Sunday, February 14, 2016

Inversion/インバージョン(9)

時は2012年。Section 7874のSBAテストにかかわる新財務省規則が発効され、実質SBAテストは有名無実な規定と化してしまう。こうして、30年におよんで実行され続けてきた単独Inversionに初めて効果的な網が掛けられることとなる。1980年代のSection 1248改訂、90年代のSection 367の新規則、2004年のSection 7874、2006年、2009年のSBAテスト財務省規則という沿革を経て、ひとつのゴールが達成されたかのように見えた。

しかし、米国税法の使い勝手の悪さからInversionは姿を変えて進化し続ける。すなわち60%とか80%の持分規定をクリアするため外国企業第三者との「統合型Inversion」全盛時代となる。果たしてこれは国のポリシーとして、米国にとっていいことなんだろうか?外国企業による米国企業のM&Aを税法が奨励している側面があり、後述するが遂にはファイザーとか米国を代表する大企業までが米国MNCでなくなってしまう状況を招いている。

取り締まりを強化することで逆効果となる例はExpatriationも同じだ。Expatriationに関しては「Inversion (3)」のポスティングでInversionの個人版として紹介したが、先日公表された2015年のExpatriationは過去最高の4,355人を記録したそうだ。リーマンショック後に株安を好感してExpatriationが増えた2011年の1,781人の倍以上だ。2015年の第4四半期だけで1,110人がExpatriationしているというから凄い。個々の事情は異なると思うが、実はFATCAとか、スイスの銀行の匿名口座を強制的に開示させたりと、海外口座、資産に対する締め付けを厳しくしてからExpatriationが増加の一途だと言う。Inversionも締め付ければ付けるほど皆早くやりたくなるのではないだろうか。抜本的な税法改正ナシにInversionを完全にストップさせるのは困難だ。

さて、Version 5となる統合型Inversion、iPhone 5はスクリーンサイズの縦横の比率が話題だったけど、Inversion 5.0 も同じく数字の比率が最重要課題となった。すなわち、SBAテストの例外に頼れなくなった今、Inversion時には旧米国法人の株主が再編後の外国法人の持分を、継続して80%(できれば60%)持たないように統合する必要があるからだ。分数を小さくするには、分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。

ちなみに持分比率を算定する際、再編後に外国親会社となる法人の株式がグループ内法人に所有される場合には、その持分は比率算定には加味しないというルールがある。これは子会社が親会社の株式を持っている状態(=Hook Stock)を想定し、そのような株式を算定に加味させないとするものだ。例えば、再編後に外国親会社の株式に関して旧米国親会社が40%超の持分を持っていると、見た目、旧米国親会社の株主は60%未満の持分継続しかしていないような形となり、Section 7874の適用がなくなってしまうが、そのような抜け穴を塞ぐためのものだ。

比率算定の分母と分子の不当な捜査に網を掛けるための規定がSection 7874に盛り込まれているが、その解釈、適用が大きな争点となり、遂には2015年のNotice発行に至る。次回はその過程を。

Saturday, February 6, 2016

Inversion/インバージョン(8)

前回はSection 7874が制定され、それでも止むことを知らない単独Inversionのところまで漕ぎ着けた。Section 7874では、旧米国法人の株主が引き続きInversion後の外国法人の持分80%以上を持っていると、外国法人を米国税務上は米国法人とするという厳しい結果となり、さらに60%以上80%未満の場合には、外国法人と認められるが、その後10年間に米国法人が認識する「Out-from-Under」絡みのGainをInversion Gainとして、Gainに対して欠損金他の控除を認めないという扱いとなる。Out-from-Underに関してはInversionの話しの最初の方で触れているが、CFCを実際にまたは経済的に米国から外すことを意味し、CFC株式売却Gain、CFC無形資産の外国関連会社にライセンスして受け取る所得、などがInversion Gainとなる。

ただし、前回も触れた通り、SBAテストの例外を満たすと持分継続にかかわらずSection 7874の適用はなくなる。趣旨としては、仮に持分が継続している場合でも、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合、再編にはタックス目的以外の事業目的が認められるということとなる。

このSBAテストがいつ満たされるかという検証法はSection 7874そのものには具体的に規定されていないために、財務省の規則を適用することになるが、2006年に発行された最初の規則では「10%安全ガイドライン」+「F+C」で、比較的親切に「こんな感じでF+CテストがOKになりますよ~」みたいな事例が複数記載されていたりした。ところが、2009年には「F+C」のみとなり、更にF+Cを満たす事例は削除される。

2009年の規則改訂後もF+CのSBAテストは意外にも引き続き適用成功例が多く、Section 7874ができたというのに、未だに単独Inversionが絶えない状況となってきていた。これがInversionのVersion 4.0とでも言うべきGenerationで、Sara Lee、Ensco、Aonなどが有名所だ。ちなみにこの3社とも行き先は英国だった。ちなみに英国というのは不思議な国だな、といつも個人的には思っている。規制がいろいろとあるようでないようで、Trustの考え方が発達しるので資産の本当のオーナーが分かり難いし 旧英連邦に沢山のタックスヘイブンを抱えていたり、シティーがかなり独立自治的な存在だったり、NYCのウォール街でできないようなことができちゃったりするんじゃないかと思わせる不思議な国だ。金融関係の大型スキャンダルもNYCよりもロンドンに多いような気がする。London WhaleとかLIBORの件とか。007の映画じゃないけど、チョッと神秘的なところがある。Beatles発祥の国だし(全然関係ない?)

2006年、2009年の規則下でも単独Inversionが可能だったのは必ずしもSBAテストの適用規則が軟弱だったということではなく、どのケースもかなりしっかりした事実関係を持つケースばかりで、Section 7874の立法趣旨から言っても免除されるべくして免除されているという見方の方がフェアだろう。しかし、財務省はそうは考えていなかったようで、2012年には規則が改訂され、実質、SBAテストを撤廃したに近い、25%テストを導入する。加えてF+Cテストは撤廃されてしまった。F+Cテストが存在しないこととなった以上、この25%は安全ガイドライン(Safe-Harbor)ではなく、単なるBright-Lineテスト(機械的なテスト)となり、唯一SBAテストを満たす術となる。25%テストは2006年の10%安全ガイドラインと考え方は同じで、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが25%以上の従業員、資産、売上(どれかひとつではなく3つ全てに関して)を持っていれば、機械的にSBAが満たされたと認定するというものだ

米国MNCで米国以外の国に3つのファクターに関して25%以上を持っているケースは現実的にはあり得ないに近い。事実、2012年にSBAテストが強化(というか適用不能状態?)されて以来、Inversionは単独のものはほぼ姿を消し、第三者の外国法人との「統合型」に移行していく。すなわちSBAテストを満たすことができないので、Section 7874の適用を回避するには80%以上(できれば60%)の持分を継続しないようにストラクチャーするしかなくなってしまった。

2012年の規則変更以後、25%のSBAテストを満たして単独Inversionした唯一(?)のケースとして良く引き合いに出されるのはVirgin Media社だ。Virgin Mediaは米国MNCとは言え、ほぼ全ての事業が元々英国という変わった事実関係があり、そのために25%テストをクリアして英国にInversionしていくことができた。

SBAテストが実質撤廃された状況となり、その後の勝負は継続持分が60%または80%を切ることができるかどうかとなる。この判断は分母と分子が分かれば単純な計算のはずだが、実は企業側がSkinny DownとかStuffingとか、様々なテクニックを生み出すことで、またしても財務省とのいたちごっことなり、Inversionのサガが続いていく。

Thursday, February 4, 2016

Inversion/インバージョン(7)

前回はいよいよ2004年のAJCAで導入されたInversion KillerのSection 7874に話しが至った。Version 1.0のMcDermottから数えて20年以上の月日を経て導入されたInversionに特化した法律だ。

ここに至る経緯を簡単におさらいしておくと、記録に残っている最初のInversionは1983年のMcDermottのケース。これにてVersion 1.0の誕生となり、「既存の」CFCとの株式交換で実行された。その対抗策としては(今から考えると着眼点が面白いというか、ちょっと・・っという感じもあるけど)、McDermottのケースでCFCのE&PにSec. 1248でみなし配当課税できなかった反省から、Section 1248が改訂され、このような間接的な株式譲渡でもみなし配当課税できるようにしている。でもこの改訂はInversionに関しては全く意味がなく、Version 2.0にグレードアップされたInversionは新設のCFCとの株式交換で実行されるようになる。新設のCFCにはE&Pがないからみなし配当課税するものがない、という仕掛けだ。気の毒なSection 1248(i)はInversionの局面ではその後語られることすらなくなる陰の存在だ。Version 2.0の代表はHelen of Troyだろう。

Helen of Troy等でInversionを危機に感じた財務省はSection 367の財務省規則を改訂する。一旦、沈静化されたものの、Inversionは見事に復活し、Version 3.0となる。Cooper IndustriesとかTycoがInversionしていった時代だ。新Section 367財務省規則には効果がないことが一般の知るところなり、Inversionはますます注目を集める。そこで今度こそ、という感じで登場したのがSection 7874となる。

Section 7874の概要は前回触れているのでそちらを見てもらいたいが、米国法人の既存の株主が60%以上再編後の外国法人の株式を持ち続けているとSection 7874に抵触する。したがって最初の関門は持分%となる。この場合の既存の株主というのは米国の株主だけでを見る訳ではない点、Section 367のテストとは異なる。単独Inversionの場合には100%株主が継続するので、基本Section 7874に抵触することなるが、そこに一つだけ例外がある。それが前回触れたSBAテストに基づく例外だ。

SBAテストの趣旨は仮に持分が継続している場合でも、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合、再編にはタックス目的以外の事業目的が認められ、Section 7874の適用はないということになる。

Section 7874の適用がない=全て非課税という訳ではなく、単独Inversionであれば、仮にSBA例外規定を満たしてSection 7874に抵触しないということになったとしても、50%の継続性は当然存在することからSection 367に基づく株主レベル課税は適用される。また、そもそも取引が内国法の通常の非課税条項(例、Section 351、Section 368)に基づいて非課税となるというのが出発点で、内国法で課税であればSection 367の登場を待つまでもなく、課税取引となる。

Section 367の株主レベル課税がInversionをスローダウンさせないことは前回までに十分に話したので、Inversion実行の際の鍵はSection 7874の適用有無となる。単独Inversionの場合、Section 7874の80%持分を超えてしまうので、外国法人が税務上は外国法人扱いとならないという最悪の結果となり兼ねず、これを敢えて実行するにはSBA例外規定の適用有無が最重要課題となる。

Section 7874が制定された当時のSBA規定の考え方は、Facts and Circumstances (F+Cテスト、すなわち個々のケースを個別に判定)、に加えて10%の安全ガイドラインという二本立てのものだった。10%安全ガイドライン下では、再編後に親会社となる外国法人の設立国でグループが10%以上の従業員、資産、売上を持っていれば、機械的にSBAが満たされたと認定するというものだ。

この10%の安全ガイドラインは財務省から見ると余りに寛容と判断され、2009年には撤廃される。結果としてF+Cテストのみとなる。しかし、これでもかなりの単独Inversionが実行される。このPost Section 7874時代の単独InversionはVersion 4.0と言える。F+CでSBAテストを満たしている点が特徴だ。また、従来のInversion先であったバミューダなどのタックスヘイブンは姿を消し、SBAテストを満たす可能性が高い(けど税率が比較的低く、テリトリアル課税の)英国、スイス、アイルランドがより望ましい(Preferred)行き先となる。

この頃に米国とBarbadosの租税条約が使えなくなったこともあり、過去にタックスヘイブンにInversionした法人もが、英国等に国籍変更(Re-domiciliation)するケースが多くみられるようになった。引越し(!)みたいなもんだけど、実際には株式交換等の組織再編を伴うケースが多い。実際の手法は引っ越す前と後の国の会社法次第。この頃はタックスヘイブンのイメージが急激に悪化していた頃でもあり、そのようなイメージ的な意味でも英国のような「立派」な国に引っ越す傾向が高まった。英国と並んでアイルランドも多かったけど、イメージ的にはどうなんだろう。バミューダよりはマシかもね。Version 3.0の代表格として早々にバミューダにInversionしていたCooper Industriesも風向きを読むのが早く、この頃ちゃっかりとアイルランドに越している。僕たちの業界に近いところではAccentureもバミューダからアイルランドへの引越し組だった。

止まることを知らない単独Inversionに業を煮やした財務省はあからさまな締め付けに出る。2012年のSBA規則の変更だ。これを期にInversionはVersion 5.0に入ることとなる。ここからは次回。

Sunday, January 31, 2016

Inversion/インバージョン(6)

前回はチョッと脱線して、マイナス金利の話しとなってしまったが、Inversionはここに来て重要なTurning Pointを迎える。2004年の「American Jobs Creation Act(AJCA)」の制定だ。前々回に触れたが、Inversion Killerとして登場した改訂Section 367規則が実際には全然Killerでもなんでもなく、むしろEnabler(チョッと大袈裟?)になってしまったという反省から、既存の条項に対する付け焼刃ではなく、Inversionを直接的に取り締まる大胆な法律を策定しようという機運が2000年代前半から盛り上がっていた。そこに登場したのがBush(ジュニア)政権時代のAJCAの中に規定されたSection 7874だ。AJCA自体沢山の税法改訂が盛り込まれていて、数多い税法改正の中でも近年では1993年の税法改正(Omnibus Budget Reconciliation Act of 1993)以来の大型パッケージだった。

Section 7874が発表された際、まず感じる違和感は「エッ、7000番台?」というものだった。Inversion対策のような実質的な(手続き的でないという意味で)条項が税法の7000番台後半にCode化されるのはかなり意外だ。7000番台と言えばInternal Revenue Codeの中でも「Procedures and Administration」のSubtitle Fに属する。その一番最後に付け加えられたのがSection 7874となる。普通であれば、法人の取り扱いを規定する300番台とかクロスボーダー関係の800番、900番台となりそうなものだが、敢えて7000番台にCode化されている点でも1993年のInversion対策だった新Section 367とは異なるアプローチだ。

下で詳しく触れるが、Section 7874ができたことで、従来の(=以前のポスティングで触れたMcDermottとかHelen of Troyとかが実行した)単独Inversionは徐々に実質不可能となる。となると、親と子の相対的な位置関係が逆さになる(Invertする)という単純な手法は存在し得なくなり、その意味でInversionという用語は本来の意味を失ってしまう。すなわち、Inversion 1.0また3.0時代に存在したInversionはSection 7874と共に去ってしまったと言える。しかし、その後も、他の外国法人との組織再編を経て、旧米国法人が外国法人になることを引き続き一般にはInversionと呼ぶ慣行が続き、2004年以降、Inversionは全く異なる取引形態を意味することとなる。かくしてInversionのVersion 4.0の登場となる。

Section 7874もデビュー当時はInversionに冷却効果をもたらすことに成功する。しかし新Section 367規則がそうであったように、その後、意外にもInversionは徐々に復活する。米国企業、専門アドバイザー、ウォール街の適応能力の高さには感服だ。また、根底には、そこまでしてもInversionしないとグローバルで競争力が保てない程、米国法人税の使い勝手が悪いということにもなる。2016年の大統領選挙ディベートとかでも候補者(特にヒラリークリントンとか)は巨額のExit課税をするなどしてInversion対抗策を強化する、と鼻息が荒いけど、そうではなく、Inversionしないでも安心して米国企業としてグローバル経済の中で戦えるような環境(ここでは税法のこと)を整えるのが政府の本来の役目であり、またInversionを無意味なものにする唯一の対策だろう。

現に、Section 7874後も次々のVersionアップするInversionに呼応する形でチョッと遅れながら、複数のRegulations、Noticeを発行することで、Section 7874自体もVersionアップしていくこととなるが、根本的な解決になっていないばかりか、遂にファイザーまでInversionしてしまったように、どんどん外国企業に米国企業がM&Aされる環境を作り出し、奨励している法律となっているように思え、大きな目で見ると国の利益に反している悪法ようにも見える。

Section 7874はかなり複雑な規定なので本当に細かいことを理解するにはその原文およびSection 7874を規定する財務省規則を読むしかないんだけど、その骨子は次の通り。

まず、外国企業が米国企業の資産を直接・間接(株式買収を含む)に取得し、その結果、旧米国法人の株主が60%以上の持分(価値または議決権)を持ち続ける場合にSection 7874の適用がある。ただし、買収後に外国企業(買収側)の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合にはSection 7874は適用されないという「Substantial Business Activitiesテスト(SBAテスト)」という重要な例外が規定されている。

この条件に当てはまってしまう場合、すなわち外国法人に買収され、旧米国法人の株主が再編後の外国法人の60%以上の持分を持ち、かつSBAテストの例外を満たせない場合にSection 7874に抵触することとなるが、その適用法は、旧米国法人の株主が60%以上80%未満の持分を持っているのか、それとも80%以上の持分を持っているのか、で異なる。80%以上の持分を継続してしまっている場合には、買収側の外国法人は米国税法目的では米国法人と扱われる。すなわち、会社法的にはInversionしているが、税法上は国外逃亡に失敗したことになるので、Inversionにならない。米国税務上の観点からは意味がなく、単独Inversionは持分テストの観点からは不可能となる。もちろんSBAテストの例外を使うことができれば、旧米国法人の株主が仮に100%所有していてもSection 7874の適用はない。ただしSection 367は適用があるので注意が必要だ。

一方、60%以上だが、80%未満の場合には外国法人は米国税法上も外国法人として認められるが、その後にOut-from-Under系の取引に従事すると、そこから発生するGainを「Inversion Gain」と位置づけられ、NOL等、他の損失との相殺が認められないというペナルティーっぽい規定が適用される。

これがSection 7874の基本なんだけど、どうやって60%とか80%とかを算定するかを巡り、また重要な例外規定となるSBAテストの判断法に関してその後、紆余曲折を経ることとなる。かなり長いのでここから次回。

Saturday, January 30, 2016

マイナス金利と米国税法

前回まで5回、Inversionの変遷を追い、遂に2004年の法改正(American Job Creation Act(AJCA))というShow-Downに至った。いよいよAJCA下で規定された本格的なInversion対抗法に触れるところなんだけど、日銀がマイナス金利政策を取るとニュースになっているんで、マイナス金利と税法(米国)関係を考えてみた。

マイナス金利っていうのはお金を預けると金利を取られるという、普通では考えられない方向だけど、そのような政策自体は新しいものではなく、1980年代後半、僕が香港で仕事をしていた頃、香港でもマイナス金利政策を採っていた時期がある。香港ドルは米国ドルとペグしていたので、その政策背景は今日のユーロとか、日本の状況とは異なるのかもしれないけど、お金を預けて金利を取られるという点は同じだ。スイスでも更に以前にマイナス金利があったと聞く。

僕は経済の専門でも銀行業の専門でもないんだけど、中央銀行がマイナス金利政策を採る場合、単純に考えると金融機関としては、顧客から受け取る預金に金利を払っていたのでは双方に金利を支払うことになって儲からないんじゃない?と思う。となると、マイナス金利を顧客にも転嫁というかパスしたくなるだろう。実際にスイスの商業銀行のひとつABSのように、預金に対してマイナス金利を適用すると発表したところもある。

米国では一般には考え難い現象だけど、J.P Morgan Chaseが大口の預金に対してマイナス金利を適用し始めたっていう噂もあるし、限定的には必ずしもあり得ないシナリオではないのかもしれない。どこかで読んだ話しで、中央銀行の金利がマイナスゾーンに突入しないまでも、ゼロ金利時代には、銀行は預金残高に準じて連邦預金保険公社(FDIC)に保険料(預金の20~45Basis Point)を支払う義務があり、それだけでも顧客からの預金にマイナス金利を課したいと考えても不思議はないということらしい。

米国で預金して金利を取られるような局面は当面考え難いとしても、日本企業子会社を含む米国企業が米国外の金融機関に対してマイナス金利を支払うというケースはあり得るかもしれない。その場合の米国税務上の扱いは難しい。

企業が金融機関に預金して金利を取られたら、その金額は必要経費として損金算入の対象となることは間違いないだろう。でも、その経費はどのように位置づけられるのだろうか。もし支払利息となるのであれば、Earnings StrippingとかでNet Interestを算定する際にも支払利息として計算にも入れないといけない。一方、もし手数料と位置づけれると全然異なる扱いとなる。

クロスボーダーの預金に関してマイナス金利となる場合、源泉税とかペーパーワークの扱いも複雑だ。米国から国外に金利を支払えば30%(または租税条約の減免税率)の源泉税対象というのが原則だ。一方、マイナス金利を手数料と位置づけると、おそらく米国外源泉所得となることから、源泉税の対象にはならないだろう。もし、金利に準じる支払いだが金利ではない、という曖昧な扱いとなると性質が悪い。保証料が何なのかっていう議論に似てる。すなわち、金利に準じるので、米国の預金者が支払うマイナス金利は米国源泉となる。だけどお金を使わせてもらった対価ではないので厳密には金利ではないと認定されると、金利に対する租税条約の減免税率は適用不可能となる。となると30%源泉対象という最悪シナリオだ。日米租税条約のように「その他所得」条項があれば(保証料に関しては議定書で明確に補足説明してある)、源泉税ナシとなるかもしれないが、そうでないケースでは混乱が予想される。さらに租税条約の適用にはW-8BEN-E等のペーパーワークが付きまとうという面倒もある。たかがマイナス金利、されどマイナス金利、という感じ。

ということでまた次はInversionを再開したい。

Thursday, January 28, 2016

Inversion/インバージョン(5)

前回は改訂Section 367財務省規則という当時は究極(?)と思われたInversion対抗策の発表を招いたHelen of TroyのInversionの話しのところで終わった。ちなみにHelen of Troyのケースでは、Inversion後も元々存在したCFCはそのまま米国「子会社」の下にそのまま残っていた(Out-from-Underはなかった)というから面白い。

新Section 367規則は合併・組織変更後に旧米国法人株主が引き続き再編後の外国法人株式の50%超の持分を持ち続けるようなケースでは、株主レベルで株式の含み益にCapital Gain課税するというものだ。新規則発表後、しばらくは海外で合併の相手を見つけ、旧米国株主の持分を50%以下とするような取引が散見された。前回触れた1998年のクライスラーとメルセデスの合併(とっくに解消されてクライスラーはLLCになってしまったけどね)がいい例だ。これらの合併はInversionとは性格が異なる取引だが、Section 367改訂とその効果があった時代、すなわち単独Inversionに新Section 367が網を掛けたかのように一瞬思わせた時代のInversionという意味ではMcDermottとかHelen of Troyの時代とは異なるPost-Section 367のVersion 2.0の時代に入っていたと言えるだろう。今では懐かしい名前だけどAirTouchっていう携帯電話ネットワーク会社が買収される際に、この50%持分要件をクリアできるVodafoneを相手に選んだりと、新Section 367はそれなりに効果をもっているかのように見えた。しかし、新Section 367の効果は長続きしない。

Helen of TroyはSection 367新財務省規則を作らせたという意味で注目度が高いんだけど、このInversion 「Killer」として登場した新Section 367は、その後、余り実力がないことが徐々に露呈する。理由はいろいろとあると思うけど、まず何と言ってもInversionのその後の法人レベルに与える税効果が絶大にポジティブだという動かしようのない事実がある。なので、Inversion時点に株主がCapital Gain課税されようが、その後のメリットを考えれば株主ですら余りネガティブに思わないというのが実態となってくる。誰も予想できない展開だっただろうけど、つまりそれだけInversionの長期的な魅力は大きいということだ。また、Section 367は株主レベルだけの課税なので、株価が低迷している際には、そもそもCapital Gainがない、又は少ないので何の抑止力もない。株価が下がると個人のExpatriationがし易いのに似ている。更に、米国企業の株主の中にはかなりの比率で非課税団体(ペンションFundとか)があるため、株主課税がそもそも存在しない(!)というケースもある。

結果としてSection 367は全然Killerとはならず、2000年台前半にもなると平然と単独Inversionが復活する。かくもInversion Version 3.0の時代に入る。すなわち株主課税の可能性にもめげないPost-Section 367時代の「単独」Inversionだ。Cooper IndustriesとかTycoのInversionなんかは当時かなり話題になったが、Section 367無視型Inversion3.0のいい例だろう。この時代の単独Inversionもまだ相変わらず、タックス・ヘイブンに脱出する形で、その意味では古き良き時代だ。Cooper IndustriesもTycoも双方バミューダにInversionしている(Tycoはその後、スイス、アイルランドと流浪の旅を続けた)。また、この時期にInversionに絡む様々なBase Erosionテクニックが発達し進化を遂げ、だんだんと複雑な取引になってきており、アカデミックに観察する側としては益々興味深い取引となってきた時代だ。

また、Inversionが3.0へVersion Upすると同時に、以前よりも政治家や世間の注目を集めるようになり始める。おりしも2001年には9・11の同時テロが発生し、米国の愛国心が高まったこともあり(?)Inversionに対して冷ややかな反応が増えてきた時期でもある。その頃から数多くのInversion対策の法案が提出されるようになる。新Section 367は全然Killerではなかったという認識はその頃には広く共有されるところとなっていた。ちなみに上述のTycoはつい数日前、Johnson Controlsというミルウォーキーの会社と統合して、Johnson ControlsがInversionするというニュースが話題になっている。Inversionした「外国企業」が米国企業を飲み込んでInversionさせる増殖型の一例だ。

提出された法案はいろいろとあったけど、その中でも究極の抑止策として浮上してきたのがInversionしても、外国法人を税務上は「米国法人」と扱うというものだった。そんなことできるの?って感じの法案だったけど。もちろん米国法人扱いではInversionしたことにならないので効果は絶大だろう。また、米国法人かどうかっていう判断は現行の法律では法的な設立場所で決まるけど(出生地が米国だと市民権がもらえるのと何となく似てる)、それを管理支配地にしてはどうか、とか言う話しも出たりしていた。また財務省の広範な調査の結果、支払利息を最大限化してEarnings Strippingをしているのは日本企業のような生まれながらの外国企業より、Inversionした企業の方が派手にやっているという事実が統計的にも浮き彫りとなり、この頃からEarnings Stripping規定はInversionした企業だけに対して強化してはどうかという法案も出始めていた。

しかし、実際のInversion対策法は2004年になりBush政権下で比較的大型の税法改訂パッケージとして法律化された「American Jobs Creation Act」にようやく盛り込まれることとなる。これはかなり複雑かつControversialな法律なので、次回はここから。

Inversion/インバージョン(4)

前回はようやく話しがInversionにおよび、一般にInversion第1号と認識されている1983年のMcDermott社のパナマ子会社を利用したInversionに触れた。

ここで再度、なぜ米国MNCがInversionをやりたがるか、という基本をもう少し突っ込んでおさらいしてみたい。簡単に言ってしまえば、米国MNCがグループの実効税率を下げるために取る作戦なんだけど、Inversionをするとどうして実効税率を低くすることができるのか、考えてみよう。

米国企業は究極の親会社が米国にある限り、全世界の所得に対していつかは米国で課税される運命にある。すなわち配当すれば配当課税、配当なしでもSubpart F(日本のタックスヘイブン税制に相当)でみなし配当課税されることもある。間接税額控除は取れるとは言え、米国法人税率は世界一だから、米国で課税が発生するのが普通で、それは低税率国からの配当であればなおさらだ。

法人税率が高いから、米国企業はできる限り所得を合法的に低税率国に移転させることとなるが(これが米国のような高税率国からみるとBase ErosionまたはEarnings Strippingと言われる)、配当すると米国で課税されるので低税率国に貯まっていく埋蔵金は米国に配当されることはない。さらに、米国から低税率国に所得を(合法的に)移転させる手法も親会社が米国にあると限定される(それでも相当やってるけど)。Base ErosionまたはEarnings Strippingの一番手っ取り早い方法は高税率国の事業は資本ではなく、グループ内借入、それも低税率国の貸し手からの借入でファイナンスすることだろう。ところが、米国親会社に対して外国子会社(CFC)から貸付を行うと、その場でみなし配当になるという致命的な規定があるので、これができない。

Inversionはこれらのデメリットを解消しようとする試みだけど、税コスト低減そのものが最終目的になっているというよりも、多くのケースで米国MNCでいることに基づく上のような足かせがあるため、米国外MNCと同じ土俵で戦えていないという事業上の理由が大きいように思う。また、最近のInversionを見ていると、将来の税負担が大きく減り、となると将来の配当原資が大きく増え、株価が上がり、更にM&Aがやり易くなり、Inversionした企業が更に米国企業を飲み込んでInversionしていくという増殖パターンも見られる。

Inversionすると、外国に究極の親会社ができるから、その後の海外投資はそこから子会社を設立する等すれば、米国法人税の対象となることはない。また既存のCFCも米国法人の下から外すことができれば(Out-From-Underとして知られる取引)、その後のCFCの所得は米国での課税がなくなるし、うまくいけば米国に配当できなかった海外の留保金が未来永劫、米国法人税の網から逃れることができる。その上で更に米国「子会社」に対してファイナンスをして徹底的なBase Erosion、Earnings Strippingを行う道も開ける。

CFCをInversion後に米国法人から外すステップは重要だが、課税ナシで達成するのは難しいかも。新しい外国親会社に株式を単純に売る場合、GainはCFCの配当原資(E&P)の範囲でみなし配当となる。みなし配当となれば間接税額控除が使え、若干痛みを和らげることは可能だ。CFCの持つ資産売却は課税となるが、コスト・シェアリングとかで将来の無形資産の税務上の所有権の一部を外国親会社が持つ外国子会社に持たせたりすることは可能。またInversion前に将来の外国親会社にあたる子会社(Inversion前)にCFC株式を現物出資して、Inversionと同時に自然にCFCでなくなるようなストラクチャーも存在した。

このようにメリットの多いInversion。前回触れたMcDermott社のInversionに対して、財務省は(McDermott社のパナマ法人に当たる)Inversion前のCFCの株式が(McDermott社に当たる)米国親会社の株式と交換される際、CFC株式は一旦、米国親会社に発行されたかのように扱い、その後、その株式で米国親会社株式を償還したものとみなし、CFCのE&Pに関して米国親会社に対してみなし配当課税(Section 1248の一環で)するという規定強化を行った。この規定強化の前にInversionを行ったMcDermott社はCFCのE&Pに課税されることなく、CFCをCFCでなくすことができたことになる。

McDermott社型のInversionに関して「でもSection 304は大丈夫?」と疑問に思った方は黒帯に近い。実際、IRSもSection 304でアタックしようとしたが、裁判所はInversionで既存の株式と交換される対価となる外国子会社(=Inversion後の外国親会社)の株式も、Section 304の対象とならない自己株式となると判断し、Section 304の適用はないとしている。旧米国親会社の株式だけでなく、子会社の株式もそのように扱っているのが面白い。

1993年のInversionとなるHelen of TroyはSection 367(非課税取引を通じて外国に資産が逃げるのを防ぐためにExit課税する趣旨の規定)を変更させた点で意義深い。Helen of Troyは新設のバミューダ法人の株式と米国親会社であったHelen of Troyの株式交換(手続き的には前回のポスティングで触れたReverse Subsidiary Merger)で単純に米国と外国をひっくり返している。このパターンの株式交換は現物出資同様で、国内の局面であれば非課税だ。または株式交換に基づく非課税再編とも考えられ、同じく国内の局面では適格組織再編としてやはり非課税だ。外国の法人に対する現物出資(または組織再編に基づく株式交換)は、当時のSection 367では、今日では外国法人株式の現物出資または再編にのみ適用されるように、5%未満の株主(=ほとんどの一般株主)には課税されず、5%以上保有の株主もGain Recognition Agreementを締結すれば非課税となった。

Helen of Troyを期に財務省はSection 367を改訂し、国内法人の株式を現物出資または非課税組織再編を通じて外国法人の株式と交換する際、出資・再編後に米国法人の旧株主が、出資・再編後に50%超の持分を持っている限り、非課税扱いを否認するというものとなった(実際の規定は5%株主の持分とか企業幹部の持分とかも検討するなどもうチョッと複雑)。すなわち、本当に実質、外国企業に買収されるのでない限り、形だけ変えてもダメということだ。今では余りに当たり前の規定だけど、改正前の法律では、国内の株式交換同様、再編相手が外国法人という局面でも非課税の適格組織再編になるのが普通というInversion規制前夜のいい時代だった。Helen of Troyのケースでは旧米国法人の株主がそのまま外国法人株式を100%受け取っているので新規則に基づくと、株主レベルでは当然課税となったことになる。この改訂はいわゆるInversionばかりでなく、事業上の理由で外国法人と合併する際にも適用があることから、その後のクロスボーダー合併に大きな影響を持つことになる。すなわち、本当に外国「他社」との合併でサイズがほぼ同じ(いわゆる「Merger of Equal」)という場合には、合併後に米国株主の持分が50%超とならないよう合併比率が合意されるケースが多くなった。いい例がクライスラーとメルセデスの合併だろう。

改訂後のSection 367がInversion Killerとなり、Inversionの魅力はなくなるか、と(財務省では)期待したのではと思うが、この法改訂はあくまでも株主レベルのみに課税するとしたものであったことから、実は期待されたほどの効果が出ない結果となる。ここから次回。