Monday, January 5, 2009

バンカメのメリル買収完了

一年前の今頃は想像もできなかったような企業の破綻、買収が相次いだ2008年後半であるが、バンカメのメリル買収もそのひとつだ。米国の三大投資銀行の一つであるメリルの独立事業主体として存続が終焉するとは信じ難いことであるが、2009年1月1日に買収の全ての手続きが完了したと公表された。

*僅か「3日」の交渉で買収合意

双方ともにメガバンクであるバンカメとメリルの合併ともなるとさぞかしその交渉には時間が掛かったであろうと推測されるのが普通である。ところが2008年9月のウォール街には交渉に時間を掛けている余裕はなかった。

合併承認のためのProxy Statementによると、リーマン・ブラザーズの破綻が時間の問題とされた9月12日にメリルの取締役はカンファレンス・コールを持ち、CEOとマーケットの現状、今後のオプションについて話し合ったとされる。

その翌日、土曜日の9月13日の午前中にメリルのCEOがバンカメのCEOに電話を入れる。その日の午後には早速、実際に会談を持つが、そこでメリルは当初、バンカメを少数株主として迎え入れ資本注入をしてもらう提携のような形の依頼をした。それに対してバンカメは少数持分には興味がないと断った上で、買収なら考えるという回答を出したとされる。

その時点でDue Diligenceの作業が開始され、メリルはバンカメと同時に他の金融機関2社とも買収または提携の話しを進めた。翌9月14日の日曜日には買収の交渉相手はバンカメに絞られ、経営陣、アドバイザー達による徹夜の作業が続けられる。そしてナント9月15日の月曜日には買収案が発表されるに至る。この間、僅か3日という信じられないスピードだ。

*買収の形態「逆三角合併」

買収の実質的な形態は、メリルの株主がバンカメの株式を受け取る「株式交換」であるが、形式的には株式の交換ではない。これは以前から再三触れている通り、各株主と株式のスワップ契約を締結するのは不可能だからだ。一方、合併という手法をとることにより過半数の株主の承認を得ることで全株主から株式を取得できる(反対株主による買取請求「Appraisal Rights」の部分は除いて)。

したがって、形式上は「逆三角合併(Reverse Subsidiary Merger)」として買収は実行されている。すなわち、バンカメは合併の実行のみを目的とする「Merger Sub」となる「MER Merger Corporation」を100%子会社として設立する。そしてそのMERをメリルに合併させ、合併対価としてはバンカメの株式を用いる。MERの株式が使用されないことから三角合併となる。さらに合併の存続法人はメリルとなり、メリルはバンカメの100%子会社となる。メリルが存続法人となるため「逆(Reverse)」三角合併となる。

*税務上取り扱い

合併の対価としては全て普通株式が利用されることからA型再編の逆三角形型、またはB型再編の双方に適格となり、税務上の「Tax-Free Reorg」となるはずだ。Tax-Freeとなるという条件であればForward三角合併でもいいのだが、メリルの持つ様々な無形資産、契約関係をそのままの事業主体で保有し続けることができる逆三角合併が税務上以外の理由で好ましかったであろう。

また、万一「Tax-Free Reorg」と認められなかった場合、Forwardの三角合併としているとメリルの法人レベルでの課税が発生する。2008年9月の状態では、法人レベルでもゲインはなく、もしかしたら損失が発生していたかもしれないが、法人レベルでの課税処理は大きな負担となり実務的にかなりの大惨事となってしまう。その点、逆三角合併であれば最悪「Tax-Free Reorg」ではない(=課税取引)となった場合でも、課税関係は株主レベルだけで済むので若干気は楽だろう。

*財務省の資本注入とTax-Free Reorg

メリル買収の際の「Tax-Free Reorg」の取り扱いにはひとつリスク・ファクターがあった。それは財務省が当時実行していた銀行に対する資本注入との関係だ。もし財務省が資本注入するとメリルは財務省に対して優先株式を発行することになる。そのようなことが合併承認前に起きてしまうと、合併時にメリルの他の株主が全ての普通株式をバンカメの普通株式と交換したとしても、優先株式が残るため、メリルの「Control」が移管されたことにならない。そのような場合には合併が非課税の要件を満たせず、課税取引となるが、その場合でも合併は実行される(株主に承認を仰ぐ)と規定されていた。ただし、その場合には合併のClosingの通常条件である、双方の法人の弁護士による「この合併はTax-Free Reorgです」という意見書の提出が免除されるとされている。Tax-Free Reorgとならないのでこれは当然の措置であろう。

なお、実際には資本注入は行なわれずに、通常のTax-Free Reorgとなるはずの逆三角合併として買収は完了している。