Tuesday, September 20, 2011

損失を持つ子会社の利用法(2)

前回のポスティングでは無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法に関して書き始めた。無価値となった子会社を清算するのが基本的な考え方だが会社法上、本当に清算しないでも税務上は清算したかのように取り扱うことができることがある。今回のポスティングではそんなみなし清算を実現できる取引形態のひとつであるSec.338(h)(10)選択の話しから入りたい。

*Sec.338(h)(10)と無価値株式

Sec.338(h)(10)は連結納税をしている(またはすることができるが敢えて選択していない)子会社を売却した際に、売り手となる親会社と買い手がJointで選択することで適用が可能となる。通常のSec.338(=(g)選択)と異なり両者合意の必要がある。Sec.338(h)(10)はS Corpの売却にも利用できるがここでは連結子会社を例に話しを続ける。

Sec.338(h)(10)選択をすると、実際の取り引きは株式売却であるにも係らず、売却の対象となる子会社は「資産を売却して清算」されたかのように取り扱われる。もちろんこれは税務上のみの「フィクション」なのだが、税務上は実際に資産が売却されて清算されたのと同様の扱いが適用される。資産を売却してポジティブな(売り手の株主に対して)清算分配があっては株式が無価値だったとはならず、普通の子会社の非課税清算(Sec.332)となってしまう。それでは通常損失が取れずに意味がない。かと言って本当に債務超過だと買い手が見つからない。こんなジレンマを解決してくれる方法がある。

損失がかさんで無価値になっている子会社というのは親会社から資本出資ばかりでなく、借入をしているケースが多い。その場合には株式売却取り引きの一環で親会社が貸付を資本金に転換する、または債務免除するケースが多い。でないと株式の価値がなく、買い手が見つからないからだ。しかし「株式の価値が出たら通常損失にならないのでは・・・?」と不思議に思えるだろう。

ここでキャッチとなるのは、IRSは債務超過の状態にある子会社に追加出資、債務の資本転換、債務免除したりして瞬間的にポジティブにしてもそのような取り引きは無視するというポジションを取る点だ。これはもともとIRSに有利になるような局面で主張されているポジションだが、逆に納税者に有利となる局面にも適用可能であると思われる。

となると実際には債務免除して買い手が見つかるが、税務上は債務が残っているので、みなし清算で分配される金額はまず債務返済に充てられ、Equity部分に対しては$1も返ってこないという位置づけが可能となる。という訳で通常損失の認識が可能というかなりめでたい結末となる。

さらに、免除した取り引きが認められていないので税務上は存在し続けている貸付に関しても全額戻ってこない場合には貸し倒れ損失の計上までできる可能性がある。もちろんSec.338(h)(10)なので買い手側は資産の税務簿価ステップアップもできる。

といいこと尽くめのプラニングだが、これを利用する際には必ず専門家のアドバイスが必要となる。特に親会社による貸付が実態として「Equity」投資とみなされる可能性には気を付ける必要があるだろう。損失がかさんでいる子会社に追加融資をする際に、現実的な返済計画がないとEquity投資となるからだ。ただし、納税者としては「貸付」という形態を選択している以上、申告書上Equity扱いするのはSec.385(c)の関係で難しい。IRSがEquityだと言わないような事実関係を残しておくか、またはIRSが「これは実質Equityですね・・・」という場合には、「それはそうだが、普通株式ではなく、種類の違う優先株式とみなされるはず・・・」と抗弁して普通株式は依然無価値というポジションを取るしかないだろう。

*子会社の税務簿価

子会社の株式が無価値となり通常損失と計上する際、損金算入できる金額は子会社株式に対する税務上の簿価だ。当たり前のポイントだが、実はこの簿価の算定が連結子会社の場合かなり難しい。

連結子会社に関しては、会計上のEquity Accountingに似たコンセプトで株式簿価を毎年調整する必要がある。これは税務上のInvestment Adjustmentと呼ばれるコンセプトだがこの計算は複雑だ。さらに簿価があっても子会社の株式からの損失計上は経済的に二重取りという結果になることがあることから、実に複雑怪奇なLoss Disallowanceが規定されている。

Loss Disallowanceいうと、僕のように古い人間に取っては「Right Aideケース」という有名な判例で財務省規則そのものが裁判所により財務省側の越権行為として不法とされて大混乱になったという大事件が思い出される。この判例により、財務省、IRSはその後何年も紆余曲折を経てようやく傷を癒し「Unified Loss Rule」という体系だった規則を構築することになった。このUnified Loss Ruleの内容はここで書いても意味がないほど難しいものだが、興味があったらGoogleで財務省規則1.1502-36を検索して読んでみるといい。Basis redetermination、Basis Reduction、Net positive increase、Disconformity amount、Net inside attribute amount、Attribute reduction、等々、Sub C Lawyerの興奮間違いない用語が連発されていて読み応え十分と言える。実際の適用の機会があれば、この辺りは専門家に任せて「最終的にいくらの簿価が損金算入可能?」という計算を云十万ドル(?)の費用で検討してもらうしかないだろう。Big 4でタックスのシニアマネージャーくらいやっている方であれば一応趣旨程度は理解しておいて欲しい規定だ(暗記の必要はない(笑))。

子会社の簿価の計算でもうひとつ注意事項がある。Excess Loss Account (ELA)だ。上の無価値の子会社株式の簿価を通常損失として計上するというような話しは税務簿価がポジティブであってこその話であることは言うまでもないのだが、実際に簿価を算定したらナンとマイナスなんてこともあり得る。そんな時はどうするか?ELAに関しては次回のポスティングで触れたい。