Wednesday, January 4, 2017

米国タックス行く年・来る年(12)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回はThe Blueprintのクロスボーダー系の部分に関する二つの抜本的な改正のうち国境調整に関して触れた。そんなバカな・・という第一印象を持たれるであろうこの国境調整ももし税率が15%程度であれば、確かにVATの代わりと割り切ってしまえば、それなりに納得感もあるかも。20%だとチョッと高価なVAT過ぎるし、パススルーの25%とかだとVATとしての納得感も減少してしまうけどね。輸入コストが原価にならなかったり、輸出の売上げが課税されないとなると移転価格の問題も激減するようにも思われ、もしかしたら納税者にとっては悪いことばかりではないかもしれない。という訳で国境調整は切りがないので、今回はクロスボーダー課税2つ目のトピックで、ある意味「Most anticipated」とでも言うべき「テリトリアル課税」について。

時代遅れの全世界課税は撤廃しテリトリアル課税に移行する必要性は米国でももう何年も議論されており、Camp提案のようにかなり具体的なものもあり、抜本的な税法改正はテリトリアル課税の議論なしには不可能な状態だった。そんな状況なので国境調整と異なりテリトリアル化が盛り込まれている点は想定内と言うか、これが無かったら逆にビックリしていただろう。

The Blueprintによるテリトリアル課税は海外子会社からの配当は気前良く100%非課税と提案されている。ただ、日本の2009年のテリトリアル移行時と異なり、制度移管時の措置として、その時点で海外子会社に溜まっている剰余金(正確にはE&P)は一括課税の対象となる。この課税方法も以前のCamp案と若干異なり、現預金相当の形で持っている部分には8.75%、他の資産で持っている部分(おそらくE&Pマイナス現預金相当額で算定)には3.5%で課税、と二層別々の対応となる。Camp案同様、一括課税の負担は会社によっては大きいので8年の分割払いが認められる。大盤振る舞いの税法改正においてこの一括課税は大きな歳入源だ。

The Blueprintでは、テリトリアル化により米国企業が海外に眠らせている数兆ドル単位の埋蔵金も自由に米国に持って返ってくることができるようになり、他の施策と合わせると法人や事業主は税法ではなく、事業ニーズに基きサプライチェーン、雇用、投資の場所を決定することができるようになるとしている。決算書でも面倒で意味のないAPB 23ポジションとかを文書化する必要もなくなり皆ハッピーだろう。

この2つの改正、すなわち国境調整とテリトリアル課税、さらに20%という低税率の組み合わせで自然と米国企業はInversionなど検討する必要はなくなり、安心して米国企業とし活躍できるとし、Subpart F(日本のタックスヘイブン税制に類似)規定のほとんども用無しになるという「自浄作用」があるとしている。

確かにSubpart Fは複雑極まりなくなっているが、投資所得に対する「personal holding company」規定のみを残して、他の部分は改正と同時に撤廃可能としている。日本が米国型の現行Subpart Fに傾いているのとは逆行していて面白い。日本で米国Subpart F型を推し進める際、米国企業がどれだけSubpart F等のコンプライアンスに時間とコストを掛けていて、それがどれだけ重荷となっているかという点を加味して判断しているのかチョッと不思議。Subpart F絡みのコンプライアンスは、本社が世界中の子会社から定量・定性双方で困難な情報収集を強いられ、大手米国MNCでは会計事務所に年間数百万ドル(円ではない)支払っているところも珍しくないくらいの面倒さなので、日本が米国のSubpart F型に移行するというのであればそれなりの覚悟が必要だ。なんせ張本人の米国議会が酷い規定として反省し、廃案を提唱している位だから。

The Blueprintの実体的な提唱はここまでで、最後は「21世紀に相応しいService FirstのIRS!」としてIRSを生まれ変わらせるという大胆な提案で締めくくっている。Service Firstに関しては次回。

米国タックス行く年・来る年(11)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回はThe Blueprintの中でも20%の法人税や25%のパススルー特別課税を提唱している重要部分に触れたが、今回は同様にThe Blueprintの心臓部を構成していると言ってもいいクロスボーダー課税に関して。

クロスボーダー系の部分に関してThe Blueprintは二つの抜本的な改正を提唱している。まずは国境調整。国境調整は「米国タックス行く年・来る年(6)」等で触れているが、かなり刺激的なので再度ここでもう少し背景等を含めて詳細に書いてみたい。

The Blueprintの基本的な主張は、現状の所得ベースの税法では米国自らが進んで米国からの輸出取引にペナルティーを課している状態にあるとし、これを消費地課税とすることで是正するとしている。この部分の議論をザックリとまとめると次のような感じ。

米国の貿易相手国は歳入の多くをVATでまかなっているが、VATには国境調整が付き物なので、「米国タックス行く年・来る年(6)」でも触れた通り、理論的にはクロスボーダー取引の局面では仕向け地のみで課税が発生する。すなわち、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。このメカニズムは貿易を行う両国が同じVATシステムを適用している限り、輸出側の国で非課税となる輸出は、それを輸入する側でフルに課税されるため、輸出と輸入に対する税効果は相殺されることになる。ところが米国はVATというシステムを採択しておらず、代わりに所得ベースの所得税・法人税のシステムを基本とする。となると、多くの相手国がVATを採択しているため、米国相手のみのケースで輸出と輸入に対する税効果の相殺がみられず、米国からの輸出(貿易相手国から見ると輸入)は米国で輸出の売上げに課税され、更に輸入に対してVATが課せられる一方、米国への輸入(貿易相手国から見ると輸出)は米国ではコスト算入されるので非課税となり、輸出側でもVATも還付されている、という不均衡が生じており、米国自ら輸入を奨励し、輸出を罰している結果となるということだ。

だったら連邦VAT導入とするのが分かり易い解決法だと思うんだけど、ここは歴史的な背景がある。実は米国でも抜本的改正の度にVAT導入論は出ている。ただ、常に低所得者層により負担が偏るのではないか、等の反対で実現していないし、近々に実現する気配もない。The Blueprintも、この現実を踏まえた上で、冒頭でVATは今回の検討対象ではないと明言し、国境調整の考え方を法人税・所得税に適用するというアプローチを選んでいる。資産取得コストを費用化できる「キャッシュフロー」ベースの税制に国境調整を組み合わせて、消費地ベースの課税とし、実質間接税と同じような効果を創出するという狙いだ。The Blueprintが改正後の税法をやたら「消費ベース」とか「キャッシュフローベース」とか強調しているのは後述のWTOルールに対する伏線のような気がする。

いずれにしても国境調整を米国税法に取り入れることで、米国も初めて貿易相手国と同じ土俵に立つことができるようになるとしている。

この国境調整はWTOのルールによると、「間接税(Indirect Tax)」の局面では認められているものの、ネット所得ベースのIncome Taxとなる「直接税(Direct Tax)」には認められてない。この点に関してThe BlueprintはWTO下での潜在的コンフリクトの存在は認めた上で、このようなルール下では直接税を採択している米国は一方的に不利な状態に置かれているとし、The Blueprintで提唱されているキャッシュフローおよび消費地ベースの税法は形式的にはIncome Taxだが、実質はWTOが言うところの「間接税」に近く、そのためWTO的にも問題がない(?)と結論付けている。国境調整をWTOに認めさせるためには何とかThe Blueprintで提唱されている税法を「間接税」に近いものと位置付ける必要があり、そのためには消費ベースでキャッシュフローベースという点を強調する必要が出てくることとなる。

法人税下の国境調整はなかなかのGame Changerと言えるけどWTOとか出てくると一筋縄では行かないかもね。WTOとか昔のGATTと米国税務の戦いで有名なのは、輸出に税務的な恩典を与えようとするDISC、FSC,そしてETIという変遷が思い出される。最終的には米国があきらめて今日のSection 199に至るんだけど。

次回はクロスボーダー系の二つの抜本的改正のもうひとつテリトリアル課税について。

Monday, January 2, 2017

米国タックス行く年・来る年(10)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

いよいよThe Blueprintも肝心の事業所得に対するアプローチに到達する。

まずは米国法人税の高税率に関して。1986年の税法改正で米国法人税率は46%から34%と大胆に下がったが、その後30年間、米国法人税は同レベル(実際には35%に若干上昇)を保っている。その間に、1986年の税法改正当時は平均47.2%もあったOECD加盟国の法人税率平均はナンと24.8%に下がっている。日本ですら30%だもんね。相対的に米国の魅力が落ちていることとなる。そこでThe Blueprintでは米国史上一番大きな減税となる法人税20%を提唱している。トランプ案は15%で、税率はトランプが勝ってくれるといいけどね。

ここで面白いのは大企業や富裕層優遇と言われないよう、散々小規模事業主(Small Business Owner)等に対する恩典を強調している点だ。この点に関連し、米国の事業の95%が個人事業主、パートナーシップ、LLC、S法人の「パススルー」主体を通じて従事され、また事業所得の50%以上がLLCを含むパートナーシップからのものだというデータを紹介している。現状ではパススルー所得は基本的に最終的には個人に課税されるため、二重課税はないが、最高39.5%(プラス自営業税)の高税率に晒されている。もちろんCarried Interestは今では未だ別だけど。The Blueprintでも法人税率は20%としても、パススルー所得は個人レベルで課税されるとなると最高33%の課税となってしまう。それでは事業主が不利ということで、The Blueprintでは個人事業主を含むパススルーからの事業所得は個人所得税率ではなく、25%という特別税率で課税するとしている。The Blueprintから必ずしも明確でないのは、この25%という低税率は「小規模事業」に当るパススルーからの所得のみに適用されるのか、それともパススルーからの所得は全て対象となるのかという点だ。この際、シンプルに後者だといいんだけどね。その際にはパススルーはオーナー、パートナーに適切な水準の給与を支払ったと扱われ、その分は法人から給与を受け取る被雇用者のように通常の個人所得税の対象とし、残余利益に関しては25%の特別税率の対象にするとしている。であればいっそのこと、法人税率と同じ20%にして欲しいような気がする。

この手の扱いは一見シンプルだけど実は何が合理的な水準の給与かという算定とか結構面倒かも。この規定に代表されるようにThe Blueprintでは税法がものすごくシンプルになるように設計、意図されているようだけど、かなりハイレベル、すなわち大枠の議論で終わっているため、まさしく「the devil is in the detail」という感じは否定できない。AMTの減価償却計算とかやっていても本当にバカバカしい限りなので、方向性としては絶賛するに値するが。ちなみに、この「Devil is in the detail」、日本語で「悪魔は細部に宿る」とか訳されているのを見たことあるけど、全然意味が伝わらない感じ。ビジネスの文脈で使われる際には、「一見簡単なことも詳細を詰めるとそんなに簡単ではない」という意味になる。M&Aの契約のTermの交渉を簡単に済ませようとしたりする際に良く使われる言い回しだ。

以前から何回も触れているが、事業資産に対する償却(Depreciation+Amortization)は撤廃され、全て即費用化となる。確かに現状の償却はその区分法により償却期間が大きく異なるし、内装がリース期間にかかわらず39年だったり、AMTがあったり分かり難いことこの上ない。これらの作業が無くなるだけでも相当コンプライアンスは楽になるだろう。費用化には土地取得コストは含まれないとされる。となると建物とか取得した際の取得コストの土地・建物の配賦は今以上に重要検討項目。その代わりにネット支払利息は損金算入できなくなる。ネットの話しなので、利子所得があれば、その範囲で支払利息は費用化できるが、それを超えては費用化ができない。となると面倒なSection 163(j)のアーニングス・ストリッピングとか、言語道断に難しいFunding規定とかを含むSection 385の過少資本規則とか、Financingプランを使ったHybridだの、Reverse HybridだののBase Erosionとか一切検討の意味を持たなくなってしまう。こんな伝家の宝刀を抜いてしまうとは・・。

繰越欠損金(NOL)の扱いも面白い。繰越は永遠に認められ、しかも毎年物価スライド調整的に利率を乗じた金額を後年に繰り延べできる。一方で繰り戻しはなくなり、また繰り延べの対象となる課税年度で使用できる金額はその年度の課税所得の90%に限定される。現状のAMTのNOLみたいだ。未使用のNOLに金利を付けてくれたりしてなかなか親切で大胆。

現状の税法に規定される諸々の「Special Interest」に対する控除・クレジットは全廃が提唱されている。その槍玉に上がって例示に登場しているのがSection 199の製造者控除。一定の活動に従事する法人は法人税率が実質35%から32%程度になり、個人にパススルーされる場合には39.6%が36%程度になるが、適格かどうかの判断が複雑で、適格とならないケースでは納税者が不利な扱いとなり、適格となる場合も相当なサポート文書化が必要と嘆いている(実際に本当だと思う)。そこでSection 199を含む特別な活動、事業に対する恩典は撤廃し、その代わりに税率を思い切り下げて、どのような活動に従事するかは議会が決める税法ではなく、事業主の才覚で決めて欲しいとしている。

なかなか立派な提唱だが、前述の通り、そんなに間単に行くかは少し心配。まさに「the devil is in the detail」。次回はいよいよ斬新な「消費地課税」に関して。

米国タックス行く年・来る年(9)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

2017年明けましておめでとうございます!

大晦日のTimes SquareはMariah Careyがまたしてもボーカルで失敗してチョッとビックリだったけど、TVで見る限りその他はかなり盛り上がってた。MariahのボーカルはNYCのこの手のイベントでは「いわくつき」の問題で、2014年のロックフェラーセンターのクリスマスツリーの点灯式でも「All I want for Christmas is you」で全然声が出なかったハプニングがある。何でも、ロックフェラーでは本来はボーカルをPre-recordingしてリップシンク(クチパク)にするはずが、Mariahが3時間遅刻してきたので本当にライブパフォーマンスとなってしまい、元々声域が異常に広かった歌手だけに当時は高域を駆使した曲が多く、後年ではそれが裏目に出てしまい、全然声が出ないと言う状況を露呈してしまったという事件だ。

それだけに今回の大晦日に当然全国放映のTimes Squareカウントダウンイベントの「トリ」として登場した歌姫がまたしても大失敗というのはチョッとリスク管理に問題があるのでは?というか何か悪い陰謀でもあったのでは、と思ってしまう。今回は用意周到に「We belong together」をリップシンクで披露するはずが、なぜかバックに掛かり始めたのはMariahの1991年の大ヒット曲「Emotions」。またしてもリップシンクではなく急遽ライブパフォーマンスとなってしまいロックフェラーセンターの悪夢の再現、というかそれを上回るパフォーマンスとなってしまった。声は出てないし、その上歌詞も忘れているように見えて、数秒で歌うのは諦めて適当にMCしてステージから降りてしまったのだ。近所のカラオケ大会でもあるまいし、こんなことがなぜ緻密に計画されている大手のイベントで起こりえるのか本当に不思議。

ちなみにこのEmotions(Mariahの曲のタイトル)って曲、1977年のThe Emotions(バンドの名前)の「Best of my love」とリズムとかリフが同じなので当時は何かのジョークなのかな、と思っていた。この2つの曲の12インチを買ってターンテーブル(もちろん黒のTechnics SL1200MK5 Direct Drive Turntable を2台持っていたので)でミキサー使って同時に掛けて、友達と8小節毎に交互に聞いたり、ズッと重ねてみたりして遊んだものだ。後で知ったけど、やっぱりThe EmotionsがMariahを盗作で訴えたそうだ。許可なく使っていたとしたら、しかもバンド名を曲の名前にして、結構大胆。

同様に大胆なのがここ何回かのポスティングで取り上げている米国の抜本的税法改正の叩き台となる「The Blueprint」だ。このThe Blueprint、米国を投資対象国として世界一魅力ある国にするという高尚な目的を掲げながら、合計僅か35ページと簡明にまとめられた読み易い文書だ。あちこちに定義が散らばっていて常軌を逸して読解困難な過少資本の最終規則518ページを読んだ後だと何を読んでも分かり易い。

The Blueprintでは国民1人当りのGDPを指標とし、それが低迷しているのは、勤勉な勤労、貯蓄、投資に課税する現状のできの悪い税法のせいだとバッサリ切っている。GDP総額は「人口X生産性」なので、人口が異なると比較しても余り意味がないし、国民1人当りのGDPは生活水準を図るには有益だ。生活コストを加味せずに単純にドル換算した数字はあちこちで出ているので大体の感触はみんなも知ってると多いと思うけど、ルクセンブルグ、スイス、ノルウェーが1人当り10万ドル前後で上位というランキングを出している統計が多く、米国は5万ドル後半で10位以内だ。ちなみに日本は3万ドルの真ん中辺で25位くらい。200国近い中でなので日本も悪くはないが人口が減少傾向なので1人当りの生産性を他国より高めて全体のGDPを押し上げる努力、政策は欠かせないだろう。日本版Blueprintで大胆な政策が望まれるが、海外から日本の国会の在り方を見ているとどうなんだろうか?って思うことは多い。日本はタックスヘイブン税制を強化したりBEPSに一生懸命だけど、国際的な会計事務所の国際税務部に居て世界中の企業の在り方を目の当たりにしている立場から言うと、日本企業は大概において他国のMNCと比べても極端に真面目に納税しているケースが多く、アクティブにBase Erosionなんてしているケースは全体像として少ないのは間違いないと肌で感じている。これ以上、日本企業にコンプライアンスを強いるようなことは考え直して日本版Blueprintで世界一投資したい国に導いて欲しい。

で、現状の税法がダメだったらThe Blueprintではどういうアプローチを取るかというと、ズバリ「所得ベース」からより成長推進型(Pro-Growth)の「消費ベースのタックス」に移行すると宣言している。え~、遂に米国も法人税とか所得税を撤廃して連邦VATとか消費税?と考えてしまいそうな出だしだが、実際にはそうではないと直ぐに釘が刺されている。消費ベースの課税システムは必ずしも消費税でなくても法人税の規定を大きく変更することで達成できるとしている。The BlueprintではVATや消費税は論じないと断ったうえで、21世紀に相応しい「消費ベース型の法人税」の導入提唱をしている。その骨子は低い税率、シンプルな税法、有形・無形の事業資産取得コストの取得時一括費用化、仕向け地(消費地)のみでの課税(これが国境調整)、そして海外子会社配当益金不算入のテリトリアル課税、となる。

貯蓄を奨励するため、オバマケアで導入された3.8%のNIIT(プラス0.9%の追加給与税)は即撤廃し、さらに従来は通常税率で課税されていた利子所得もキャピタルゲイン、配当と並び、通常の税率の半分で課税されるようなインセンティブを設ける。個人所得税は極端にシンプル化され、ポストカード一枚に収まる申告書となるそうで、実際にポストカード申告書のサンプルまで入っている。本当にこうなったら凄い。香港みたいだ。でもNR申告書とかDual Statusとかちゃんと考えてくれているのかチョッと心配。

The Blueprintではここから事業所得に対する課税の新しいアプローチに入る。

Saturday, December 31, 2016

米国タックス行く年・来る年(8)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintのタイトルである「A Better Way」に焦点を当てて(当て過ぎて?)みた。今12月30日も未明で明日の31日は大晦日。Times Squareでは例の大きなボールがビルの上で落ちる日だ。周辺は凄まじい混雑とSecurityでごった返すので当然オフィスも立入禁止。例年であればMarina del Reyに避難するところだけど、今年はチョッと事情がありNYCで新年を迎えることとなった。で、大晦日直前というのに、財務省はオバマ政権花火大会のクライマックスを未だ続けてくれていて、この期に及んでFATCAの財務省規則を公表してしまった。政権の余命がなく焦ってレガシーを残したい気は分かるけど、悪法のひとつとしてトランプ政権による廃案リストに載っているFATCAの規則を12月30日に出してくるとはこちらも気合十分。

FATCAとか源泉徴収規則に脱線せずにここは予定通り「The Blueprint」。ちなみに前回あれだけ冠詞で盛り上がったのでこのポスティングからはBlueprintにきちんと「The」を付けることにしました。

The Blueprintのまず冒頭には改正案のテーマが記載されている。既存の税法の枠の範囲内であれこれ検討しても選択は限られているので、米国の成長のためにはもっと大胆に行きましょうと宣言されている。すなわち、そんなセコイ考えでは、結局何も起こらない、増税(民主党主導だとこっち)して更にハードワーク、貯蓄、そして米国の最大の武器である企業家精神からペナルティー的に税という名で資産を没収しやる気をなくさせる、または従来通り税法をチョコチョコといじってますますアメリカンドリームを陰らせる(「while the sun sinks ever lower on the age of American excellence」となかなか詩的)、という結末しかないということだ。

そこでThe Blueprintでは、そのような場当たり的な対応を否定し、大胆かつ成長を後押しする全く新しいアプローチを提唱する、となる。アプローチの検討過程での最重要ポイントとして「この規定は成長を後押しするか?」「他の規定で歳入確保してまで織り込む価値のある規定か?」という二つを念頭においたとしている。ここの2つ目のポイントはトランプ政権とは若干温度差があり、The Blueprintは基本的に国家財政へのインパクトは中立としたい(少なくとも理論的にそう言える程度にしたい)という思惑がある。一方のトランプ案はインフラ投資を中心としたかなりの財政出動を伴うものなので、保守系シンクタンク等の見積りでも国家財政へのネガティブインパクトはかなり大きくなる。この財政への影響は将来の成長をどう見込むか、という点で大きく見積りがことなるが、The Blueprintでもここはしっかりと「この改正から期待される経済成長から歳入増を加味して・・」とSupply-side economicsの立場を取る。レーガン再来を夢見る共和党案だからそれはそうだろう。将来の経済成長を加味して国家財政への影響を見積る手法は「Dynamic Scoring」として知られ、減税とか規制撤廃の経済効果を加味しない「Static Scoring」の対語となる。Dynamic Scoringの精度は意見の割れるところだろう。

The Blueprintには3つの目的、すなわち雇用を促進し国民全員に機会を提供すること、とんでもなく複雑になって修復不能に近い(「Broken」)税法をシンプルかつフェアにすること、機能不全の(こちらも英語では「Broken」)IRSを国民のための行政機関に生まれ変わらせること、があるとし、更にこれは議論の出発点だとして弾力性を持たせている。

構成としては次に、このような目的を具体化するために下院歳入委員会の会長を中心にタスクフォースを結成し、なぜこの時点でこのようなイニシアチブが必要かを説明している。2016年というと米国の最後の抜本的税法改正となった1986年(レーガン政権)から30年記念となり、状況は当時と似ていて機は熟していると記載されている。ちなみに1986年には税法は26,000ページで済んでいたものが、現在では70,000ページに及んで制御不能になりつつある絵があり面白い。過少資本の最終規則だけで518ページだもんね。このトレンドは何とかしてもらわないと僕たちみないに年中税法と格闘している身でもとても付いていけない。1960年にはトップ20社のうち17社は米国に本社を置いていたが、今ではたった6社しかないとう現状を示し、その大きな原因は使い勝手の悪い税法にあるとしている。

このように抜本的改正の舞台を整えた上で、具体的な提唱に入っていく。

Friday, December 30, 2016

米国タックス行く年・来る年(7)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintの中でも意表を突くアプローチで世間をあっと言わせている「国境調整(Border Adjustment)」を中心に触れた。従来では考えられない法人税の在り方に最初は「まさか・・」と思っていたけど、トランプ政権も下院案には歩み寄りを見せる傾向にあり、またトランプ政権の目指す製造業等の米国回帰の路線に一見合っているとも思われ、WTOのチャレンジ等の紆余曲折はあるかもしれないけど、もしかしたら思ったよりも実現の見込みは高いかもしれない。

日本企業も、仕入れのうち輸入が占める金額、売上のうち輸出が占める金額をザックリとはじき出し、ネットした金額に15%または20%を掛けてインパクトの概算を計り知っておくのがいい。国境調整の世界では輸出と輸入の金額は課税所得に大きな影響を持つが、税率も変わるので実際に最終的にどちらが得かは実際に自社の数字で試算してみるのがいいだろう。前々回触れたが、ネット支払利息は損金不算入となる、R&Dクレジットを除く各種恩典がなくなる、また設備投資等、土地を除く有形無形の資産取得が一括費用化できる、等の変数も加味してプロジェクションを進化させ、自社の弾性を試すことも必要だ。結果を見るのが恐ろしいケースもあるかもしれないけど、税率が低くなるので意外に「吉」と出るケースもあるかも。またテリトリアル化する国際課税の影響も大きいけど、こちらは米国MNCの方により大きなインパクトがあるだろう。

この国境調整、Trade Balanceに実際のところどんな影響が出るんだろうか。経済学者曰く、短期的には影響があるかもしれないけど、その影響は中長期的には為替で調整され、最終的には影響は排除されるそうだ。そうなんだ・・?って感じだけどマーケットが効率的に機能するのであればそんな感じなのかもね。

さて、順序は逆っぽいけど、ここらで国境調整を含む下院が気合を入れて策定したBlueprintをもう少し詳しく見てみたい。Blueprintの正式タイトルは「A Better Way」ってもので更に「Our Vision for a Confident America」という副題が付いている。下院歳入委員会の正式なサマリー等には更に「A Better Way for Tax Reform」とも書かれている。更に「Built for Growth」っていうバイクのハーレーに付いてそうな60年代っぽいロゴまであって気合十分。「Blueprint」って表現はタイトルページ等には一切なく、本文が始まるページに「このBlueprintでは・・・」みたいな形で登場してくるものだ。

ここでまず目に付くのは不定冠詞の「a」が多様されている点。日本語にない感覚なので「a」でも「the」でも又は何にも付いてなくてもあんまり気にされないこともあるけど、英語の表現上は不定冠詞「a」は強力な意味を持つ。「a」はもちろん「the」ではない。決まってるじゃんって思われるかもしれないけど、この2つの意味は全然違うので法律とか判例を読む際には常に冠詞を気にする必要がある。下院のBlueprintもあくまで「A Better Way」であり「The Better Way」ではない。これは文字通り解釈すると複数あり得るBetter Waysのうちのひとつの提案というようなニュアンスとなるのだろうか。一方で「Blueprint」は常に「the」で始まり「B」は大文字。この改正案は一つしかないのでそうなんだろう。「A Confident America」の部分も、Confidentという形容詞が付いているとは言え、固有名詞のはずのAmericaに敢えて「a」が付いているのも面白い。米国税法の改正案って局面で、大統領候補とかが歴史的にというか文学的にというか情緒的によく使う「America(単数)」って表現を「United States」の代わりに使ってるし。「Make America Great Again」っていうトランプ選挙活動のスローガンに呼応とういかシンクロさせたのかも。意味としては米州の中の確信に満ちた一つの国っていうこと?何か日本語になってない、って言うか原文の意味が伝わってこない。「Confident」っていう単語の選択は極めて興味深い。現状では自信を失っているのかしら、とでも思わせる表現だ。ここで言う「Confident」はアメリカがConfidentっていうよりも、米国市民が政府に信頼を寄せる的な意味と考える方がピンと来る感じ。トランプ政権だったら「Confident」の代わりに「Great」だろうか?Demi Lovatoだったら「Confidentで何が悪いの?」って言われそうだけど、こんなタイトルを適当に付けるはずもないので、そこに下院のメッセージが込められていると考えるべきなんだろう。

ちなみにこの冠詞っていうやつ、中学の頃から英語を勉強していても中々分かり難い(というか深く気にしてない?)という日本の人も多いと思うけど、究極に分かり難いのがバンド名。Beatlesはもちろん「The Beatles」でリンゴスターのドラムにもちゃんと「The」が入っている。Rolling Stonesだって「The Rolling Stones」だ。でも「Led Zeppelin」を間違っても「The Led Zeppelin」って言う人は居ないよね?そんなのバンドの当人たちが勝手に決めただけじゃん、って言う単純な話しかもしれないけど、人に聞いた話しでは複数、つまり最後に「s」が付くバンド名は当人たちも「the」を付けることが多く、周りも実際には付いてないバンド名にも「the」を付けて呼んでしまうことが多いそうだ。その訳は、複数の形を取るバンド名は、暗にそのバンドメンバーの1人1人が単数、すなわち「a」を意味すると取ることができ、全体では「the」となるそうだ。例えば、John Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starrは各々「A Beatle」で、4人全員集まると「The Beatles」になるという訳。厳格に適用できるルールではないかもしれないけど、経験則的にはなるほどって感じかもね。だって誰もJimmy Pageを「A」 Led Zeppelinって形容する人はいないもんね。バンドとしてのThe Eaglesのデビューアルバムのタイトルは「Eagles」だったり「たかが冠詞、されど冠詞」で奥は深い。

と、かなりどうでもいい話しになったけど、次回は「A Better Way」すなわち「The Blueprint」の続きをもう少し。

Thursday, December 29, 2016

米国タックス行く年・来る年(6)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

前回からトランプ案と下院Blue Printの概要に触れているが、今回はその中でも物議をかもしてい下院Blueprintにある「Border Adjustable Tax(国境調整)」に関して。この国境調整はキャッシュフローベースの課税と並んで従来の課税アプローチと大きく異なることから注目を集めている。

国境調整はVATの世界ではお馴染みの仕組みで、通関のないサービスからどのように徴収するのか等の手続き的な問題はさておいて、理論的にはクロスボーダー取引の局面で仕向け地のみで課税するという比較的シンプルな考え方だ。すなわち、VAT的に言えば、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。それはそれでVATの世界では機能するんだろうけど、これを法人税にも適用してしまうというのはかなり新しい発想だ。

以前、2016年1月21日の「Inversion/インバージョン(プラスBEPS)(2)」でチラッと触れたけど、長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。そうしたらアーニングス・ストリッピングとかBase Erosionも過去の手法となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。そう考えると仕向け地ベースへの移行は合理的な方向と言えるけど、だったらいっそのこと、法人税全面的に撤廃して連邦売上税とかVATを導入してはと考える向きもあるかもしれないが、これは長年に亘り実現していない禁じ手となっている。

で、法人税に国境調整を適用するとどうなるか。国境を越えて米国に入る輸入のコストは一切損金算入とか売上原価にならず、逆に出て行く輸出にかかわる売上は課税所得とならないという単純だが凄い内容だ。例えば自動車メーカーが日本から完成車を輸入して米国で車を販売すると、輸入されたコストは$1もコスト計上できないので、売り上げ引く米国の一般管理販売費が課税所得となる。逆に米国で製造した車を輸出すると、課税所得となる売上はゼロとなるので、製造原価プラス米国の一般管理販売費がそのままNOLとなる。実はWTOでは所得税に国境調整を適用することを認めていないんだけど、下院Blue Print的には法人税をキャッシュフローベースとすることでWTOのチャレンジは克服できると考えているようだ。前回も触れたがキャッシュフローベースなので有形・無形の投資支出はその時点で全額損金算入、その代わりにネット支払利息の損金算入は撤廃される。

感心に値する斬新なアイディアだけど、国境調整が現実のものとなると勝者・敗者の明暗がくっきりとなる。少なくとも輸入に費やしたコスト分は輸出しないとBreakevenとならない算数となり、現状のビジネスモデルの大きな変更を余儀なくされるケースも多数あるだろう。当然GlobalのTrade Flowに大きな影響を与えるだろうけど、余りタックスとか政府の規制とかでビジネスモデルが決められる、または選択肢が狭められるというのはどうなんだろうか?政府というのは民間と比べるとどうしても官僚的で独創的な部分が少ないので、そんな政府はどこの国でも最小限のことだけをして税金を下げてPrivateセクターを活性化するという間接的な関わりが良く、余り事業の戦略策定的な部分に主体的に関与していくのは最終的には効率の悪いモデルとなりかねない。

国境調整は下院Blueprint案で提唱されているもので、トランプ案にはこのようなものはない。ではトランプ政権は国境調整をどのように受け止めているのか?まだ明確ではないが、米国に製造業の存在を食い止めようとする方向性には合っているように思われ、トランプ陣営から反対の声は聞かれない。トランプ政権が検討している10%の輸入関税に、更に法人税の国境調整を加味して、強力な「Made In USA」インセンティブを構築するかもしれないという前向きな姿勢が次第に感じられるようになってきている。

ということで日本企業の米国事業にも大きな影響をもたらす国境調整。今後の展開から目が離せない状況だ。前回のポスティングにも書いたけど、簡単なモデリング位は構築しておくべきだろう。