前回のポスティングでは2011年後半の大きなニュースとして米国版テリトリアル課税の法案に関して触れ始めた。テリトリアル課税の基本的な考え方、世界のトレンド等の背景を中心にカバーしたが、今回は規定の内容そのものに移りたい。
*法人税率は25%に
今回の米国テリトリアル課税法案は単に米国の国際課税システムを根本的に変えてしまうばかりでなく、複雑かつ高税率で評判の悪い米国法人税システムの抜本的な改正を目指している。その目玉となるのが法人税率の35%から25%への低減だ。ご存知の通り、米国の35%という税率は世界でも突出して高い。日本の更に高い税率がなければ世界一だ。多くの国の法人税率を見渡してみると平均は25%くらいというのがザックリとしたイメージだろう。
にも係らず米国企業の実効税率が低く、20%前半が珍しくない点は過去のポスティングで散々触れている。でもこの実効税率はグローバルの連結ベースなので米国での税コストだけではない。実際に米国企業の実効税率が低い理由の多くは低税率国のかなりソフィスティケートされた利用にある。
米国内の所得だけを対象に実効税率を見るとおそらくもう少し高いはずだ。というのも、会計上の実効税率は税効果会計に基づく繰延税金を加味することから、タイミング差異でIRSに支払う税額を圧縮していても実効税率は下がらない。したがって永久差異が必要となるが、連邦の法人税を下げることができる永久差異はR&Dクレジットとか、製造者控除とかかなり限定的だ。それでもそれらを駆使して、実際に35%の税率でIRSに納税している米国企業は少ない。実際には米国だけをみても27~28%くらいになっているのではないか、と推測される。35%なんかで法人税を支払った日にはタックス・ディレクターの首が飛ぶという嘘のような本当のような話がある。
したがって、35%の税率を下げても、クレジット等の恩典を撤廃すれば、長期的には法人税収の減額は思ったより少ないものと予想される。むしろ、R&Dクレジットとかに関して詳細な文書化を用意して税務調査で戦うような作業が必要なくなる分、税法は簡素化され企業の生産性は上がるだろう。
それでも35%から一気に10%下げるというのはなかなか大胆な減税のような気がする。実際には35%支払っている企業は少ないので、正味では5%位の減税というのが実態かもしれない。さらにもう一つこんな減税が可能な背景には、そもそも法人税を支払っている事業主体が少なく、法人税自体の歳入における重要性が低いという事実もあるだろう。米国内で事業を展開する際には株主レベルで配当が課されるという二重課税を嫌って、また事業体の損失をオーナー側で取り込むことを狙って、パススルーという形態が選択されることが多い。パススルー主体は法人税の対象ではないので、結果として多くの事業所得が個人所得税の対象に生まれ変わっていることになる。
ただし、この点に関しては実は一律にパススルーが有利という訳でもなく、現に今でも株式会社(C Corporation)という形で事業を営んでいる個人経営者がゼロという訳ではない。実は思ったよりも多いようで、その理由は法人税の15%の低税率区分が充実していること、配当まで個人レベルで課税されないこと(内部留保に事業目的が認められる場合)、配当が課税されるとは言え15%と優遇税率になっていること、またMedical Reimbursement Planを利用できるなど従業員ベネフィットに対する優遇税制が充実してること、などだろう。もし法人税を支払っていても15%の区分に収まるようなケースで株式会社形態を敢えて選択しているようなパターンが多いとすると、最高税率が35%だろうが25%だろうが全然関係ないことになる。
また、多くの米国多国籍企業にとって米国の法人税率が高いことは、低税率国に貯めた巨額のキャッシュを米国に持ち返ることができないという意味で一番頭が痛い。ということはテリトリアル課税下で外国子会社からの配当がそもそも非課税となるのであれば、大袈裟に言えば法人税率などどうでもいいかもしれない。どうせアーニングス・ストリッピングを駆使して米国の課税ベースなど浸食されまくっているということを考えると尚更だ。
余談となるが、税率が下がると繰延税金資産も目減りすることになる。例えば連邦法人税に関して$35Mの繰延税金資産を持っていたとすると、税率が25%になると当然資産は$25Mとなり、減税が可決した課税年度に$10Mの追加税コストが会計上発生する。繰延税金資産は早く使ってしまう作戦を考えるのが得策だ。また本末転倒っぽい話ではあるがこれが理由で減税に反対している輩もいるとのこと。世の中みんなをハッピーにすることは不可能のようだ。
*テリトリアル課税
そしていよいよテリトリアル課税の規定だが、基本的なところは日本同様に特定の外国子会社から受け取る配当の95%を非課税にしようというものだ。どのような条件を満たすと95%非課税となるか、に関しては次回のポスティングで触れる。
Friday, January 20, 2012
Friday, January 13, 2012
ついに米国もテリトリアル課税に? (1)
明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。
という訳で2011年は超多忙の中アッという間に終わってしまった。米国税務の話しに限れば数々の新しい税法が発表され、そういう意味では面白い年ではあったが、一方で日本では震災があったり、神殿で聖なるイメージのギリシャ経済が崩壊してユーロが危機に陥ったりといろいろと考えさせられることも多かった。ドイツの信用力でお金を借りて返せなくなってしまったギリシャとか、準備通貨(Reserve Currency)を印刷できるのをいいことに相変わらず身の丈に合わないライフスタイルを続ける米国とか、せっかく毎年Million Miles乗ってあげているのに破産法の下に入ってしまったアメリカン航空の今後とか、30日以上晴天続きで雪が少ないマンモススキー上のリフト券がRFIDになってクレジットカードのようだったとか、タックス以外のことで書きたいことも沢山あるがきりがないので今年も大人しく(?)米国タックスの話しをしていくことにする。
2011年後半で一番興味深かった出来事と言えばついに米国が「テリトリアル化」に一歩近づいたことだろう。テリトリアル課税という用語は、全世界課税の反対語として使われるもので、海外の子会社等からの配当を非課税とする制度を意味する。米国は中国と並び未だに世界でも残り少ない全世界課税システムを維持している国だ。ここで言う全世界課税とは、外国子会社からの配当を受け手で課税する(または一定の所得は配当を待たずにみなし配当課税する)という意味で、日本が2009年3月まで使っていた制度だ。ここ何年かの間に日本、イギリス等が相次いでテリトリアル化したことからも分かる通り、世界の潮流はテリトリアルだ。
しかし、そこはUnited States of America。9,000とも言われる核弾頭(未使用のまま廃棄準備に入っているものを含む)を自らは保有しながら他国が1つでも同じものを持とうとすると徹底的に制裁を加えるという独自の正義感からか、頑なに全世界課税を守ってきた。とは言え、押し寄せる時代の波には勝てず、どうせ米国もいずれかはテリトリアルになるに決まってるじゃん、と思われていたが、そのタイミング、実行法に関しては憶測の域を出なかった。
そこに昨年の10月26日突然Ways and Means Committeeという米国税法の世界では超権威のある下院歳入委員会が米国版テリトリアル課税の大枠をドラフトとして公表したことで「ついに・・・」と米国テリトリアル化が一気に現実味を帯びてきたのだ。しかも、このドラフト、税法の文言そのものまで盛り込んであるという気合の入っているものだ。
以前のポスティングでも散々触れている通り、米国多国籍企業は米国外に巨額の埋蔵金を溜め込んでいる。そのお金をタダで(=米国の法人税を払わずにという意味)米国に持って返りたくてしょうがない米国企業は「2004年にやったみたいにもう一度だけ外国子会社の配当を非課税とする特殊時限立法を可決して欲しい」とキャンディーをねだる子供のようにロビー活動を繰り返してきた。議会は2004年の経験(濫用されまくった)で懲り懲りなので金輪際そんなことはしない、と突っぱねてきたが、ここに来て突然、一度だけではなく、未来永劫これからは外国子会社からの配当は非課税にしてあげましょう、と夢のような提案がされた。
さぞかし米国企業は大喜びだろうと思われるかもしれないが、実は米国版テリトリアル課税にはいろいろな「おまけ」がついていて、これがなかなかの曲者揃いだ。後で詳しく触れるが、おまけ規定の中で最も迫力があるのはテリトリアル課税となる際の「移行措置」だ。日本が2009年4月にテリトリアル化した際には、適用は基本的にきれいな「カットオフ」だった。すなわち、規定が適用された翌日に海外子会社から配当を受け取ったとすると基本的に非課税となる一方で、規定が施行される前日に配当を受け取ったとすると当然全額課税となることから、テリトリアル課税の施行前後で取り扱いが全く異なった。
一方で米国バージョンはどうかと言うと、ナンと制度移行の際に、外国子会社の所得「全額」を「みなし配当」があったとして課税するという措置が規定されていたのだ。みなし配当なので実際に配当するかどうかは関係ない。みなし配当に適用される税率は特別に低いレートが規定されているが、今まで配当しなければ米国では課税されないよね、ってことで米国外に大事に貯めてきた埋蔵金が一気に課税所得になってしまうということだ。凄まじい規定だと言える。ただ、それもそのはずで米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となる。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。税金を受け取るIRS側で税収が減らないということは、イコールそれを支払う納税者側ではトータルでの税負担は変わらないということだ。となると全体の税負担的には「ゼロサムゲーム」となることから納税者の中には勝者と敗者が出てくることとなる。
次回からのポスティングではこの米国テリトリアル課税案の全容を紐解いて行きたい。
という訳で2011年は超多忙の中アッという間に終わってしまった。米国税務の話しに限れば数々の新しい税法が発表され、そういう意味では面白い年ではあったが、一方で日本では震災があったり、神殿で聖なるイメージのギリシャ経済が崩壊してユーロが危機に陥ったりといろいろと考えさせられることも多かった。ドイツの信用力でお金を借りて返せなくなってしまったギリシャとか、準備通貨(Reserve Currency)を印刷できるのをいいことに相変わらず身の丈に合わないライフスタイルを続ける米国とか、せっかく毎年Million Miles乗ってあげているのに破産法の下に入ってしまったアメリカン航空の今後とか、30日以上晴天続きで雪が少ないマンモススキー上のリフト券がRFIDになってクレジットカードのようだったとか、タックス以外のことで書きたいことも沢山あるがきりがないので今年も大人しく(?)米国タックスの話しをしていくことにする。
2011年後半で一番興味深かった出来事と言えばついに米国が「テリトリアル化」に一歩近づいたことだろう。テリトリアル課税という用語は、全世界課税の反対語として使われるもので、海外の子会社等からの配当を非課税とする制度を意味する。米国は中国と並び未だに世界でも残り少ない全世界課税システムを維持している国だ。ここで言う全世界課税とは、外国子会社からの配当を受け手で課税する(または一定の所得は配当を待たずにみなし配当課税する)という意味で、日本が2009年3月まで使っていた制度だ。ここ何年かの間に日本、イギリス等が相次いでテリトリアル化したことからも分かる通り、世界の潮流はテリトリアルだ。
しかし、そこはUnited States of America。9,000とも言われる核弾頭(未使用のまま廃棄準備に入っているものを含む)を自らは保有しながら他国が1つでも同じものを持とうとすると徹底的に制裁を加えるという独自の正義感からか、頑なに全世界課税を守ってきた。とは言え、押し寄せる時代の波には勝てず、どうせ米国もいずれかはテリトリアルになるに決まってるじゃん、と思われていたが、そのタイミング、実行法に関しては憶測の域を出なかった。
そこに昨年の10月26日突然Ways and Means Committeeという米国税法の世界では超権威のある下院歳入委員会が米国版テリトリアル課税の大枠をドラフトとして公表したことで「ついに・・・」と米国テリトリアル化が一気に現実味を帯びてきたのだ。しかも、このドラフト、税法の文言そのものまで盛り込んであるという気合の入っているものだ。
以前のポスティングでも散々触れている通り、米国多国籍企業は米国外に巨額の埋蔵金を溜め込んでいる。そのお金をタダで(=米国の法人税を払わずにという意味)米国に持って返りたくてしょうがない米国企業は「2004年にやったみたいにもう一度だけ外国子会社の配当を非課税とする特殊時限立法を可決して欲しい」とキャンディーをねだる子供のようにロビー活動を繰り返してきた。議会は2004年の経験(濫用されまくった)で懲り懲りなので金輪際そんなことはしない、と突っぱねてきたが、ここに来て突然、一度だけではなく、未来永劫これからは外国子会社からの配当は非課税にしてあげましょう、と夢のような提案がされた。
さぞかし米国企業は大喜びだろうと思われるかもしれないが、実は米国版テリトリアル課税にはいろいろな「おまけ」がついていて、これがなかなかの曲者揃いだ。後で詳しく触れるが、おまけ規定の中で最も迫力があるのはテリトリアル課税となる際の「移行措置」だ。日本が2009年4月にテリトリアル化した際には、適用は基本的にきれいな「カットオフ」だった。すなわち、規定が適用された翌日に海外子会社から配当を受け取ったとすると基本的に非課税となる一方で、規定が施行される前日に配当を受け取ったとすると当然全額課税となることから、テリトリアル課税の施行前後で取り扱いが全く異なった。
一方で米国バージョンはどうかと言うと、ナンと制度移行の際に、外国子会社の所得「全額」を「みなし配当」があったとして課税するという措置が規定されていたのだ。みなし配当なので実際に配当するかどうかは関係ない。みなし配当に適用される税率は特別に低いレートが規定されているが、今まで配当しなければ米国では課税されないよね、ってことで米国外に大事に貯めてきた埋蔵金が一気に課税所得になってしまうということだ。凄まじい規定だと言える。ただ、それもそのはずで米国のテリトリアル課税は基本的に「Revenue Neutral」すなわち、税収が減ってはいけない規定となる。すなわち、将来の外国子会社からの配当にフルに課税できないことで予想される税収減をどこかで補わなくてはいけないという事情がある。税金を受け取るIRS側で税収が減らないということは、イコールそれを支払う納税者側ではトータルでの税負担は変わらないということだ。となると全体の税負担的には「ゼロサムゲーム」となることから納税者の中には勝者と敗者が出てくることとなる。
次回からのポスティングではこの米国テリトリアル課税案の全容を紐解いて行きたい。
Sunday, October 23, 2011
ミリオネアー課税「バフェット・タックス」(2)
前回のポスティングではミリオネアー課税であるバフェット・タックスの背景を紹介したが、今回はバフェット・タックスそのものに触れる。
*バフェット・タックス
ミリオネアーが一般家庭より低い税率で課税されているのはおかしいので富裕層の課税を強化しようというアイディアは説得力もあり違和感はない。オバマ政権も財政赤字対策の一環でバフェット・タックスを法律化するよう議会に提案している。しかし、実際にどのように実行するのかという点は未だ明確ではない。財務省も「いろんな考えがある」という程度の方向性しか表明していない。
一番分かり易く行くのであれば、キャピタルゲイン、配当に対する優遇税率を撤廃してしまうのがいいだろう。これで全て解決しそうなものだが、そうすると潜在的に億万長者ではないけど、投資所得で暮らしている善良な市民にも影響がある。
となるとバフェット・タックスの具体的な実現法は思ったよりも込み入った形態となるかもしれない。例えば、一定の額を超える所得を配当、キャピタルゲインで受け取っている場合にはAMT(代替ミニマム税)の算定を通じて、高い税金を支払わせるという案がある。AMTはAlternative Minimum Taxの略だが(銀行のキャッシュ・ディスペンサーではない)、これを更に複雑化することになるので既に一部メディアでは「Alternative AMT」というおかしな命名をしている。Alternative AMTなんてものが導入されようものなら今でも複雑怪奇な1040がますますハイパワーコンピューターなしでは対応できなくなりそう。
また、キャピタルゲイン税は一応そのままにしておきながら、金額が大きくなるとSurtaxを加えるという案も出ている。実際にこの手の法案が上院に提出され始めているようだ。評判が悪い他の増税案の代わりという位置づけで登場している。
さらに、税率を変えるのではなく、所得が大きくなると個別控除(Itemized Deduction)をPhaseout(徐々に減額)させるという案もあり得る。Phaseoutは現状でも存在するが、これをもっと派手にすることで増税効果を出そうというものだ。高所得者には通常、より大きな個別控除があるため、思ったよりも効くかもしれない。
*今の累進税率は手緩い?
現在の税法では個人の最高連邦税率は35%で、ブッシュ減税が撤廃されたとしても(正確には延長されずに自動消滅させられたとしても)39.5%で止まっている。
米国の歴史を見てみると過去には極端な累進税率の時代があったので驚かされる。タックス・アナリストに面白い記事が載っていたが、New Deal時代(1935年の頃?)には、$2Millionを超えると78%、$5Millionを超えると79%というとてつもない税率区分(=Super-Bracket)が存在したということだ。
しかし、実は当時の$2Millionは現在の$32Millionに匹敵するし、$5Millionに至ってはナント$80Millionだそうだ。それを超える金額だったら確かに79%も頷ける。そんなSuper-Bracketが存在したのも今は昔、第二次世界大戦時にはBracketは下がり(税率は高いままだったので歳入増)、その後も$10MillionとかのレベルのSuper-Bracketは個人所得税の世界には戻ってくることはなかった。こんな豪快なSuper-Bracketを増設したら逆に何か夢が膨らむような気がするのでぜひ見てみたい。「今年のMargin Rateは79%か・・・」みたいな悩みを抱えるのも悪くない(ナント言っても年収$80Millionだし)。
しかし現実には2012年は選挙の年。そんな大胆な改正は近々には見込めず、ブッシュ減税の延長、AMTパッチ(これに関しては2007年後半から数回に亘って特集しているので「混迷極める米国議会のAMT対策」等を参照)、バフェット・タックス導入、と言った地味めな改正を見守るしかないようだ。
*バフェット・タックス
ミリオネアーが一般家庭より低い税率で課税されているのはおかしいので富裕層の課税を強化しようというアイディアは説得力もあり違和感はない。オバマ政権も財政赤字対策の一環でバフェット・タックスを法律化するよう議会に提案している。しかし、実際にどのように実行するのかという点は未だ明確ではない。財務省も「いろんな考えがある」という程度の方向性しか表明していない。
一番分かり易く行くのであれば、キャピタルゲイン、配当に対する優遇税率を撤廃してしまうのがいいだろう。これで全て解決しそうなものだが、そうすると潜在的に億万長者ではないけど、投資所得で暮らしている善良な市民にも影響がある。
となるとバフェット・タックスの具体的な実現法は思ったよりも込み入った形態となるかもしれない。例えば、一定の額を超える所得を配当、キャピタルゲインで受け取っている場合にはAMT(代替ミニマム税)の算定を通じて、高い税金を支払わせるという案がある。AMTはAlternative Minimum Taxの略だが(銀行のキャッシュ・ディスペンサーではない)、これを更に複雑化することになるので既に一部メディアでは「Alternative AMT」というおかしな命名をしている。Alternative AMTなんてものが導入されようものなら今でも複雑怪奇な1040がますますハイパワーコンピューターなしでは対応できなくなりそう。
また、キャピタルゲイン税は一応そのままにしておきながら、金額が大きくなるとSurtaxを加えるという案も出ている。実際にこの手の法案が上院に提出され始めているようだ。評判が悪い他の増税案の代わりという位置づけで登場している。
さらに、税率を変えるのではなく、所得が大きくなると個別控除(Itemized Deduction)をPhaseout(徐々に減額)させるという案もあり得る。Phaseoutは現状でも存在するが、これをもっと派手にすることで増税効果を出そうというものだ。高所得者には通常、より大きな個別控除があるため、思ったよりも効くかもしれない。
*今の累進税率は手緩い?
現在の税法では個人の最高連邦税率は35%で、ブッシュ減税が撤廃されたとしても(正確には延長されずに自動消滅させられたとしても)39.5%で止まっている。
米国の歴史を見てみると過去には極端な累進税率の時代があったので驚かされる。タックス・アナリストに面白い記事が載っていたが、New Deal時代(1935年の頃?)には、$2Millionを超えると78%、$5Millionを超えると79%というとてつもない税率区分(=Super-Bracket)が存在したということだ。
しかし、実は当時の$2Millionは現在の$32Millionに匹敵するし、$5Millionに至ってはナント$80Millionだそうだ。それを超える金額だったら確かに79%も頷ける。そんなSuper-Bracketが存在したのも今は昔、第二次世界大戦時にはBracketは下がり(税率は高いままだったので歳入増)、その後も$10MillionとかのレベルのSuper-Bracketは個人所得税の世界には戻ってくることはなかった。こんな豪快なSuper-Bracketを増設したら逆に何か夢が膨らむような気がするのでぜひ見てみたい。「今年のMargin Rateは79%か・・・」みたいな悩みを抱えるのも悪くない(ナント言っても年収$80Millionだし)。
しかし現実には2012年は選挙の年。そんな大胆な改正は近々には見込めず、ブッシュ減税の延長、AMTパッチ(これに関しては2007年後半から数回に亘って特集しているので「混迷極める米国議会のAMT対策」等を参照)、バフェット・タックス導入、と言った地味めな改正を見守るしかないようだ。
ミリオネアー課税「バフェット・タックス」(1)
米国の著名投資家で億万長者の代名詞とでもいえるウォーレン・バフェット氏が「自分の税率が一般家庭より低いのはおかしい」という至極もっともな理論でミリオネアーの課税強化を提唱した。
累進税率かつ総合課税の米国でなぜ何百万ドルも収入がある者が、所帯当りの所得が20万ドル位の一般家庭よりも低い税率で課税されるようなことが起こり得るのか単純に不思議に思われる方もいるだろう。
米国は総合課税だが、キャピタルゲインと配当は特別に15%という上限税率が規定されている。90年代はキャピタルゲインは20%代の優遇税率(後に15%に低減)だったが、ブッシュ政権が2001年~2003年に実施した減税で配当も15%上限となった。分離課税に似ているが、総合課税の枠の中で上限税率が規定されているというのが正しい。すなわち、キャピタルゲイン、配当も他の所得同様に申告書に載せて、そこから人的控除だの個別控除を差し引いて累進税率を適用するが、キャピタルゲイン、配当部分には15%のリミッターが掛かる。キャピタルゲインや配当があっても小額であれば控除で消えてしまい、税負担がないこともある。この辺りの計算は結構面倒で「たかが」個人所得税で給与と配当、キャピタルゲインがあるだけのような局面でもコンピューターとか申告書作成ソフトのヘルプなく申告書を作成するのは困難な状況に陥る。
ちなみにこのブッシュ政権の減税には時限爆弾がセットされており、何もしないと自動的に消滅する(昔のスパイ大作戦のテープみたいに)仕掛けになっている。この問題に関しては2010年8月末に3回特集した「失効間近のブッシュ減税」を参照。
裕福になればなるほど、役務提供して報酬を受け取るという生活パターンではなく、投資ポートフォリオから配当を受け取ったり、投資を売買してキャピタルゲインを得たりしているため、いくら儲かっても15%を超える税率にはならない。ファンドに投資とかしている者も、ファンドがパススルー主体であることから、ファンドが認識するキャピタルゲイン、配当はそのままの性格でパススルーされてくる。これに目を付けて、というかこの仕組みをうまく利用しているのが、PEファンドとかヘッジファンドのマネージャーが受け取るCarried Interestだ。実質給与に近いが税法上はキャピタルゲインとなるように設計されている。
このCarried Interestを通常の所得として課税しようとする声はブラックストーンが上場した頃(もう4~5年前?)から法案としては存在するが、未だに可決されていない。オバマ政権も一つの歳入原資として通常課税を提案している。Carried Interestに関しては相当前となるが2007年6月に特集したので「Carried Interestとパートナーシップ・プロフィット持分」を参照。
また差が付くのは税率だけではない。普通に働いてお給料をもらったり、フリーランサーとして報酬を得ていると、所得税ばかりではなく、社会保障税も支払う必要がある。社会保障税の計算には控除がないため実効税率に与える影響は大きい。従業員なら8%弱(うち1.45%は課税上限枠ナシ)、自営業(会計事務所や法律事務所のパートナーを含む!)はナント15%強(うち2.9%は課税上限枠ナシ)取られるのでかなりキツイ(これって愚痴?)。一方で投資所得には社会保障税は課せられないため、ここでも差が付いてしまう。
そこで登場するのがバフェット・タックスだが、その内容はどのようなものとなり得るのだろうか?という点は次回。
累進税率かつ総合課税の米国でなぜ何百万ドルも収入がある者が、所帯当りの所得が20万ドル位の一般家庭よりも低い税率で課税されるようなことが起こり得るのか単純に不思議に思われる方もいるだろう。
米国は総合課税だが、キャピタルゲインと配当は特別に15%という上限税率が規定されている。90年代はキャピタルゲインは20%代の優遇税率(後に15%に低減)だったが、ブッシュ政権が2001年~2003年に実施した減税で配当も15%上限となった。分離課税に似ているが、総合課税の枠の中で上限税率が規定されているというのが正しい。すなわち、キャピタルゲイン、配当も他の所得同様に申告書に載せて、そこから人的控除だの個別控除を差し引いて累進税率を適用するが、キャピタルゲイン、配当部分には15%のリミッターが掛かる。キャピタルゲインや配当があっても小額であれば控除で消えてしまい、税負担がないこともある。この辺りの計算は結構面倒で「たかが」個人所得税で給与と配当、キャピタルゲインがあるだけのような局面でもコンピューターとか申告書作成ソフトのヘルプなく申告書を作成するのは困難な状況に陥る。
ちなみにこのブッシュ政権の減税には時限爆弾がセットされており、何もしないと自動的に消滅する(昔のスパイ大作戦のテープみたいに)仕掛けになっている。この問題に関しては2010年8月末に3回特集した「失効間近のブッシュ減税」を参照。
裕福になればなるほど、役務提供して報酬を受け取るという生活パターンではなく、投資ポートフォリオから配当を受け取ったり、投資を売買してキャピタルゲインを得たりしているため、いくら儲かっても15%を超える税率にはならない。ファンドに投資とかしている者も、ファンドがパススルー主体であることから、ファンドが認識するキャピタルゲイン、配当はそのままの性格でパススルーされてくる。これに目を付けて、というかこの仕組みをうまく利用しているのが、PEファンドとかヘッジファンドのマネージャーが受け取るCarried Interestだ。実質給与に近いが税法上はキャピタルゲインとなるように設計されている。
このCarried Interestを通常の所得として課税しようとする声はブラックストーンが上場した頃(もう4~5年前?)から法案としては存在するが、未だに可決されていない。オバマ政権も一つの歳入原資として通常課税を提案している。Carried Interestに関しては相当前となるが2007年6月に特集したので「Carried Interestとパートナーシップ・プロフィット持分」を参照。
また差が付くのは税率だけではない。普通に働いてお給料をもらったり、フリーランサーとして報酬を得ていると、所得税ばかりではなく、社会保障税も支払う必要がある。社会保障税の計算には控除がないため実効税率に与える影響は大きい。従業員なら8%弱(うち1.45%は課税上限枠ナシ)、自営業(会計事務所や法律事務所のパートナーを含む!)はナント15%強(うち2.9%は課税上限枠ナシ)取られるのでかなりキツイ(これって愚痴?)。一方で投資所得には社会保障税は課せられないため、ここでも差が付いてしまう。
そこで登場するのがバフェット・タックスだが、その内容はどのようなものとなり得るのだろうか?という点は次回。
Sunday, October 9, 2011
アメリカ版「パテント・ボックス」?
ここ何年かの間に世界各地ですっかりお馴染みとなりつつある税法に「パテント・ボックス」というものがある。オランダ、ルクセンブルグ、アイルランド、ベルギー、スペイン、フランス、スイスというどちらかというと納税者フレンドリーなヨーロッパ諸国に加えて中国も同制度を導入している。また2013年からはいよいよ英国でも採用される見通しとなり、ますます市民権を得つつ感じがある。そこでいよいよアメリカでも、ハイテク、製薬業界等のプッシュに基づき、導入論が浮上してきている。
*パテント・ボックス
パテント・ボックスなどというと、パテントを入れる魔法の箱(そんな箱ない!)、または特許技術に基づいて製造されたハイテクな箱をイメージするかもしれない。
実はボックスとは言え、本当の箱ではなく、基本的な仕組みは、パテントを取ってそれを利用した製品から得られる所得を「別ボックスに入れ」は、一般の法人税よりも低い税率を適用してあげましょう、というものだ。世界的な傾向として通常の法人税率は25%前後のところが多いがパテント・ボックスに適用される税率は10%~15%といったイメージだ。
自国で価値のある無形資産(IP)を創造・商品化してもらうためのインセンティブとなり、付加価値の高い雇用にも繋がり、国の経済競争力をも高めるということで最近人気が高い政策だ。裏を返せば、IP関係の仕事は今や世界のたくさんの場所で行うことが可能で場所的に選択肢が多いという危機感を反映しているものとも思える。
多くのパテント・ボックスは21世紀に入ってから導入されている新しいものだ。アイルランドでは1970年代に導入されているが(さすがIP Migrationのトップ・デスティネーション・・)、他国のものはここ何年かの間に導入されている。
このようにパテント・ボックス現象は比較的近年のものなので、実際にパテント・ボックスを導入してそれなりの経済効果があるのかどうかに関する確固たる科学的なデータは未だ存在しないだろうが、ヨーロッパではそれなりの効果が見られているという見方が多いようだ。
パテント・ボックスと一言で言ってもその規定内容は国によって異なる。例えばオランダのパテント・ボックスは2007年に初めて施行されているが、2010年には必ずしもパテントに至らなくても、一定の要件を満たす研究開発に基づく製品・サービス提供から得られる所得に低税率を適用するという「イノベーション・ボックス」に進化している。中国のこの分野でCutting Edgeな考え方を導入して、一定のマーケット的なノウハウをも含むIPからの所得を対象としている。
*R&Dクレジットでは不十分?
税制によるIP開発のインセンティブというとR&DクレジットのようなR&D関係の支出に係る特別措置が思い出されるだろう。そんな規定がありながら、なぜパテント・ボックスのような新種の措置が各国で検討される必要があるのか、という疑問が出てくる。R&Dクレジット等は研究開発の活動を行うことに対するインセンティブであるが、パテント・ボックスはそこで開発されたIPを使用して「商品化」に結びつけて初めて恩典を得られるという点で異なる。パテント・ボックスはこの商品化の過程でより高い経済効果が得られるという認識に基づいているようだ。
*米国版パテント・ボックス?
米国では税法の抜本的改正がより強く求められている。数多くの特殊インセンティブと高税率が複雑に絡み合ってコンプライアンス、プラニングのコストが高い上に、結局、規定の法人税率で税金を支払う法人は少ないという現象が続いているからだ。であれば、法人税率を初めから低く抑えて、その代わりにインセンティブを撤廃してしまってはどうかという改正だ。
そんな環境でのパテント・ボックス導入は、特殊インセンティブがまた一つ増えるという点で大きな流れに逆行しているようにも見える。イノベーション・ボックスのような規定が導入されるとすると、どのような活動からのどの部分の所得がボックスに適格となるか、という根本的な算定ひとつを取ってみても、かなり複雑な施行規則が必要となる点は間違いがない。どの経費が対象となる活動に関係するものなのか(またSec.861の流用?)、を会計事務所に費用を払って文書化するような事態となるだろう。Sec.199 やR&Dクレジットに対する作業を考えて見ると分かり易い。
ただ、他国の実績として全体の税法の簡素化を図りながら、同時にパテント・ボックスを導入できると主張する一派もあり、今後導入メリットの有無が広く議論されていくことになるだろう。
歳入が減少傾向にある今日この頃だけに、その面でも導入には慎重論も出てくるだろう。特に法人への恩典は、個人レベルで税負担の重みがより強く感じられている今日この頃だけに風当たりが強い。この点に関して導入推進派は、何もしないで低税率の恩典が与えられる訳ではなく、パテントまたは一定のイノベーションを実現したものに対するご褒美なのだからフェアなものだと主張する。
社会政策としてのタックスを議論する際に、「研究開発」と「Small Business」は常に特殊なステータスにあることから、向かい風の中、パテント・ボックスが導入される可能性はもしかしたら低くないかもしれない。
*パテント・ボックス
パテント・ボックスなどというと、パテントを入れる魔法の箱(そんな箱ない!)、または特許技術に基づいて製造されたハイテクな箱をイメージするかもしれない。
実はボックスとは言え、本当の箱ではなく、基本的な仕組みは、パテントを取ってそれを利用した製品から得られる所得を「別ボックスに入れ」は、一般の法人税よりも低い税率を適用してあげましょう、というものだ。世界的な傾向として通常の法人税率は25%前後のところが多いがパテント・ボックスに適用される税率は10%~15%といったイメージだ。
自国で価値のある無形資産(IP)を創造・商品化してもらうためのインセンティブとなり、付加価値の高い雇用にも繋がり、国の経済競争力をも高めるということで最近人気が高い政策だ。裏を返せば、IP関係の仕事は今や世界のたくさんの場所で行うことが可能で場所的に選択肢が多いという危機感を反映しているものとも思える。
多くのパテント・ボックスは21世紀に入ってから導入されている新しいものだ。アイルランドでは1970年代に導入されているが(さすがIP Migrationのトップ・デスティネーション・・)、他国のものはここ何年かの間に導入されている。
このようにパテント・ボックス現象は比較的近年のものなので、実際にパテント・ボックスを導入してそれなりの経済効果があるのかどうかに関する確固たる科学的なデータは未だ存在しないだろうが、ヨーロッパではそれなりの効果が見られているという見方が多いようだ。
パテント・ボックスと一言で言ってもその規定内容は国によって異なる。例えばオランダのパテント・ボックスは2007年に初めて施行されているが、2010年には必ずしもパテントに至らなくても、一定の要件を満たす研究開発に基づく製品・サービス提供から得られる所得に低税率を適用するという「イノベーション・ボックス」に進化している。中国のこの分野でCutting Edgeな考え方を導入して、一定のマーケット的なノウハウをも含むIPからの所得を対象としている。
*R&Dクレジットでは不十分?
税制によるIP開発のインセンティブというとR&DクレジットのようなR&D関係の支出に係る特別措置が思い出されるだろう。そんな規定がありながら、なぜパテント・ボックスのような新種の措置が各国で検討される必要があるのか、という疑問が出てくる。R&Dクレジット等は研究開発の活動を行うことに対するインセンティブであるが、パテント・ボックスはそこで開発されたIPを使用して「商品化」に結びつけて初めて恩典を得られるという点で異なる。パテント・ボックスはこの商品化の過程でより高い経済効果が得られるという認識に基づいているようだ。
*米国版パテント・ボックス?
米国では税法の抜本的改正がより強く求められている。数多くの特殊インセンティブと高税率が複雑に絡み合ってコンプライアンス、プラニングのコストが高い上に、結局、規定の法人税率で税金を支払う法人は少ないという現象が続いているからだ。であれば、法人税率を初めから低く抑えて、その代わりにインセンティブを撤廃してしまってはどうかという改正だ。
そんな環境でのパテント・ボックス導入は、特殊インセンティブがまた一つ増えるという点で大きな流れに逆行しているようにも見える。イノベーション・ボックスのような規定が導入されるとすると、どのような活動からのどの部分の所得がボックスに適格となるか、という根本的な算定ひとつを取ってみても、かなり複雑な施行規則が必要となる点は間違いがない。どの経費が対象となる活動に関係するものなのか(またSec.861の流用?)、を会計事務所に費用を払って文書化するような事態となるだろう。Sec.199 やR&Dクレジットに対する作業を考えて見ると分かり易い。
ただ、他国の実績として全体の税法の簡素化を図りながら、同時にパテント・ボックスを導入できると主張する一派もあり、今後導入メリットの有無が広く議論されていくことになるだろう。
歳入が減少傾向にある今日この頃だけに、その面でも導入には慎重論も出てくるだろう。特に法人への恩典は、個人レベルで税負担の重みがより強く感じられている今日この頃だけに風当たりが強い。この点に関して導入推進派は、何もしないで低税率の恩典が与えられる訳ではなく、パテントまたは一定のイノベーションを実現したものに対するご褒美なのだからフェアなものだと主張する。
社会政策としてのタックスを議論する際に、「研究開発」と「Small Business」は常に特殊なステータスにあることから、向かい風の中、パテント・ボックスが導入される可能性はもしかしたら低くないかもしれない。
Tuesday, September 20, 2011
損失を持つ子会社の利用法(3)
前回までのポスティングで無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法のいくつかに関して触れてきた。その流れで連結納税の対象となっている子会社株式の税務簿価の算定法に関して書いたが、今回は簿価がマイナスとなるケースに触れる。
*Excess Loss Account
簿価というものはゼロが最低というのが基本的な考え方なので、技術的に言うとマイナスの簿価というのは存在し得ない。だが子会社株式に対してInvestment Adjustmentを加えていくと簿価がゼロを下回ることがある。このマイナスの簿価を「ELA(イー・エル・エーと発音するアクロニム!)」と呼ぶ。ELAなどと言うと専門家っぽいが実態は単なるマイナスの簿価である。
このELAをもった状態で株式を売却でもしてしまうと、売却代金が僅かであっても、ELAの金額は丸々ゲインとなるので注意が必要だ。例えば、二束三文の子会社をようやく誰かに$100で買ってもらうとする。受け取る売却代金は$100なのでゲインの上限は$100かのように思えるがELAがあるととんでもないことが起こる。もしELAが$1,000,000あると、ナント$10,000,100のキャピタルゲインが発生するこになる。
*ELAとSec.338(h)(10)
このような局面でも場合によって有益なのがSec.338(h)(10)選択だ。上で触れた通り、Sec.338(h)(10)選択を行うと、株式売却という取引形態が税務上のみいきなり資産売却プラス清算に変わる。この場合は、株式が無価値だと非課税清算規定が使えないので、みなし資産売却の後のみなし清算でEquity Holderとして何らかの分配を受け取る必要がある。何らかの分配をEquity Holderとして受け取っていると、みなし清算はSec.332の「適格非課税清算」となり、ELAの認識はない。手品のようだが本当の話だ。ここでは税務上の連結子会社の話しをしているのでSec.332の持分規定は当然満たされているという前提だ。それにしても、無価値の株式から通常損失を取らせてくれたり、巨額のELAを消してくれたりと、Sec.338(h)(10)は緩急自在さには驚かされる。
*繰越欠損金の移管
グループ内の損失子会社のもうひとつの代表的な利用法に繰越欠損金(NOL)の有効活用がある。米国子会社を最初からひとつの持ち株会社の下に付けていればNOLはグループ内で自由に通算できることから悩みは少ないはずだが、日本企業は日本の親会社等がバラバラに兄弟会社という形で米国子会社を持っているケースが少なくない。これは連結納税ができないばかりか、低税率区分を共有させられたり一般には不利な形態と言える。唯一のメリットは上で触れたUnified Loss Ruleとかの面倒な連結納税規定を心配しなくていいことくらいだろう。
連結納税の対象とならない子会社のひとつに損失を抱えていて使えきれないNOLがあるとする。一方で収益を上げている子会社がある場合には、合併で吸収してしまい、適格再編としてNOLを継承させるというのが一般的な対策だろう。どうしても事業を一緒にさせたくない場合には、儲かっている子会社の下に単独メンバーLLCを組成してそこに損失を持っている子会社を合併させてしまえば、税務上は儲かっている法人に合併したも同然の扱い(普通のA型再編)となる。もちろんLLCではなく株式会社をMerger Subとして利用して三角合併させるという手もあるが、三角合併はForwardであっても通常の二社間合併より適格要件が若干増えるので注意が必要だ。
損失を抱えている子会社が債務超過の状況にない場合には上のような再編は十分に可能性があるといえる。一方で損失を抱えている子会社が債務超過の状態にある場合には、その会社を消滅法人として適格再編を実現するのは難しいことがある。いわゆるNet Value規定が草案されているし、判例に基づいても債権者=株主の状態にある状況以外では適格とするのは困難だろう。
その場合のウルトラCとしては債務超過に陥っている法人を「存続法人」とするいう手法が考えられる。気分的に損を出している法人を存続させるのは抵抗がある、かもしれないが実を取るという意味では検討の価値ありだろう。米国の適格再編に求められるNet Value、持分継続、事業継続、等は消滅法人に係る規定であることから、この方向にすれば債務超過法人が再編の当事者であっても、再編の適格性には問題はないものと思われる。NOLの使用を主たる目的にしているような場合には、NOLの使用に関してはSec.269のような「Anti-Abuse」規定の適用有無をよく検討する必要はあるが。
という訳で経済状況の不安定な今日この頃に適用可能性があるプラニングのいくつかに関して触れた。
*Excess Loss Account
簿価というものはゼロが最低というのが基本的な考え方なので、技術的に言うとマイナスの簿価というのは存在し得ない。だが子会社株式に対してInvestment Adjustmentを加えていくと簿価がゼロを下回ることがある。このマイナスの簿価を「ELA(イー・エル・エーと発音するアクロニム!)」と呼ぶ。ELAなどと言うと専門家っぽいが実態は単なるマイナスの簿価である。
このELAをもった状態で株式を売却でもしてしまうと、売却代金が僅かであっても、ELAの金額は丸々ゲインとなるので注意が必要だ。例えば、二束三文の子会社をようやく誰かに$100で買ってもらうとする。受け取る売却代金は$100なのでゲインの上限は$100かのように思えるがELAがあるととんでもないことが起こる。もしELAが$1,000,000あると、ナント$10,000,100のキャピタルゲインが発生するこになる。
*ELAとSec.338(h)(10)
このような局面でも場合によって有益なのがSec.338(h)(10)選択だ。上で触れた通り、Sec.338(h)(10)選択を行うと、株式売却という取引形態が税務上のみいきなり資産売却プラス清算に変わる。この場合は、株式が無価値だと非課税清算規定が使えないので、みなし資産売却の後のみなし清算でEquity Holderとして何らかの分配を受け取る必要がある。何らかの分配をEquity Holderとして受け取っていると、みなし清算はSec.332の「適格非課税清算」となり、ELAの認識はない。手品のようだが本当の話だ。ここでは税務上の連結子会社の話しをしているのでSec.332の持分規定は当然満たされているという前提だ。それにしても、無価値の株式から通常損失を取らせてくれたり、巨額のELAを消してくれたりと、Sec.338(h)(10)は緩急自在さには驚かされる。
*繰越欠損金の移管
グループ内の損失子会社のもうひとつの代表的な利用法に繰越欠損金(NOL)の有効活用がある。米国子会社を最初からひとつの持ち株会社の下に付けていればNOLはグループ内で自由に通算できることから悩みは少ないはずだが、日本企業は日本の親会社等がバラバラに兄弟会社という形で米国子会社を持っているケースが少なくない。これは連結納税ができないばかりか、低税率区分を共有させられたり一般には不利な形態と言える。唯一のメリットは上で触れたUnified Loss Ruleとかの面倒な連結納税規定を心配しなくていいことくらいだろう。
連結納税の対象とならない子会社のひとつに損失を抱えていて使えきれないNOLがあるとする。一方で収益を上げている子会社がある場合には、合併で吸収してしまい、適格再編としてNOLを継承させるというのが一般的な対策だろう。どうしても事業を一緒にさせたくない場合には、儲かっている子会社の下に単独メンバーLLCを組成してそこに損失を持っている子会社を合併させてしまえば、税務上は儲かっている法人に合併したも同然の扱い(普通のA型再編)となる。もちろんLLCではなく株式会社をMerger Subとして利用して三角合併させるという手もあるが、三角合併はForwardであっても通常の二社間合併より適格要件が若干増えるので注意が必要だ。
損失を抱えている子会社が債務超過の状況にない場合には上のような再編は十分に可能性があるといえる。一方で損失を抱えている子会社が債務超過の状態にある場合には、その会社を消滅法人として適格再編を実現するのは難しいことがある。いわゆるNet Value規定が草案されているし、判例に基づいても債権者=株主の状態にある状況以外では適格とするのは困難だろう。
その場合のウルトラCとしては債務超過に陥っている法人を「存続法人」とするいう手法が考えられる。気分的に損を出している法人を存続させるのは抵抗がある、かもしれないが実を取るという意味では検討の価値ありだろう。米国の適格再編に求められるNet Value、持分継続、事業継続、等は消滅法人に係る規定であることから、この方向にすれば債務超過法人が再編の当事者であっても、再編の適格性には問題はないものと思われる。NOLの使用を主たる目的にしているような場合には、NOLの使用に関してはSec.269のような「Anti-Abuse」規定の適用有無をよく検討する必要はあるが。
という訳で経済状況の不安定な今日この頃に適用可能性があるプラニングのいくつかに関して触れた。
損失を持つ子会社の利用法(2)
前回のポスティングでは無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法に関して書き始めた。無価値となった子会社を清算するのが基本的な考え方だが会社法上、本当に清算しないでも税務上は清算したかのように取り扱うことができることがある。今回のポスティングではそんなみなし清算を実現できる取引形態のひとつであるSec.338(h)(10)選択の話しから入りたい。
*Sec.338(h)(10)と無価値株式
Sec.338(h)(10)は連結納税をしている(またはすることができるが敢えて選択していない)子会社を売却した際に、売り手となる親会社と買い手がJointで選択することで適用が可能となる。通常のSec.338(=(g)選択)と異なり両者合意の必要がある。Sec.338(h)(10)はS Corpの売却にも利用できるがここでは連結子会社を例に話しを続ける。
Sec.338(h)(10)選択をすると、実際の取り引きは株式売却であるにも係らず、売却の対象となる子会社は「資産を売却して清算」されたかのように取り扱われる。もちろんこれは税務上のみの「フィクション」なのだが、税務上は実際に資産が売却されて清算されたのと同様の扱いが適用される。資産を売却してポジティブな(売り手の株主に対して)清算分配があっては株式が無価値だったとはならず、普通の子会社の非課税清算(Sec.332)となってしまう。それでは通常損失が取れずに意味がない。かと言って本当に債務超過だと買い手が見つからない。こんなジレンマを解決してくれる方法がある。
損失がかさんで無価値になっている子会社というのは親会社から資本出資ばかりでなく、借入をしているケースが多い。その場合には株式売却取り引きの一環で親会社が貸付を資本金に転換する、または債務免除するケースが多い。でないと株式の価値がなく、買い手が見つからないからだ。しかし「株式の価値が出たら通常損失にならないのでは・・・?」と不思議に思えるだろう。
ここでキャッチとなるのは、IRSは債務超過の状態にある子会社に追加出資、債務の資本転換、債務免除したりして瞬間的にポジティブにしてもそのような取り引きは無視するというポジションを取る点だ。これはもともとIRSに有利になるような局面で主張されているポジションだが、逆に納税者に有利となる局面にも適用可能であると思われる。
となると実際には債務免除して買い手が見つかるが、税務上は債務が残っているので、みなし清算で分配される金額はまず債務返済に充てられ、Equity部分に対しては$1も返ってこないという位置づけが可能となる。という訳で通常損失の認識が可能というかなりめでたい結末となる。
さらに、免除した取り引きが認められていないので税務上は存在し続けている貸付に関しても全額戻ってこない場合には貸し倒れ損失の計上までできる可能性がある。もちろんSec.338(h)(10)なので買い手側は資産の税務簿価ステップアップもできる。
といいこと尽くめのプラニングだが、これを利用する際には必ず専門家のアドバイスが必要となる。特に親会社による貸付が実態として「Equity」投資とみなされる可能性には気を付ける必要があるだろう。損失がかさんでいる子会社に追加融資をする際に、現実的な返済計画がないとEquity投資となるからだ。ただし、納税者としては「貸付」という形態を選択している以上、申告書上Equity扱いするのはSec.385(c)の関係で難しい。IRSがEquityだと言わないような事実関係を残しておくか、またはIRSが「これは実質Equityですね・・・」という場合には、「それはそうだが、普通株式ではなく、種類の違う優先株式とみなされるはず・・・」と抗弁して普通株式は依然無価値というポジションを取るしかないだろう。
*子会社の税務簿価
子会社の株式が無価値となり通常損失と計上する際、損金算入できる金額は子会社株式に対する税務上の簿価だ。当たり前のポイントだが、実はこの簿価の算定が連結子会社の場合かなり難しい。
連結子会社に関しては、会計上のEquity Accountingに似たコンセプトで株式簿価を毎年調整する必要がある。これは税務上のInvestment Adjustmentと呼ばれるコンセプトだがこの計算は複雑だ。さらに簿価があっても子会社の株式からの損失計上は経済的に二重取りという結果になることがあることから、実に複雑怪奇なLoss Disallowanceが規定されている。
Loss Disallowanceいうと、僕のように古い人間に取っては「Right Aideケース」という有名な判例で財務省規則そのものが裁判所により財務省側の越権行為として不法とされて大混乱になったという大事件が思い出される。この判例により、財務省、IRSはその後何年も紆余曲折を経てようやく傷を癒し「Unified Loss Rule」という体系だった規則を構築することになった。このUnified Loss Ruleの内容はここで書いても意味がないほど難しいものだが、興味があったらGoogleで財務省規則1.1502-36を検索して読んでみるといい。Basis redetermination、Basis Reduction、Net positive increase、Disconformity amount、Net inside attribute amount、Attribute reduction、等々、Sub C Lawyerの興奮間違いない用語が連発されていて読み応え十分と言える。実際の適用の機会があれば、この辺りは専門家に任せて「最終的にいくらの簿価が損金算入可能?」という計算を云十万ドル(?)の費用で検討してもらうしかないだろう。Big 4でタックスのシニアマネージャーくらいやっている方であれば一応趣旨程度は理解しておいて欲しい規定だ(暗記の必要はない(笑))。
子会社の簿価の計算でもうひとつ注意事項がある。Excess Loss Account (ELA)だ。上の無価値の子会社株式の簿価を通常損失として計上するというような話しは税務簿価がポジティブであってこその話であることは言うまでもないのだが、実際に簿価を算定したらナンとマイナスなんてこともあり得る。そんな時はどうするか?ELAに関しては次回のポスティングで触れたい。
*Sec.338(h)(10)と無価値株式
Sec.338(h)(10)は連結納税をしている(またはすることができるが敢えて選択していない)子会社を売却した際に、売り手となる親会社と買い手がJointで選択することで適用が可能となる。通常のSec.338(=(g)選択)と異なり両者合意の必要がある。Sec.338(h)(10)はS Corpの売却にも利用できるがここでは連結子会社を例に話しを続ける。
Sec.338(h)(10)選択をすると、実際の取り引きは株式売却であるにも係らず、売却の対象となる子会社は「資産を売却して清算」されたかのように取り扱われる。もちろんこれは税務上のみの「フィクション」なのだが、税務上は実際に資産が売却されて清算されたのと同様の扱いが適用される。資産を売却してポジティブな(売り手の株主に対して)清算分配があっては株式が無価値だったとはならず、普通の子会社の非課税清算(Sec.332)となってしまう。それでは通常損失が取れずに意味がない。かと言って本当に債務超過だと買い手が見つからない。こんなジレンマを解決してくれる方法がある。
損失がかさんで無価値になっている子会社というのは親会社から資本出資ばかりでなく、借入をしているケースが多い。その場合には株式売却取り引きの一環で親会社が貸付を資本金に転換する、または債務免除するケースが多い。でないと株式の価値がなく、買い手が見つからないからだ。しかし「株式の価値が出たら通常損失にならないのでは・・・?」と不思議に思えるだろう。
ここでキャッチとなるのは、IRSは債務超過の状態にある子会社に追加出資、債務の資本転換、債務免除したりして瞬間的にポジティブにしてもそのような取り引きは無視するというポジションを取る点だ。これはもともとIRSに有利になるような局面で主張されているポジションだが、逆に納税者に有利となる局面にも適用可能であると思われる。
となると実際には債務免除して買い手が見つかるが、税務上は債務が残っているので、みなし清算で分配される金額はまず債務返済に充てられ、Equity部分に対しては$1も返ってこないという位置づけが可能となる。という訳で通常損失の認識が可能というかなりめでたい結末となる。
さらに、免除した取り引きが認められていないので税務上は存在し続けている貸付に関しても全額戻ってこない場合には貸し倒れ損失の計上までできる可能性がある。もちろんSec.338(h)(10)なので買い手側は資産の税務簿価ステップアップもできる。
といいこと尽くめのプラニングだが、これを利用する際には必ず専門家のアドバイスが必要となる。特に親会社による貸付が実態として「Equity」投資とみなされる可能性には気を付ける必要があるだろう。損失がかさんでいる子会社に追加融資をする際に、現実的な返済計画がないとEquity投資となるからだ。ただし、納税者としては「貸付」という形態を選択している以上、申告書上Equity扱いするのはSec.385(c)の関係で難しい。IRSがEquityだと言わないような事実関係を残しておくか、またはIRSが「これは実質Equityですね・・・」という場合には、「それはそうだが、普通株式ではなく、種類の違う優先株式とみなされるはず・・・」と抗弁して普通株式は依然無価値というポジションを取るしかないだろう。
*子会社の税務簿価
子会社の株式が無価値となり通常損失と計上する際、損金算入できる金額は子会社株式に対する税務上の簿価だ。当たり前のポイントだが、実はこの簿価の算定が連結子会社の場合かなり難しい。
連結子会社に関しては、会計上のEquity Accountingに似たコンセプトで株式簿価を毎年調整する必要がある。これは税務上のInvestment Adjustmentと呼ばれるコンセプトだがこの計算は複雑だ。さらに簿価があっても子会社の株式からの損失計上は経済的に二重取りという結果になることがあることから、実に複雑怪奇なLoss Disallowanceが規定されている。
Loss Disallowanceいうと、僕のように古い人間に取っては「Right Aideケース」という有名な判例で財務省規則そのものが裁判所により財務省側の越権行為として不法とされて大混乱になったという大事件が思い出される。この判例により、財務省、IRSはその後何年も紆余曲折を経てようやく傷を癒し「Unified Loss Rule」という体系だった規則を構築することになった。このUnified Loss Ruleの内容はここで書いても意味がないほど難しいものだが、興味があったらGoogleで財務省規則1.1502-36を検索して読んでみるといい。Basis redetermination、Basis Reduction、Net positive increase、Disconformity amount、Net inside attribute amount、Attribute reduction、等々、Sub C Lawyerの興奮間違いない用語が連発されていて読み応え十分と言える。実際の適用の機会があれば、この辺りは専門家に任せて「最終的にいくらの簿価が損金算入可能?」という計算を云十万ドル(?)の費用で検討してもらうしかないだろう。Big 4でタックスのシニアマネージャーくらいやっている方であれば一応趣旨程度は理解しておいて欲しい規定だ(暗記の必要はない(笑))。
子会社の簿価の計算でもうひとつ注意事項がある。Excess Loss Account (ELA)だ。上の無価値の子会社株式の簿価を通常損失として計上するというような話しは税務簿価がポジティブであってこその話であることは言うまでもないのだが、実際に簿価を算定したらナンとマイナスなんてこともあり得る。そんな時はどうするか?ELAに関しては次回のポスティングで触れたい。
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