2009年前半に制定されたオバマ政権の景気刺激策において、一番ガックリきたのは欠損金の過年度への繰り戻し5年間への延長(現行2年)が法審理の最終段階で大きく後退してしまった点だった。具体的には総収入が$1,500万ドルを超えない小規模ビジネスのみに対して5年間の繰り戻しが認められるようになった。5年間繰り戻しは規模を問わず全ての納税者に対して当然盛り込まれるというのが大方の予想であったため、意外な展開だった。この辺りの詳細は2009年2月14日(今考えればバレンタインデー!)にポスティングした「景気法案可決 - でもNOL繰戻は期待外れ」を参照して欲しい。
*新しい法案
ところが、面白いことにここにきて、また新しい法律(Unemployment Insurance Bill)で欠損金の5年間の繰り戻しを今度こそ「全納税者」に対して認めようという動きが加速している。しかも、最短審理で可決される見込みが高く、上院ではナントさっき既に可決されたそうだ。その後、直ぐに下院でもOKが出るらしい。となるとオバマ大統領が拒否権を発動することもないであろうことからあっという間に法律となる。
景気刺激策の時点で、基本的に財政赤字を大きくするという理由で法律化が見送られた経緯を考えると何だか不思議だ。当時と比べて財政状況は悪くなっていることはあっても良くなっていることはないからだ。
なぜこのタイミングで復活できたかという点はワシントン政治学の不思議としか形容しようがないが、企業としてはとてもありがたいだろう。
*5年繰り戻しの内容
今回の法案によると、5年間の繰戻しは2008年または2009年の課税年度に発生した欠損金に適用される。どちらか一方の年度の欠損金のみが対象となり、両方の欠損金を5年間繰り戻すことはできない。ただし、小規模納税者が先の景気刺激策の規定に基づき既に2008年の欠損金を5年繰り戻している場合には、追加で2009年の欠損金を5年間繰り戻すことが認められる。
また、5年前への繰戻しは、その年(=5年前)の課税所得の半分が上限となる。4年~前年への繰り戻しに関してはこのような制限はない。その意味で期間的には5年の繰り戻しとなるが、所得的には「4年半の繰り戻し」みたいな感じだ。
しかも、通常であれば90%までしか欠損金の繰戻しで消すことができないAMT所得に関して全額の相殺が認められる。AMTに関しては冒頭でリンクしてある過去のポスティングで触れているので参照して欲しい。
*5年繰り戻しの影響
2009年の欠損金を現行法に基づいて2年間しか繰り戻せないとなる苦しいところが多い。2008年の業績がそんなに良くなかったところも多いことから、繰り戻す先の課税所得が少なく、2009年の欠損金全額を吸収できないケースも多い。また、2008年が損失だったケースでは既に2008年の欠損金を2006年と2007年に繰り戻しているケースもあり、その場合、2009年の欠損金を繰り戻す先が存在しないこともある。
繰り戻しできない欠損金は将来に繰り越すしかないが、現時点で直ぐにキャッシュ化できないという点に加えて、決算書上、繰延税金として資産計上する際に、将来の業績見込みが明るくないと評価性の引き当てを積まされることにもなり兼ねず、その場合、欠損金の価値を会計上も認識できないことになる。
そんな時に5年間繰り戻しという法律が誕生すると、繰り戻しの選択肢がグッと広がる。多くのケースで2009年の欠損金全額を吸収することができるだろう。となると現金も直ぐに戻ってくるし、評価性の引き当ても問題もなく直ぐに「Receivable」を認識することができる。
*アメリカ大丈夫?
個々の企業ベースではとてもありがたい話しであるが、米国の税収入はますます少なくなる。ちょうど、昨日か一昨日、日本でも法人税の還付額が徴収額を超えるという一見分かり難い報道がされていたが、まさしく米国もそれに近い。景気刺激策、倒産企業のベイルアウトに次ぐ、大盤振る舞い。アフガニスタン、国民健康保険も先が見えず、米国の財政、ドルはどうなってしまうのかチョットというかかなり不安にさせてくれる。このまま、国の補助で景気が回復して終わりよければ全てよしとなるか?