4月10日に両院でBudget resolutionが可決されてBudget reconciliationに基づく法案審議に弾みが付いて早くもひと月。この一か月間、共和党内の異なる派のPriority差異が浮き彫りに。主に下院内のDeficit Hawk派と中庸派、そして下院と上院間の意見調整が困難を極める結果になっている。ただこれらは最初からみんなが言ってた通りの展開だから、これをどう調整するかが各院リーダーのJohnson、Thune、税制改正法案の各院責任者のSmith、Crapo、そして行政府からは財務長官Bessent、Nattional Economic Councilの Hassett、いわゆるBig-6の腕の見せ所。また議員たちもMAGA共和党は米国市民の信任を得たんだから、相反する利益があるとしても各派・両院妥協するところは妥協して市民の期待に応えて成長志向の経済ポリシーを早期に法制化するっていうBig Pictureを忘れずに一枚岩になれるかどうかが試される最重要なFinal Phaseに入ってる。
以前のポスティングでも触れた通り、2026年の中間選挙を考えると今年の初夏には税制改正が通り、2025年後半から2026年前半に掛けて有権者がその恩典を実感する必要がある。中間選挙で全議席が入れ替わる下院は特にこの点にはセンシティブだ。タイミングに敏感な下院の議長JohnsonはMemorial Day(5月29日)を目標に全て可決って言ってたけど、3分の1の議席しか改選されない上院は夏までには…って下院の視点からすると少し呑気なタイムラインに言及してた。既に5月に入ってるんで財務長官のBessentは独立記念日のJuly 4thまでには達成っていう読み。結果、現時点のコンセンサス・落としどころとしてはJuly 4thってことになってる。それでも結構Aggressiveにいかないと難しい感はあるけど、逆に言えば党内派閥の意見は時間を掛けても変わらないんで結局どこかのタイミングで最大公約数的なJokerを切り札に一気に可決せざるを得ないんで、それが6月でも9月でも努力やPainは同じ気もするけどね。今年のJuly 4thは花火やバーベキューばかりでなく税制改正パッケージの解読Weekになるかな~。楽しみ?共和党だからまだ分かんないね。
Mega-Bill
4月10日のBudget resolutionでは税制、国境警備、国防、エネジー等全て一本のBudget reconciliationで制定する方向で最終化され、これはトランプがBig Beautiful Billって形容してたことから一般にもそう呼ばれていた。最近になってこの名称は長すぎるせいか、「Mega-Bill」って形容されるケースが目立ってきた。もちろん内容が多岐に亘るメガな法律っていう意味。SZA(「シィーザ」って読みます)のKill Billみたいで格好いいね!Kill Billって歌詞はチョッとダークだけど曲はいい。SZAと言えば今日(5月9日)たまたまニューヨークの(正確にはHudson River渡った向こうのNJの)MetLife Stadiumで屋外コンサートがあるけど空模様のかげんがイマイチで心配。ということで僕もこれからBig Beautiful BillはKill Bill、じゃなくてMega-Billって呼ぶことにします。
下院Committee Mark-up
下院では税法ドラフトの使命を帯びているWays and Means Committeeに先立ち、他のCommittee(下院には11のCommitteeがある)が各々割り当てられた計$1.5T~2Tの歳出減をどうやって捻出するかがフォーカス。以前のポスティングで触れた通り、下院向けのBudget Resolutionでは$2Tの歳出減が達成できない場合、未到達額分、Ways and Means Committeeに割り当てられている歳出増(すなわちTCJAの延長を含むネット減税額)が減額される。この仕組みからまずは歳出減をいくら達成できるかが判明しないと法案の税法部分を完成させることができない。
この週(米国の一般的な感覚では一週間は日曜日(7th day of the week)に終わるんで5月11日で終わる週のこと)で大概のCommitteeのMark-up(法案ドラフト)が明確になってきたんで来週(5月12日の週)からWays and Means CommitteeがMega-Billの一部を構成する税法部分のドラフト最終化に着手するっていう予定。で、その後、Memorial Day(5月26日)までに税法を含む下院バージョンのMega-Bill可決を目指すっていうタイムライン。で、それに先立ちWays and Means Committeeは噂通り「Skinny Version」って呼ばれる初期バージョンを5月9日金曜日夜に公開している。絶妙なタイミングの公開でFriday Nightが台無し?
下院税制改正法案Skinny Version
Skinny Versionはその名の通り「初めの一歩」に当たるShort Version。Mega-Bill全体がボックスセットだとすると、Skinny Versionはその中の一曲、しかもRadio Editみたいなサイズ。また物議を醸すWild Card規定は含まれてない。ただ、クロスボーダーに関してGILTI、FDII、BEATの現状維持(TCJAクリフの増税なし)が含まれてたんでWelcome。
面白いのはSubtitleが共通して「Make AmericanナントカAgain」ってMAGAテーマになってること。個人所得税の減税延長は「Make American Workers and Families Thrive Again」、GILTI、FDII、BEAT増税回避は「Make Rural America and Main Street Grow Again」, Medicare(Medicaidではない)の適格を市民やグリーンカード所有者に限定する部分は「Make America Win Again」っていう調子だ。
Skinny Version個人所得税関係
以前にも触れた通り、TCJAクリフの問題は「個人所得税」の減税が2025年を最後に失効してしまう点が最大の関心事だけど、Skinny Versionでは税率引き下げの恒久化やBracketの物価スライド調整とかのベーシック部分は含まれてる。人的控除がゼロって読めるんだけど実質撤廃?
上述の通りMega-Billは中間選挙に向けて一日も早く可決してその恩典を有権者が肌で感じる必要があるけど、Skinny Versionではその点に関する対処が見られる。まず、所得水準に基づくフェーズアウトを含む一定要件下で16歳以下の扶養子女に認められるChild Tax Credit(「CTC」)は従来の$1,000がTCJAで$2,000に増額されてたのを恒久化。しかも「2025年を含む」4年間の時限措置で更に$500上乗せで$2,500に増額(さすがにJD Vanceが選挙活動中に提唱してた$5,000じゃないけどね)。2025年から増額させるのは2025年の源泉徴収や2025年の申告を行う2026年初旬にその恩典が実感できるような配慮だろう。CTCを計上する納税者(既婚の場合は配偶者も)およびCTC適格の子女の全員がSocial Security Number(SSN)を所有していないといけない点も明記されてる。SSNは一般に市民、グリーンカード所有者、就労権のあるビザ所有者に交付される。ITINだけじゃダメってことだね。
また、標準控除(Standard Deduction)に関してもTCJAの増額が恒久化される。Standard DeductionってTCJA前は州税や不動産税が全額(総合的なフェーズアウトはあったけど)個別控除対象だったんでどちらかって言うと低所得者や州所得税のないFloridaやTexas州の納税者が利用することが多かった。TCJA増額前のStandard Deduction額は夫婦合算申告ベースで$12,700だったけど、これが一気に$30,000(2025年ベース)に増額されてた。TCJAは州税や不動産税の$10,000控除制限(後述)を導入したんで、Standard Deduction増額と相まってStandard Deductionを取る納税者が急増していた。Skinny VersionではTCJAの増額Standard Deductionを恒久化すると同時に2025年から4年間さらに$1,000~$2,000の時限増額を規定している。
もう一つ日本では馴染みは薄いだろうけど個人所得税に関して米国で注目されてるのが199Aのパススルー控除が2025年で失効するけどその温存有無。元々2017年のTCJAで法人税率が21%に引き下げられて、個人所得税は下がったとはいえ37%なんで、従来の法人vパススルーのEquationが大きく変わることになった。法人は主体レベルの法人税課税に加え株主が配当に課税されるんで二重課税だけど、2017年以前のように35%取られて残りの65%に23.8%(QDIなんで20%だけどオバマケア付加タックスで3.8%を想定)っていう連邦だけで実効税率50%強っていう状態から法人税率が21%に下がったんで二重課税だけど実効税率は39.8%になった。となるとパススルーで直接個人所得税対象になる37%との比較で、あんまり変わらないし法人が内部で資金を留保して再投資してる間はむしろ法人の方が有利?っていう新たなダイナミクスとなる。法人税率が21%に下がったのにパススルーはそのまま?っていう点の不整合を解消するため、2017年TCJAでは一定要件下でパススルーの所得に対し個人レベルで20%の想定控除が規定された。結果としてパススルー所得に対する実効税率は199A適格だと30%程度になる。ちなみにTCJA可決当時はパススルーモデルが法人モデルに変わるトレンドが生まれるんではっていうような話が聞かれたけど、体験的にパススルーから転換するケースは稀だった。民主党による法人税増税のリスクもあるし、パススルーは他の面でもフレキシブルだからね。Skinny Versionでは199Aを恒久化するばかりでなく、想定控除が20%から22%に引き上げられ、実効税率が1%弱下がってる。
Private CreditのBDCと199A
従来からREITのOrdinary Distributionが199A適格だったけど、Skinny Versionではプラスで税務上RIC区分を選択してるBusiness Development Companies(「BDC」)から受け取る「BDC Interest Dividend」も適格になる。BDCは40年投資法管轄の主体でLeverageやRelated Party取引に関して通常の40年投資法より軽めの規制下(って言っても40年投資法なんでPrivate Vehicleに比べたらかなりのRegulatory負荷)にある特別なタイプの主体。元々Retail投資家でもVenture CapitalやPrivate Equity同様のモデルに投資できるようにって制定された法律だけど、ここ何年もPrivate Creditに利用されるケースが増大してる。Skinny VersionではBDCのネット利子所得に帰する配当を199A適格としている。これは銀行による融資が容易ではない際にヘッジファンドとかのPrivate VehicleによるPrivate Credit提供に加え、BDCによるPrivate Creditの提供が急激に拡大してきた点を反映してMid-Marketへの融資をより活性化するための対策だろう。結構よく考えてるよね。Bessent財務長官は頻繁にメガバンクとそれ以外の銀行に対する異なる規制環境の必要性に言及し、Mid-Marketに対する融資拡大措置を推進しているけど、それのPrivate Credit版と言える。
ちなみにSkinny VersionのBDCのInterest Dividendが199A適格っていう取り扱いに先んじて同じような趣旨で米国外投資家によるPrivate Creditマーケットへの参入を促している法律が既に存在している。BDCって従来はRegulatory負荷が高すぎるんで、外国人LPから資金調達するPrivate CreditのスポンサーはPrivate Vehicleを利用するケースが圧倒的だったけど、単なるCo-InvestmentやSecondaryローンの取得ではなくローンをオリジネーション(多くのPrivate Creditがそう)するケースではファンドのストラクチャー的にどうしてもECIリスクが付きまとう。
Regulatory負荷に関して、大手スポンサーはいずれにしても40年投資法対象のMutual FundやETFをマネージしてるんで、そのノウハウを活かしてRegulatoryのチャレンジを克服し、Private CreditにもBDCをWrapperとして利用するトレンドが加速してきた。Regulatoryのハードルを越えてBDCを活用することができると、法人形態を採択して一定要件を満たすと税務上のRIC区分の選択ができて主体レベルで課税がない(細部は異なるけど概念はREITに似てる)。BDC自体はパススルーでもいいんだけど、RICになるには税務上法人区分じゃないといけないんでRICのBDCは外国人投資家の視点からは自ずとブロッカーになる。分配はBefore Taxで、更に2001年の税制改正(Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 (「EGTRRA」)でBDCの利子所得がPortfolio Interest Exemptionの要件を満たす場合、Look-throughみたいにその利子所得に帰するBDCの配当が源泉税免除になっている。上述の通り通常の40年投資法より関連者間取引の規定が若干緩和されてるんでExternally Managedの(つまりファンドスポンサーが組成する)BDCは同じスポンサーがManageするファンドコンプレック内の複数のファンドやWrapperからローンを提供することが可能っていうファンドスポンサーにとっては実に有益なストラクチャーを取ることができる。SECによるExempt Reliefにはこの手の緩和が多く開示されてる。これらの理由でRegulatory負荷を克服できる場合、BDCはPrivate CreditのVehicleとしてはBest of all worldみたいな存在だ。一点注意点は40年投資法Vehicleなんで仮に「Private BDC」(すなわち資金調達をPrivateに行うタイプのBDC)でも財務諸表は上場企業同様に常にSECにファイルしないといけない。この点は真にPrivateのPrivate REITとは異なる。
Skinny Versionに戻るけど、BDCのネット利子を源泉とする配当が199A適格になるとPrivate Credit戦略のPublic BDC(証券取引所で流通または取引所では流通はしてないけど資金調達をPublicにしてる場合)にRetailの投資がし易くなり、Mid-Marketへの融資が活性化されるような仕組み。
SALTは?
ちなみに個人所得税に関して大きな争点になっている州税の連邦課税所得計算時の損金算入制限緩和(SALT問題。SALTはお塩じゃなくてState and Local Taxです)は行先不明なんで未だ盛り込まれてない。Skinny Versionだから無難なところから始めの一歩だね…。
BEAT・クロスボーダー
Skinny Versionに先立ち、上院ではGILTI、FDII、BEATの原則現状維持に加えてCFC Look-through規定の恒久化、GILTIバスケットのFTC計算時の米国側の費用配賦ルール改訂(FTCが取りやすくなる)、等を盛り込んだ詳細法案がつい先日別途提出されたけど、Skinny VersionでもGILTIおよびFDIIの税率(理論税率13.125%)が恒久化されている。
で、クロスボーダーの規定の運命の中でも日本企業にとって関心が高いのはBEAT。特に関税対策の必要性が高まる今日この頃、製品対価からIP価値をDe-bundleしたりするとロイヤルティがBEAT対象になるの?とか、BEAT対象になるリスクがある場合の定量的なインパクト、とかの検討をすることになるんでその重要性は自ずと高まる傾向にある。BEATは税制改正で手当てされないと2026年以降かなり厳しいものになるからね。具体的にはBEATミニマム税計算時の税率が10%から12.5%(銀行と証券ディーラーは11%から13.5%)に引き上げられるのに加え、こっちの方のダメージが大きいことが多いと思うけど、BEAT暫定税額と通常法人税の比較をする際に、通常法人税はR&Dクレジットを含む全てのクレジットをマイナスした後の数字を使うようになる。現状は一定の制限下、R&D、Low Income Housing、エネジークレジットはマイナスする前の数字を比較対象にできるんで通常法人税額が高く見え、BEATミニマム税が低くなる。Skinny Versionは税率、クレジットの適用の双方に関して現状を恒久化。
GILTIやFDIIの税率は恒久化が何となく想定されてたけど、BEATはAmerica First Policy的にどうなのかなってチョッと疑問だったこともあり、BEATがGILTIやFDIIと並列に手当てされてるのはGood News。まあ、実際にはInbound規定のはずだったBEATの適用はFTCを多く計上せざるを得ない米国企業への悪影響も大きかったからかもね。ただ、Pillar 2のUTPR導入国の企業は先日チラッと触れたSuper BEAT条項の動向に注意。
Skinny Versionはあくまで今後の本格的審議の出発点なんでどんな変更が加えられるか分かんないし、その後の上院のMark-upで下院案は大きく変わることも多いんであくまで参考程度っていう点は忘れないように。さらに来週のE&Cの本格的なMark-upでエンタイトルメント系の歳出にどれだけメスを入れることができるか、その数字に基づきWays and Means Committeeがどの程度、TCJA外の減税規定や米国製造施設投資に対するSuper-Bonus償却を盛り込むことができるか、等まだまだ予断は許さない。
次回こそ899法案Wrap-upしないとね。