Saturday, August 15, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(15)

前回のポスティングでは、オバマ政権の国際課税改定案の3本柱「Anti-Deferral」、「Check-the-Box」、「外国税額控除」の次に日本企業側で関心が高いと思われる「アーニングス・ストリッピング規定」改定案に関してまとめてみた。

今回はもう少し「渋い」規定と言える「80/20法人」に触れてみる。

*外国法人が米国から受け取る配当・利子所得

外国法人または米国非居住者が受け取る配当所得、利子所得は、それらの所得が事業所得(ECI)と取り扱われる場合には申告所得として累進税率に基づく法人税・所得税の対象となる。日本のように米国と租税条約を締結している国の居住者の場合には多少条件が緩和され、配当や利子の基となる資産(株式、貸付等)が米国の恒久的施設(PE)の活動と実質的な関連がある場合には、申告所得として累進税率に基づく法人税・所得税の対象となる。

現実には配当や利子がECIとなったり、PEに帰属するケースはどちらかというと稀で、外国人の受け取る配当や利子所得は多くのケースで単なる「投資所得」であることが多い。配当、利子所得がECIでもなく、PEにも帰属しない投資所得である場合、配当や利子所得が「米国源泉所得」となる範囲で米国の30%源泉税の対象となる。この源泉税は租税条約により減免される。日本居住者が受け取る米国源泉の配当は持分その他の条件次第で0%~10%となり、利子所得は10%の米国源泉税対象となる。

したがって、外国人が配当、利子所得を受け取る場合には、それが「米国源泉」かどうかという判断が重要となる。米国源泉であれば米国で源泉税対象となり、他国の源泉所得であれば、米国での源泉税の支払いは必要ない。

一般的に「米国法人」が支払う配当、米国法人・米国居住者が支払う利子は米国源泉だと規定されている。

*80/20法人

上述の「米国法人が支払う配当、米国法人・米国居住者が支払う利子は米国源泉」という一般規定にはマイナーな例外がある。これが「80/20法人」だ。

80/20法人の規定では、米国法人の3年間にわたる所得のうち80%以上が外国源泉の事業所得の場合、その法人から受け取る利子所得は源泉税から免除され、また配当は外国源泉事業所得に対応する部分が源泉税から免除される。

今回の法改定案には関係ないが、逆に外国法人からの配当でも、その法人の3年間にわたる所得の25%以上が米国事業所得の場合には、配当の一部が米国源泉と取り扱われることもあるので注意が必要だ。

*80/20法人の撤廃

オバマ政権の改定案ではこの80/20法人を完全に撤廃しようとしている。すなわち、米国法人の所得がどれだけ外国事業からのものであっても、米国法人から受け取る配当、利子所得は常に米国源泉所得扱い(=源泉税対象)となる。

日本企業で80/20法人規定を活発に利用しているところは少ないが、他の国からの米国投資形態にはたまに利用されている。

*年々厳しくなる源泉税の取り扱い

経済、特に金融が急激にグローバル化し、米国が以前にも増して資本の輸入国となっている今日、源泉税は当然IRSにとって注目度の高い分野だ。この点に関しては2008年の11月に「外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化」というタイトルで何回かシリーズとして詳解したので参照して欲しい。80/20法人規定の撤廃案が日本企業に大きな影響を与えるケースは少ないと思うが、米国源泉税規定にきちんと準拠しているかどうかを見直しておく必要がある。