Thursday, November 26, 2009
グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(5)
*過去からの課税繰延規定の適用中止
米国の税法にはいろいろな課税繰延規定があるが、長期グリーンカードを放棄する場合には、過去から適用されている繰延規定の全てが中止となり、すなわち放棄の年に繰り延べられていた課税関係を認識することとなる。
例えば、Like-Kind Exchange(適格事業資産、投資資産の買い換えに適用される圧縮記帳)の一種である「Deferred Like-Kind Exchange」を行う際には、資産を手放した後に、代替で取得する資産の認定までに時間が掛かることがある。代替の資産を取得していない段階で、長期グリーンカードを放棄する場合には、Deferred Like-Kind Exchangeで繰り延べられるはずであった売却益が放棄時点で認識させられるということになる。接収、収用などの措置に基づく繰り延べに関しても同様である。そんなタイミングでグリーンカードを敢えて放棄するというのもあり得ないに近いが・・・。
また、Sec.367(a)に基づき「Gain Recognition Agreement (GRA)」を結んでいた個人に対しても同様の取り扱いが規定されている。Sec.367(a)自体はとてつもなく複雑な規定で今回のポスティングでその片鱗でも紹介することは不可能だが、個人が適格現物出資規定を利用して外国法人に含み益を持つ株式を出資したとする。米国法人に対する出資ではないので潜在的には適格現物出資でも含み益をゲインとして認識する必要が生じるケースがある。その際にIRSとGRAという契約のようなものを結んで株式売却その他特定の行為を今後5年間行わないという条件でゲインの認識をナシにしてもうらう。もちろん、条件違反があればゲインの認識が必要となる。GRAを締結してから5年間が経っていない間に長期グリーンカードを放棄すると、条件違反に相当し、ゲインの認識が必要となるというものだ。財務省はなかなか抜け目がない。ちなみに同様の規定が2009年2月に公表されたSec.367(a)の暫定財務省規則にも含まれている。
また外国信託に含み益を持つ資産を拠出する際には、米国市民・居住者である委託者が資産の実質的な所有者となるGrantor Trustであれば課税が繰り延べられるが、委託者が長期グリーンカードを放棄する場合には、米国居住者でなくなるため、その時点でゲインの認識が必要となる。
繰延報酬・退職金プランとグリーンカード放棄
今回の長期グリーンカード放棄に係るMark-to-Market課税で最も複雑な規定と言えるのが繰延報酬・退職金プランに対する取り扱いだろう。この取り扱いの説明はかなり長くなるので次回のポスティングとする。
Wednesday, November 11, 2009
All Cash D再編とオバマ国際課税改定
もともとのポスティングからだいぶ過ぎているが改正の内容および目的に関しては再度オリジナルを読み返して頂きたい。国際課税ルールに関して書き始めるとビートルズを思い出す(?)。以前に余談で触れたビートルズRemasterボックスセットは、忘れた頃についにアマゾンから送られてきた。最近は音楽の購入と言えばダウンロードなので、CDの封を開けるという行為自体が何となく懐かしい。それにしても相変わらずCDの密封ビニールの開け難いこと。セットには10枚以上のCDが入っているので全部開けるだけでも一苦労で指の爪が剥がれそうだった。
そして早速Finger 5みたいに指の震え(興奮とCDのビニール剥がしの双方の影響で・・・)を押さえつつCDをセットした。小学校低学年の頃、始めてレコード屋で買ったHey Judeのシングル(B面はRevolutionだった)を持って家に走って帰ったあの日の興奮がフラッシュ・バックしてきた。
ちなみにバンドとして当時本来意図されたのは「モノ(Mono)」ということでそちらも後日聞かざるを得ないが、とりあえずは、そこまでこだわらずにいい音で聞けるステレオ・バージョンから。
当然最初はアルバムPlease Please Meから入ったのだがいきなり大感動。すごい!一番顕著な違いは今まで混ざっていた二人のギターがクリアに分かれている点。ギターx2、ベース、ドラム、ボーカルの各々の音がクリアに聞こえる。これならもっと正確にコピーできるかな、と思った(今更・・・)。もちろん、もともと2トラックで録音されているものなので限界はあるんだろうけど、よくここまで再現してくれたものだ。例えば一曲目の「I saw her standing there」。昔バージョンではJohn Lennonの7thを多様したリズムギターとGeorge Harrisonのリバーブの掛かったようなバッキングギターが混ざっててチョッと気持ち悪かったのがここに来てようやくスッキリした。
また、アルバムタイトル・トラックとなるPlease Please Meの3番の歌詞は1番と同じなんだけど、John Lennonが3番の2コーラス目を間違えて2番の歌詞で歌い始めて、失敗に気づいて笑いをこらえ切れずに「Come On・・・」と吹き出しながら歌っているのもよりリアル感を伴って聞こえてくる。前から思ってたが、こんなバージョンを直さずにそのままレコード化しているのも面白い。今だったらもちろんパンチで修正してただろう。2トラックでは無理だけど。
ギターの上を指が動く際に出るチョッとしたノイズみたいなのが聞こえるとなぜか昔から体がゾクゾクするんだけど、Remasterはゾクゾクだらけだ。それにしても最初にCDが出たのがビニール版から20年、信じられないけど、それから更に20年が経ってRemasterに至っている。まさしく「It was 20 years ago today…(ファンの人なら分かるね?)」だ。レコード、初版CD、Remaster、と同じアルバム10枚以上を3種類も買わせるバンドは後にも先にもビートルズだけだ。モノのボックスも入れると4種類という方が正しい。
*「Boot within Gain」規定
さて、本題のタックスだが、9月8日のポスティングにあるように現在の法律では、適格再編に際してBootを受けとっても「旧法人の株式の含み益」までしか課税されない。現金を受け取れば通常は課税されることが多いのを考えるとこれはかなり有利な取り扱いで、これを一般に「Boot within Gain」規定と呼ぶ。
米国事業主体で手持ち現金が不足する事態が多発したここ1年、外国子会社に眠る現金を何とか税務的に効率よく(簡単に言うと税金を余り払わずに)持ち帰る手法が沢山模索されていたが、Boot within Gainのような都合のいい規定をタックス専門家が見逃すはずはない。
*利用例
この規定の利用法としては次のようなものが一番一般的だと思う。米国親会社Pが海外にある二つの子会社の一つAを他の外国子会社Bに現金で売却する。当然、Bは現金を比較的沢山持っている法人だ。このままだと、これは関連会社間の株式売却なのでSec.304でみなし配当となる。というか、正確に言うと、PはAの株式をBに現物出資し(Sec.351)、その対価でB株式を受け取り、Bが即座にB株式をPから現金で買い戻したかのように取り扱われる。Bによる償還はPがBの100%親会社であることからSec.301の分配扱いとなる。したがってBのE&Pの範囲で通常は配当扱いだ。
外国税額控除等で米国で課税がないのであればこのままSec.304でもプラニングになる。もともとの取引はPによるA株式のBへの売却なので、形態的にはBの所在国では配当扱いでない可能性が高く、B国で源泉税の対象とならないというメリットもある。
ここでもしPによるA株式のBへの売却と同時に売られた子会社であるAを「Check-the-Box」して税務上は支店扱いする選択をすると取り扱いは全く異なってくる。この場合には、税務上は、あたかも売られた子会社の資産そのものが売却され、売却対価の現金がA経由(Aは清算扱い)で米国親会社に分配されたかのような取り扱いとなる。すると、他の要件を満たすという前提でこれは米国税務上の「All Cash D再編」となる。株式を売ったことにならないのでSec.304の適用はないだろう。
Bからの分配なので全額配当となりそうなものだが、この取引の鍵は、Pが受け取る現金は全額D再編下で受け取るBootだという点だ。すなわち、再編の対価としてBootを受け取っているので米国親会社P側では上述のBoot within Gain規定を適用することができる。結果として、売却した子会社株式の税務簿価が子会社の時価より高い場合、またはほぼ同額である場合、にはゲインがないので全然課税されないということになる。
このような取引に網を掛ける目的で草案されているのがオバマ政権の改定案だ。オバマ改定案が法律化されると、上のような例ではBoot全額、すなわち対価全額が課税対象のみなし配当となるだろう。ただ、現時点で具体的な法律化に向けた審理が進んでいるという話は余り聞かない。この辺りはまた別の機会に。
Thursday, November 5, 2009
復活しそうな「NOL5年間繰り戻し」
*新しい法案
ところが、面白いことにここにきて、また新しい法律(Unemployment Insurance Bill)で欠損金の5年間の繰り戻しを今度こそ「全納税者」に対して認めようという動きが加速している。しかも、最短審理で可決される見込みが高く、上院ではナントさっき既に可決されたそうだ。その後、直ぐに下院でもOKが出るらしい。となるとオバマ大統領が拒否権を発動することもないであろうことからあっという間に法律となる。
景気刺激策の時点で、基本的に財政赤字を大きくするという理由で法律化が見送られた経緯を考えると何だか不思議だ。当時と比べて財政状況は悪くなっていることはあっても良くなっていることはないからだ。
なぜこのタイミングで復活できたかという点はワシントン政治学の不思議としか形容しようがないが、企業としてはとてもありがたいだろう。
*5年繰り戻しの内容
今回の法案によると、5年間の繰戻しは2008年または2009年の課税年度に発生した欠損金に適用される。どちらか一方の年度の欠損金のみが対象となり、両方の欠損金を5年間繰り戻すことはできない。ただし、小規模納税者が先の景気刺激策の規定に基づき既に2008年の欠損金を5年繰り戻している場合には、追加で2009年の欠損金を5年間繰り戻すことが認められる。
また、5年前への繰戻しは、その年(=5年前)の課税所得の半分が上限となる。4年~前年への繰り戻しに関してはこのような制限はない。その意味で期間的には5年の繰り戻しとなるが、所得的には「4年半の繰り戻し」みたいな感じだ。
しかも、通常であれば90%までしか欠損金の繰戻しで消すことができないAMT所得に関して全額の相殺が認められる。AMTに関しては冒頭でリンクしてある過去のポスティングで触れているので参照して欲しい。
*5年繰り戻しの影響
2009年の欠損金を現行法に基づいて2年間しか繰り戻せないとなる苦しいところが多い。2008年の業績がそんなに良くなかったところも多いことから、繰り戻す先の課税所得が少なく、2009年の欠損金全額を吸収できないケースも多い。また、2008年が損失だったケースでは既に2008年の欠損金を2006年と2007年に繰り戻しているケースもあり、その場合、2009年の欠損金を繰り戻す先が存在しないこともある。
繰り戻しできない欠損金は将来に繰り越すしかないが、現時点で直ぐにキャッシュ化できないという点に加えて、決算書上、繰延税金として資産計上する際に、将来の業績見込みが明るくないと評価性の引き当てを積まされることにもなり兼ねず、その場合、欠損金の価値を会計上も認識できないことになる。
そんな時に5年間繰り戻しという法律が誕生すると、繰り戻しの選択肢がグッと広がる。多くのケースで2009年の欠損金全額を吸収することができるだろう。となると現金も直ぐに戻ってくるし、評価性の引き当ても問題もなく直ぐに「Receivable」を認識することができる。
*アメリカ大丈夫?
個々の企業ベースではとてもありがたい話しであるが、米国の税収入はますます少なくなる。ちょうど、昨日か一昨日、日本でも法人税の還付額が徴収額を超えるという一見分かり難い報道がされていたが、まさしく米国もそれに近い。景気刺激策、倒産企業のベイルアウトに次ぐ、大盤振る舞い。アフガニスタン、国民健康保険も先が見えず、米国の財政、ドルはどうなってしまうのかチョットというかかなり不安にさせてくれる。このまま、国の補助で景気が回復して終わりよければ全てよしとなるか?
Monday, October 19, 2009
グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(4)
*税金支払い繰延選択
グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税が「みなし売却課税」であることから、通常のキャピタルゲインのケースと異なり税額を支払う原資が存在しない。実際に売ってないのだから当然だ。
税金を払いたくてもキャッシュがないという不都合を解消するためにMark-to-Market規定に基づいて発生する税額の支払いを将来に繰り延べる選択制度が規定されている。支払いを繰り延べることから、本来の税額に加えて金利(IRSが四半期毎に公表するAFRレートプラス3%)が課せられる。IRSとは「Tax Deferral Agreement」と呼ばれる正式な契約を締結することで繰り延べが認められる。この契約書の雛形がNoticeに添付されている。
*いつまで何を繰り延べできるか?
この選択をすると税金の支払いは、対象資産が実際に売却された年、またはグリーンカードを放棄した者が死亡した年、のどちらか早い年まで繰り延べることが認められる。もちろん、本人が望むのであれば、それ以前に税金プラス金利を支払うのは自由だ。
この選択は資産毎の選択となるので、一部の資産に関しては税金をグリーンカード放棄時(正確にはグリーンカード放棄を含む課税年度)に支払い、他は後に繰り延べるという処理が可能となる。米国の居住者はキャピタルゲインを含む全ての所得を「総合課税」という形で一つの税金として納付する。このことから、個々の資産のみなし売却益に対する税負担の金額は申告書を見ても分からない。したがって、いくらの税金を繰り延べているのか、という決定をするためには何らかの仮定が必要となる。ここでは、もしMark-to-Market規定に基づくみなし売却益があった場合と、なかった場合の申告書を作成してみて、その税額の差額がMark-to-Market規定に係る税負担であると仮定することとされている。また、その税負担額を各資産に配賦する際には、税額を「各資産のみなしゲイン」と「みなしゲイン合計」の比率按分法を用いるものとしている。この算定目的ではゲインのある資産のみが関係してくる。
*担保
繰り延べの選択を行うと、将来の税金徴収を保証するためにいくつか条件が課される。まず、将来の税金支払いタイミングで、租税条約上の恩典を利用してIRSによる徴収手続きを回避するような行動にでないこと、また税金の支払いを確実にするために担保を提供する必要がある。担保はIRS側が十分であるとみなす担保金証書(Bond)または信用状(LC)という形で提供される必要がある。
万一、差し出された担保が十分でなくなった場合には、30日以内に十分な担保を提供しない限り、その時点で税金プラス金利の支払いが必要となる。
相手が非居住者になった後で税金を徴収しなくてはならないことから、IRSとしては法的に徴収その他の手続きが問題なく行える万全の体制を整えておきたく、そのため、繰り延べの選択をする際には、グリーンカードを放棄する者が米国居住者を代理人選定しておく必要があるとされている。
このように支払いを繰り延べるには結構なペーパーワークが必要となることが分かる。次回はその他の細かい規定に関して話を進めて行きたい。
Saturday, October 17, 2009
グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(3)
*非課税枠
Mark-to-Marketに基づき認識されるネット・ゲインには$600Kの非課税枠が設けられている。この非課税枠は物価スライドされ、2009年の金額は$626Kだ。この物価スライド調整を単純に逆算すると2008年から2009年の物価上昇率は4.3%だったということができる。デフレ懸念がある中、結構な物価上昇率だなという印象がある。ちなみに連銀の政策は適度なインフレを誘導するというもののようだが、ドル紙幣を余りにすり過ぎるとインフレが進み、将来の物価スライド調整も大きなものになるかもしれない。
非課税枠を超えてゲインがある場合には、非課税枠の金額を各資産のゲイン金額に基づいて各資産に按分配布して課税関係を決める。例えば長期と短期のキャピタルゲインを生み出すような資産を双方所有している場合にはこの按分により税負担が異なるだろう。
面白いことにこの非課税枠は一生に一回しか使えないと規定されている。一生のうちにそんなに何回もグリーンカードを取得しては放棄するケースも少ないので実務上の影響は少ないと思われるが、コンセプト的には2回目のグリーンカード放棄時は一回目に放棄時に未使用だった非課税枠(もし残っていれば)のみが使用可能となる。
*税務簿価の調整
Mark-to-Market規定に基づきゲイン・損失が認識された場合には、各資産のその後の税務簿価が調整される。すなわち、ゲインが認識された場合にはその分の簿価が上がり、損失が認識された場合には簿価が減額される。二重課税、二重損失取りを避けるために当然の処理である。ただし、この簿価の調整はグリーンカード放棄後にも米国での課税関係が残る資産に関してのみ意味があることになる。したがって、米国不動産の簿価調整は重要だが(米国不動産は非居住者になってから売却しても通常は米国の申告所得を生み出す)、株式等の動産に係る簿価調整は、その後に本当に株式を売却しても米国課税所得とならないため意味がない。
*Inbound Step-Up規定
Mark-to-Marketにて計算されるゲイン・損失は通常のキャピタルゲイン同様に「みなし売却の時価」マイナス「取得コスト(プラスその後の税務上の調整があれば調整後)」という算式で計算される。しかしグリーンカードを放棄する者が持つ資産のうち、米国の居住者になった時点で既に含み益を持っていた資産に対する課税としては、グリーンカード放棄時点に存在する含み益まるまるを課税対象とするというのは、Exit Chargeの考え方から行くと若干やり過ぎではないかとも思える。
そのようなケースに対応するために、グリーンカード放棄時のMark-to-Market適用の目的のみ関しては、最初に居住者となった時点での時価を取得コストと考えてもよろしいという規定(Inbound Step-Up)が設けられている。この規定は各資産毎の選択適用が可能である。
例えば、12年前に500で買った株式が10年前に始めて米国居住者になった時点では800の時価だったとする。グリーンカード放棄時にこの株式の時価が2,000だったとするとMark-to-Marketに基づくみなしゲインは2,000マイナス800の1,200となる。これは10年前に米国居住者になる直前にこの株式を売却していればその時点でのゲイン800マイナス500の300が米国で課税されていなかったことを考えるとInbound Step-Upは論理的である。ただ、もしグリーンカード放棄時に実際にこの株式を売却したとすると認識が必要となったゲインは2,000マイナス500で1,500まるまるだったことを考えるとこのInbound Step-Up規定は良心的なものだ。
このInbound Step-Up規定は米国不動産には適用されない。例えば、上の例の株式を米国不動産に置き換えると、実際に売却していても、Mark-to-Marketで課税されていても、ゲインは2,000マイナス500の1,500となる。これは米国不動産がFIRPTA規定でほぼ常に非居住者にとっても申告所得を生み出すことを考えると賢明な規定であるといえる。すなわち、仮に10年前に米国居住者になる直前に米国不動産を売却したとしてもその時点でのゲイン300は米国で課税されていたからだ。この点、他の資産と取り扱いが異なるのは理解できる。
次回のポスティングではMark-to-Marketに基づくゲインに対する税金支払いの繰延選択等に関して話を続ける。
グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(2)
前回のポスティングでは長期保有グリーンカード放棄時の米国税務取り扱いの詳細を記したNotice 2009-85がIRSにより発表されたことを受けて、グリーンカード放棄の意味する米国税務上のインパクト等の関して触れた。今回はNotice 2009-85の具体的な規定に関して触れてみたい。
2008年6月17日のポスティングで触れた通り、2008年6月17日を境にグリーンカード放棄に適用される米国税務上の規定は大きく異なる。この日以前にグリーンカードを放棄した者に対しては以前の法律が継続して適用される。
*規定の対象者
今回のポスティングシリーズでは基本的に2008年6月17日またはそれ以降にグリーンカードを放棄した者に対する取り扱いにフォーカスする。この取り扱いの対象となるのは「長期グリーンカード保有者」のみであり、長期保有者に当たらない場合には税務上、特別な処理は必要ない。すなわち、長期保有ではない場合には、移民法上の放棄と同時に自動的に米国非居住者となり、その時点までは居住者として取り扱い、それ以降は普通の非居住者の取り扱いとなる。
また長期グリーンカード保有者でも、過去5年間の連邦所得税金額が$145K(金額は物価スライド対象)を超えない、所有資産のネット時価が$2,000K未満である、連邦所得税の申告を過去5年間きちんと行っている、という条件を全て満たす場合には課税関係はない。ただし、長期グリーンカード保有者ということで放棄時にForm 8854という様式を提出する義務が残る点注意が必要だ。
なお、長期グリーンカード保有者の定義は従来からの規定のままなので、その辺りの解説に関しては前回のポスティングでリンクを表示してある過去ポスティングを参照して欲しい。
*グリーンカード放棄とは?
自らグリーンカードを米国に返上したケースには当然、グリーンカード放棄に係る税務上の取り扱いが適用されるが、「没収」されてしまったケースでも同様の規定が適用される。更に米国の所得税申告を行う際に、租税条約の「Tie-Breaker規定」を利用して米国非居住者としての納税をしたり、または租税条約上、相手国の居住者に与えられている恩典を利用して米国の所得税を低減する場合も、税務上はグリーンカード放棄同様の取り扱いを受ける。
*グリーンカード放棄時の新しい規定
2008年6月17日の法改正の結果、長期グリーンカードを放棄した者はその時点(正確には放棄の前日)で所有している資産の全てを時価で売却したと取り扱われ(つまり「Mark-to-Market」)、課税関係もそれに準じて決定されるということになった。これは出国時に課せられる「Exit Charge」だ。その意味では法人が資産を外国に移転させる際に適用されるSec.367(a)の考え方に類似している。
トラストの利用とか、同じ資産にも時間的に差異のある所有形態(例えばRemainder財産権)の利用がさかんな米国では、資産の所有形態が多岐わたる。どのような資産をグリーンカード放棄時に所有していたかという決定は「もしグリーンカード保有者が放棄の前日死亡したとしたら遺産税目的で所有していたと取り扱われる資産を所有していたと取り扱う」という考え方で行われる。
それにしてもNoticeのナント複雑なことか。添付資料も含めるとレターサイズ(日本で言うところのA4に近い)で65ページにも及んでいる。今回はIRSによる「Notice」という形で規定が発表されているが、近々に正式な財務省規則が作成される予定だ。財務省規則の内容は当Noticeのものを基とするということである。
*Mark-to-Marketのみなしゲインとみなし損失
税法というのは税金を取るために規定されており、したがって「いいとこ取り」であるのはいつものことだが、今回の規定もまさしくその一例だ。すなわち、Mark-to-Marketで認識されるゲインに関しては税法の他の規定に係らず認識される(通常であれば非課税となる所得でも課税されるということ)一方で、損失が出る場合には税法の他の制限規定に抵触しない範囲(Wash Sale規定は適用されない)でのみ認識できる、とされている。
ゲインに関して他の規定で非課税となっていてもこの目的では課税対象となるとすると、おかしな結果となる。例えば、過去5年のうち少なくとも2年間主たる住居として所有・使用していた不動産からの売却益は$250K(夫婦合算申告のケースでは$500K)まで非課税となるはずだ。実際に不動産を売却するとこの規定が利用できるのに、みなしゲインだと適用できないということだとすると、グリーンカード放棄前日に本当に売ってしまった方が得となる。
また、損失の認識はWash-Sale規定を除く税法の制限条項が適用されることから、キャピタルロスは年間$3,000を超えては利用できないことになる。
特別な取り扱いが規定されている資産もある。例えば退職金制度その他のDeferred Compensation、一定の条件を満たすトラストの受益人となるようなケースのトラスト資産などだ。
次回のポスティングではこれらの規定の更なる詳細に触れる。
グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(1)
一昨日(2009年10月15日)IRSは「Notice 2009-85」を発表し、市民権または長期保有グリーンカードを放棄する際の米国税務取り扱いの詳細を明らかにした。
ちょうど、この日クロスボーダーのタックス・プラニングの一環で、米国企業が外国に「移民」する「Inversion取引」に係る検討をしていたところに、このようなNoticeが発表になり、「法人も一旦米国企業となると外国企業に変身するのは大変だが、個人も楽ではないな・・・」という感想を持ってしまった。
*市民権放棄とグリーンカード放棄
今回のNoticeおよびその基となる税法であるSec.877Aは元々「米国市民が市民権を返上して外国人となる」という局面に対する規定であるが、この考え方は全く同様に「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」という局面にも適用される。日本人の方は圧倒的にグリーンカード放棄という局面での対応が多いことから、今回のポスティングでは単純にグリーンカード放棄という表現を用いることが多いが、市民権放棄にも基本的には同様の検討が必要となる。
上の「米国市民が市民権を返上して外国人となる」とか「長期グリーンカード保有者がグリーンカードを放棄する」というシナリオは、IRSからみると「今まで全世界所得に対して税金を支払ってくれていた納税者が米国源泉の所得にしか税金を支払わない儲けの少ない納税者に変身してしまう」ということを意味する。
タックス・プラニングのために市民権まで放棄してしまう、または米国企業から外国企業になってしまう、というところからして日本的な考え方ではチョッとついていけないと思われる方もいるかと思うが、実際には結構行われているプラニングだ。法人の国外脱出であるInversion取引は徐々に網が掛けられ、Sec.367シリーズに続き、ここ数年はSec.7874があるので容易には実行できなくなっている。
*なぜ放棄が問題とされるか?
個人が市民権とかグリーンカードを放棄した後でも、米国源泉所得には米国の課税権が残る。すなわち、いくらグリーンカードを放棄しても、米国で勤労所得があったり、米国不動産から所得があったりしたら引き続き米国で課税される。であれば、わざわざ市民権とかグリーンカードを放棄したのだから、米国政府もそれで我慢しておけばいいと思われるかもしれない。
しかし、この「米国源泉」所得というところに大きな「オチ」があり、そのためにこのような複雑な取り扱いが規定されていると言っても過言ではない。そのオチとは非居住者(=米国市民でもなく、グリーンカードも持っておらず、米国滞在がそんなに多くない外国人)が認識する不動産以外の資産(=動産)からのキャピタルゲインは、その動産が米国に関係するものであっても、非居住者が外国に生活拠点を持っている限り米国から見ると「外国源泉」所得となるという点だ。
動産というと自動車とか家具とか「そんなものからキャピタルゲインなんてないのでは?」と思われるかもしれないが、動産には「株式」「債券」が含まれる。すなわち、Google、Microsoft、GM等の米国株式でも、それを非居住者が売却した際に発生するキャピタルゲインは米国では課税されない(もちろんGMからキャピタルゲインは最近はなかったかもしれないが・・・)。一方で米国市民または居住者(グリーンカード保有者は常に居住者)のままキャピタルゲインを認識すると総合課税で全て課税対象となる。個人の認識するキャピタルゲインは現状で15%が最高税率で歴史的に通常所得より低い税率で課税されることが多いが、ゼロの税金と比べると高い。
非居住者が住んでいる本国でキャピタルゲインが課税されるケースももちろんあり得るが、もし市民権・グリーンカード放棄の動機がタックス・プラニングであれば、わざわざ米国脱出した後に高税率国(例、日本!)に移り住む輩もいないだろう。所得税がないか、またはあっても税率が極端に低いカリブ海の島とかでゆっくりと余生を過ごす、とか、香港みたいに外国源泉所得とかキャピタルゲイン自体が非課税となる国で広東料理三昧というようなイメージではないだろうか。
*グリーンカード放棄時の取り扱い
グリーンカード放棄時の税務上の取り扱いは2008年6月17日に大きく変更になっている。この辺りに関しては次のような過去ポスティングがあるので興味ある方はぜひ閲覧して欲しい。今回のポスティングはそれを受けて、一昨日発表された詳細規定に触れる。
「グリーンカードとアメリカの税金(2007年4月22日)」
「グリーンカード放棄と米国タックス(1)(2007年7月6日)」
「グリーンカード放棄と米国タックス(2)(2007年7月6日)」
「グリーンカード放棄と米国の税金「Update」(2008年6月17日)」
次回のポスティングではNotice 2009-85の具体的な内容に関して触れる。