前回のポスティングで、先日のビジネスウィークに報道されていたグーグルのタックスヘイブン利用による節税について書き始めたが、今回はその続きで記事にて紹介されていた具体的手法について触れる。
*ダブルアイリッシュ
グーグルの欧米、アフリカ、中近東のオンライン広告収入はまずアイルランドにある子会社で認識される。ちなみに米国外でグーグルが稼ぐオンライン広告収入125億ドル(80円レートでピッタリ1兆円)の実に9割近くがアイルランド子会社の売上となる。この手の所得に課せられるアイルランド法人税の税率は12.5%ということだから、これだけでも相当な節税になるはずだが、この12.5%の税率でも不満足と考えてか、アイルランドから所得はロイヤリティーという形でアーニングス・ストリッピングされて最終目的地のバミューダへと向かう。この結果アイルランドの利益率は僅か1%となる。
アイルランドからバミューダに直接ロイヤリティーを支払うとアイルランドで多額の源泉税を支払うこととなることから、ロイヤリティーは一旦、アイルランドからオランダのペーパーカンパニーに移される。オランダはEUの国なのでバミューダ相手のケースと異なりアイルランドで源泉税が発生しない。そして更にオランダの気前のいい税法に基づき、そのほとんどの所得がロイヤリティーとしてバミューダに流れる。バミューダはタックスヘイブンで課税はない。オランダもバミューダもプラニングには欠かせない国だ。
実はこのバミューダの会社、法的にはアイルランド法人(バミューダで経営管理される)となる。アイルランドからオランダ経由でまたアイルランド法人に戻ることから「ダブル・アイリッシュ」と呼ばれるストラクチャーだ。オランダが間に挟まれていることから「ダッチ・サンド」とも言われる。
グーグルのもともとのテクノロジーはカリフォルニアで開発されているはずで、アイルランドとかバミューダでその果実の恩典を受けるためには、まず使用権をアイルランド法人に与える必要がある。おそらくコストシェアリングを通じて経済的なテクノロジーの所有権を米国とアイルランドに分けているのだろう。コストシェアリング開始時に既に相当のテクノロジーが米国に存在しているはずだが、その「旧」テクノロジーは「Buy In」としてかなり低いロイヤリティーを設定して米国外にライセンス供与するのが普通だ。もちろん移転価格税制の対象となるが、SECファイリングによるとグーグルの移転価格設定はIRSから問題なしという判断をもらっているとされる。
また言うまでもないが、これらの手法は当然合法的であり、不必要な税金は支払わないという株主に対する受託者義務をきちんと履行しているというのが米国的な考え方だ。
バミューダの受け取るロイヤリティーはSubpart F規定(日本のタックスヘイブン税制に類似)で米国で課税されるのでは?と疑問に思われた方は米国タックス中級テスト合格だ。ビジネスウィークの記事には書いてないがおそらくCheck-the-Box規定を利用して米国目的ではロイヤリティー授受があたかも一法人内で発生しているかのように取り扱われているのだろう。オバマ政権はこのSubpart F逃れに網を掛けようと2009年に大胆な税法改正案を提案しているが、その後その改正案は聞かれなくなり、2010年の改正案からは漏れてしまっている。この点に関しては2009年5月30日の「時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(2)」以降のシリーズを参照。
*実効税率2.4%
上述のような手法を駆使した結果、グーグルの米国外における実効税率はナント僅か2.4%(!!)というから驚きだ。
日本では法人税率の引き下げが話題だ。もちろん日本企業にとって本国日本の税率は低いにこしたことはない。しかし、グーグルの例でも分かる通り、米国多国籍企業の決算書上の実効税率が低いのは、米国の税率が低いからではない。世界各国の法律を研究し尽くしてプラニングをきちんとしているからだ。
日本企業も「日本の税率が高い・・・」と嘆くばかりでなく、プラニングを策定・実行することでかなりの実効税率低減が可能なことを認識する必要がある。