Saturday, January 17, 2009

政治家による「年金未納問題」アメリカ版(2)

*IRSの税務調査で発覚

Geithner氏が社会保障税を支払っていないという事実は2003年と2004年を対象年度として2006年に実施されたIRSによる税務調査で指摘されたとされている。実際にはそれ以前の2001年および2002年にも同様の未納があった。

今回、「悪い奴だ」と報道されるひとつの理由が、2003年と2004年の未納が指摘された後も2001年と2002年に関しては自ら何のアクションも取っていなかった点だ。その後2008年の終盤に財務長官として白羽の矢が立った関係でオバマ陣営による徹底身元調査を受け、慌てて2001年と2002年分も利子を付けて支払ったということだ。確かに聞こえは悪いが、ただ良く考えてみると2006年に調査が終了した段階では2001年に関しては確実に、2002年に関してもおそらく時効が成立していたものと思われる。その意味では敢えて2001年、2002年の未納を自ら支払うような者は通常存在しないのではないかとも考えてしまう。

*なぜ未納が起こりえるのか?

しかし、上述の通り、米国の仕組み下では通常未納にはなり難いはずではなかったか?どうして従業員であったはずのGeithner氏は社会保障税を未納としてしまったのか?

よく内容を検討すると、問題は結構複雑で実はGeithner氏が単純にインチキをしたという簡単な話しではないかもしれないことが分かる。

問題の根源にあるのは、IMFが国際機関であることから米国での従業員に対してもFICA源泉義務を負っていないという点だ。私企業の場合、従業員が米国市民のケースでは「雇用者が米国法人または米国居住者」の場合はWages全額、「雇用者が米国法人または米国居住者でない」場合には従業員の米国での役務提供に係る部分のWages、に対してFICAの源泉徴収義務が生じる。ところが国際機関が従業員に支払う報酬は「International Organizations Immunities Act」に基づき「Wages」の定義から除外されており、そのため技術的にFICA源泉の対象とならない。

問題はここからだ。確かにWagesとはならないので、雇用者であるIMF側にはFICAの源泉徴収義務はない(更には所得税の源泉徴収義務もない)。FICAというのはその仕組み上、個人で納付したくても納付する方法がなく、雇用者が源泉徴収してくれないと支払いたくても支払うことができない。となるとIMF側に源泉徴収義務がない以上、FICAの支払いは仕組み上不可能ということになる。

また、SECAというのは基本的に自営業者に適用されるので、もし従業員として報酬を受け取っているのであればSECAの対象とすることもできない。

上述の通り、国際機関から受け取る給与は源泉徴収を規定する法律目的ではWagesとならないが、だからと言って従業員という位置づけまでもが否定されているようには見えない。となるとGeithner氏の当初の取り扱いは「これはWagesではないからFICAの対象ではないし、また従業員として報酬を受け取っているのだからSECAの対象でもない」というポジションに基づくものと推測することもできる。申告書を見た訳ではないので推測となるが、Form 1040のLine 7に給与報酬として報告し、Sch. CやSch. Eには報告されないのでSECAの算定をするSch. SEが添付されていなかったのではないか。

しかし、IRSはこのポジションは取らない。IRS的には、米国市民または居住者が国際機関から報酬を受け取る場合には、それは確かにFICAの源泉徴収対象とはならないが、その代わりに「自営業収入」として取り扱い、SECAを支払うこと、というのが正しい取り扱いであるとしている。

*SECA手当ての着服?

このように技術的にはいろんな議論が可能であり得るのだが、上述の通り、税務調査後も過去2年分の未納が続いたことでネガティブなイメージがある。更に加えて悪いネタとなっているのが、IMFは「米国市民はSECAの支払い義務があります」という告知を何回かGeithner氏に行なっていたと報道されている点、また通常の給与に上乗せする形でSECA支払い用として税額相当分が支給されていたという点だ。すなわち通常の報酬に加えて「これでSECAを支払って下さい」と余分に現金を支給されていたと報道されている。にも係らずSECAを支払っていなかったということはその分プラスで自分のポケットに入れていたという見方も成り立つことになる。

今のところオバマ陣営は今回の未納を「悪意のない間違い」と取り使っているが、どことなくスッキリしないものが残る。とは言え、米国経済を本当に立て直してくれるのであれば今回の事件には黙って目を瞑ってくれる人が多いだろう。