前回までのポスティングで無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法のいくつかに関して触れてきた。その流れで連結納税の対象となっている子会社株式の税務簿価の算定法に関して書いたが、今回は簿価がマイナスとなるケースに触れる。
*Excess Loss Account
簿価というものはゼロが最低というのが基本的な考え方なので、技術的に言うとマイナスの簿価というのは存在し得ない。だが子会社株式に対してInvestment Adjustmentを加えていくと簿価がゼロを下回ることがある。このマイナスの簿価を「ELA(イー・エル・エーと発音するアクロニム!)」と呼ぶ。ELAなどと言うと専門家っぽいが実態は単なるマイナスの簿価である。
このELAをもった状態で株式を売却でもしてしまうと、売却代金が僅かであっても、ELAの金額は丸々ゲインとなるので注意が必要だ。例えば、二束三文の子会社をようやく誰かに$100で買ってもらうとする。受け取る売却代金は$100なのでゲインの上限は$100かのように思えるがELAがあるととんでもないことが起こる。もしELAが$1,000,000あると、ナント$10,000,100のキャピタルゲインが発生するこになる。
*ELAとSec.338(h)(10)
このような局面でも場合によって有益なのがSec.338(h)(10)選択だ。上で触れた通り、Sec.338(h)(10)選択を行うと、株式売却という取引形態が税務上のみいきなり資産売却プラス清算に変わる。この場合は、株式が無価値だと非課税清算規定が使えないので、みなし資産売却の後のみなし清算でEquity Holderとして何らかの分配を受け取る必要がある。何らかの分配をEquity Holderとして受け取っていると、みなし清算はSec.332の「適格非課税清算」となり、ELAの認識はない。手品のようだが本当の話だ。ここでは税務上の連結子会社の話しをしているのでSec.332の持分規定は当然満たされているという前提だ。それにしても、無価値の株式から通常損失を取らせてくれたり、巨額のELAを消してくれたりと、Sec.338(h)(10)は緩急自在さには驚かされる。
*繰越欠損金の移管
グループ内の損失子会社のもうひとつの代表的な利用法に繰越欠損金(NOL)の有効活用がある。米国子会社を最初からひとつの持ち株会社の下に付けていればNOLはグループ内で自由に通算できることから悩みは少ないはずだが、日本企業は日本の親会社等がバラバラに兄弟会社という形で米国子会社を持っているケースが少なくない。これは連結納税ができないばかりか、低税率区分を共有させられたり一般には不利な形態と言える。唯一のメリットは上で触れたUnified Loss Ruleとかの面倒な連結納税規定を心配しなくていいことくらいだろう。
連結納税の対象とならない子会社のひとつに損失を抱えていて使えきれないNOLがあるとする。一方で収益を上げている子会社がある場合には、合併で吸収してしまい、適格再編としてNOLを継承させるというのが一般的な対策だろう。どうしても事業を一緒にさせたくない場合には、儲かっている子会社の下に単独メンバーLLCを組成してそこに損失を持っている子会社を合併させてしまえば、税務上は儲かっている法人に合併したも同然の扱い(普通のA型再編)となる。もちろんLLCではなく株式会社をMerger Subとして利用して三角合併させるという手もあるが、三角合併はForwardであっても通常の二社間合併より適格要件が若干増えるので注意が必要だ。
損失を抱えている子会社が債務超過の状況にない場合には上のような再編は十分に可能性があるといえる。一方で損失を抱えている子会社が債務超過の状態にある場合には、その会社を消滅法人として適格再編を実現するのは難しいことがある。いわゆるNet Value規定が草案されているし、判例に基づいても債権者=株主の状態にある状況以外では適格とするのは困難だろう。
その場合のウルトラCとしては債務超過に陥っている法人を「存続法人」とするいう手法が考えられる。気分的に損を出している法人を存続させるのは抵抗がある、かもしれないが実を取るという意味では検討の価値ありだろう。米国の適格再編に求められるNet Value、持分継続、事業継続、等は消滅法人に係る規定であることから、この方向にすれば債務超過法人が再編の当事者であっても、再編の適格性には問題はないものと思われる。NOLの使用を主たる目的にしているような場合には、NOLの使用に関してはSec.269のような「Anti-Abuse」規定の適用有無をよく検討する必要はあるが。
という訳で経済状況の不安定な今日この頃に適用可能性があるプラニングのいくつかに関して触れた。