Sunday, February 1, 2009

長官候補とタックス・スキャンダル第二弾(1)

財務長官候補に指名されていたGeithner氏(後に指名確定)に年金未納問題が発覚していたことは1月17日のポスティングで触れたが、今度はHealth and Human Services(何て訳されているのかしらないが「厚生省医政庁」みたいな感じ?)の長官候補に名前が上がっているDaschle氏に係るタックス・スキャンダルが広く報道されている。

オバマ政権下で米国の医療保険システムを見直すという大役を仰せつかる長官候補だけに倫理感と透明性を掲げる同政権としてはチョッとイメージ的に頭の痛い問題だろう。しかも、前回のGeithner氏の場合にはIMFと社会保障税というどちらかと言うと地味めな設定下での話しであったが今回のDaschle氏のケースはもう少し設定が派手だ。

Daschle氏に係る報道を読んでいると、どこの国でも政治家というのは本職以外でいろいろと儲かる機会が多いんだな~っていう、そんな「おいしい」アレンジの実態を垣間見ることができる。それだけに今後の審理過程でGeithner氏のケース以上の突っ込みを入れられることは間違いないだろう。

今回のタックス問題は技術的には1)フリンジ・ベネフィット課税、2)Form 1099MISCの金額報告漏れ、3)不適格な寄付金、という区分される。下で各々の項目に関して簡単に説明した上で、最後に修正申告のタイミングに関して触れる。

*フリンジ・ベネフィット課税

報道に基づくと事の経緯はこうだ。Daschle氏は、自らが「Advisory Board」メンバーを務めるPrivate Equity Fund(PE Fund)の社長でありかつ民主党のサポーターである個人から無償でリムジンサービスが供与されていた。リムジンサービスとは運転手付きの黒塗り自動車を提供されていると思えばいい。車種はリンカーン・タウンカーが一般的だが、ハイエンドのケースはメルセデスSタイプが頻繁に使用されるので今回はどちらかというとSタイプのイメージを想定してしまう。

リムジンサービスが業務用に使用されているのであれば問題はないが、個人使用分があるとそれは当然「みなし報酬」となる。Daschle氏側の説明によるとナント80%が個人使用だったということなので、ほとんど業務には使用していない。私用目的で運転手付きのSタイプ(車種は想像)を好き放題乗り回せるというリッチな状況だった訳だ。

米国では、現金の報酬はもとより、現物支給、サービス供与の全てを「時価評価」して課税対象とする。税法的には「あらゆる個人資産の増加」が課税所得であると規定されており、具体的に「非課税」と規定される項目以外は全て課税となる。税法の基本的な構造が「全て課税」と規定された上で、「ただし、これとこれは非課税」という例外規定を付けていることから、例外規定に当てはまらないものは全て課税所得となる。条文解釈の超基本であるが、例外規定は「狭義」に解釈されるため、そのハードルは高い。

今回のようなフリンジ・ベネフィットに対しては若干の例外規定(=非課税規定)が税法132条に儲けられているが、少額フリンジ(例、会社のコピーを私用に数ページ使ってしまった)とか通勤に係る特定プログラム下での交通費援助(米国では通勤費用は「私費」!)とか、黒塗りSタイプを好きなだけ私用に利用できるようなケースには当てはまらない。

また、報酬額は時価換算されるため結構なものとなるだろう。個人的にもとてもタイトな日程の出張(空港に直ぐに戻る必要があるようなケース)とかレンタカーが実用的でないマンハッタン近辺ではカーサービスを利用することがあるが(もちろんSタイプではなく、タウンカーっぽいやつ。念の為・・・)3~4時間でも数百ドルはいくので、Daschle氏のリムジン使用時間が多いとかなりのみなし所得となる。実際に一部の報道では2005年から2007年までの3年間で年間平均$80,000を超える金額に上るとされている。

この時価評価であるが、日本人の派遣員のケースでは、会社負担の家賃、一時帰国費用、健康診断、その他多くのフリンジに適用される。日本では従業員に対する社宅供与は時価よりかなり低い金額で所得を認識することが許されていると理解している(一方で役員の「豪華」社宅は時価評価)。給与を現金で受け取り、自ら家賃を支払うケースと、同じ物件を会社が借りて個人に供与するケースで、課税関係が異なるのも変な気がするが、米国では社宅が「あばら家」であれ「豪華物件」であれ、時価評価(実勢レント)でみなし所得となる。契約主が個人の名前でも会社の名前でも関係ない。(続く)