デラウェア州はCutting Edgeの会社法を整備することで知られている。特に上場企業の取締役に課せられる「受託者義務(Fiduciary Duty)」の考え方、企業買収の際の会社側の取るべき方向、等に関しては豊富な判例があり(例えばレブロンDutyとか、近年であればLock-upがチョッとし難くなったオムニケアとか)、デラウェア会社法は世界をリードしている。一般的には会社側にとって柔軟な規定が多く、米国の上場企業の半分以上がデラウェア州で設立されている。
たまに日本企業が米国に進出してくる際に、デラウェア州に現地法人を設立すると州税が節約できるのでは、という質問を受けることがあるが、州税は設立州がどこかに係らず、事業を行なう場所で支払う必要があるので、州税を理由としてデラウェア州を設立州として選択しても効果はない。デラウェア州の魅力は何と言っても先進的な会社法にある。
そんなデラウェア州で、また最先端を行く事業主体形態が誕生して進化している。「普通の」LLCが進化した「Series LLC(シリーズLLC)」という事業形態だ。
今ではすっかりお馴染みのLLCだが、LLC自体はデラウェア州で誕生したものではなく、1977年にワイオミング州で成立したLLC法がその起源となる。その後80年代後半に、IRSが一定の要件を整えたLLCをパススルーと認める通達を出し、1990年代に入って急激に普及した。さらに1997年には「Check-the-Box」ルールで、LLCのパススルー扱いが容易かつ確実に達成できるに至り、LLCの事業主体としての地位は確立された。
LLCを事業主体として選択する大きな理由は、「税務上のパススルー扱い」と「出資者の有限責任」の双方を兼ね備えている点にある。有限責任に関しては出資者がLLCの経営に関与しても問題なく(この点でLPよりいい)、また出資者側の資産差し押さえの際にはCharging Orderのコンセプトが適用されるケースがあり(いわゆる「Outside Liability」に係るプロテクションの話し)、ある意味で株式会社よりも資産保全が充実しているとも言える。企業統治法も弾力的だ。
したがって上場予定のない米国内の事業主体としてはベストな選択だ。上場をすると基本的にはパススルーの扱いは認められない(この点に関しては2007年6月8日の「ブラックストーンはパートナーシップとして上場」を参照)。ただし、日本企業が日本から「直接」保有する現地法人を株式会社の代わりにLLCという形態で設立するのは必ずしもメリットがあるとは限らず、租税条約の影響を含めた詳細な検討が必要だ。
LLC自体画期的な事業主体だったのだが、上述の通り、ここに来てデラウェアLLC法下で「Series LLC」という事業形態が誕生・普及している。この形態は、一つのLLCの中にSeries(またはCell)と呼ばれる「ミニLLC」が組成できるというものだ。
「なんだ支店じゃん」と思われる方も居ると思うが、このミニLLC、実は一つのLLCの中に組成されながらも個々のメンバー構成を持つことができたり、独立した権利関係をを持ったり、そして極め付けにミニLLC間で負債の弁償責任がない(= ひとつのミニLLCで発生した負債は同じミニLLCの資産をもってのみ弁償される)というかなり好都合な特徴がある。すなわち、実質個々のミニLLCが別々のLLCのような効果を持つ。
実際には一つの親LLCに中に組成されているため、複数のLLCを組成するのと比べてコストが低いというメリットもある。
このSeries LLCの税務上の取り扱いに関してこの程IRSが暫定財務省規則を発表した。次回はSeries LLCと税務の関係に関して触れてみたい。