適用されるかを判断し、その次にだったらその課税年度に適用される付加%を特定するっていう順番でアプローチすると分かり易いと思う。

例えば上の例と同じような設定で、特定の問題国の法人が3月課税年度だとする。899は2025年に可決され、仮にUTPR等のUnfair Foreign Taxの可決および適用が2026年4月1日とする。まず、当法人が法人税に対する付加%およびSuper-BEATに関してどの課税年度から対抗措置の対象になるかっていう点を考えると、上述の通り、1)Section 899可決日から90日後、2)Unfair Foreign Taxが可決された日から180日後、3)Unfair Foreign Taxの適用開始日、の3つの一番遅い日より後に開始する課税年度、すなわち2028年3月期(2027年4月~2028年3月)からになるはず。2026年4月1日から始まる2027年3月期は3つの条件の一番遅い日である4月1日より後(after)に開始してないからね。一方、付加%決定目的のApplicable Dateは2027年1月になるんで、2028年3月期の付加%は上述の日数加重平均で決定する。

Substantive税金と源泉税の関係

冒頭に付加%が適用されるタイプの税金は大別してSubstantiveな税金と徴収メカニズムの源泉税の2つに大別されるって書いたけど、暦年以外の課税年度を持つ外国法人はこれらの異なるタイプの税金に対する付加%や適用開始タイミングの差異に基づき複雑な取り扱いに晒される。

例えば付加%目的のApplicable Dateは2027年1月1日、法人税付加%適用初年度は2027年4月~2028年3月課税年度っていう例を続けると、こんな状況で2027年3月に配当が支払われるとすると、それを受け取る外国法人の法人税目的では付加%の適用がないんで30%(または条約低減レート)の法人税(Substantiveな税金)に付加%はなく、条約レートが0%だとすると配当は米国では課税されない(付加%適用初年度は2027年4月から開始だから)。

一方、源泉徴収する側の源泉税に関しては財務省問題国リスト公表済みっていう前提で2027年の付加%は既に5%なんで(Applicable Dateが2027年1月1日なんで)条約レート0%に5%を付加して源泉税を徴収する義務があることなる(この辺りのミスマッチは今後法案が最終化される過程でクリーンアップ、または財務省のガイダンス等で緩和策や新たなSafe Harborが規定される可能性あり)。配当日が2027年3月ではなくチョッとずれて4月になると、受け手の外国法人は4月から開始する課税年度から付加%の適用があり、その課税年度を通じて使用する付加%は日数加重平均ベースなんで、約6.26%になる。一方で源泉税に適用される付加%は2027年を通じて5%。となると3月の配当はOver-withholdingだけど、4月の配当はUnder-withholdingになるように見える。この差異は外国法人がForm 1120FのSection Iを埋めて提出し、差額の還付や追徴処理をするしかない。

とてつもなくややこしい。使った数字はあんまり自信ないから鵜呑みにしないで下さい。ただ考え方は分かってもらえた?次回は適用対象納税者に関して。

Thursday, May 22, 2025

Mega-Bill (OBBB Act H.R. 1) 電光石火で下院本会議も通過。次は上院

日曜日の夜にDeficit Hawk派の4人の侍が戦術的な「Present」投票に転じたことでBudget Committeeを乗り越えた直後から、Mike Johnson下院議長の下、下院共和党リーダーシップによる文字通り24時間夜を徹しての党内調整が続いた。主たる意見の食い違いは「歳出減が手緩い」って怒るDeficit Hawk派、「州税の控除枠が低い」っていうNYやCAの高税率州のSALT派、そして中間選挙で「民主党から叩かれるような刺激的な規定は最小限にして欲しい」っていう中庸派、らからのもの。

下院の議席数は共和党220、民主党212、空席3っていう状況なんで共和党は3人までの反対のみOKで、これはほぼ全員一致が求められるっていう厳しい状況。しかも歴史的に党内の異なる派の意見調整が困難な下院共和党の話しだ。

ルービックキューブ化する調整

日曜日夜のBudget Committee時点ではMike JohnsonがDeficit Hawk派に「Medicaid就労義務早期適用」「IRAのエネジークレジット撤廃前倒し」の2点を口約束ベースで説得しその場を凌いだ。Medicaidは就労義務とは言えそれで当然それでカバレッジを失う市民がいるんで中庸派は好まない。エネジークレジットは自分のDistrictで恩典を受けてる企業がある場合、イデオロギー的には好ましくないとか政府のバラマキって分かってても撤廃には腰が引ける。この手の「Entitlement」は一度与えると取り消すのはほぼ不可能。結局政府の歳出は増額一方。オバマケアで元々の趣旨を超えて歳出が増大したMedicaidも同じだ。SALT派の主張は、規律のない歳出を繰り返す高税率州を所得税が低い(またはない)州の市民が補填することになるんで他州の議員には評判悪いし、費用増額はもちろん歳入減に繋がるんでDeficit Hawk派の主張と真っ向から対立する。まるでルービックキューブ。

Magic Johnson

ほぼ調整不可能にも見えたこんな意見の食い違いをMike Johnsonはわずか4日で調整し切って約束通りメモリアルデー前に下院を通過させた。Johnsonは過去にも数々の危機を乗り越えて最近では「Magic」Johnson(笑)なんて言われたりするけど本当に魔法使いみたいな人だ。もともと2023年に(例によって…)下院共和党内の意見収集が付かずKevin McCarthyが下院議長の座を追われるっていうドタバタ劇後にJohnsonは議長就任したけど、その際、個人的には「この人誰?」って思ったくらい存在感が薄かった。ルイジアナの実直で信仰深い人っていう印象は受けたけどね。その後数々の政局を乗り切り、2025年には議長再選。そんなJohnsonは今回も辛抱強く調整を続けた。

振り返ってみると日曜日の夜のBudget Committee後、Deficit Hawk派とSALT派との調整が長引き、火曜日朝には絶妙のタイミングでJokerの切り札トランプカードを切った。トランプは下院共和党議員に「いつまでもごちゃごちゃ言ってる場合じゃない」って強力にプッシュし、その晩というか水曜日早朝の午前1時(!)にはRules Committeeが招集され更に調整が続いていた。その間もDeficit Hawk派は「まだ手緩い」とか、SALT派は「$30,000の枠は$80,000に挙げて所得制限も撤廃がいい」とか強気の発言が続いてたよね。

ただ、これらの主張をMike Johnsonやメディア相手に主張するのは容易でも、実際に主張が聞き入れられなかったからって、税制改正、国境警備、ヘルスケア、国防、エネジー政策すべてが一つに盛り込まれてる(すなわちOne Big Beautiful Bill)一世一代と言っても過言ではない法案に反対票を投じて可決を阻止するのはチョッと時限が異なる話し。そんな風に考えると「エネジークレジット撤廃を前倒しにしました」とか「SALT費用控除枠は$40,000に増額しました」みたいな改訂は「だったら仕方なく賛成しましょう」っていうポーズには助け舟だったかもね。

Rules Committee・本会議

それにしてもRules Committeeは水曜日午前1時に始まったけど、改訂法案のMark-upが終わったのは20時間後の水曜日午後9時。そしてその後、法案を本会議投票にかけるRules可決は木曜日の午前2時40分に至った。Rules可決は結局217対212。共和党で唯一反対票を投じたのはBudget resolutionでも反対票を投じたThomas Massie(R-KY)。217対212っていうRules可決結果で本会議可決もほぼ確実になった。

本会議では結局、Thomas Massieと並びWarren Davidson(R-OH)が民主党全議員と並び反対票を投じ、Andy Harris(R-MD)は「Present」で2名の共和党院は「Absent」で無投票。結果215対214で可決。全てが終わったのは今日、木曜日午前7時だった。その後、Mike Johnson、下院Majority LeaderのSteve Scalise(R-LA)、WhipのTom Emmer(R-MN)が記者会見してたけど、Mike Johnsonとか全く疲れが出てる様子がなくてビックリ。Johnsonっていつ見ても同じなんだよね。お疲れ様でした…って感じでメモリアルデーは取り合えずゆっくりできるんだろうけど、6月には上院が休会から戻ってきて法案にはそれなりの修正が入るだろうから、またしても下院調整。Majic 2.0だね。

ちなみに常に反対のThomas Massieに関してはトランプがPrimary Challengeの可能性を示唆している。

共和党議員2人の無投票って誰?

本会議の投票に参加しなかった2人。結果OKだったから良かったものの議席数が僅差なんで場合によっては運命を分けたかもしれない。Andy Harrisの「Present」投票やBudget Committee時の4人の侍みたいに「何か深淵な戦術だったか…」って思わせてくれる動きでチョッと調べてみたんだけど、実は長時間に亘る徹夜の議論で居眠り(?)だったっていうオチ。一人はAndrew Garbarino(R-NY)。彼の側近は「チョッとだけ席を外した間に投票になってしまった。きちんと昼間に開催しないから…」みたいな説明をしてたけど、Magic Johnsonは「冗談じゃなく、彼は議会の後列で眠ってしまって投票を逃した」ってもっと正確な理由を披露している。もちろんJohnsonとGarbarinoは懇意の仲だからこそ言えること。「吊るしあげる」とも付け加えたそうだ。もう一人はDavid Schweikert(R-AZ)。Schweikertに関してJohnsonは「投票に駆け付けたのが遅すぎて票に加味するにはToo Late」って言っている。2人ともMega-Billのドラフトには尽力してたらしい。致命傷にならなくてよかったね。っていうか可決が確実になったんで2人の票は不要って判断して見切りCloseしたってことだろう。

今後のタイミングは?ちらつくX-Day

ここまで来たら何らかの形で両院通過する可能性大だけど、財務長官のScott Bessentたちが目指す独立記念日(7月4日)はどうだろうね。上院の様子を見てると際どいかもね。ただ実はMega-Billには$4TのDebt Ceiling増額が盛り込まれてて、この増額がないと「Extraordinary Measure」でのやり繰りも8月頃が限界とのこと。所謂「X-Day」。この関係で遅くとも8月初旬にはトランプの署名が終わってる必要がある。ボンドマーケットは不安定だけど、Mega-Bill可決の国家財政インパクトは既にマーケットに織り込まれてるって考えるのが自然だろう。

ここからのスピード感は上院による修正度合次第だけど、下院Ways and Means委員長のJason Smithは「上院での大きな修正は予想されない」って楽観的(希望的?)なコメント。歴史は必ずしもそうじゃないけどね。修正が多いとそれをまた下院で意見調整するんでMagic Johnsonの魔法が必要になる。いくつ魔法持ってても足りないね。

Section 899は?

下院本会議を通過したMega-BillにはそのままSection 899が入っている。InboundのTradeやCapital Flowを気にしたりするSenateがこのまま温存するかどうかは不明だけど、以前のポスティングで触れた通り、Mega-Billに盛り込まれたSection 899は上院もSurviveできるような工夫が施されてる。また$116Bの歳入は個別条文としてはおそらくトップ級なんでPay-For財源の魅力も大きいだろう。

ということでようやく次回は下院法案899の続き。

Tuesday, May 20, 2025

Mega-Bill辛うじてBudget Committee通過。次はRules Committee

OBBBって命名されたMega-Bill下院法案は前回のポスティングで触れた通り、先週金曜日にBudget Committeeをクリアすることができず、再度日曜日の午後10時に再投票が行われた。C-SPANでライブ中継してたんで西海岸に居る時差も手伝って見てたんだけど金曜日に反対票を投じた共和党Budget CommitteeメンバーのDeficit Hawk派4人の侍が次々今度は「No」ではなく「Present」って言う投票(実際には口頭)。PresentはYesにはならないけどNoにも数えられないんで一票差でBudget Committee通過って言うなかなか見せてくれる展開になった。Budget Committeeの審議をわざわざライブで見るなんてこれが最初で最後かもね。

Present投票

この「Present」っていう投票法は法案に賛成でも反対でもない「ニュートラル」っていうか、態度留保みたいな意思表示だけど、投票には参加しているんで「Abstention」と異なり定足数には加味される。金曜日のNoは戦術的だったSmuckerを除く他の議員が金曜日と同じように投票するっていう前提だと、4人の侍はPresentでもBudget Committeeはクリアできる点は当然予知できるんでDeficit Hawk派にとってもCommittee通過は予定通り。

なぜPresentっていう戦術に出たかは、投票直前まで続いたMike Johnson等との交渉で、「Medicaid」の就労義務を2年前倒しで2027年から適用する点、IRAのエネジークレジット(4人の侍言うところのGreen Scam)の撤廃の前倒し、にリーダーシップが口頭で合意したと伝えられる点が理由。それらが本当に法案に盛り込まれるのを見届ける前なんでBudget Committeeは通過させるけど、まだ賛成に回った訳じゃないぞっていう状況。MedicaidにしてもIRAのエネジークレジットにしてもこれ以上触って欲しくないって言う中庸派もいるんでこのまま法案が改訂されて下院全体を通るとは限らず、引き続き夜を徹した党内交渉が続くことになる。

Rules Committee

下院本会議投票の前の最後のステップとなるRules Committeeはナンと水曜日早朝の午前1時に招集が掛かってるっていうことなんで文字通り夜を徹する勢い。そしてナンと4人の侍のコアメンバーの2人と言えるChip Roy (R-TX)と Ralph Norman (R-SC)はRules Committeeのメンバーでもある。ただ、Rules Committeeでは数的に造反が2人までだったら通過させることができるのと、NormanはRules Committeeでは反対票は投じないってMike Johnsonに伝えたっていう話しもあり、Mike Johnson的には一旦はホッとしてんのかな。ただ仮にRules Committeeを通っても本会議が控えてる。共和党下院議長って寿命が縮まるような状況ばかり。今日の午後は共和党上院に下院の状況報告っていうイベントも入っていたとのこと。

トランプ登場

そんな中最後はトランプに登場してもらわないと収拾がつかないっていうことで、どのタイミングでMike Johnsonがトランプカードを切るかっていうタイミングが注目されていた。そしてその時がついに今日訪れ、午前8時半の下院共和党カンファレンスが行われるHC-5にトランプが乗り込んだ。Mike Johnsonや中庸派の期待としてはDeficit Hawk派を制して欲しいっていうものだったはずだけど、間が悪いことに(このタイミングは偶然じゃないっていう説もあるけど)Moody’sが米国債の格付けをトップから一段階引き下げて、ますますDeficit Hawk派の懸念の火に油を注ぐことになった。

で、トランプはDeficit Hawk派、SALT派、中庸派全員に「いつまでもごちゃごちゃ言ってないで今の法案をさっさと可決させるように」ってはっぱを掛けた。Deficit Hawk派には「Medicaidとか触ってる場合じゃない(Don’t fxxx around with Medicaid)」とかSALT派のMike Lawler(R-NY)には更に厳しく「お前の選挙区のことは俺が誰よりも良く知ってるが、SALTが理由で落選するくらいだったらどっちにしても落選する」って全員の前で手厳しいコメントがあったそうだ。さすが大統領。また、いつまでも反対してる者には次の選挙でPrimary Challenge(本選挙前に党の候補を選ぶ手続きで対抗馬をあてられること)っていう罰も待ってるリスクもちらつかせたっていう話しだ。

そんな訳で間もなく午前1時のRules Committee開始だけど、ちょうどNYCに戻ってしまったしC-SPANのライブ見てる場合じゃないね。明日に掛けてどうなるでしょうか。

今日は簡単に速報でした。

Saturday, May 17, 2025

Section 899下院法案バージョン

OBBB

下院法案のMega-Billは「One Big Beautiful Bill(OBBB)」って法案に名称が付されたけど、そんなMega-Billは結局、金曜日にBudget Committeeをクリアすることができなくて、再度日曜日の午後10時に再投票予定。Budget Committeeって本来、下院に11存在するCommitteeがMark-upした各法案を文字通りMega-Billに取りまとめる手続き的なステップを踏むところなんで、ここで躓くっていうのはチョッとBlack Eye。この躓きは前回のポスティングで触れたSALT派の不満もさることながら、SALT派と対極の立場にあるDeficit Hawk派の反逆による。Medicaidの就労義務導入やIRAエネジークレジットの段階的撤廃が2029年以降に先送りされてる点を問題視し、歳出減に対する規律のなさを理由に共和党Budget CommitteeメンバーのChip Roy (R-TX)、Josh Brecheen(R-OK)、Ralph Norman(R-SC)、Andrew Clyde(R-GA)の4名が反対に回った。

実は手続き的には更にもう1人のBudget Committee共和党議員Lloyd Smucker (R-PA) も反対票を投じてるんだけど、Smuckerの反対票は法案そのものに対する反対ではなくBudget Committeeとして再考のチャンスを温存するためって発言している。これは、下院規則では再考後の再投票は反対票を投じた議員のみが要求できるため。Smuckerは反対票を投じることでその後の交渉後に再度投票する機会を温存したことになる(結果、日曜日の午後10時の再投票)。

4月のBudget Resolutionの下院投票時からRoyやNormanは歳出減が手緩い点に懸念を表明してたけど、結局その時点では賛成票を投じ、当時反対に回ったのはBudget Committee外の共和党議員Thomas Massie(R-KY)とVictoria Spartz(R-IN)の2名だった。したがって仮にBudget Committeeとその際の手続きになるRules Committeeを通過したとしても3名を超える造反で可決が阻まれる下院全体の投票は例によってドラマチック。仮に何らかの妥協案に合意される場合、Budget Committeeそのものに法案を改訂する権限はないはずだから、その次のステップとなるRules Committeeで下院のフロア投票用の最終法案に反映されることになる。日曜日から週明けはどんな展開になるでしょうか。

Section 899下院法案バージョン

で、下院法案にSection 899(「下院法案Section 899」)が盛り込まれた点は前々回の「下院法案ドラフト公表「P2対抗法案899・Super-BEAT共に入選」」で速報した。

下院法案Section 899は以前から「Global Tax Deal対抗・報復措置「Section 899」法案」シリーズで触れてきたJason Smithの「Defending American Jobs and Investment Act」(従来のsection 899法案)をベースにしてるけど、いくつか特筆すべき変更が加えられている。これらの変更はランダムなものではなく、Budget Reconciliationに基づいた可決を視野に入れている、また財務省と密に連携し財務省の交渉スタンス(後述)と整合性を図った結果って考えられる。

UTPR・DST・ DPTは自動的に対抗規則対象

まずSection 899のタイトルだけど従来のsection 899法案の「Enforcement of Remedies Against Extraterritorial Taxes and Discriminatory Taxes」から「Enforcement of Remedies Against Unfair Foreign Taxes」に変更されている。以前触れた通り、条文のタイトルそのものには法的拘束力や意味はない。とは言え、条文を読むと下院法案Section 899ではExtraterritorial Taxes and Discriminatory Taxesはそれらを含む総称となる「Unfair Foreign Taxes」に統一されている。下院法案section 899では、Unfair Foreign Taxesを持つ国を「Discriminatory Foreign Country」とし、そんな問題国の市民、法人等に付加税を課す、また問題国の米国子会社にはEstes法案で規定されていたSuper-BEATを適用するとしている。Super-BEATの元々の法案に関しては「ナントUTPR追加対抗法案「The Unfair Tax Prevention Act」も下院再提出」で簡単に触れてるんでそちらもぜひ。

で、ここがパンチラインのひとつだけど、下院法案section 899では「UTPR、DST、DPT」の3つはそれ以上の検討は不要で自動的にUnfair Foreign Taxesに当たるって特定して明言してる。すなわち従来の法案ではExtraterritorial Taxes and Discriminatory Taxesを条文で定義し、その定義だったら当然それらにUTPRは含まれるねっていう結論に至ったり、財務長官がExtraterritorial Taxes and Discriminatory Taxesを持つ国がどこかとか判断することになってたけど、下院法案Section 899ではUTPR、DST、DPTに関してはそんな手続きや検討は一切不要で、これらの3つの問題措置のいずれかを持っている国はUnfair Foreign Taxesを持っている国になり、その国はDiscriminatory Foreign Countryとなり、section 899発動対象国となる。

さらにUTPR、DST、DPT以外の税制に関しては従来のsection 899法案通り、財務長官がどんな税制がExtraterritorial TaxesやDiscriminatory Taxesに当たるかを特定することができる。Extraterritorial TaxesおよびDiscriminatory Taxesの定義は従来のsection 899法案のままだけど、以前はExtraterritorialの定義はUTPRそのものだね、とか話してたけどUTPRはそんな判断を待たずして自動的にUnfair Foreign Taxesに区分されるんでUTPRに関してこの定義はMoot。Discriminatoryに関しても同様にDSTは自動的にUnfair Foreign Taxesに区分されてるんでMootで、後は他の類似課税が潜在的に問題になる。

IIRとかは?米国財務省の対ピラー2「Side-by-side」ポジション

IIRやQDMTは名指しされてないけど、米国財務省のピラー2に対するポジションは米国は米国で主権国家として自国の税法を米国市民が選挙で選んだ議会が決め、他国は他国でピラー2を入れるんだったらそれは勝手だけど「ピラー2は米国法人および他国の米国子会社には一切影響があってはならない」っていう「Side-by-side」アプローチ。この点から米国子会社に対する他国のIIRは問題税制のひとつになってもおかしくない。またQDMTに関してはOECDが勝手にルールを決めて各国に強制している点は受け入れられないとし、各国が主権国家して独自の法律を入れる点を認めるべきってしてる。これは具体的にはOECDはQDMTがGILTIに優先する、すなわち米国でGILTI対象になっているCFCに関してGILTI税負担をプッシュダウンする前にQDMTを計算することって強制して、各国の国家主権を侵害して米国を不利にしてる点を問題視してるものと思われる。

これらの米国財務省のスタンスは財務省Deputy Assistant Secretary for International Tax AffairsのRebecca Burch(この前までEYのNational Taxに居ました!)が再三明言していて、単なるGILTIのGrandfatherやUTPRのTransition Safe Harborの時限延長のような小手先対応では不十分としている。GILTIがこの先どんな風に変更されようと、13.125%のままだろうが全世界ブレンディングだろうが、米国が先にGILTIを策定し、CFC課税だって1962年から他国に先駆けて適用している等、自国なりにProfit Shiftingを取り締まってるんだから、それ以上、米国法人や米国子会社にピラー2などを適用する必要はないし、そんな動きは認められないっていうもの。GILTIは全世界ブレンディングだけど、FTCの枠計算時の費用配賦・案分法やQBAIに基づく減額はOECDよりも不利な規定って考えられる。これらの点をOECDやEUにもちゃんと理解してもらわないと…っていう認識もあるだろう。Rebecca Burchのこれらのスタンスは、財務省Assistant Secretary for Legislative Affairs任命確認待ちで現時点ではCounselor to the Secretaryに当たるDerek Theurer も同じコメントを出している。

Rebecca Burchは、いずれにしてもUTPRのSafe Harborは2025年までのはずだから、今年中にはピラー2は米国に何の影響もない点が明確にならないといけないとしている。

これらの発言から財務省・下院は一丸となってピラー2の米国企業への適用は一切認めないっていうスタンスが明らかになっている。ちなみに米国では、実は下院法案が歳入源が欲しいにもかかわらずGILTI税率が2026年から16%に引き上げられる現行法を改訂してまで13.125%を保ってるのはピラー2の15%に対する不快感表明っていう噂があるほどだ。

米国多国籍企業からは、自国企業のことを第一に考えてくれている財務省・議会の強固な対ピラー2姿勢を高く評価する声が多い。Microsoft、J&J等のTax Directorがこれらの対応は合理的でありがたいってカンファレンスでコメントしたと報道されている。選挙後、ピラー2に対するプッシュバックをしてくれる点は想定の範囲内だったけど、Derek TheurerやRebecca Burchのポジションは期待を上回るものと受け止められてるように思う。

財務長官リストアップ・相手国との交渉手続き要件撤廃

上述のUnfair Foreign Taxesの定義変更と整合性を持たせるため、従来の899法案で規定されていた「財務省長官による問題国のリストアップ、議会への報告、問題国への告知・交渉」にかかわる規則は撤廃されている。この変更により、UTPR、DST、DPTを持っている国は財務長官との交渉等のチャンスなくsection 899が可決されると対抗措置の対象になる。この変更は財務省の今後の交渉時のレバレッジを確保する目的ばかりでなく、財務長官による交渉を待ってたり、どの税制がExtraterritorialやDiscriminatory Taxかっていう点が明確じゃないと歳入効果が図り難く「Scoring」困難って位置付けられてBudget reconciliationに基づく法案対象外ってキックアウトされるリスクに対応した側面がある。ちなみに下院法案ではsection 899の歳入効果はBudget Windowの10年間で$116Bと推定されている。

で、他にも下院法案section 899は従来のsection 899との比較で条約の低減税率と付加税の関係や外国政府(SWF等)の取り扱いに関してアップデートがあるんでこれらは、下院法案section 899に合体されたSuper-BEATと共に次回。その時点で下院法案の審議状況もね。

Wednesday, May 14, 2025

下院法案アッという間に最終化

5月12日月曜日の夜にWays and Means Committeeが公表した下院税制改正法案389ページは13日午後から14日の朝まで徹夜のMark-upを経て最終化された。1~2週間前の状態に比べると電光石火みたいな進展。後述のSALT関係の確執がなんとかなればNext StepはEnergy and Commerce、Agricultureその他のCommitteeによるMark-upを含む「Mega-Bill」法案が19日にはRules Committeeに回り、直後に下院全体によるフロア採決になる。うまく行けばMike Johnsonが言っていた通りメモリアルデー(5月29日)までに下院可決で後は上院っていうタイムラインが実現することになる。

Mark-upでそれなりの修正があるんではって言われてたけど結果はNo Change。すなわち12日の389ページがそのままWays and Means Committeeによる最終Mark-upバージョンになった。カリフォルニアみたいなNYCで「どうせ修正あるしね」って思って軽く読んでたけどそのまま最終化してしまったんでもっと細かく読まないとね。ちょうど本当に西海岸に寄ってるんでNYCの気候は気にせずに数日フォーカスします。

下院全体採決とハードル

ここに来て下院共和党内で最後の争点になってるのがSALT Cap。以前もチラッと触れたけど、州個人所得税を連邦所得税を計算する際にどれだけ損金算入できるかっていう争点。カリフォルニアとかニューヨークとか規律に欠ける歳出を繰り返す州は当然税金が高いけど、それを連邦所得税で費用化するっていうことは全米の市民が高税率州の税金の2~3割を間接負担していることになる。所得税ゼロで州財政をManageしてるフロリダやテキサス州を含む9州の市民からしてみると無駄使いやBureaucracyの激しい高税率州のコストを強制的に間接負担させられるのは釈然としない。一方で高税率州の有権者に支えられるカリフォルニアやニューヨーク州の共和党議員は地元で突き上げられてるから最大限の費用化を主張する。いつも触れてる通り下院は2年毎の選挙で全議席改訂なんで接戦Districtの議員は必死だ。

TCJAでは州個人所得税(正確には州および市や学校区等の所得税、所得税がない管轄区の州民は代わりに州および郡等のSales Tax、プラス不動産税や資産の価値に基づく動産税を含む)の個別控除を$10,000(MFS申告の場合は$5,000)に制限した。これを昔みたいに制限なしにして欲しいっていうのが高税率州議員たち、いわゆるSALT Caucus(SALT派?)の希望。無制限化は歳入インパクトが大き過ぎるし他州の議員の意見もあるし、下院最終法案では妥協案として2026年からSALT Capを$30,000(MFS申告の場合は$15,000)に恒久引き上げ。ただMAGI(MAGAじゃないからね!)って言われる修正AGI(課税所得総額から特定のAbove-the-line控除を差し引いた額)が$400,000(MFS申告の場合は$200,000)を超過する場合、超過額の20%に関して恩典がフェーズアウト。

下院最終法案のこの引き上げや所得ベースのフェーズアウトはSALT派からすると「侮辱」テリトリーって言われているんでSALT派と下院リーダーシップは引き続き秘密会(Closed door meeting)や15日に予定されてる下院共和党カンファレンスで駆け引きを続ける予定。したがって法案は最終化されたとは言え、SALT部分はまだセンシティブな状態。下院法案のコストは10年のBudget Windowで$3.7~3.8Tって言われてて(逆にあれだけ全て盛り込んで$4T行ってないのが意外?)、Ways and Means以外のCommitteeによる歳出減はMedicaidで躓いてるんで$2T行かないだろうから、Ways and Meansに許容されるコストは$4TでCapされる。となると他の歳入減を見つけない限りSALT Capのこれ以上の緩和の枠はそんなに大きく残ってないよね。

小さな政府が党是の共和党で、しかもこれだけの内容を盛り込んだMega-Billの最後の争点がSALTっていうのもなんだかな~って感じはあるんだけどね。District単位の利益の問題だからしょうがないね。

上院の反応は?

SALT派と和解できて下院を通過した後は上院。既にDeficit HawkのRon Johnson(R-Wis)は歳出減が手ぬるいみたいなコメントを出してるし、逆にいつものスタンス的には意外なJosh Hawley(R-Mo)はMedicaidの就労義務に懸念を持ってたりするんで上院は上院でひと悶着あるだろう。いずれにしても上院は他にも結構な修正を入れるだろうから、修正版が上院で賛同を得られたとしても今度は修正後バージョンが下院の各派に受け入れられ、両院一致の法律にできるかどうかが争点になる。

Section 899

正式に下院法案の一部を構成することになったSection 899。昨日触れた通りUTPR対抗Estes法案のSuper-BEATも含まれる総合的な対抗条文になってる。下院法案で最終化されている899に関しては以前からの899ポスティングのラップアップも兼ねて次のポスティングで。その後は法人関係で関心が高いであろう即時償却や米国内R&D支出等に関して。

Monday, May 12, 2025

下院法案ドラフト公表「P2対抗法案899・Super-BEAT共に入選」

Wow。金曜日の夜に28ページのSkinny Versionを読み終えてまるでカリフォルニアみたいな天気のNYCをEnjoyしかけた矢先に389ページに上るWays and Means Committeeの本番税制改正ドラフトが公表された。明日(こちらの火曜日)の午後から夜を徹したMark-upに入るそう(その際に変更可能性は十分にあり)。

う~ん、これは…。もちろん今ここで詳細を語るには至ってないけど、しばらく特集してたピラー2(特にUTPR)とDST対抗法案の899とSuper-BEATが合体されて一つのsection 899として堂々ランクイン。内容は今までのポスティングでも触れたものから若干アップデートがあるみたいだけど趣旨は同じ。凄い。上院での運命は分かんないけどね。

他に目につくのは…、IRAのエネジークレジットは撤廃。とは言え相当な猶予期間が設けられてる。こんな長期の猶予期間では手緩いって既にDeficit Hawk派からはクレーム(?)が寄せられている。EVクレジットは原則今年で最後。適格の人は今年買わないとね!モデルYも新しくなったし、モデル2が近々出るって言う噂もあるし。今年中にはFSDがSuperviseナシになるっていうことで完全に自動運転だし。Carbon-wrapのMotor搭載したモデルSのPlaidバージョンとか究極将来のRoadsterとかいいけどクレジットとは無縁の世界だね。

国内R&D支出の損金算入復活。支払利息損金算入制限のEBITDAベース化も復活。

非居住者に対する送金に5%のExcise tax?とか聞いたことない条文がいきなり入っている。チップ、残業の非課税も条件付きとは言え今度こそ盛り込まれてる。SALT Capは$30Kだ。大学のEndowmentとかには厳しい規定が…。自動車ローンの金利が控除対象だったりおとといのSkinny Versionと合わせるとトランプが言ってたことが結構盛り込まれてる。

まだまだこれから読解が必要なんで取り合えずって感じでした。

Saturday, May 10, 2025

「Mega-Bill」の議会審議動向・下院税制改正案「Skinny Version」公表

4月10日に両院でBudget resolutionが可決されてBudget reconciliationに基づく法案審議に弾みが付いて早くもひと月。この一か月間、共和党内の異なる派のPriority差異が浮き彫りに。主に下院内のDeficit Hawk派と中庸派、そして下院と上院間の意見調整が困難を極める結果になっている。ただこれらは最初からみんなが言ってた通りの展開だから、これをどう調整するかが各院リーダーのJohnson、Thune、税制改正法案の各院責任者のSmith、Crapo、そして行政府からは財務長官Bessent、Nattional Economic Councilの Hassett、いわゆるBig-6の腕の見せ所。また議員たちもMAGA共和党は米国市民の信任を得たんだから、相反する利益があるとしても各派・両院妥協するところは妥協して市民の期待に応えて成長志向の経済ポリシーを早期に法制化するっていうBig Pictureを忘れずに一枚岩になれるかどうかが試される最重要なFinal Phaseに入ってる。

以前のポスティングでも触れた通り、2026年の中間選挙を考えると今年の初夏には税制改正が通り、2025年後半から2026年前半に掛けて有権者がその恩典を実感する必要がある。中間選挙で全議席が入れ替わる下院は特にこの点にはセンシティブだ。タイミングに敏感な下院の議長JohnsonはMemorial Day(5月29日)を目標に全て可決って言ってたけど、3分の1の議席しか改選されない上院は夏までには…って下院の視点からすると少し呑気なタイムラインに言及してた。既に5月に入ってるんで財務長官のBessentは独立記念日のJuly 4thまでには達成っていう読み。結果、現時点のコンセンサス・落としどころとしてはJuly 4thってことになってる。それでも結構Aggressiveにいかないと難しい感はあるけど、逆に言えば党内派閥の意見は時間を掛けても変わらないんで結局どこかのタイミングで最大公約数的なJokerを切り札に一気に可決せざるを得ないんで、それが6月でも9月でも努力やPainは同じ気もするけどね。今年のJuly 4thは花火やバーベキューばかりでなく税制改正パッケージの解読Weekになるかな~。楽しみ?共和党だからまだ分かんないね。

Mega-Bill

4月10日のBudget resolutionでは税制、国境警備、国防、エネジー等全て一本のBudget reconciliationで制定する方向で最終化され、これはトランプがBig Beautiful Billって形容してたことから一般にもそう呼ばれていた。最近になってこの名称は長すぎるせいか、「Mega-Bill」って形容されるケースが目立ってきた。もちろん内容が多岐に亘るメガな法律っていう意味。SZA(「シィーザ」って読みます)のKill Billみたいで格好いいね!Kill Billって歌詞はチョッとダークだけど曲はいい。SZAと言えば今日(5月9日)たまたまニューヨークの(正確にはHudson River渡った向こうのNJの)MetLife Stadiumで屋外コンサートがあるけど空模様のかげんがイマイチで心配。ということで僕もこれからBig Beautiful BillはKill Bill、じゃなくてMega-Billって呼ぶことにします。

下院Committee Mark-up

下院では税法ドラフトの使命を帯びているWays and Means Committeeに先立ち、他のCommittee(下院には11のCommitteeがある)が各々割り当てられた計$1.5T~2Tの歳出減をどうやって捻出するかがフォーカス。以前のポスティングで触れた通り、下院向けのBudget Resolutionでは$2Tの歳出減が達成できない場合、未到達額分、Ways and Means Committeeに割り当てられている歳出増(すなわちTCJAの延長を含むネット減税額)が減額される。この仕組みからまずは歳出減をいくら達成できるかが判明しないと法案の税法部分を完成させることができない。

この週(米国の一般的な感覚では一週間は日曜日(7th day of the week)に終わるんで5月11日で終わる週のこと)で大概のCommitteeのMark-up(法案ドラフト)が明確になってきたんで来週(5月12日の週)からWays and Means CommitteeがMega-Billの一部を構成する税法部分のドラフト最終化に着手するっていう予定。で、その後、Memorial Day(5月26日)までに税法を含む下院バージョンのMega-Bill可決を目指すっていうタイムライン。で、それに先立ちWays and Means Committeeは噂通り「Skinny Version」って呼ばれる初期バージョンを5月9日金曜日夜に公開している。絶妙なタイミングの公開でFriday Nightが台無し?

下院税制改正法案Skinny Version

Skinny Versionはその名の通り「初めの一歩」に当たるShort Version。Mega-Bill全体がボックスセットだとすると、Skinny Versionはその中の一曲、しかもRadio Editみたいなサイズ。また物議を醸すWild Card規定は含まれてない。ただ、クロスボーダーに関してGILTI、FDII、BEATの現状維持(TCJAクリフの増税なし)が含まれてたんでWelcome。

面白いのはSubtitleが共通して「Make AmericanナントカAgain」ってMAGAテーマになってること。個人所得税の減税延長は「Make American Workers and Families Thrive Again」、GILTI、FDII、BEAT増税回避は「Make Rural America and Main Street Grow Again」, Medicare(Medicaidではない)の適格を市民やグリーンカード所有者に限定する部分は「Make America Win Again」っていう調子だ。

Skinny Version個人所得税関係

以前にも触れた通り、TCJAクリフの問題は「個人所得税」の減税が2025年を最後に失効してしまう点が最大の関心事だけど、Skinny Versionでは税率引き下げの恒久化やBracketの物価スライド調整とかのベーシック部分は含まれてる。人的控除がゼロって読めるんだけど実質撤廃?

上述の通りMega-Billは中間選挙に向けて一日も早く可決してその恩典を有権者が肌で感じる必要があるけど、Skinny Versionではその点に関する対処が見られる。まず、所得水準に基づくフェーズアウトを含む一定要件下で16歳以下の扶養子女に認められるChild Tax Credit(「CTC」)は従来の$1,000がTCJAで$2,000に増額されてたのを恒久化。しかも「2025年を含む」4年間の時限措置で更に$500上乗せで$2,500に増額(さすがにJD Vanceが選挙活動中に提唱してた$5,000じゃないけどね)。2025年から増額させるのは2025年の源泉徴収や2025年の申告を行う2026年初旬にその恩典が実感できるような配慮だろう。CTCを計上する納税者(既婚の場合は配偶者も)およびCTC適格の子女の全員がSocial Security Number(SSN)を所有していないといけない点も明記されてる。SSNは一般に市民、グリーンカード所有者、就労権のあるビザ所有者に交付される。ITINだけじゃダメってことだね。

また、標準控除(Standard Deduction)に関してもTCJAの増額が恒久化される。Standard DeductionってTCJA前は州税や不動産税が全額(総合的なフェーズアウトはあったけど)個別控除対象だったんでどちらかって言うと低所得者や州所得税のないFloridaやTexas州の納税者が利用することが多かった。TCJA増額前のStandard Deduction額は夫婦合算申告ベースで$12,700だったけど、これが一気に$30,000(2025年ベース)に増額されてた。TCJAは州税や不動産税の$10,000控除制限(後述)を導入したんで、Standard Deduction増額と相まってStandard Deductionを取る納税者が急増していた。Skinny VersionではTCJAの増額Standard Deductionを恒久化すると同時に2025年から4年間さらに$1,000~$2,000の時限増額を規定している。

もう一つ日本では馴染みは薄いだろうけど個人所得税に関して米国で注目されてるのが199Aのパススルー控除が2025年で失効するけどその温存有無。元々2017年のTCJAで法人税率が21%に引き下げられて、個人所得税は下がったとはいえ37%なんで、従来の法人vパススルーのEquationが大きく変わることになった。法人は主体レベルの法人税課税に加え株主が配当に課税されるんで二重課税だけど、2017年以前のように35%取られて残りの65%に23.8%(QDIなんで20%だけどオバマケア付加タックスで3.8%を想定)っていう連邦だけで実効税率50%強っていう状態から法人税率が21%に下がったんで二重課税だけど実効税率は39.8%になった。となるとパススルーで直接個人所得税対象になる37%との比較で、あんまり変わらないし法人が内部で資金を留保して再投資してる間はむしろ法人の方が有利?っていう新たなダイナミクスとなる。法人税率が21%に下がったのにパススルーはそのまま?っていう点の不整合を解消するため、2017年TCJAでは一定要件下でパススルーの所得に対し個人レベルで20%の想定控除が規定された。結果としてパススルー所得に対する実効税率は199A適格だと30%程度になる。ちなみにTCJA可決当時はパススルーモデルが法人モデルに変わるトレンドが生まれるんではっていうような話が聞かれたけど、体験的にパススルーから転換するケースは稀だった。民主党による法人税増税のリスクもあるし、パススルーは他の面でもフレキシブルだからね。Skinny Versionでは199Aを恒久化するばかりでなく、想定控除が20%から22%に引き上げられ、実効税率が1%弱下がってる。

Private CreditのBDCと199A

従来からREITのOrdinary Distributionが199A適格だったけど、Skinny Versionではプラスで税務上RIC区分を選択してるBusiness Development Companies(「BDC」)から受け取る「BDC Interest Dividend」も適格になる。BDCは40年投資法管轄の主体でLeverageやRelated Party取引に関して通常の40年投資法より軽めの規制下(って言っても40年投資法なんでPrivate Vehicleに比べたらかなりのRegulatory負荷)にある特別なタイプの主体。元々Retail投資家でもVenture CapitalやPrivate Equity同様のモデルに投資できるようにって制定された法律だけど、ここ何年もPrivate Creditに利用されるケースが増大してる。Skinny VersionではBDCのネット利子所得に帰する配当を199A適格としている。これは銀行による融資が容易ではない際にヘッジファンドとかのPrivate VehicleによるPrivate Credit提供に加え、BDCによるPrivate Creditの提供が急激に拡大してきた点を反映してMid-Marketへの融資をより活性化するための対策だろう。結構よく考えてるよね。Bessent財務長官は頻繁にメガバンクとそれ以外の銀行に対する異なる規制環境の必要性に言及し、Mid-Marketに対する融資拡大措置を推進しているけど、それのPrivate Credit版と言える。

ちなみにSkinny VersionのBDCのInterest Dividendが199A適格っていう取り扱いに先んじて同じような趣旨で米国外投資家によるPrivate Creditマーケットへの参入を促している法律が既に存在している。BDCって従来はRegulatory負荷が高すぎるんで、外国人LPから資金調達するPrivate CreditのスポンサーはPrivate Vehicleを利用するケースが圧倒的だったけど、単なるCo-InvestmentやSecondaryローンの取得ではなくローンをオリジネーション(多くのPrivate Creditがそう)するケースではファンドのストラクチャー的にどうしてもECIリスクが付きまとう。

Regulatory負荷に関して、大手スポンサーはいずれにしても40年投資法対象のMutual FundやETFをマネージしてるんで、そのノウハウを活かしてRegulatoryのチャレンジを克服し、Private CreditにもBDCをWrapperとして利用するトレンドが加速してきた。Regulatoryのハードルを越えてBDCを活用することができると、法人形態を採択して一定要件を満たすと税務上のRIC区分の選択ができて主体レベルで課税がない(細部は異なるけど概念はREITに似てる)。BDC自体はパススルーでもいいんだけど、RICになるには税務上法人区分じゃないといけないんでRICのBDCは外国人投資家の視点からは自ずとブロッカーになる。分配はBefore Taxで、更に2001年の税制改正(Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 (「EGTRRA」)でBDCの利子所得がPortfolio Interest Exemptionの要件を満たす場合、Look-throughみたいにその利子所得に帰するBDCの配当が源泉税免除になっている。上述の通り通常の40年投資法より関連者間取引の規定が若干緩和されてるんでExternally Managedの(つまりファンドスポンサーが組成する)BDCは同じスポンサーがManageするファンドコンプレック内の複数のファンドやWrapperからローンを提供することが可能っていうファンドスポンサーにとっては実に有益なストラクチャーを取ることができる。SECによるExempt Reliefにはこの手の緩和が多く開示されてる。これらの理由でRegulatory負荷を克服できる場合、BDCはPrivate CreditのVehicleとしてはBest of all worldみたいな存在だ。一点注意点は40年投資法Vehicleなんで仮に「Private BDC」(すなわち資金調達をPrivateに行うタイプのBDC)でも財務諸表は上場企業同様に常にSECにファイルしないといけない。この点は真にPrivateのPrivate REITとは異なる。

Skinny Versionに戻るけど、BDCのネット利子を源泉とする配当が199A適格になるとPrivate Credit戦略のPublic BDC(証券取引所で流通または取引所では流通はしてないけど資金調達をPublicにしてる場合)にRetailの投資がし易くなり、Mid-Marketへの融資が活性化されるような仕組み。

SALTは?

ちなみに個人所得税に関して大きな争点になっている州税の連邦課税所得計算時の損金算入制限緩和(SALT問題。SALTはお塩じゃなくてState and Local Taxです)は行先不明なんで未だ盛り込まれてない。Skinny Versionだから無難なところから始めの一歩だね…。

BEAT・クロスボーダー

Skinny Versionに先立ち、上院ではGILTI、FDII、BEATの原則現状維持に加えてCFC Look-through規定の恒久化、GILTIバスケットのFTC計算時の米国側の費用配賦ルール改訂(FTCが取りやすくなる)、等を盛り込んだ詳細法案がつい先日別途提出されたけど、Skinny VersionでもGILTIおよびFDIIの税率(理論税率13.125%)が恒久化されている。

で、クロスボーダーの規定の運命の中でも日本企業にとって関心が高いのはBEAT。特に関税対策の必要性が高まる今日この頃、製品対価からIP価値をDe-bundleしたりするとロイヤルティがBEAT対象になるの?とか、BEAT対象になるリスクがある場合の定量的なインパクト、とかの検討をすることになるんでその重要性は自ずと高まる傾向にある。BEATは税制改正で手当てされないと2026年以降かなり厳しいものになるからね。具体的にはBEATミニマム税計算時の税率が10%から12.5%(銀行と証券ディーラーは11%から13.5%)に引き上げられるのに加え、こっちの方のダメージが大きいことが多いと思うけど、BEAT暫定税額と通常法人税の比較をする際に、通常法人税はR&Dクレジットを含む全てのクレジットをマイナスした後の数字を使うようになる。現状は一定の制限下、R&D、Low Income Housing、エネジークレジットはマイナスする前の数字を比較対象にできるんで通常法人税額が高く見え、BEATミニマム税が低くなる。Skinny Versionは税率、クレジットの適用の双方に関して現状を恒久化。

GILTIやFDIIの税率は恒久化が何となく想定されてたけど、BEATはAmerica First Policy的にどうなのかなってチョッと疑問だったこともあり、BEATがGILTIやFDIIと並列に手当てされてるのはGood News。まあ、実際にはInbound規定のはずだったBEATの適用はFTCを多く計上せざるを得ない米国企業への悪影響も大きかったからかもね。ただ、Pillar 2のUTPR導入国の企業は先日チラッと触れたSuper BEAT条項の動向に注意。

Skinny Versionはあくまで今後の本格的審議の出発点なんでどんな変更が加えられるか分かんないし、その後の上院のMark-upで下院案は大きく変わることも多いんであくまで参考程度っていう点は忘れないように。さらに来週のE&Cの本格的なMark-upでエンタイトルメント系の歳出にどれだけメスを入れることができるか、その数字に基づきWays and Means Committeeがどの程度、TCJA外の減税規定や米国製造施設投資に対するSuper-Bonus償却を盛り込むことができるか、等まだまだ予断は許さない。

次回こそ899法案Wrap-upしないとね。