Saturday, February 19, 2011

2011年米国タックスの行方(1)- Repatiriation

年末年始にかけて米国の空模様はかなり荒れ気味だ。ニューヨークのあるNorth Eastでは12月から複数回かなりの雪が降ったり、アトランタのあるSouth Eastでも珍しく雪が降ったりした。ロサンゼルスのある南カリフォルニアでは年末までは珍しく雨が続いてパッとしない天気だったのが1月に入ると一転80度近い暖かい日が続いたりしている。

雪のせいで飛行機のスケジュールは乱れまくり、空港で飛行機に乗ってからフライトがキャンセルになったり、Re-Bookされたフライトがまたキャンセルになったり、別の空港から飛ぶことになったり、とにかく苦労が多い。米国を冬に飛び回る際の宿命と言ってしまえばそれまでだが、今年はダイヤの乱れの頻度がチョッと高いように思う。仕事もタックスで忙しいのは仕方がないと諦めもつくが、IT関係とか専門分野外で振り回せれて何だかな~って感じもある。

で、何が言いたいかというと、そんな酷いスケジュールでバタバタしている間に時間が経ってしまい、ポスティングのアップデートができなかったという言い訳だ。今日はモーツァルトの誕生日で1月も後半になってしまった(これを書いていたのは1月27日だったので)。

そんなタイミングではあるが、2010年を振り返りながら、2011年米国タックスの世界で注目度が高そうなトピックを次の通りいくつかについて触れてみたい。

まずは米国企業が外国子会社に眠らせている埋蔵金100兆円をどう米国に還流させるかという「Repatriation」、そして話題の「Sch. UTP」、恐怖の「Economic Substance」の条文化、財政難に苦しむ州と州法人税、とんでもないアドミン作業が増える「Form 1099」の拡大適用の行方、そんなところが個人的に興味深い分野だ。また日本企業にとって2011年はグローバルタックスプラニング元年になって欲しいという点にも触れたい。

*Repatriation(外国子会社に眠る「100兆円」の米国親会社への資金還流)

米国は未だに全世界課税の国なので、外国子会社から配当を受け取る(またはタックスヘイブン税制に類似するSubpart F規定でみなし配当課税される)と外国で得た所得に米国でも課税されることとなる。配当原資に対して課せられたと取り扱われる外国の法人税は税額控除できるが、米国の税率は世界2位(もちろん日本が堂々1位!- 基礎科学事業と違って1位でなくてはいけない・・・?)なので、米国で追加の税金が発生することが多い。多くの米国多国籍企業がさまざまなプラニングを通じて敢えて低税率国に所得を貯めこんでいるからこの傾向は尚更だ。米国多国籍企業のタックスプラニングのハイライトのひとつはいかに税務的に効率よく(=無駄な税金を支払わないで)外国子会社に眠っている剰余金を米国に還流させるか(=Repatriation)にある。

米国多国籍企業は相当なエネルギー(=時間とお金)を費やして「合法的」に所得を低税率国に移し、その後またしても相当なエネルギーを費やして「合法的に」税金を支払わずに米国に持ち返るというパターンを繰り返す。

以前のポスティングでさんざん触れたE&Pの圧縮を利用した外国法人の見た目の実効税率のターボチャージ化もその対策の一つだし、何層にもまたがる持株会社、CTBの利用、も効率のいい還流を念頭に置いたものであるケースが多い。

*一生に一度の配当非課税

米国での追加税コストが足かせとなり米国多国籍企業が米国に資金を自由に持ち返れないことは、米国経済に悪い影響がある、という主張は絶えない。実際に、そのような悪影響を排除するため、ブッシュ政権下で2004年に発足した「American Job Creation Act」の中の規定で「一生に一度だけの約束で」米国企業が実質非課税に近い形で外国から配当を受け取ることができたことがある。この時とばかりに大手企業が配当という形で米国に多額の資金を還流させている。この暫定規定は、配当された金額を米国の雇用、研究開発等に使うことという条件があった。形式的にはその条件を満たさす形で配当されたのだが(でないと非課税にならないので・・・)、後日実施された議会による調査で実際に雇用、研究開発が増加したという事実は認められなかったという実態が明らかになっている。この点に関しては2009年2月のポスティング「海外からの配当非課税米国版の顛末」を参照。

にも係らずハイテク、製薬業界等の経営者からは「再度、外国からの配当を非課税として欲しい」という意見が絶えない。彼らは移転価格、IP移転、その他の策を駆使しまくって低税率国に所得を溜め込んでいるが、今の税法下ではせっかく貯めたその貯金を多額の米国税負担ナシに米国に持ち返ることができない。

彼らに言わせると「外国からの配当を一時的に再度非課税とすることで、100兆円(!)の資金が米国に戻り、それが米国の雇用、研究開発に充当される」という。本当にそんな効果があるのかは今でも賛否両論だが、2004年の時限措置に基づく資金還流にそのような経済効果があったという証拠は見つかっていない。

それでも直感的には配当非課税にはアピールがある。米国で投資はしたいけれど、資金を米国に持ち込むと多額の税金が掛かるので、代わりに海外で事業を展開せざるを得ない・・・というようなシナリオを避けるためには配当を非課税にするべきだ、というものだ。中学生でも理解できるような分かりやすいロジックではある。特に金融危機でクレジットクランチが続いている今、外部からの資金調達が難しく、手元流動性と投資の実行に以前よりも強い相関関係ができてくる気もして、なるほどと思わせる。

しかし、米国外に眠る巨額のキャッシュの多くはハイテク、製薬業界の「超大企業」に属するものだ。彼らは低金利を利用してほぼ無利子に近い好条件で社債を発行できるような連中だ。それを考えると非課税配当の投資効果には疑問を持つ専門家も多い。

外国から非課税で配当されたキャッシュが、米国の雇用、研究開発等に使用されずに、米国で株主への配当や自社株買いの原資となった場合、最終的には個人株主等の購買略が上がり、経済にいい影響があるという説もある。

さらに別に配当非課税なんかにしなくてもいいという極めつけの主張は、超大企業は現在の税法下でもどうせプラニングを駆使して非課税で資金を還流させているじゃん、というものだ。この点に関しては米国のクオルコム社が同じく米国のアセロスを買収した際に「オフショアファンド」を使用して買収を実行したストラクチャーが大きく報道されて注目された。その名も「Deadly D」という恐ろしい手法だ。

Monday, December 6, 2010

ブッシュ減税+AMTパッチやっと延長の方向に

2010年の8月31日から「失効間近のブッシュ減税」というシリーズで2001年と2003年の大型減税が一気に2010年末で失効する点、またこの延長を巡って民主党と共和党でせめぎ合いが続いている点について触れた。

ブッシュ減税は全所得層に恩典をもたらしたが、所得税の最高税率が39.6%から35%、キャピタルゲインと配当が15%の特別税率、また遺産税を撤廃したり、と基本的に高所得者層に対する恩典が目立った。共和党の支持ベースを考えればこれは当然のことだ。減税の内容とその失効の影響に関しては上の「失効間近のブッシュ減税」を参照して欲しい。

2010年の失効に際して、オバマ政権は年収25万ドル(夫婦合算申告ベース)までの納税者に対する減税は延長するが、これより所得が上の高所得者層の税率は2001年時点の最高39.6%に戻すというポリシーを公にしていた。これも民主党の支持ベースを考えれば当然のポリシーだろう。

中間選挙で共和党が勝ち、民主党のポリシー通りの延長は可能性薄と見られていた。実際にここ数日、下院が25万ドルまでの納税者に対する減税を延長する法案を可決したが、上院を通過する見込みはなく、このままだと全ての減税が失効してしまうという最悪の事態を招くことにもなり兼ねない状況であった。

今夜、一部報道によるとオバマ政権は、一般家庭への減税を延長するためには高所得者層の減税をも期間限定で延長する以外に方法はないと判断したようで、全ての減税を2年間の期間限定で延長という方向で共和党、議会と調整に入るようだ。また、2010年のみ撤廃という異例の取り扱いが話題の遺産税に関しては、税率35%、控除枠$5 Millionで復活というのが有力恒久案だ。

さらに毎年納税者を冷や冷やさせるAMTの免税枠の増額延長(AMTパッチ)も今回のオバマ提案に基づき2年間(2010年と2011年)延長されるようだ。AMTパッチの毎年のドタバタに関しては2007年12月14日の「混迷極める米国議会のAMT対策」を参照して欲しい。これで日本人派遣員の年末グロスアップも多額のAMTを回避する形でできる方向で日本企業もハッピーだろう。

AMTパッチの件と減税の延長は注目度が高かったので取り急ぎ。

Tuesday, November 2, 2010

グーグルとタックスヘブン(Reprise 1)

前回と前々回のポスティングで、グーグルのタックスヘイブン利用による節税について書いた。2回に亘るポスティングであの話題は終わりにするつもりだったのだが、「あの」清く正しいグーグルがこんなプラニングをしているとは・・・、という驚きの反響が多く、また、技術面からもう少し「ダブル・アイリッシュ」を突っ込んで知りたいという声もあり、再度「Reprise」で特集してみることにした。

*米国企業としては「ごく普通」のプラニング

前々回のポスティングで「重要なポイント」として記した点であるが、今回のグーグルのプラニングの内容を理解する上で、絶対に忘れてはならないので再度しつこく繰り返しておきたいのが、ここでグーグルがやっていることは知的所有権を有する米国多国籍企業は皆古くからやっていることで、米国で国際税務に関与している者にとっては特に珍しいことはない、ということだ。逆にこれがニュースとして注目されていることが不思議なくらいの「普通」レベルのプラニングに過ぎない。

またもうひとつの「Take Away Point」は、米国多国籍企業の決算書上の実効税率が低いのは、米国の税率が低いからではないという当たり前だが見落としがちな点だ。米国企業の実効税率の低さは米国本国を含む世界各国の法律を研究し尽くしてプラニングをきちんとしているその成果に過ぎない。この点は「日本の税率が高いので・・・」と嘆きがちな日本企業にも大きな参考となるはずだ。

*ダブル・アイリッシュ再び

前回のポスティングでダブル・アイリッシュの概要はだいたい触れているが、米国税務の観点からもう少し突っ込んで考えてみたい。ちなみに、このプラニングは「Check-the-Box」規定が存在しない日本の企業にはそのままの形での適用は困難であろう。バミューダ事業主体の受け取るロイヤリティーが日本でタックスヘイブン税制に基づき合算課税されることになるとすると、41%の課税なので元も子もなくなる訳だ。

まず、全世界課税の国を本拠地とする米国多国籍企業がグローバル・タックスプラニングを策定する際に「鍵」となる税法上の規定は「移転価格税制」と「海外子会社の所得を配当がない時点で合算しようとする反繰延規定(Anti-Deferral)」であろう。これらの二つの規定の網をくぐり、というか逆にオフェンシブに利用して、取引や事業主体グループを構築していくのがプラニングの基本となる。ダブル・アイリッシュもこの二つの規定をうまく使い、米国での課税を半永久的に繰り延べ、低税率国のみでの課税で終焉させている。

ダブル・アイリッシュ下では多額の所得が米国外のしかもバミューダという無税国に落とされている。この点に関して上の二つのポイント「移転価格」と「Anti-Deferral規定」を当てはめてみると面白い。

*ダブル・アイリッシュと移転価格

まず、移転価格の見地から考えると、バミューダの法人(ダブル・アイリッシュ下ではバミューダ居住法人と取り扱われるアイルランド法人)に多くの利益を残すにはバミューダ法人がそれ相当の機能・リスクを持っていないとそこに多くの利益を残すことはできないはずだ。ではバミューダのビーチ沿いに大きなR&Dセンターを建設してシリコンバレーからプログラマーを転勤させるか?

その必要はない。ここで便利なのが「知的所有権」とか「知的財産」と呼ばれる形のない資産、すなわち「無形資産」だ(ここではそのような無形資産を十把一絡げに「IP(Intellectual Property)」と呼んでおく)。有形の資産と異なり、無形のものは比較的自由にどこにでも置くことができる特徴がある。もしグーグルのサーチやオンライン広告に係るIPをバミューダに置くことができれば、グーグルの収益を支えているのはまさしくそのようなIPであることから、移転価格上もバミューダに多くの利益を残すことが妥当だということになる。

それでは実際にIPの開発をバミューダでするのかというとそんな必要は全くない。開発は従来通りカリフォルニア州のフリーウェイ101と85と237が三角形に交差する辺りのMountain Viewでやっていても全然問題がない。ただ、単にカリフォルニアで開発されたIPを外国に移転しようとすると、どのように取引形態を選択したとしても、基本的に税法上はそのIPを使用・利用して外国で達成された売り上げに準じるそれ相当の金額をロイヤリティーという形で米国に還元する必要があることになってしまう。

そのような多額のロイヤリティーを米国に支払ったのでは、世界第二位の高税率に晒されてしまうことからプラニングにならない。そこで頻繁に利用されるのが「コスト・シェアリング」という手法だ。コストシェアリングは複雑なアレンジであり、それだけで一冊の本になりそうな話題だが、簡単に言ってしまうと、米国と外国での各々の予想売上げの比率に基づいて開発のコストをシェアするというものだ。実際には三国以上でシェアするケースもあり得るがここではバミューダに米国外の権利を持たせるという意味で「米国・外国」という図式で話を進めたい。

しつこいが開発のコストさえ負担すれば、開発はどこで行われていても問題ない。すなわち、全てカリフォルニア州で開発されているIPでも、そのIPを利用する将来の売上げが米国・外国で仮に30・70の比率と予想されるとすると、そのコストの70%をバミューダ法人が負担すればよい。70%をバミューダで負担というと立派な実態がありそうだが、詰まるところ全て関連会社内でのことだ。

コスト・シェアリングを利用すると、IPに対する税務上の経済的所有権がスプリットされ、IPの米国での使用に係る部分は米国事業主体が持つこととなり、外国での使用に係る部分は外国の関連会社が持つこととなる。コスト・シェアリングを利用しないと、どうしても誰か一人(=どこか一社)がIPに対する所有権を独占することとなり、世界中の使用者からロイヤリティーを吸い上げる必要が出てくる。また、IPを持っている者には手厚い利益が帰属するはずであることから、多額のロイヤリティーが一国に集まることとなる。

一方、コスト・シェアリングを利用すると、米国と外国の間でのロイヤリティーの流れが不必要となる。

さらに、コスト・シェアリングは既に米国で開発されてしまった既存IPを無理なく外国に移転させるという技を併せ持つ。コスト・シェアリングは通常、何らかのIPが既に開発された後で実行されるケースがほとんどだ。例えばグーグルのケースでも元々のIPはラリーベージとかセルゲイ(サーゲイ?)ブリンがガレージで開発していた時代に遡るはずだ。その時点では外国に売上げなどないかもしれないし、そもそもそんな高度なタックス・プラニングを考えているガレージ会社はないだろう。

ビジネスが成功し、会社が大きくなり、外国での収入が増えて、IPの価値も自然と高まり、IPOになったり、大きな会計事務所の国際税務部門と付き合い始めたり、実効税率を気にするようになったり、というタイミングで初めてコスト・シェアリングが検討されるはずだ。その時点では米国開発のIPにかなり価値が生まれてしまっている。

そんなタイミングでコスト・シェアリングを実行する場合、既存のIPは米国の事業主体が持っていることをきちんと認識する必要がある。将来の開発にそれらの既存IPを利用する際には、外国の関連者がその使用料をロイヤリティーという形で米国に支払うこととなる。いわゆる「Buy-In」と呼ばれる支払いである。ただし、実はこのBuy-In、新たなIPを開発していく過程で既存のIPの価値は加速度的に下がるという法則を利用してかなり低めに設定できる傾向にある。例えばいくらWindows 95が売れたからと言っても、XPとかWindows 7が出た後では95の価値は低いと考えれば分かり易いだろう。でもXPとかにも95とかのテクノロジーは利用されているはずだ(僕はテクノロジー専門ではないのでこの部分は全くのGuessですが・・・)。

このことから、コスト・シェアリングを通じて米国には大した金額を支払うことなく、既存のIPを利用して将来のIPを開発し、新たに開発されるIPの経済的な持分は外国での使用部分に関して外国に存在させることが可能ということになる。

このような手法を利用してIT企業、製薬企業は多くのIPをアイルランドとかバミューダ等の外国に置くことに成功している。グーグルのプラニングでもバミューダに価値のあるIPを存在させることが重要であり、その目的は上のような手法で達成されると推測される。

それでは、このように無税率国や低税率国にIPを存在させた後、「Anti-Deferral規定」がある中どのように米国での課税をうまく繰り延べているのだろうか。この点に関しては次回触れてみたい。

Sunday, October 24, 2010

グーグルとタックスヘイブン(2)

前回のポスティングで、先日のビジネスウィークに報道されていたグーグルのタックスヘイブン利用による節税について書き始めたが、今回はその続きで記事にて紹介されていた具体的手法について触れる。

*ダブルアイリッシュ

グーグルの欧米、アフリカ、中近東のオンライン広告収入はまずアイルランドにある子会社で認識される。ちなみに米国外でグーグルが稼ぐオンライン広告収入125億ドル(80円レートでピッタリ1兆円)の実に9割近くがアイルランド子会社の売上となる。この手の所得に課せられるアイルランド法人税の税率は12.5%ということだから、これだけでも相当な節税になるはずだが、この12.5%の税率でも不満足と考えてか、アイルランドから所得はロイヤリティーという形でアーニングス・ストリッピングされて最終目的地のバミューダへと向かう。この結果アイルランドの利益率は僅か1%となる。

アイルランドからバミューダに直接ロイヤリティーを支払うとアイルランドで多額の源泉税を支払うこととなることから、ロイヤリティーは一旦、アイルランドからオランダのペーパーカンパニーに移される。オランダはEUの国なのでバミューダ相手のケースと異なりアイルランドで源泉税が発生しない。そして更にオランダの気前のいい税法に基づき、そのほとんどの所得がロイヤリティーとしてバミューダに流れる。バミューダはタックスヘイブンで課税はない。オランダもバミューダもプラニングには欠かせない国だ。

実はこのバミューダの会社、法的にはアイルランド法人(バミューダで経営管理される)となる。アイルランドからオランダ経由でまたアイルランド法人に戻ることから「ダブル・アイリッシュ」と呼ばれるストラクチャーだ。オランダが間に挟まれていることから「ダッチ・サンド」とも言われる。

グーグルのもともとのテクノロジーはカリフォルニアで開発されているはずで、アイルランドとかバミューダでその果実の恩典を受けるためには、まず使用権をアイルランド法人に与える必要がある。おそらくコストシェアリングを通じて経済的なテクノロジーの所有権を米国とアイルランドに分けているのだろう。コストシェアリング開始時に既に相当のテクノロジーが米国に存在しているはずだが、その「旧」テクノロジーは「Buy In」としてかなり低いロイヤリティーを設定して米国外にライセンス供与するのが普通だ。もちろん移転価格税制の対象となるが、SECファイリングによるとグーグルの移転価格設定はIRSから問題なしという判断をもらっているとされる。

また言うまでもないが、これらの手法は当然合法的であり、不必要な税金は支払わないという株主に対する受託者義務をきちんと履行しているというのが米国的な考え方だ。

バミューダの受け取るロイヤリティーはSubpart F規定(日本のタックスヘイブン税制に類似)で米国で課税されるのでは?と疑問に思われた方は米国タックス中級テスト合格だ。ビジネスウィークの記事には書いてないがおそらくCheck-the-Box規定を利用して米国目的ではロイヤリティー授受があたかも一法人内で発生しているかのように取り扱われているのだろう。オバマ政権はこのSubpart F逃れに網を掛けようと2009年に大胆な税法改正案を提案しているが、その後その改正案は聞かれなくなり、2010年の改正案からは漏れてしまっている。この点に関しては2009年5月30日の「時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(2)」以降のシリーズを参照。

*実効税率2.4%

上述のような手法を駆使した結果、グーグルの米国外における実効税率はナント僅か2.4%(!!)というから驚きだ。

日本では法人税率の引き下げが話題だ。もちろん日本企業にとって本国日本の税率は低いにこしたことはない。しかし、グーグルの例でも分かる通り、米国多国籍企業の決算書上の実効税率が低いのは、米国の税率が低いからではない。世界各国の法律を研究し尽くしてプラニングをきちんとしているからだ。

日本企業も「日本の税率が高い・・・」と嘆くばかりでなく、プラニングを策定・実行することでかなりの実効税率低減が可能なことを認識する必要がある。

グーグルとタックスヘイブン(1)

先日のビジネスウィークの記事でグーグルの巨額の利益がタックスヘイブン認識されることで大きな節税になっているという報道があった。かなり興味深い記事だったので読まれた方も多いのではないかと思う。

*日本企業のタックス・カルチャー

このような記事を見るたびに、日本の多国籍企業と他国(米国だけではない)の企業が持つタックス・カルチャーの違いの大きさを再認識させられる。タックスは合法的に支払うものであることは間違いないが、加速度を増すグローバル競争の中、日本の多国籍企業が合理的なグローバル・タックス・プラニングを講じていないが故に競争力を低下させていることは間違いない。

日本企業同士で競争していた時代には特に問題は浮き彫りになっていなかった。みんなタックス・プラニングなどしてなかったので同じ土俵で戦っているように見えてたからだ。欧米企業とは別の道を行っていても特に大きな被害はないように感じられていただろう。

しかし資本が一瞬にしてグローバルに動く今日では状況が大きく異なる。日本企業が好むと好まざるに係らず、全世界のオペレーションの生み出す「After-Tax」の金額は世界の投資家から見るとその企業の競争力のひとつの大きな指標となる。

上場企業にとってタックス・プラニングの欠如は買収リスクをも意味するかもしれない。株価が「After-Tax」の収益に連動していると仮定して、「うちが買収してまともなタックスプラニングをすればもっと収益が上がる会社だな・・・」と踏んだファンドとか他国の会社があると、プレミアムを乗せて株式を買収しても元が取れることになる。この辺りのことは日本全体で今一度、若干冷めた目で見直す時が来ているはずだ。

日本は2009年から「外国子会社の配当非課税」という素晴らしいシステムに移行している。全世界課税という日本より本来よっぽど不利な条件で競争させられている米国多国籍企業の実効税率がこれだけ低いのだから、日本企業としてももう少し頑張って欲しい。

*グーグルの裏技

ビジネスウィークに報道されているグーグルによる節税の手法はアイルランド、オランダ、バミューダとプラニングにはお馴染みのメンバー国が活躍している。ちなみにかなり重要なポイントなので敢えて付け加えておくと、ここでグーグルがやっていることは米国多国籍企業にとっては特に珍しいことではない。言わば、米国多国籍企業としては「普通」レベルのプラニングをしているに過ぎない。マイクロソフトも同じようなことをしていることは周知の事実だし、フェイスブックも同じようなステラクチャーを準備中と言われている。

具体的な手法については次回のポスティングで続ける。

Friday, October 22, 2010

進化するLLC(Series LLC)(2)

前回(と言ってもしばらく前となってしまったが)デラウェア州で、誕生している最先端を行く事業主体形態とでも言うべき「Series LLC(シリーズLLC)」について書き始めた。

一つの親LLCを設立した上でその中にミニLLC(SeriesとかCellと呼ばれる)を作るようなイメージで、そのミニLLCがあたかも独立法人かのように有限責任や独自の権利関係を持つことがるのが特徴だ。複数のLLCを設立するよりもコストメリットがあるということで普及している形態だ。ただし、新しい形態の事業主体が常にそうであるように、有限責任等の有効性に関して裁判所の見解が出ていない。したがって、理論上は有限責任だが、その意味で多少の不確実性は残っていると言える。

*Series LLCの税務上位置づけ

以前からのポスティングで再三触れている点だが、米国では事業主体は州の会社法の規定に基づいて設立される一方で、それを連邦税法上、どう取り扱うかという点は連邦税法で別途規定されている。Check-the-Box規定がそのいい例だ。

今回、公表された暫定財務省規則によると、連邦税法上、シリーズLLCのミニLLC各々は州法上、個別の事業主体とみなす、とされる。州の会社法上、個別の事業主体となるということが必ずしもイコール連邦税法上も個別の事業主体という訳ではないが、暫定規則の方向性から税務上も個別の事業主体と取り扱われると考えるのが自然だろう。

となると、個々のミニLLCに関してパススルーの取り扱いまたは事業体課税(=法人税対象)の取り扱いの選択が認められることとなる。Series LLCを組成する際、個々のミニLLCは親LLCまたは親LLCの子ミニLLCに所有されることもあれば、親LLCのメンバーが直接ミニLLCを所有することもあり得る。親LLCが100%ミニLLCを持つ場合にはミニLLCは税務上はDisregarded Entity(支店)扱いとなる。一方、複数のメンバーがミニLLCを直接保有するようなケースでは、ミニLLCは親LLCとは別のパートナーシップ扱いとなることになる。

州税上の取り扱いがどのように規定されていくかも興味深い。カリフォルニア州では税務当局(FTB)がそのウェブサイト上で「Series LLCのミニLLCは各々個別のLLCとして取り扱い」と早々と公表している。その理論で行くと、ミニLLCのうちカリフォルニア州で事業を行なっているところだけがLLC Feeの対象となるように見える。

*拡大するSeries LLC

デラウェアで「誕生」したSeries LLCであるが、現在では他州の会社法にも規定が始まり、現時点で10に近い州でSeries LLCの設立が可能となっている。その好評さから考えて、全ての州法にSeries LLCが規定される日もそう遠くはないように思える。

なお、州の会社法上、ミニLLCは各々有限責任を認められている点は上述の通りだが、連邦税の支払い義務に関しては連帯責任を負うのではないかという見方もある。

Monday, September 20, 2010

進化するLLC(Series LLC)

デラウェア州はCutting Edgeの会社法を整備することで知られている。特に上場企業の取締役に課せられる「受託者義務(Fiduciary Duty)」の考え方、企業買収の際の会社側の取るべき方向、等に関しては豊富な判例があり(例えばレブロンDutyとか、近年であればLock-upがチョッとし難くなったオムニケアとか)、デラウェア会社法は世界をリードしている。一般的には会社側にとって柔軟な規定が多く、米国の上場企業の半分以上がデラウェア州で設立されている。

たまに日本企業が米国に進出してくる際に、デラウェア州に現地法人を設立すると州税が節約できるのでは、という質問を受けることがあるが、州税は設立州がどこかに係らず、事業を行なう場所で支払う必要があるので、州税を理由としてデラウェア州を設立州として選択しても効果はない。デラウェア州の魅力は何と言っても先進的な会社法にある。

そんなデラウェア州で、また最先端を行く事業主体形態が誕生して進化している。「普通の」LLCが進化した「Series LLC(シリーズLLC)」という事業形態だ。

今ではすっかりお馴染みのLLCだが、LLC自体はデラウェア州で誕生したものではなく、1977年にワイオミング州で成立したLLC法がその起源となる。その後80年代後半に、IRSが一定の要件を整えたLLCをパススルーと認める通達を出し、1990年代に入って急激に普及した。さらに1997年には「Check-the-Box」ルールで、LLCのパススルー扱いが容易かつ確実に達成できるに至り、LLCの事業主体としての地位は確立された。

LLCを事業主体として選択する大きな理由は、「税務上のパススルー扱い」と「出資者の有限責任」の双方を兼ね備えている点にある。有限責任に関しては出資者がLLCの経営に関与しても問題なく(この点でLPよりいい)、また出資者側の資産差し押さえの際にはCharging Orderのコンセプトが適用されるケースがあり(いわゆる「Outside Liability」に係るプロテクションの話し)、ある意味で株式会社よりも資産保全が充実しているとも言える。企業統治法も弾力的だ。

したがって上場予定のない米国内の事業主体としてはベストな選択だ。上場をすると基本的にはパススルーの扱いは認められない(この点に関しては2007年6月8日の「ブラックストーンはパートナーシップとして上場」を参照)。ただし、日本企業が日本から「直接」保有する現地法人を株式会社の代わりにLLCという形態で設立するのは必ずしもメリットがあるとは限らず、租税条約の影響を含めた詳細な検討が必要だ。

LLC自体画期的な事業主体だったのだが、上述の通り、ここに来てデラウェアLLC法下で「Series LLC」という事業形態が誕生・普及している。この形態は、一つのLLCの中にSeries(またはCell)と呼ばれる「ミニLLC」が組成できるというものだ。

「なんだ支店じゃん」と思われる方も居ると思うが、このミニLLC、実は一つのLLCの中に組成されながらも個々のメンバー構成を持つことができたり、独立した権利関係をを持ったり、そして極め付けにミニLLC間で負債の弁償責任がない(= ひとつのミニLLCで発生した負債は同じミニLLCの資産をもってのみ弁償される)というかなり好都合な特徴がある。すなわち、実質個々のミニLLCが別々のLLCのような効果を持つ。

実際には一つの親LLCに中に組成されているため、複数のLLCを組成するのと比べてコストが低いというメリットもある。

このSeries LLCの税務上の取り扱いに関してこの程IRSが暫定財務省規則を発表した。次回はSeries LLCと税務の関係に関して触れてみたい。