ボーダフォンと言えば英国を拠点とする巨大な携帯電話会社で世界中で携帯ビジネスを展開している。日本でもその名はよく知られているし、本拠地ヨーロッパでは街のあちこちにWindとかのいい感じの名前の横にボーダフォンの名前を掲げた店舗が目に付く。一方で米国ではボーダフォン・ブランドは余り知られていない。ボーダフォンはVerizonの大株主ではあるが、VerizonはVerizonブランドで携帯ビジネスをしているので一般の人にボーダフォンの名前は浸透していない。多分その辺のゲームおたくの中学生に聞いても名前を知らないだろう。以前にAT&T買収合戦を演じて一時名が売れたが、この買収劇、最終的にはCingularグループに軍配が上がっている。
そう言えばその昔Cingularの携帯使ってた時しょっちゅう途中で携帯が切れたが、AT&Tが今でもしょっちゅう切れるのはその流れかも。今ではiPhoneでもキャリアーが選べるようになってVerizonネットワークが利用できるので安心だが、AT&Tしか選択がない時代は辛かった。iPhoneとは別にVerizonが使えるBlackberryを持ち歩いて大切な電話はそちらでコールインするという本末転倒な状況だったからだ。AT&Tは地域によってはいいのかもしれないけど、マンハッタンの真ん中で全然ダメだったり、ロサンゼルスのFwy 405走っている最中に何回もドロップされたり、肝心の飛行場で通じなかったり、と個人的に使うことが多い局面で頼りにならなかった。
JFK空港のアメリカン航空のターミナルに昔、大きなビルボードがあり「幻の大陸、アトランティスが今日存在したならば、AT&Tが(携帯ネットワークで)カバーしていただろう(原文はもちろん英語)」と宣伝されていた。ところが、そのまん前でAT&Tを使うと携帯の入りが悪く困ったことがある。アトランティス大陸はいいから、それよりもマンハッタン、JFK、ロサンゼルスのフリーウェイとか基本的なところをまずは押さえて欲しかった。
*法律の予見可能性
インドの税制が外国からの投資に関して仮にUnfriendlyであるとしてもそれを最初から知っていて外国企業がインドに投資しているのであればそれはビジネス判断であり、予想通りに課税されてAfter-Taxの所得が圧縮されていても「想定の範囲内」であれば誰もが納得できるだろう。もちろん、外国企業にとって不利な税制が規定されていれば、限られたキャピタルで高い投資効率を求める多国籍企業がどの国に投資するかという意思決定をする上でその国にとって不利となるのは言うまでもない。
しかし、長期的に更にたちが悪いのは、どのように課税されるかという予測が困難なケース、すなわち法的な取り扱いに関して予見可能性が低いケースだと言える。これは法治国家として致命的な欠点であり、外国企業からの投資意欲を低減させる大きな一因となり得る。
日本の税法も外国から見てると、その適用に関して予見可能性が高いとは言えないケースもあり、長期的な日本の発展を考える上でこの点は改善が望まれると個人的には感じている。例えばのケースだけど、米国のLLCとかLPとかを日本の税法上どのように取り扱うかという点に関していくらなんでもそろそろ日本全国で分かりやすい尺度を明確にして欲しい。LLCは1990年代前半から頻繁に利用されるようになった事業主体だから、その存在が広く認知されてから既に20年の月日が経っている。当初はそのハイブリッド的な性格が分かり難かったというのも理解できるし、税金を取る立場に立つと、LLCを法人とした方が有利なケースもあるし(LLCの損失を取り込ませたくないようなケース)、パススルーとした方が有利なケースもある(LLCの所得を合算したいケース)という点も理解できる。ただ、法律としては単純にどのようなケースにパススルーになるのかという明確な指針が望まれるところだ。
一定の取引を実行したら、どの国でどのように課税されるのかというのを前もってある程度の確証度で予見できる状態、これを税法の予見可能性と位置づけてみるが、今回はそんな予見可能性という点を改めて考えさせられる契機となったインドのボーダフォンケースに触れてみたい。
*ボーダフォンとインド最高裁判所判決
外国企業から見たインド税制の混乱はボーダフォンを巡る取り扱いが3月後半にインドの最高裁判所にてボーダフォン勝利の結果に終わったところから始まる。この判決は多国籍企業がかなり注目していたもので、判決が下されるであろうと予定されていた日は、大手会計事務所、法律事務所の国際税務部門では朝から判決結果を待っているという臨戦状態であった。かつてOJ.Simpsonの刑事訴訟の評決が言い渡される日、オフィスのほぼ全員がキッチン(カンティーン)のTVスクリーンの前に集合していたのを思い起こさせた。
ボーダフォンケースの争点は、ボーダフォンが香港のハッチソン・ワンポアから112億米ドルでインドの携帯会社を取得した取引のインドでの課税関係だ。僕が香港に住んでいた20年程昔でもハッチソン・ワンポアと言えばスワイアグループとかジャーディンとかと並ぶ香港を代表する複合企業のひとつだった。香港の大企業は個人の大富豪が支配権を掌握しているケースが多く、ハッチソン・ワンポアもその例に漏れず、リー・カーシンという大金持ちが大株主兼会長であった。法人税15%程度でオフショアとかキャピタルゲインとか多くの所得が更に非課税という香港なので、儲かりだすと手元に残る財産も半端ではないことが多いな、と実感させてくれる一人だ。彼らが傘下に持っていたワトソンとかPark’N’Shopとかは、香港に住んでいれば毎日でも利用するような店なのでハッチソングループは我々にとってもかなり身近な存在だ。そんなハッチソンが投資していた先のひとつがインドで携帯ビジネスを展開しているHutchison Essarで、ハッチソンがその支配持分をボーダフォンに売却したのが事の始まりだ。
インドの税務当局はこの取引をインドでの課税対象であるとして、ボーダフォンに20億米ドル(80円換算で実に1兆6千万円!)の課税をしようとしていた。これを不服としてボーダフォンは5年越しの法的な戦いをしてきたが、このほどインド最高裁判所はインドの税法上、このようなオフショアディールを通じて外国の企業間で発生しているキャピタルゲインはインドに課税権はないという判断を示し納税者のポジションを指示したのだ。これはボーダフォンの主張そのものだ。またボーダフォンは仮に取引が課税対象だとしても、キャピタルゲインを認識したのは売り手であるハッチソン側なので、課税するのならハッチソンにしてくれ、という旨の代替ディフェンスも合わせて主張していた。
次回はもう少しこのケースの内容、そしてその後のインド税務当局のかなり過激な対応に触れたい。
Saturday, April 14, 2012
Sunday, March 11, 2012
ついに米国もテリトリアル課税に?(5)
前回まで4回に亘り、米国の税法立案に大きな影響力を持つ下院のWays and Means委員会(W&M委員会)が提唱した米国テリトリアル課税(外国子会社からの配当非課税)法案に関して触れてきた。今回はその最終回として、テリトリアル課税に移行するとなった場合に米国財務省がどのように米国からの所得ベース流出を食い止めようとしているか、という点に関して簡単にまとめてみたい。
*テリトリアル化と課税ベース
税制が「全世界ベース」に基づくものである間は、例え一旦所得が米国から外国子会社に「移転」されたとしても、それが配当で戻っていた時に課税できるという意味では長期的には一時的な課税ベースの浸食であると考えることができる。しかし、この考えは実は現実味がない。
過去のポスティングで機会がある毎に触れている通り、米国多国籍企業は様々な手法で合法的に低税率外国子会社に所得を移し、その埋蔵金は巨額になるが、それらを単純に米国で課税される配当として米国に戻すということは考えられない。また、外国子会社の中には米国同様に高税率で課税された所得を持っているケースもあるが(E&Pの算定を利用して人工的に実効税率が高く見えているケースを含む)、外国からの配当は多くのケースでそのようなHigh Tax Poolを原資として実行されるため、米国に配当が戻ってきたとしても間接税額控除の恩典で実際に米国財務省に税収が多く入ることは少ない。となると、テリトリアル化した際に想定される米国の課税ベース侵食問題は基本的に現状でも全く同じレベルでの検討事項となることが分かる。
更に、全世界課税だろうがテリトリアルだろうが、移転価格税制の考え方は同じはずで、その意味で全世界ベースの課税システムを維持している現状でも、米国から海外子会社への所得流出は同様に網が掛けられているはずだ。
したがってテリトリアル化の税法案に課税ベースの浸食対応策強化が盛り込まれているのは、テリトリアル化でより課税ベースの移転に気を付けなくてはいけないという側面もなくはないかもしれないが、どちらかと言うと現状でも課税ベースが浸食され、その対応策が効果的でないので、それをいずれにしても見直しておくという意味の方が大きいように思う。
*過少資本税制
課税ベースの浸食のクラシック的な手法はグループ会社に利子を支払って高税率国の課税所得を圧縮するという考え方だ。配当は税引後の所得を原資とする一方で利子は損金処理できるので算数的には借り入れは大きければ大きい程投資に対するリターンは良くなるし(MM理論)、利子を受ける側の税率が低ければグループ内でお金をどう位置づけるかを工夫するだけで、グローバルベースの実効税率を下げることができる。米国多国籍企業はこの手のプラニングは徹底的に実行している。日本企業も、米国企業ほど腐心する必要はないにしても、日本がテリトリアル課税となっている今日、グローバルレベルでの競争力を考えるともう少しこの点を考えてもいいはずだ。
米国税務における過少資本への対抗策は細かいものを含めるといくつかあるが、メジャーなものは「アーニングス・ストリッピング規定」と「過少資本税制(Debt/Equity Classification規定)」の二つとなる。
アーニングス・ストリッピング規定に関しては以前に何回か特集しているので(2007年11月30日「Earnings Stripping Ruleの今後」参照)詳細はここでは触れないが、キャッシュベースのEBITDAから機械的に利子の支払可能額を推定し、超過額は利子という性格を維持したまま、将来に繰り延べるという規定だ。日本でも同様の規定導入が予定されている。
一方の過少資本税制はその昔、財務省が規則暫定案を公開したが、散々酷評されたあげくに撤回されてしまったという曰く付きのもので、今でも明確な指針がなく、多くの(時として整合性のない)判例を分析して検討する納税者泣かせ(タックス専門家泣かせ?)の規定だ。他の国では機械的なSafe HarborのDebt/Equity Ratioがあったりするが米国には規定されていない。考えてみると、その方が自然で、過少資本税制は個々の事実関係により答えが大きく異なる分野の代表的なものだ。Debt/Equity Ratioも場合によっては100対1でも経済合理性があることもあれば、3対1でも怪しいこともあり、これを十把一絡げに扱うことはかなり恣意的な判断になる。最終的には第三者から同じ条件で借りることができたのか、という点が一番大きな検討事項で、この経済分析を文書化しておくこと以外に効果的な対応策はないだろう。その意味で移転価格門問題に類似しており、法的な分析というよりも経済的なアプローチで解決せざるを得ない問題だ。
そんな前提の中、今回のテリトリアル化提案には過少資本に対する具体的な対応策が規定されている。それによると過少資本税制は米国法人が他の国に関連会社を持っている際に適用とされる。これはもっともな話しで、どんなにDebt/Equity Raitoが高くても非関連者から借り入れているのであれば、信用力に準じた借り入れになることから過少資本税制取り締まりの対象とする必要はない。また、課税ベース侵食の手法としての借り入れは低税率国に設立されている関連者(Group Finance Company)からの借り入れを利用することから、米国外に関連者が存在する場合に問題となる。
提案では、グループのグローバルベースでのDebt/Equity Ratioを算定し、米国内グループの同Ratioがグローバルベースのものより高い場合に潜在的に過少資本税制の適用があるとされる。すなわち米国のLeverageがグループ平均より高いケースに問題があるというアプローチとなる。
次に課税所得に調整を加えた調整課税所得(おそらくアーニングス・ストリッピング税制のようにキャッシュベースのEBITDAのようなもの)の一定%を超える金額のネット支払利息(支払利息マイナス利子所得)を損金不算入とするものだ。面白いのはここで損金不算入とされた金額は、アーニングス・ストリッピング規定同様に利子として将来に繰り越すことができるとされる点だ。通常の過少資本税制は借入過多の部分は資本とみなすため、利子として引けない部分は配当に再区分されることから将来的に損金算入できる道は残されない。この点に関して今回の提案は異なり、実質セーフハーバーが1.5からグループ全世界Ratioにすり代わった新型アーニングス・ストリッピング規定の様相を呈している。
そもそも米国税法の抜本的改正案を論じる者の中には、借入と資本に対して税務上異なる取り扱いを規定していること自体が諸悪の根源であるとして、二つの取り扱いに整合性を持たせるべきという提案もある。整合性を持たせるということは支払利息を配当のように損金不算入とするか、または配当を利子同様に損金算入するか、のいずれかだろう。ベルギーのように「みなし利子控除」を認めるというのも一案だろう。
*外国子会社への所得移転
支払利息の損金算入と並んでフォーカスとなるのが価値のある無形資産を米国外に置いて米国の課税ベースをミニマイズさせるというものだ。この点に関係して提案では3つの代替案が規定されている。
まず第一の案は、オバマ政権が以前から提案しているものと同じで、米国から移転された無形資産を基に低税率国で多くの所得(Excess Profit)を得ている場合にはそれをSubpart F所得と認定して米国でも課税してしまおうというものだ。従来からの移転価格規定でも外国に無形資産を移転する際に受け取るべき対価は将来の収益性を反映させたものでなくてはならないといういわゆる「Commensurate with Income」規定があるが、それを更に過激にした感じの内容だ。
2つ目の代替案もかなり刺激的だ。この代替案の適用は無形資産からの所得に限定されておらず、他の所得も対象となる点で他の二つの案と異なる。すなわち、実効税率が10%以下のケースで、その所得がCFCの所在国を源泉としない場合、そのCFCの総所得(=Gross Receipt)をSubpart F所得として米国で課税するというものだ。
3つ目の代替案はパテントボックスに通じるものがある規定だが、全世界の無形資産からの所得を15%という恩典低税率で課税してしまおうというものだ。
テリトリアル化自体の実現がここ数年のスパンで考えるとどれ程現実的なものか分からないので、ここで触れた課税ベース侵食対策も今後どのように実現していくのかは未知だ。もしかすると、テリトリアル化は先送りされるにも係らず、課税ベース侵食対策のみ先行して法制化なんていうシナリオもあり得るかもしれない。実質、一旦逃げた所得が課税所得として米国に戻ってこない実態を考えると、テリトリアル化の有無とは関係なく、課税ベース侵食対策は必要というのが財務省の考え方であったとしても何の不思議もない。
*テリトリアル化と課税ベース
税制が「全世界ベース」に基づくものである間は、例え一旦所得が米国から外国子会社に「移転」されたとしても、それが配当で戻っていた時に課税できるという意味では長期的には一時的な課税ベースの浸食であると考えることができる。しかし、この考えは実は現実味がない。
過去のポスティングで機会がある毎に触れている通り、米国多国籍企業は様々な手法で合法的に低税率外国子会社に所得を移し、その埋蔵金は巨額になるが、それらを単純に米国で課税される配当として米国に戻すということは考えられない。また、外国子会社の中には米国同様に高税率で課税された所得を持っているケースもあるが(E&Pの算定を利用して人工的に実効税率が高く見えているケースを含む)、外国からの配当は多くのケースでそのようなHigh Tax Poolを原資として実行されるため、米国に配当が戻ってきたとしても間接税額控除の恩典で実際に米国財務省に税収が多く入ることは少ない。となると、テリトリアル化した際に想定される米国の課税ベース侵食問題は基本的に現状でも全く同じレベルでの検討事項となることが分かる。
更に、全世界課税だろうがテリトリアルだろうが、移転価格税制の考え方は同じはずで、その意味で全世界ベースの課税システムを維持している現状でも、米国から海外子会社への所得流出は同様に網が掛けられているはずだ。
したがってテリトリアル化の税法案に課税ベースの浸食対応策強化が盛り込まれているのは、テリトリアル化でより課税ベースの移転に気を付けなくてはいけないという側面もなくはないかもしれないが、どちらかと言うと現状でも課税ベースが浸食され、その対応策が効果的でないので、それをいずれにしても見直しておくという意味の方が大きいように思う。
*過少資本税制
課税ベースの浸食のクラシック的な手法はグループ会社に利子を支払って高税率国の課税所得を圧縮するという考え方だ。配当は税引後の所得を原資とする一方で利子は損金処理できるので算数的には借り入れは大きければ大きい程投資に対するリターンは良くなるし(MM理論)、利子を受ける側の税率が低ければグループ内でお金をどう位置づけるかを工夫するだけで、グローバルベースの実効税率を下げることができる。米国多国籍企業はこの手のプラニングは徹底的に実行している。日本企業も、米国企業ほど腐心する必要はないにしても、日本がテリトリアル課税となっている今日、グローバルレベルでの競争力を考えるともう少しこの点を考えてもいいはずだ。
米国税務における過少資本への対抗策は細かいものを含めるといくつかあるが、メジャーなものは「アーニングス・ストリッピング規定」と「過少資本税制(Debt/Equity Classification規定)」の二つとなる。
アーニングス・ストリッピング規定に関しては以前に何回か特集しているので(2007年11月30日「Earnings Stripping Ruleの今後」参照)詳細はここでは触れないが、キャッシュベースのEBITDAから機械的に利子の支払可能額を推定し、超過額は利子という性格を維持したまま、将来に繰り延べるという規定だ。日本でも同様の規定導入が予定されている。
一方の過少資本税制はその昔、財務省が規則暫定案を公開したが、散々酷評されたあげくに撤回されてしまったという曰く付きのもので、今でも明確な指針がなく、多くの(時として整合性のない)判例を分析して検討する納税者泣かせ(タックス専門家泣かせ?)の規定だ。他の国では機械的なSafe HarborのDebt/Equity Ratioがあったりするが米国には規定されていない。考えてみると、その方が自然で、過少資本税制は個々の事実関係により答えが大きく異なる分野の代表的なものだ。Debt/Equity Ratioも場合によっては100対1でも経済合理性があることもあれば、3対1でも怪しいこともあり、これを十把一絡げに扱うことはかなり恣意的な判断になる。最終的には第三者から同じ条件で借りることができたのか、という点が一番大きな検討事項で、この経済分析を文書化しておくこと以外に効果的な対応策はないだろう。その意味で移転価格門問題に類似しており、法的な分析というよりも経済的なアプローチで解決せざるを得ない問題だ。
そんな前提の中、今回のテリトリアル化提案には過少資本に対する具体的な対応策が規定されている。それによると過少資本税制は米国法人が他の国に関連会社を持っている際に適用とされる。これはもっともな話しで、どんなにDebt/Equity Raitoが高くても非関連者から借り入れているのであれば、信用力に準じた借り入れになることから過少資本税制取り締まりの対象とする必要はない。また、課税ベース侵食の手法としての借り入れは低税率国に設立されている関連者(Group Finance Company)からの借り入れを利用することから、米国外に関連者が存在する場合に問題となる。
提案では、グループのグローバルベースでのDebt/Equity Ratioを算定し、米国内グループの同Ratioがグローバルベースのものより高い場合に潜在的に過少資本税制の適用があるとされる。すなわち米国のLeverageがグループ平均より高いケースに問題があるというアプローチとなる。
次に課税所得に調整を加えた調整課税所得(おそらくアーニングス・ストリッピング税制のようにキャッシュベースのEBITDAのようなもの)の一定%を超える金額のネット支払利息(支払利息マイナス利子所得)を損金不算入とするものだ。面白いのはここで損金不算入とされた金額は、アーニングス・ストリッピング規定同様に利子として将来に繰り越すことができるとされる点だ。通常の過少資本税制は借入過多の部分は資本とみなすため、利子として引けない部分は配当に再区分されることから将来的に損金算入できる道は残されない。この点に関して今回の提案は異なり、実質セーフハーバーが1.5からグループ全世界Ratioにすり代わった新型アーニングス・ストリッピング規定の様相を呈している。
そもそも米国税法の抜本的改正案を論じる者の中には、借入と資本に対して税務上異なる取り扱いを規定していること自体が諸悪の根源であるとして、二つの取り扱いに整合性を持たせるべきという提案もある。整合性を持たせるということは支払利息を配当のように損金不算入とするか、または配当を利子同様に損金算入するか、のいずれかだろう。ベルギーのように「みなし利子控除」を認めるというのも一案だろう。
*外国子会社への所得移転
支払利息の損金算入と並んでフォーカスとなるのが価値のある無形資産を米国外に置いて米国の課税ベースをミニマイズさせるというものだ。この点に関係して提案では3つの代替案が規定されている。
まず第一の案は、オバマ政権が以前から提案しているものと同じで、米国から移転された無形資産を基に低税率国で多くの所得(Excess Profit)を得ている場合にはそれをSubpart F所得と認定して米国でも課税してしまおうというものだ。従来からの移転価格規定でも外国に無形資産を移転する際に受け取るべき対価は将来の収益性を反映させたものでなくてはならないといういわゆる「Commensurate with Income」規定があるが、それを更に過激にした感じの内容だ。
2つ目の代替案もかなり刺激的だ。この代替案の適用は無形資産からの所得に限定されておらず、他の所得も対象となる点で他の二つの案と異なる。すなわち、実効税率が10%以下のケースで、その所得がCFCの所在国を源泉としない場合、そのCFCの総所得(=Gross Receipt)をSubpart F所得として米国で課税するというものだ。
3つ目の代替案はパテントボックスに通じるものがある規定だが、全世界の無形資産からの所得を15%という恩典低税率で課税してしまおうというものだ。
テリトリアル化自体の実現がここ数年のスパンで考えるとどれ程現実的なものか分からないので、ここで触れた課税ベース侵食対策も今後どのように実現していくのかは未知だ。もしかすると、テリトリアル化は先送りされるにも係らず、課税ベース侵食対策のみ先行して法制化なんていうシナリオもあり得るかもしれない。実質、一旦逃げた所得が課税所得として米国に戻ってこない実態を考えると、テリトリアル化の有無とは関係なく、課税ベース侵食対策は必要というのが財務省の考え方であったとしても何の不思議もない。
Monday, March 5, 2012
ついに米国もテリトリアル課税に?(4)
前回のポスティングでは外国子会社からの配当非課税案の規則の詳細に触れた。ようやく米国もテリトリアル化か、とトンネルの先に光が見えてきたように思わせながらも、制度変更時点で強制的に外国に眠る剰余金をみなし配当扱いするという恐ろしい移行措置が規定されている点にも触れた。
余談だが、夜にラスベガスにフリーウェイ(FWY)で向かって、やっとベガスの光が見えるあの瞬間、まさしくトンネルの先にようやく光が見えたとう状況を具体的に体感できる。ロサンゼルスからFWY15で向かっていくとフラットな感じでベガスの光が見えてくるので角度的にいまいちだが、逆にZion方面というかユタ方面からFWY15を南下していき闇の中に突然浮かび上がるベガスの光の海は、上から見下ろす感じでかなりきれいだ。特に冬の空気が透明な夜は絶景だ。またFWYではないがルート160でDeath Valley方面からベガスに近づいてくる時に見えてくる夜景も、FWY15の南下よりチョッと落ちるが、それでもきれいだ。香港のVictoria Peak、59th St BridgeのQueens側から臨むマンハッタンEast Sideも、NJ側リンカーントンネルの裏から見るマンハッタンのWest Sideも夜景としてはきれいだが、ベガスのあののっぺりとした光が急に暗闇に浮かんでくる姿は「自然と人工」の対比という意味でもインパクトがある景色だ。
で、移行措置だが、W&M委員会によると他の方法も検討したが、消去法で今回の案が残ったということだ。例えば、そのまま移行措置を取らずに、改正前に溜まった外国子会社の所得は従来通り課税、改正後の所得には非課税措置というようなことも理論的には考えられるが、どの配当が改正前からのもので、どの部分が改正後とレコードキーピングが大変で実務的ではない。米国には日本のように過去の所得も全て非課税にするという発想はないようだ。その理由はおそらく、最初のポスティングでも触れた通り、米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となるからだろう。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。
一説によると今回の移行措置は議会で求められる今後10年間の財政均衡を念頭に計算されていることから、それ以降の影響(配当非課税で税収減)を加味するとそもそもRevenue Neutralではないという話しもある。
また、10/50法人の米国株主がE&Pの金額を正確に把握できるのかどうかという問題もあるし、場合によっては10/50法人の株主が株式を取得する前に累積したE&Pが課税所得になってしまう可能性もあり、みなし配当金額の定義に関してもう少し突っ込んで規定するように求める声もある。
また、移行措置はあくまでも「みなし配当」として外国の所得を課税するので、実際に資金が米国に還流する必要はない。この点に関してはどうせ課税するのであれば、実際に米国に資金が戻り、米国経済に投資が行なわれるような規定にして欲しいというコメントも出ているようだ。
次回はテリトリル化シリーズの最終回として、外国からの配当非課税とするに当り国外への所得流出に網を掛ける規定案が発表されているがその点に関して触れてみたい。
余談だが、夜にラスベガスにフリーウェイ(FWY)で向かって、やっとベガスの光が見えるあの瞬間、まさしくトンネルの先にようやく光が見えたとう状況を具体的に体感できる。ロサンゼルスからFWY15で向かっていくとフラットな感じでベガスの光が見えてくるので角度的にいまいちだが、逆にZion方面というかユタ方面からFWY15を南下していき闇の中に突然浮かび上がるベガスの光の海は、上から見下ろす感じでかなりきれいだ。特に冬の空気が透明な夜は絶景だ。またFWYではないがルート160でDeath Valley方面からベガスに近づいてくる時に見えてくる夜景も、FWY15の南下よりチョッと落ちるが、それでもきれいだ。香港のVictoria Peak、59th St BridgeのQueens側から臨むマンハッタンEast Sideも、NJ側リンカーントンネルの裏から見るマンハッタンのWest Sideも夜景としてはきれいだが、ベガスのあののっぺりとした光が急に暗闇に浮かんでくる姿は「自然と人工」の対比という意味でもインパクトがある景色だ。
で、移行措置だが、W&M委員会によると他の方法も検討したが、消去法で今回の案が残ったということだ。例えば、そのまま移行措置を取らずに、改正前に溜まった外国子会社の所得は従来通り課税、改正後の所得には非課税措置というようなことも理論的には考えられるが、どの配当が改正前からのもので、どの部分が改正後とレコードキーピングが大変で実務的ではない。米国には日本のように過去の所得も全て非課税にするという発想はないようだ。その理由はおそらく、最初のポスティングでも触れた通り、米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となるからだろう。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。
一説によると今回の移行措置は議会で求められる今後10年間の財政均衡を念頭に計算されていることから、それ以降の影響(配当非課税で税収減)を加味するとそもそもRevenue Neutralではないという話しもある。
また、10/50法人の米国株主がE&Pの金額を正確に把握できるのかどうかという問題もあるし、場合によっては10/50法人の株主が株式を取得する前に累積したE&Pが課税所得になってしまう可能性もあり、みなし配当金額の定義に関してもう少し突っ込んで規定するように求める声もある。
また、移行措置はあくまでも「みなし配当」として外国の所得を課税するので、実際に資金が米国に還流する必要はない。この点に関してはどうせ課税するのであれば、実際に米国に資金が戻り、米国経済に投資が行なわれるような規定にして欲しいというコメントも出ているようだ。
次回はテリトリル化シリーズの最終回として、外国からの配当非課税とするに当り国外への所得流出に網を掛ける規定案が発表されているがその点に関して触れてみたい。
Wednesday, February 29, 2012
ついに米国もテリトリアル課税に?(3)
前々回から米国国際課税システムの抜本的変更である「テリトリアル化」のWays and Means Committee(W&M委員会)法案に関して書いてきているが、今回はどのような条件で外国からの配当が非課税となるのか、という規定そのものを少し掘り下げてみたい。なお、ここで書いている改正案はあくまでも現時点では「案」に過ぎない点再度強調しておく。
*配当の95%非課税
特定の外国子会社から受け取る配当金は米国案でも日本同様に95%非課税となる。米国版のテリトリアル規定を策定するに当たり、米国財務省は各国の規定を分析しているだろうから、その意味でここの部分が日本と同じとなっているのは興味深い。
なぜ100%非課税にしないかというと、配当を支払う外国子会社の株式に投資しているということはその投資のためのコストが米国親会社側で発生しているだろう、という前提に基づく。すなわち、株式に投資しているコスト(主に金利)を損金不算入とはしない代わりに、その見合いで5%部分は課税扱いさせろ、という考え方となる。この点に関しては注意が必要で、実はオバマ政権は数年前から全く逆の方向を向いた改正案を提案し続けている。オバマ政権のここ何年かの提案は、外国子会社からの配当を非課税とするどころか、その逆で配当しないのであれば、外国子会社株式を保有しているために発生しているコストを否認しようとするというものだ。W&M委員会の外国配当非課税案が「ホトトギス鳴くまで待とう」的なアプローチなのに対し、オバマ政権の案は「殺してしまへホトトギス」のように感じられてしまう(?)。オバマ政権は国際税制に関しては短気な信長だ。
またオバマ政権は実は先週、W&M委員会とは別に、独自の抜本的税法改正案を公表している。その改正案には外国子会社からの配当非課税は規定されておらず(したがってテリトリアル化は想定されていない)、前提はそのまま全世界課税ベースのものだった。この点で今回のポスティングのテーマであるW&M委員会の税法改正案とは全く異なる方向である点面白い、というか国の方向としてチョッと支離滅裂な感じだ。こんな基本的な方向性一つも下院の重鎮W&M委員会とコンセンサスが取れていない点ひとつ取って見ても、米国税法の抜本的改正はまだまだ時間が掛かりそうなことが分かる。ちなみにオバマ政権による改正案はどちらかというと「コンセプト」的なものに留まっており、詳細は議会の決定に委ねるという方向であった。W&M委員会の出した改正案は法律の文言ドラフトまで入っている具体的な案であることから、この点でも対照的だ。
米国でこの手の抜本的税法改正が最後に実行されたのは1986年のレーガン政権によるものだが、その際も実際には1982年頃から改正の話が出てきて、その後4年程掛けてようやく法制化に漕ぎ着けたという経緯がある。つまり、大きな改正を達成するにはどうしても数年という長い歳月を要するものだ。しかも1986年と言うと、今の米国がおかれている状況とは大きく異なり、米国が世界唯一の経済派遣大国として君臨していた時代だ。一方、今日の税法改正は巨額の財政赤字を減らすという大条件がある中での策定となるため、場合によっては1986年よりも時間が掛かってもおかしくない。
また、2012年は米国大統領選挙の年となるため、2013年に新政権(または新内閣)が誕生するとする。となると、実務的に改正に着手できるは早くても2013年後半、したがってこの意味でもテリトリアル化を含む改正が法制化されるとしても2014年以降にとなるだろう。米国の下に付いている外国子会社を日本の下とかにつけ直すべきかどうかを検討している日本企業としては早くテリトリアル化に決着を付けて欲しいものだが、そうは簡単にいかないようだ。
*対象はCFCまたは10/50法人からの配当
非課税措置は、基本的にCFC(Controlled Foreign Corporation)と呼ばれる特定外国法人が対象となる。また、米国株主の選択により10/50外国法人と呼ばれる特別な法人から受け取る配当も対象とすることができる。
CFCとは米国株主が議決権または株式総価値の50%以上を持っている外国法人を意味する。ただし、ここで言う米国株主とは「全ての米国人(または米国法人)の株主=米国株主」と数える訳ではなく、外国法人の議決権の10%以上を直接、間接的に所有している者のみを指す。現状の法律下でも投資先の外国法人がCFCとなるかどうかは重要な検討事項である。外国法人がCFCとなると、そこで認識される一定の所得(Subpart F所得)が配当されないでも米国株主側で課税されたり、CFCの株式を売却してゲインが出るとCFCの米国税務上の剰余金(E&P)の範囲でみなし配当となったり(間接税額控除が取れるので悪い話でないことが多い)、CFCを非課税清算とか非課税再編してCFCでなくしたりするとE&Pを配当所得として認識させられたり、と様々な課税関係が発生する。
今回の改正案では10%以上の議決権を持つ法人米国株主がCFCから受け取る配当は95%を非課税処理することができる。ただし、例によってこの手の規定に付きものと言える最低保有期間が規定されており、配当日の前後それぞれ1年、つまり合計で2年の間に1年以上外国法人がCFCであり(10/50法人の場合には1年以上10/50法人であり)、また米国株主は1年以上米国株主でなくてはならない。過去ばかりでなく、配当後の1年を見ることができるのが面白い。実務的には配当時点での課税・非課税判断が困難な局面があるような気がしてしまうが。
上でチラッと触れたが、従来から米国株主がCFCの株式を売却して得るゲインはCFCのE&Pの範囲でみなし配当となるが、改正案では、株式売却ゲインに関しても他の適格条件を満たしていれば非課税措置の対象となるとしている。改正案を読む限りE&Pの金額に係らずゲインは非課税措置の対象となるようだ。ここは日本の規定と異なり、米国のシステムがより総合的な「Participation Exemption」の形を目指していることが分かる。
加えて外国法人がCFCではないがいわゆる10/50法人の場合も、米国株主はそこから受け取る配当を非課税という選択を行なうことができる。10/50法人とは議決権または株式総価値の50%以上を米国株主が保有していないためCFCにはならないが、少なくとも1人議決権の10%以上を所有する米国株主が存在する法人を意味する。法人米国株主が上述の保有期間条件を満たす場合に非課税措置を選択することができる。ただし、この選択は注意が必要で、技術的にはこの選択の意味は10/50法人をCFCと取り扱いますということなので、他のCFCに対する規定の全てが10/50法人に適用されることとなる。
10/50法人というコンセプトは現行法下では間接税額控除を取ることができる最低持分が10%であることから重要となるが、そのコンセプトを流用して配当非課税措置の適用選択を認めるというものだ。なお、当然と言えば当然だが、95%非課税の対象となる配当に関して税額控除を取ることはできない。
10/50法人からの配当に関して非課税措置適用の選択をしない場合、すなわち10/50法人をCFC扱いしない場合、従来であれば認められた間接税額控除の計上が認められなくなるとされている。
*恐怖の移行措置
米国のテリトリアル化はタダでは実現しない点は前回のポスティングで簡単に触れた。それがこの「移行措置」だ。法案によるとテリトリアル化が適用される課税年度の期首時点で(正確にはテリトリアル化が適用される課税年度の前年の期末時点で)、それまでに累積されているCFCおよび10/50法人の所得全額(累計E&Pで以前にSubpart Fとして課税済みの金額は除く)の15%に当たる金額をみなし配当所得として米国株主に(各自の持分に準じて)課税するとしている。技術的には15%相当額をSubpart F所得として留保金課税するというものだ。その年に実際に他のSubpart F所得が存在する場合には、15%相当額に本当のSubpart F所得を足してトータルの課税所得を計算するものと思われる。
テリトリアル化の前の状態でみなし配当課税されるということは配当に対する税率は35%となることから実効税率的にはこれは5.25%の配当課税となる。ここで興味深いのは10/50法人の累計E&Pは、10/50法人からの配当を米国株主が非課税とする選択をするかしないかに係らず、この移行措置の対象となる点だ。
なお、このみなし配当はテリトリアル化の前の状態での税法が適用されるので間接税額控除の計上が認められる。ただ以前から何回も触れている通り、米国多国籍企業が海外に貯めている埋蔵金はいわゆる「Low Tax Pool」のものが多い、「High Tax Pool」であればすでに配当して税額控除も取ってしまっているかもしれないし、もともと税率がゼロに近いような国にたくさんお金を貯めてきたのだから税額控除は焼け石に水のようなものとなるケースも多いだろう。
実際に配当を受けていないのに巨額の税負担が発生する可能性を考えてか、移行措置に基づく課税は最長で8年に亘って税金を分割払いすることができる。分割払いを選択する場合にはもちろんだが金利が課せられる。また、8年経つ前に法人清算とかになる場合にはその時点で残高全額の支払いが必要となる。
このように制度移管時点で(正確には1年前に)過去の累積所得に5.25%のトールチャージを支払うこととなるが、その後、実際に米国に配当を行うとどうなるか?一回課税されているので全額非課税となってもおかしくなさそうだが、実際にはそうではなく、通常の配当同様95%のみ非課税となる。ということはもともと5.25%課税済みであることを考えると、さらに5%部分が25%で課税され(改正案がW&M案のまま可決していると仮定して)追加で実質1.25%の課税となる。結果としてトータルでは6.5%の税負担となる。これはいわゆる「PTI(Previously Taxed Income)」規定が撤廃されるため、過去に15%の部分に関して課税されているという点を考慮せずに一律95%非課税規定が適用されるためだ。
と大分長くなったが、次回はこの移行措置が抱える大きな問題点、その他の細かい規定に触れる。また、外国からの配当が非課税となると、一旦国外に逃げた所得は二度と米国で課税できない。これはIRS的に考えると「今後はますます海外への所得移転は許されない」ということになる。この点に関しても追加措置が規定されており、こちらも次回以降とする。
*配当の95%非課税
特定の外国子会社から受け取る配当金は米国案でも日本同様に95%非課税となる。米国版のテリトリアル規定を策定するに当たり、米国財務省は各国の規定を分析しているだろうから、その意味でここの部分が日本と同じとなっているのは興味深い。
なぜ100%非課税にしないかというと、配当を支払う外国子会社の株式に投資しているということはその投資のためのコストが米国親会社側で発生しているだろう、という前提に基づく。すなわち、株式に投資しているコスト(主に金利)を損金不算入とはしない代わりに、その見合いで5%部分は課税扱いさせろ、という考え方となる。この点に関しては注意が必要で、実はオバマ政権は数年前から全く逆の方向を向いた改正案を提案し続けている。オバマ政権のここ何年かの提案は、外国子会社からの配当を非課税とするどころか、その逆で配当しないのであれば、外国子会社株式を保有しているために発生しているコストを否認しようとするというものだ。W&M委員会の外国配当非課税案が「ホトトギス鳴くまで待とう」的なアプローチなのに対し、オバマ政権の案は「殺してしまへホトトギス」のように感じられてしまう(?)。オバマ政権は国際税制に関しては短気な信長だ。
またオバマ政権は実は先週、W&M委員会とは別に、独自の抜本的税法改正案を公表している。その改正案には外国子会社からの配当非課税は規定されておらず(したがってテリトリアル化は想定されていない)、前提はそのまま全世界課税ベースのものだった。この点で今回のポスティングのテーマであるW&M委員会の税法改正案とは全く異なる方向である点面白い、というか国の方向としてチョッと支離滅裂な感じだ。こんな基本的な方向性一つも下院の重鎮W&M委員会とコンセンサスが取れていない点ひとつ取って見ても、米国税法の抜本的改正はまだまだ時間が掛かりそうなことが分かる。ちなみにオバマ政権による改正案はどちらかというと「コンセプト」的なものに留まっており、詳細は議会の決定に委ねるという方向であった。W&M委員会の出した改正案は法律の文言ドラフトまで入っている具体的な案であることから、この点でも対照的だ。
米国でこの手の抜本的税法改正が最後に実行されたのは1986年のレーガン政権によるものだが、その際も実際には1982年頃から改正の話が出てきて、その後4年程掛けてようやく法制化に漕ぎ着けたという経緯がある。つまり、大きな改正を達成するにはどうしても数年という長い歳月を要するものだ。しかも1986年と言うと、今の米国がおかれている状況とは大きく異なり、米国が世界唯一の経済派遣大国として君臨していた時代だ。一方、今日の税法改正は巨額の財政赤字を減らすという大条件がある中での策定となるため、場合によっては1986年よりも時間が掛かってもおかしくない。
また、2012年は米国大統領選挙の年となるため、2013年に新政権(または新内閣)が誕生するとする。となると、実務的に改正に着手できるは早くても2013年後半、したがってこの意味でもテリトリアル化を含む改正が法制化されるとしても2014年以降にとなるだろう。米国の下に付いている外国子会社を日本の下とかにつけ直すべきかどうかを検討している日本企業としては早くテリトリアル化に決着を付けて欲しいものだが、そうは簡単にいかないようだ。
*対象はCFCまたは10/50法人からの配当
非課税措置は、基本的にCFC(Controlled Foreign Corporation)と呼ばれる特定外国法人が対象となる。また、米国株主の選択により10/50外国法人と呼ばれる特別な法人から受け取る配当も対象とすることができる。
CFCとは米国株主が議決権または株式総価値の50%以上を持っている外国法人を意味する。ただし、ここで言う米国株主とは「全ての米国人(または米国法人)の株主=米国株主」と数える訳ではなく、外国法人の議決権の10%以上を直接、間接的に所有している者のみを指す。現状の法律下でも投資先の外国法人がCFCとなるかどうかは重要な検討事項である。外国法人がCFCとなると、そこで認識される一定の所得(Subpart F所得)が配当されないでも米国株主側で課税されたり、CFCの株式を売却してゲインが出るとCFCの米国税務上の剰余金(E&P)の範囲でみなし配当となったり(間接税額控除が取れるので悪い話でないことが多い)、CFCを非課税清算とか非課税再編してCFCでなくしたりするとE&Pを配当所得として認識させられたり、と様々な課税関係が発生する。
今回の改正案では10%以上の議決権を持つ法人米国株主がCFCから受け取る配当は95%を非課税処理することができる。ただし、例によってこの手の規定に付きものと言える最低保有期間が規定されており、配当日の前後それぞれ1年、つまり合計で2年の間に1年以上外国法人がCFCであり(10/50法人の場合には1年以上10/50法人であり)、また米国株主は1年以上米国株主でなくてはならない。過去ばかりでなく、配当後の1年を見ることができるのが面白い。実務的には配当時点での課税・非課税判断が困難な局面があるような気がしてしまうが。
上でチラッと触れたが、従来から米国株主がCFCの株式を売却して得るゲインはCFCのE&Pの範囲でみなし配当となるが、改正案では、株式売却ゲインに関しても他の適格条件を満たしていれば非課税措置の対象となるとしている。改正案を読む限りE&Pの金額に係らずゲインは非課税措置の対象となるようだ。ここは日本の規定と異なり、米国のシステムがより総合的な「Participation Exemption」の形を目指していることが分かる。
加えて外国法人がCFCではないがいわゆる10/50法人の場合も、米国株主はそこから受け取る配当を非課税という選択を行なうことができる。10/50法人とは議決権または株式総価値の50%以上を米国株主が保有していないためCFCにはならないが、少なくとも1人議決権の10%以上を所有する米国株主が存在する法人を意味する。法人米国株主が上述の保有期間条件を満たす場合に非課税措置を選択することができる。ただし、この選択は注意が必要で、技術的にはこの選択の意味は10/50法人をCFCと取り扱いますということなので、他のCFCに対する規定の全てが10/50法人に適用されることとなる。
10/50法人というコンセプトは現行法下では間接税額控除を取ることができる最低持分が10%であることから重要となるが、そのコンセプトを流用して配当非課税措置の適用選択を認めるというものだ。なお、当然と言えば当然だが、95%非課税の対象となる配当に関して税額控除を取ることはできない。
10/50法人からの配当に関して非課税措置適用の選択をしない場合、すなわち10/50法人をCFC扱いしない場合、従来であれば認められた間接税額控除の計上が認められなくなるとされている。
*恐怖の移行措置
米国のテリトリアル化はタダでは実現しない点は前回のポスティングで簡単に触れた。それがこの「移行措置」だ。法案によるとテリトリアル化が適用される課税年度の期首時点で(正確にはテリトリアル化が適用される課税年度の前年の期末時点で)、それまでに累積されているCFCおよび10/50法人の所得全額(累計E&Pで以前にSubpart Fとして課税済みの金額は除く)の15%に当たる金額をみなし配当所得として米国株主に(各自の持分に準じて)課税するとしている。技術的には15%相当額をSubpart F所得として留保金課税するというものだ。その年に実際に他のSubpart F所得が存在する場合には、15%相当額に本当のSubpart F所得を足してトータルの課税所得を計算するものと思われる。
テリトリアル化の前の状態でみなし配当課税されるということは配当に対する税率は35%となることから実効税率的にはこれは5.25%の配当課税となる。ここで興味深いのは10/50法人の累計E&Pは、10/50法人からの配当を米国株主が非課税とする選択をするかしないかに係らず、この移行措置の対象となる点だ。
なお、このみなし配当はテリトリアル化の前の状態での税法が適用されるので間接税額控除の計上が認められる。ただ以前から何回も触れている通り、米国多国籍企業が海外に貯めている埋蔵金はいわゆる「Low Tax Pool」のものが多い、「High Tax Pool」であればすでに配当して税額控除も取ってしまっているかもしれないし、もともと税率がゼロに近いような国にたくさんお金を貯めてきたのだから税額控除は焼け石に水のようなものとなるケースも多いだろう。
実際に配当を受けていないのに巨額の税負担が発生する可能性を考えてか、移行措置に基づく課税は最長で8年に亘って税金を分割払いすることができる。分割払いを選択する場合にはもちろんだが金利が課せられる。また、8年経つ前に法人清算とかになる場合にはその時点で残高全額の支払いが必要となる。
このように制度移管時点で(正確には1年前に)過去の累積所得に5.25%のトールチャージを支払うこととなるが、その後、実際に米国に配当を行うとどうなるか?一回課税されているので全額非課税となってもおかしくなさそうだが、実際にはそうではなく、通常の配当同様95%のみ非課税となる。ということはもともと5.25%課税済みであることを考えると、さらに5%部分が25%で課税され(改正案がW&M案のまま可決していると仮定して)追加で実質1.25%の課税となる。結果としてトータルでは6.5%の税負担となる。これはいわゆる「PTI(Previously Taxed Income)」規定が撤廃されるため、過去に15%の部分に関して課税されているという点を考慮せずに一律95%非課税規定が適用されるためだ。
と大分長くなったが、次回はこの移行措置が抱える大きな問題点、その他の細かい規定に触れる。また、外国からの配当が非課税となると、一旦国外に逃げた所得は二度と米国で課税できない。これはIRS的に考えると「今後はますます海外への所得移転は許されない」ということになる。この点に関しても追加措置が規定されており、こちらも次回以降とする。
Friday, January 20, 2012
ついに米国もテリトリアル課税に?(2)
前回のポスティングでは2011年後半の大きなニュースとして米国版テリトリアル課税の法案に関して触れ始めた。テリトリアル課税の基本的な考え方、世界のトレンド等の背景を中心にカバーしたが、今回は規定の内容そのものに移りたい。
*法人税率は25%に
今回の米国テリトリアル課税法案は単に米国の国際課税システムを根本的に変えてしまうばかりでなく、複雑かつ高税率で評判の悪い米国法人税システムの抜本的な改正を目指している。その目玉となるのが法人税率の35%から25%への低減だ。ご存知の通り、米国の35%という税率は世界でも突出して高い。日本の更に高い税率がなければ世界一だ。多くの国の法人税率を見渡してみると平均は25%くらいというのがザックリとしたイメージだろう。
にも係らず米国企業の実効税率が低く、20%前半が珍しくない点は過去のポスティングで散々触れている。でもこの実効税率はグローバルの連結ベースなので米国での税コストだけではない。実際に米国企業の実効税率が低い理由の多くは低税率国のかなりソフィスティケートされた利用にある。
米国内の所得だけを対象に実効税率を見るとおそらくもう少し高いはずだ。というのも、会計上の実効税率は税効果会計に基づく繰延税金を加味することから、タイミング差異でIRSに支払う税額を圧縮していても実効税率は下がらない。したがって永久差異が必要となるが、連邦の法人税を下げることができる永久差異はR&Dクレジットとか、製造者控除とかかなり限定的だ。それでもそれらを駆使して、実際に35%の税率でIRSに納税している米国企業は少ない。実際には米国だけをみても27~28%くらいになっているのではないか、と推測される。35%なんかで法人税を支払った日にはタックス・ディレクターの首が飛ぶという嘘のような本当のような話がある。
したがって、35%の税率を下げても、クレジット等の恩典を撤廃すれば、長期的には法人税収の減額は思ったより少ないものと予想される。むしろ、R&Dクレジットとかに関して詳細な文書化を用意して税務調査で戦うような作業が必要なくなる分、税法は簡素化され企業の生産性は上がるだろう。
それでも35%から一気に10%下げるというのはなかなか大胆な減税のような気がする。実際には35%支払っている企業は少ないので、正味では5%位の減税というのが実態かもしれない。さらにもう一つこんな減税が可能な背景には、そもそも法人税を支払っている事業主体が少なく、法人税自体の歳入における重要性が低いという事実もあるだろう。米国内で事業を展開する際には株主レベルで配当が課されるという二重課税を嫌って、また事業体の損失をオーナー側で取り込むことを狙って、パススルーという形態が選択されることが多い。パススルー主体は法人税の対象ではないので、結果として多くの事業所得が個人所得税の対象に生まれ変わっていることになる。
ただし、この点に関しては実は一律にパススルーが有利という訳でもなく、現に今でも株式会社(C Corporation)という形で事業を営んでいる個人経営者がゼロという訳ではない。実は思ったよりも多いようで、その理由は法人税の15%の低税率区分が充実していること、配当まで個人レベルで課税されないこと(内部留保に事業目的が認められる場合)、配当が課税されるとは言え15%と優遇税率になっていること、またMedical Reimbursement Planを利用できるなど従業員ベネフィットに対する優遇税制が充実してること、などだろう。もし法人税を支払っていても15%の区分に収まるようなケースで株式会社形態を敢えて選択しているようなパターンが多いとすると、最高税率が35%だろうが25%だろうが全然関係ないことになる。
また、多くの米国多国籍企業にとって米国の法人税率が高いことは、低税率国に貯めた巨額のキャッシュを米国に持ち返ることができないという意味で一番頭が痛い。ということはテリトリアル課税下で外国子会社からの配当がそもそも非課税となるのであれば、大袈裟に言えば法人税率などどうでもいいかもしれない。どうせアーニングス・ストリッピングを駆使して米国の課税ベースなど浸食されまくっているということを考えると尚更だ。
余談となるが、税率が下がると繰延税金資産も目減りすることになる。例えば連邦法人税に関して$35Mの繰延税金資産を持っていたとすると、税率が25%になると当然資産は$25Mとなり、減税が可決した課税年度に$10Mの追加税コストが会計上発生する。繰延税金資産は早く使ってしまう作戦を考えるのが得策だ。また本末転倒っぽい話ではあるがこれが理由で減税に反対している輩もいるとのこと。世の中みんなをハッピーにすることは不可能のようだ。
*テリトリアル課税
そしていよいよテリトリアル課税の規定だが、基本的なところは日本同様に特定の外国子会社から受け取る配当の95%を非課税にしようというものだ。どのような条件を満たすと95%非課税となるか、に関しては次回のポスティングで触れる。
*法人税率は25%に
今回の米国テリトリアル課税法案は単に米国の国際課税システムを根本的に変えてしまうばかりでなく、複雑かつ高税率で評判の悪い米国法人税システムの抜本的な改正を目指している。その目玉となるのが法人税率の35%から25%への低減だ。ご存知の通り、米国の35%という税率は世界でも突出して高い。日本の更に高い税率がなければ世界一だ。多くの国の法人税率を見渡してみると平均は25%くらいというのがザックリとしたイメージだろう。
にも係らず米国企業の実効税率が低く、20%前半が珍しくない点は過去のポスティングで散々触れている。でもこの実効税率はグローバルの連結ベースなので米国での税コストだけではない。実際に米国企業の実効税率が低い理由の多くは低税率国のかなりソフィスティケートされた利用にある。
米国内の所得だけを対象に実効税率を見るとおそらくもう少し高いはずだ。というのも、会計上の実効税率は税効果会計に基づく繰延税金を加味することから、タイミング差異でIRSに支払う税額を圧縮していても実効税率は下がらない。したがって永久差異が必要となるが、連邦の法人税を下げることができる永久差異はR&Dクレジットとか、製造者控除とかかなり限定的だ。それでもそれらを駆使して、実際に35%の税率でIRSに納税している米国企業は少ない。実際には米国だけをみても27~28%くらいになっているのではないか、と推測される。35%なんかで法人税を支払った日にはタックス・ディレクターの首が飛ぶという嘘のような本当のような話がある。
したがって、35%の税率を下げても、クレジット等の恩典を撤廃すれば、長期的には法人税収の減額は思ったより少ないものと予想される。むしろ、R&Dクレジットとかに関して詳細な文書化を用意して税務調査で戦うような作業が必要なくなる分、税法は簡素化され企業の生産性は上がるだろう。
それでも35%から一気に10%下げるというのはなかなか大胆な減税のような気がする。実際には35%支払っている企業は少ないので、正味では5%位の減税というのが実態かもしれない。さらにもう一つこんな減税が可能な背景には、そもそも法人税を支払っている事業主体が少なく、法人税自体の歳入における重要性が低いという事実もあるだろう。米国内で事業を展開する際には株主レベルで配当が課されるという二重課税を嫌って、また事業体の損失をオーナー側で取り込むことを狙って、パススルーという形態が選択されることが多い。パススルー主体は法人税の対象ではないので、結果として多くの事業所得が個人所得税の対象に生まれ変わっていることになる。
ただし、この点に関しては実は一律にパススルーが有利という訳でもなく、現に今でも株式会社(C Corporation)という形で事業を営んでいる個人経営者がゼロという訳ではない。実は思ったよりも多いようで、その理由は法人税の15%の低税率区分が充実していること、配当まで個人レベルで課税されないこと(内部留保に事業目的が認められる場合)、配当が課税されるとは言え15%と優遇税率になっていること、またMedical Reimbursement Planを利用できるなど従業員ベネフィットに対する優遇税制が充実してること、などだろう。もし法人税を支払っていても15%の区分に収まるようなケースで株式会社形態を敢えて選択しているようなパターンが多いとすると、最高税率が35%だろうが25%だろうが全然関係ないことになる。
また、多くの米国多国籍企業にとって米国の法人税率が高いことは、低税率国に貯めた巨額のキャッシュを米国に持ち返ることができないという意味で一番頭が痛い。ということはテリトリアル課税下で外国子会社からの配当がそもそも非課税となるのであれば、大袈裟に言えば法人税率などどうでもいいかもしれない。どうせアーニングス・ストリッピングを駆使して米国の課税ベースなど浸食されまくっているということを考えると尚更だ。
余談となるが、税率が下がると繰延税金資産も目減りすることになる。例えば連邦法人税に関して$35Mの繰延税金資産を持っていたとすると、税率が25%になると当然資産は$25Mとなり、減税が可決した課税年度に$10Mの追加税コストが会計上発生する。繰延税金資産は早く使ってしまう作戦を考えるのが得策だ。また本末転倒っぽい話ではあるがこれが理由で減税に反対している輩もいるとのこと。世の中みんなをハッピーにすることは不可能のようだ。
*テリトリアル課税
そしていよいよテリトリアル課税の規定だが、基本的なところは日本同様に特定の外国子会社から受け取る配当の95%を非課税にしようというものだ。どのような条件を満たすと95%非課税となるか、に関しては次回のポスティングで触れる。
Friday, January 13, 2012
ついに米国もテリトリアル課税に? (1)
明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。
という訳で2011年は超多忙の中アッという間に終わってしまった。米国税務の話しに限れば数々の新しい税法が発表され、そういう意味では面白い年ではあったが、一方で日本では震災があったり、神殿で聖なるイメージのギリシャ経済が崩壊してユーロが危機に陥ったりといろいろと考えさせられることも多かった。ドイツの信用力でお金を借りて返せなくなってしまったギリシャとか、準備通貨(Reserve Currency)を印刷できるのをいいことに相変わらず身の丈に合わないライフスタイルを続ける米国とか、せっかく毎年Million Miles乗ってあげているのに破産法の下に入ってしまったアメリカン航空の今後とか、30日以上晴天続きで雪が少ないマンモススキー上のリフト券がRFIDになってクレジットカードのようだったとか、タックス以外のことで書きたいことも沢山あるがきりがないので今年も大人しく(?)米国タックスの話しをしていくことにする。
2011年後半で一番興味深かった出来事と言えばついに米国が「テリトリアル化」に一歩近づいたことだろう。テリトリアル課税という用語は、全世界課税の反対語として使われるもので、海外の子会社等からの配当を非課税とする制度を意味する。米国は中国と並び未だに世界でも残り少ない全世界課税システムを維持している国だ。ここで言う全世界課税とは、外国子会社からの配当を受け手で課税する(または一定の所得は配当を待たずにみなし配当課税する)という意味で、日本が2009年3月まで使っていた制度だ。ここ何年かの間に日本、イギリス等が相次いでテリトリアル化したことからも分かる通り、世界の潮流はテリトリアルだ。
しかし、そこはUnited States of America。9,000とも言われる核弾頭(未使用のまま廃棄準備に入っているものを含む)を自らは保有しながら他国が1つでも同じものを持とうとすると徹底的に制裁を加えるという独自の正義感からか、頑なに全世界課税を守ってきた。とは言え、押し寄せる時代の波には勝てず、どうせ米国もいずれかはテリトリアルになるに決まってるじゃん、と思われていたが、そのタイミング、実行法に関しては憶測の域を出なかった。
そこに昨年の10月26日突然Ways and Means Committeeという米国税法の世界では超権威のある下院歳入委員会が米国版テリトリアル課税の大枠をドラフトとして公表したことで「ついに・・・」と米国テリトリアル化が一気に現実味を帯びてきたのだ。しかも、このドラフト、税法の文言そのものまで盛り込んであるという気合の入っているものだ。
以前のポスティングでも散々触れている通り、米国多国籍企業は米国外に巨額の埋蔵金を溜め込んでいる。そのお金をタダで(=米国の法人税を払わずにという意味)米国に持って返りたくてしょうがない米国企業は「2004年にやったみたいにもう一度だけ外国子会社の配当を非課税とする特殊時限立法を可決して欲しい」とキャンディーをねだる子供のようにロビー活動を繰り返してきた。議会は2004年の経験(濫用されまくった)で懲り懲りなので金輪際そんなことはしない、と突っぱねてきたが、ここに来て突然、一度だけではなく、未来永劫これからは外国子会社からの配当は非課税にしてあげましょう、と夢のような提案がされた。
さぞかし米国企業は大喜びだろうと思われるかもしれないが、実は米国版テリトリアル課税にはいろいろな「おまけ」がついていて、これがなかなかの曲者揃いだ。後で詳しく触れるが、おまけ規定の中で最も迫力があるのはテリトリアル課税となる際の「移行措置」だ。日本が2009年4月にテリトリアル化した際には、適用は基本的にきれいな「カットオフ」だった。すなわち、規定が適用された翌日に海外子会社から配当を受け取ったとすると基本的に非課税となる一方で、規定が施行される前日に配当を受け取ったとすると当然全額課税となることから、テリトリアル課税の施行前後で取り扱いが全く異なった。
一方で米国バージョンはどうかと言うと、ナンと制度移行の際に、外国子会社の所得「全額」を「みなし配当」があったとして課税するという措置が規定されていたのだ。みなし配当なので実際に配当するかどうかは関係ない。みなし配当に適用される税率は特別に低いレートが規定されているが、今まで配当しなければ米国では課税されないよね、ってことで米国外に大事に貯めてきた埋蔵金が一気に課税所得になってしまうということだ。凄まじい規定だと言える。ただ、それもそのはずで米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となる。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。税金を受け取るIRS側で税収が減らないということは、イコールそれを支払う納税者側ではトータルでの税負担は変わらないということだ。となると全体の税負担的には「ゼロサムゲーム」となることから納税者の中には勝者と敗者が出てくることとなる。
次回からのポスティングではこの米国テリトリアル課税案の全容を紐解いて行きたい。
という訳で2011年は超多忙の中アッという間に終わってしまった。米国税務の話しに限れば数々の新しい税法が発表され、そういう意味では面白い年ではあったが、一方で日本では震災があったり、神殿で聖なるイメージのギリシャ経済が崩壊してユーロが危機に陥ったりといろいろと考えさせられることも多かった。ドイツの信用力でお金を借りて返せなくなってしまったギリシャとか、準備通貨(Reserve Currency)を印刷できるのをいいことに相変わらず身の丈に合わないライフスタイルを続ける米国とか、せっかく毎年Million Miles乗ってあげているのに破産法の下に入ってしまったアメリカン航空の今後とか、30日以上晴天続きで雪が少ないマンモススキー上のリフト券がRFIDになってクレジットカードのようだったとか、タックス以外のことで書きたいことも沢山あるがきりがないので今年も大人しく(?)米国タックスの話しをしていくことにする。
2011年後半で一番興味深かった出来事と言えばついに米国が「テリトリアル化」に一歩近づいたことだろう。テリトリアル課税という用語は、全世界課税の反対語として使われるもので、海外の子会社等からの配当を非課税とする制度を意味する。米国は中国と並び未だに世界でも残り少ない全世界課税システムを維持している国だ。ここで言う全世界課税とは、外国子会社からの配当を受け手で課税する(または一定の所得は配当を待たずにみなし配当課税する)という意味で、日本が2009年3月まで使っていた制度だ。ここ何年かの間に日本、イギリス等が相次いでテリトリアル化したことからも分かる通り、世界の潮流はテリトリアルだ。
しかし、そこはUnited States of America。9,000とも言われる核弾頭(未使用のまま廃棄準備に入っているものを含む)を自らは保有しながら他国が1つでも同じものを持とうとすると徹底的に制裁を加えるという独自の正義感からか、頑なに全世界課税を守ってきた。とは言え、押し寄せる時代の波には勝てず、どうせ米国もいずれかはテリトリアルになるに決まってるじゃん、と思われていたが、そのタイミング、実行法に関しては憶測の域を出なかった。
そこに昨年の10月26日突然Ways and Means Committeeという米国税法の世界では超権威のある下院歳入委員会が米国版テリトリアル課税の大枠をドラフトとして公表したことで「ついに・・・」と米国テリトリアル化が一気に現実味を帯びてきたのだ。しかも、このドラフト、税法の文言そのものまで盛り込んであるという気合の入っているものだ。
以前のポスティングでも散々触れている通り、米国多国籍企業は米国外に巨額の埋蔵金を溜め込んでいる。そのお金をタダで(=米国の法人税を払わずにという意味)米国に持って返りたくてしょうがない米国企業は「2004年にやったみたいにもう一度だけ外国子会社の配当を非課税とする特殊時限立法を可決して欲しい」とキャンディーをねだる子供のようにロビー活動を繰り返してきた。議会は2004年の経験(濫用されまくった)で懲り懲りなので金輪際そんなことはしない、と突っぱねてきたが、ここに来て突然、一度だけではなく、未来永劫これからは外国子会社からの配当は非課税にしてあげましょう、と夢のような提案がされた。
さぞかし米国企業は大喜びだろうと思われるかもしれないが、実は米国版テリトリアル課税にはいろいろな「おまけ」がついていて、これがなかなかの曲者揃いだ。後で詳しく触れるが、おまけ規定の中で最も迫力があるのはテリトリアル課税となる際の「移行措置」だ。日本が2009年4月にテリトリアル化した際には、適用は基本的にきれいな「カットオフ」だった。すなわち、規定が適用された翌日に海外子会社から配当を受け取ったとすると基本的に非課税となる一方で、規定が施行される前日に配当を受け取ったとすると当然全額課税となることから、テリトリアル課税の施行前後で取り扱いが全く異なった。
一方で米国バージョンはどうかと言うと、ナンと制度移行の際に、外国子会社の所得「全額」を「みなし配当」があったとして課税するという措置が規定されていたのだ。みなし配当なので実際に配当するかどうかは関係ない。みなし配当に適用される税率は特別に低いレートが規定されているが、今まで配当しなければ米国では課税されないよね、ってことで米国外に大事に貯めてきた埋蔵金が一気に課税所得になってしまうということだ。凄まじい規定だと言える。ただ、それもそのはずで米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となる。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。税金を受け取るIRS側で税収が減らないということは、イコールそれを支払う納税者側ではトータルでの税負担は変わらないということだ。となると全体の税負担的には「ゼロサムゲーム」となることから納税者の中には勝者と敗者が出てくることとなる。
次回からのポスティングではこの米国テリトリアル課税案の全容を紐解いて行きたい。
Sunday, October 23, 2011
ミリオネアー課税「バフェット・タックス」(2)
前回のポスティングではミリオネアー課税であるバフェット・タックスの背景を紹介したが、今回はバフェット・タックスそのものに触れる。
*バフェット・タックス
ミリオネアーが一般家庭より低い税率で課税されているのはおかしいので富裕層の課税を強化しようというアイディアは説得力もあり違和感はない。オバマ政権も財政赤字対策の一環でバフェット・タックスを法律化するよう議会に提案している。しかし、実際にどのように実行するのかという点は未だ明確ではない。財務省も「いろんな考えがある」という程度の方向性しか表明していない。
一番分かり易く行くのであれば、キャピタルゲイン、配当に対する優遇税率を撤廃してしまうのがいいだろう。これで全て解決しそうなものだが、そうすると潜在的に億万長者ではないけど、投資所得で暮らしている善良な市民にも影響がある。
となるとバフェット・タックスの具体的な実現法は思ったよりも込み入った形態となるかもしれない。例えば、一定の額を超える所得を配当、キャピタルゲインで受け取っている場合にはAMT(代替ミニマム税)の算定を通じて、高い税金を支払わせるという案がある。AMTはAlternative Minimum Taxの略だが(銀行のキャッシュ・ディスペンサーではない)、これを更に複雑化することになるので既に一部メディアでは「Alternative AMT」というおかしな命名をしている。Alternative AMTなんてものが導入されようものなら今でも複雑怪奇な1040がますますハイパワーコンピューターなしでは対応できなくなりそう。
また、キャピタルゲイン税は一応そのままにしておきながら、金額が大きくなるとSurtaxを加えるという案も出ている。実際にこの手の法案が上院に提出され始めているようだ。評判が悪い他の増税案の代わりという位置づけで登場している。
さらに、税率を変えるのではなく、所得が大きくなると個別控除(Itemized Deduction)をPhaseout(徐々に減額)させるという案もあり得る。Phaseoutは現状でも存在するが、これをもっと派手にすることで増税効果を出そうというものだ。高所得者には通常、より大きな個別控除があるため、思ったよりも効くかもしれない。
*今の累進税率は手緩い?
現在の税法では個人の最高連邦税率は35%で、ブッシュ減税が撤廃されたとしても(正確には延長されずに自動消滅させられたとしても)39.5%で止まっている。
米国の歴史を見てみると過去には極端な累進税率の時代があったので驚かされる。タックス・アナリストに面白い記事が載っていたが、New Deal時代(1935年の頃?)には、$2Millionを超えると78%、$5Millionを超えると79%というとてつもない税率区分(=Super-Bracket)が存在したということだ。
しかし、実は当時の$2Millionは現在の$32Millionに匹敵するし、$5Millionに至ってはナント$80Millionだそうだ。それを超える金額だったら確かに79%も頷ける。そんなSuper-Bracketが存在したのも今は昔、第二次世界大戦時にはBracketは下がり(税率は高いままだったので歳入増)、その後も$10MillionとかのレベルのSuper-Bracketは個人所得税の世界には戻ってくることはなかった。こんな豪快なSuper-Bracketを増設したら逆に何か夢が膨らむような気がするのでぜひ見てみたい。「今年のMargin Rateは79%か・・・」みたいな悩みを抱えるのも悪くない(ナント言っても年収$80Millionだし)。
しかし現実には2012年は選挙の年。そんな大胆な改正は近々には見込めず、ブッシュ減税の延長、AMTパッチ(これに関しては2007年後半から数回に亘って特集しているので「混迷極める米国議会のAMT対策」等を参照)、バフェット・タックス導入、と言った地味めな改正を見守るしかないようだ。
*バフェット・タックス
ミリオネアーが一般家庭より低い税率で課税されているのはおかしいので富裕層の課税を強化しようというアイディアは説得力もあり違和感はない。オバマ政権も財政赤字対策の一環でバフェット・タックスを法律化するよう議会に提案している。しかし、実際にどのように実行するのかという点は未だ明確ではない。財務省も「いろんな考えがある」という程度の方向性しか表明していない。
一番分かり易く行くのであれば、キャピタルゲイン、配当に対する優遇税率を撤廃してしまうのがいいだろう。これで全て解決しそうなものだが、そうすると潜在的に億万長者ではないけど、投資所得で暮らしている善良な市民にも影響がある。
となるとバフェット・タックスの具体的な実現法は思ったよりも込み入った形態となるかもしれない。例えば、一定の額を超える所得を配当、キャピタルゲインで受け取っている場合にはAMT(代替ミニマム税)の算定を通じて、高い税金を支払わせるという案がある。AMTはAlternative Minimum Taxの略だが(銀行のキャッシュ・ディスペンサーではない)、これを更に複雑化することになるので既に一部メディアでは「Alternative AMT」というおかしな命名をしている。Alternative AMTなんてものが導入されようものなら今でも複雑怪奇な1040がますますハイパワーコンピューターなしでは対応できなくなりそう。
また、キャピタルゲイン税は一応そのままにしておきながら、金額が大きくなるとSurtaxを加えるという案も出ている。実際にこの手の法案が上院に提出され始めているようだ。評判が悪い他の増税案の代わりという位置づけで登場している。
さらに、税率を変えるのではなく、所得が大きくなると個別控除(Itemized Deduction)をPhaseout(徐々に減額)させるという案もあり得る。Phaseoutは現状でも存在するが、これをもっと派手にすることで増税効果を出そうというものだ。高所得者には通常、より大きな個別控除があるため、思ったよりも効くかもしれない。
*今の累進税率は手緩い?
現在の税法では個人の最高連邦税率は35%で、ブッシュ減税が撤廃されたとしても(正確には延長されずに自動消滅させられたとしても)39.5%で止まっている。
米国の歴史を見てみると過去には極端な累進税率の時代があったので驚かされる。タックス・アナリストに面白い記事が載っていたが、New Deal時代(1935年の頃?)には、$2Millionを超えると78%、$5Millionを超えると79%というとてつもない税率区分(=Super-Bracket)が存在したということだ。
しかし、実は当時の$2Millionは現在の$32Millionに匹敵するし、$5Millionに至ってはナント$80Millionだそうだ。それを超える金額だったら確かに79%も頷ける。そんなSuper-Bracketが存在したのも今は昔、第二次世界大戦時にはBracketは下がり(税率は高いままだったので歳入増)、その後も$10MillionとかのレベルのSuper-Bracketは個人所得税の世界には戻ってくることはなかった。こんな豪快なSuper-Bracketを増設したら逆に何か夢が膨らむような気がするのでぜひ見てみたい。「今年のMargin Rateは79%か・・・」みたいな悩みを抱えるのも悪くない(ナント言っても年収$80Millionだし)。
しかし現実には2012年は選挙の年。そんな大胆な改正は近々には見込めず、ブッシュ減税の延長、AMTパッチ(これに関しては2007年後半から数回に亘って特集しているので「混迷極める米国議会のAMT対策」等を参照)、バフェット・タックス導入、と言った地味めな改正を見守るしかないようだ。
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