Sunday, August 9, 2009

時代に逆行(?)アメリカ国際課税ルール(13)

前回までの何回かのポスティングで、オバマ政権による外国税額控除システムの改定案を詳しく解説した。米国多国籍企業が間接外国税額控除の対象となる外国法人税をいかに(実態より?)大きく見せて節税を図ってきたか、という点およびその具体的なテクニックを理解することができれば、改定案の目的が明確になる。

実は今回の国際税務改定案には、もう一つ外国税額控除に係わる規定が盛り込まれている。今回のポスティングではそちらを説明する。

*外国法人税は誰が払っている?

外国税額控除システムを適切に運用する際に、誰がいくらの外国法人税をいつ払っているのか、という点が明確である必要があるのは言うまでもない。これは一見、当たり前のことであるが、誰に外国法人税の支払い義務があるかという決定は一義的にはその国の法律で規定されることになるため、米国側で簡単に把握できないこともあるし、把握できたとしても意外な結果となることもある。また「意外な結果」を利用していろいろなプラニングが可能となることもある。

*外国法人税と外国所得の整合性

従来、外国税額控除の算定目的では、外国法人税は現地の法律に基づき税金を支払う義務を法的に持っている者がその税金を実際に支払った者であると取り扱われてきた。しかし、世界にはいろいろな法律があり、中にはこの考え方に基づくと、実際に課税所得を認識している事業主体とは異なる外国子会社が外国法人税を支払っていると取り扱われるケースがある。そのような「ミスマッチ」を利用したプラニングに網を掛ける目的で、改定案では「外国税額はその税額の基となる課税所得を認識した事業主体が支払ったもの」として、外国税額控除を計算するとしている。

実はこの改定の裏にはIRSが敗訴したルクセンブルグに係わる有名な判例がある。

*Guardian Industries Corpケース

この判例では、米国法人がルクセンブルグの事業主体を100%持っており、Check-the-Box規定に基づき当ルクセンブルグ事業主体は「米国税務目的」では「Disregard Entity」、すなわち米国法人の支店と取り扱われていた。一方、このルクセンブルグ事業主体はルクセンブルグにおける事業グループの持株会社の位置づけにあり、ルクセンブルグで連結納税を行っていた。

このケースの「おち」はルクセンブルグの内国法に基づくと、連結納税グループ全体の所得に対する納税義務は持株会社のみにあるという点だ。米国税務目的ではルクセンブルグ持株会社は支店と取り扱われているため、当事業主体の支払う外国法人税は「直接税額控除」の対象となる。一方で、実際の課税所得は持株会社以外のルクセンブルグ事業会社にあるため、そこから持株会社(=米国では支店扱い)に配当(Subpart Fでみなし配当と取り扱われる金額を含む)が行われるまで米国での課税所得とはならない。

となると、米国法人はルクセンブルグ法人税の全額を米国目的で外国税額控除の対象とできるにも係わらず、この法人税の基となるルクセンブルグ課税所得には米国で課税されないということになる。ここ何回かのポスティングでおなじみの「Cross Credit」を利用して米国税負担の圧縮が可能となる。

IRSは「連結納税グループの法人税は、税金の支払いに関して連帯責任(Joint and Several Liability)がある限り、その所得を認識している事業主体に配賦されなくてはならない」という旨の財務省規則条項をもって対抗したが、裁判所はルクセンブルグの法律ではグループ事業主体は税金支払いに関して連帯責任は負っておらず、持株会社のみに支払いの責任があると認定し、IRSにとっては万事休すという状態になった。

現行の法律では外国の法律に基づいて支払いの責任を持つものが税金を支払っていると取り扱われることから、経済的な結果はおかしいが、この判決は法解釈としては極めて妥当なものである。

IRS側としてはこのようなミスマッチに対抗するには、法律そのものを変更するしかないという状態に追い込まれた形となり、今回の法改定案の提出に至っている。世界にはいろいろな国があり、その果たしてどれだけの国がこのようなミスマッチ型の規定を持っているのかを完全に把握している訳ではないが、ルクセンブルグの考え方は例外的なものだろう。したがって、この改定案のインパクトは相対的に低く、前回までのポスティングで解説した「High Tax Pool」の利用制限に比べると、適用も影響も限定的なものだ。

ここまでのポスティングで13回にわたって、オバマ政権の国際課税改定案の3本柱「Anti-Deferral」、「Check-the-Box」、「外国税額控除」に関してかなり詳しく説明した。次回のポスティングでは3本柱以外の国際税務改定案で日本企業側で関心がありそうなものをいくつかまとめる。