Monday, January 19, 2009

米国不動産持分(USRPI)とインフラ投資

日本法人とか日本居住者等の米国から見た「非居住者」が米国の不動産を譲渡して得るキャピタル・ゲインは基本的に常に米国にて申告課税される。法的なメカニズムとしては米国不動産持分(「USRPI」)を譲渡して得られるゲインは、その不動産が実際に米国事業用途に供されているかどうかに係らず、常に事業所得(=ECI)とみなされるからだ。ECIとなると米国で課税対象となり、しかも申告書に反映させて累進税率に基づく税額計算となる。

*USRPI

このことから、非居住者が米国の資産を譲渡してゲインを得る場合には、譲渡の対象となる資産がUSRPIなのかどうかの判断が極めて重要となる。USRPI以外の資産を譲渡して非居住者が認識するキャピタルゲインは多くのケースで米国では非課税の取り扱いを受けることができることから、譲渡対象資産がUSRPIかどうかで天国と地獄(?)の差がある。

住居とか商業用の不動産とか分かり易い資産を譲渡する際には「今、私が譲渡しようとしているのは米国の不動産だろうか?」と迷うことは普通なく、USRPIかどうかの判断は通常困難ではないだろう。しかし、最近は譲渡するものが一体何なのかすらがよく分からないケースがある。例えば映画館をその事業共に全て譲渡する場合、その対価には映画館の「不動産としての価値」にプラスして映画館経営に係る事業価値、すなわちGoodwillのようなものが含まれていることが多い。もしそのGoodwillがその映画館の立地条件に係るようなケースでは、その価値は「不動産の価値の一部」に加える必要があるだろう。

このような評価の問題は不動産の直接的な持分の評価よりも、法人「株式」がUSRPIと取り扱われるべきかどうかで焦点となることが多い。USRPIには直接の不動産持分ばかりでなく、事業資産の50%以上がUSRPIで占めている法人、すなわち米国不動産保有会社の株式が含まれれるからだ。

この規定で恐ろしいのは、一部例外を除く「全ての米国法人」は「米国不動産保有会社」であるという推定があり、そうでないとする場合には納税者側で資料を用意してこの推定を打ち破る必要がある点だ。株式譲渡時にこの推定を打ち破る手続きをきちんとしていないと、不動産を全く所有していない法人の株式を譲渡しているにも係らず「法的」にはUSRPIを譲渡したこととなる。となると売却益は課税対象となる。後で気付いた場合には慌てていわゆる301.9100救済を申し立てたり、Rev. Proc 2008-27の特別規定に基づいて事態の解決を図ることとなるが、時間・コスト・心労がかさむことになる。

再編、出資等の非課税取引を通じて外国人が米国法人の株式を手放す、あるいは他の法人の株式と交換される際にも上の推定規定があることから、様々な手続きが必要となる。この辺りは技術的に複雑なのでここでは敢えて避けておくが、日本企業にとっては実に関連の深いエリアであることから、そのうちジックリと触れてみたいトピックだ。

*どこまでが不動産か?

株式を譲渡する際に、その株式を発行している法人が米国に土地を保有している場合、どこまでを土地の価値に含めるのかという難しい問題に直面することが多い。上述の映画館の例がそのひとつだし、また法人がその土地の使用に関して価値のある政府許認可を持っているようなケースだと、許認可を不動産、すなわちUSRPI、と取り扱うべきかどうかという検討結果次第で株式がUSRPIとなるかどうかが決まるようなケースがある。これらの問題はエネジー業界に特に顕著である。石油とかガス関係の権益、施設を有する法人の資産のどの部分を不動産持分とみるかという問題だ。

*インフラ投資

エネジー業界と並んで頭が痛いのがインフラ投資だ。例えば米国の有料高速道路のようなインフラを持つ米国パートナーシップのケースだ。このようなパートナーシップには多くのケースで非居住者を株主とする米国法人がパートナー含まれる。

パートナーシップの持つUSRPIの金額次第では米国法人は不動産保有会社としてUSRPIとなり、その株式を非居住者の株主が売却してゲインを得ると、米国で課税対象となる。

有料高速道路というのは政府からの許認可なしではあり得ないインフラで、この許認可がない場合の不動産の価値、すなわち高速道路が敷かれているその下の土地だけの価値は比較的低いであろう。そのようなケースで許認可の価値をUSRPIに含めないとすると、パートナーの米国法人の株式はUSRPIとならずに、この株式から発生するキャピタルゲインは非居住者株主にとっては非課税となる。

*IRS Notice 2008-31

このように土地の利用に係る価値のある許認可がUSRPI扱いされていないために、キャピタルゲインが米国で課税対象ではないという主張が横行しているのではないかという懸念をIRSは持っているようだ。

そこでIRSはこの分野に関して何らかの規定をしたいという意思を2008年後半にNotice 2008-31で公表した。Noticeには「どのような種類の許認可を不動産に含まれる、したがってUSRPIの一部、とするか」また「許認可コストのどの部分を不動産相当とみるかという算定に係る規則を盛り込むべきか」等の検討事項に関して納税者側のコメントが欲しいと記されている。

*新政権と米国の老齢化するインフラ

米国の高速道路、橋その他のインフラは古いものが多い。オバマ新政権下ではインフラの再整備が大きな課題のひとつとなる。インフラ整備には当然お金が必要で、米国が巨大なキャピタル・インポーターであることを考えると、そのお金は米国の外からやってくることが多いだろう。その際に、最終的なゲインがどのように取り扱われるのかを決定することになる新規定は注目度が高い。