FIATがクライスラーLLCの35%持分を取得する際に「現金」の注入がなく代わりに様々な「戦略的財産」を提供するという点に関しては前回のポスティングで触れた。戦略的財産にはいろいろな有形・無形の資産が含まれること、また税務上の簿価がゼロまたは低い(が価値は高い)ものが含まれるであろうことが推測される。
*税務上簿価と時価の異なる資産のPS出資
有形、無形を問わずパートナーがパートナーシップ(二人以上のメンバーがいるLLCは税務上パートナシップ扱いが通常)に「税務上の簿価」と「時価」が異なる資産を出資することはよくある。その場合、出資時点でパートナーは含み益に課税されない代わりに、出資後のパートナーシップの損益配賦時に、当該資産に係る所得、費用その他の項目の配賦額の決定目的でこの含み益(含み損の場合も考え方は全く同様だが話しを分かりやすくするため、含み益ということで進めて行く)の影響を加味しなくてはいけなくなる。この特別な配賦方法が結構ややこしい。
この規定の究極の目的は出資前にパートナー側で持っていた「含み益」をパートナーシップへの出資後に他のパートナーに非課税で移転されてしまうことを防ぐというものだ。
一番分かり易い例は、出資後にパートナーシップがその資産を売却したとする。売却益のうち出資時点での含み益に相当する額は、他の所得の配賦比率がどうであれ、当該資産を出資をしたパートナーに強制配賦される。
しかし、出資された資産を直ぐに売却するとは限らない。特に今回のFIATのケースのように戦略的財産をいろいろと出資する場合に、個々の資産を別々に切り売りするのは考え難い。となると売却するまでの間この含み益はどうなるのか?
*減価償却費用の特別配賦
資産が売却される前にも調整の方法がある。税務上、できるだけ速やかに含み益に係る調整を行なうため、含み益を持って出資された資産が減価償却(無形資産に対するAmortizationを含む)の対象となる場合には、その減価償却費用の配賦方法を調整することになる。このメカニズムは少し込み入るが、これらの調整を考える上でパートナーシップ税法を語る上で避けて通ることのできないSec.704(b)のキャピタル勘定の話しをする必要があり、この点は後述する。このキャピタル勘定上の取り扱いが税務上の取り扱いの理解の鍵となるからだ。
FIATの例を続けると、FIATがクライスラーLLCに税務上の簿価がゼロの無形資産を出資したとする。自己創出の無形資産は多くのケースで税務上簿価がゼロであることが多く、したがってこのようなケースはよくある。FIATはこの出資の対価としてLLC持分を受け取るのだから当然、価値はゼロではない(クライスラーLLCの価値がゼロなら話しは別だが、一応そうではないと言う前提で)。
この無形資産が仮に15年で償却されるタイプの資産だとすると、FIATが出資した時点で非課税処理していた含み益に係る税務上の調整も15年掛けて(または途中で資産がLLCから外部に譲渡される時点ではその時点まで掛けて)行うメカニズムが規定されている。実際の調整方法は次回のポスティングとする。