Wednesday, January 21, 2009

「FIATによるクライスラー出資」と米国タックス(1)

経済紙等で大きく報道されているようにFIATは米国のクライスラーの35%持分を取得するという方向で調整に入っている。

FIATというと個人的には大学に入った頃にとても欲しかったミッドシップ元祖の「X1/9」を今でも鮮明に思い出す。黄緑とかで黒の線の入ってたヤツだ。もちろん実際には買えず、中古のCIVIC(CVCCです!)に落ち着いたのだが。余談となるがこのCIVICはその後、旧山手通りで夜中に故障してしまい、それを「口実」に当時FFながらにハンドリングが良く「Speacialty Car」という今聞くと英語的に何となく「フ~ン」って感じで意味の分かりにくいカテゴリーで登場していたPrelude(元祖モデルでライトがRetractableじゃない頃)に乗り換えることとなった(サンルーフ付き!)。ちなみに一つの自動車会社に傾倒しているように思われるかもしれないので一応追記しておくと、その後社会人初期までの間にはToyota車、Nissan車、中古のドイツ車(こちらはよく故障しました)といろいろ乗った。車を買うのが楽しかった懐かしい時代だ。

本題に戻るが、FIATとクライスラーの間でサインされた合意書は法的な強制力を持たない(=Non-Binding)というものであることから最終的に提携が実現するかどうか未知の部分もある。実現すると、クライスラーがLLC、すなわち米国税務上はパススルーであることから追加出資には、いくつか面白い税務上の検討事項が発生する。

*クライスラーLLC

クライスラーLLCはご存知の通り、メルセデス社がクライスラーとの「世紀の合併」を解消した際にPEファンドのサーベラスがクライスラー持分を取得する過程で組成された事業主体である。

クライスラーLLCはPrivateの事業主体であるため財務状況、事業形態等をSECに報告する必要がなく、その意味でどのように運営されているかを知ることはGM、Ford等と比較して困難である。今回提携に関して発表されたプレス・リリースによるとクライスラーLLCの「大多数持分」がサーベラスが所有していると表現されていることから、クライスラーLLCには既に複数のメンバー(=パートナーまたは株主に相当)が存在することが分かる。

もし仮にクライスラーLLCが100%サーベラスに所有されているようなことがあれば、今回のFIATによる投資はLLCの米国税務上の取り扱いを「支店扱いのDisregarded Entity(DE)」から「パートナーシップ」に変更する効果を持つこととなったであろう。その場合にはFIATばかりでなく、サーベラスもクライスラーLLCが保有している有形・無形の資産を新規に設立されるパートナーシップに現物出資した扱いとなる。

*FIATの出資

実際にはクライスラーLLCには複数のメンバーが既に存在しているらしいことから、今回のFIATによる出資はLLCの「パートナーシップ」という税務上の位置付けに影響を与えるものではない。

今回の提携で面白いのはFIATは35%の持分を取得する際に「現金」の注入がないということだ。代わりにFIATは小型車モデルおよびプラットフォーム、低公害車に係るテクノロジー、北米以外の地域での販売網の共有、等の「戦略的財産」を提供するという。

*無形資産のパートナーシップ出資

パートナーシップにこのような無形資産を現物出資する場合には様々な税務上の検討事項がある。

これらの資産に対してLLCが認識する「税務上の簿価」はFIATが出資前にこれらの資産に対して認識していた(米国税務上の考え方に基づいて計算される)税務上の簿価を引き継ぐ。これら戦略的資産にどれだけの簿価があるかは分からないが、簿価はゼロ、または時価(=総計ではクライスラー時価の35%相当額となることになる)と比べて低いものが含まれるであろうことが推測される。

仮に税務上の簿価ゼロだが実際には価値のある無形資産をパートナーシップに出資するとどうなるか?この辺りを次回のポスティングで触れる。