Sunday, July 12, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(9)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の3つの柱のうち最後となる「外国税額控除の制限強化」の理解のため「間接税額控除」の概要を話し始めた。

今回は改定案理解にMUSTとなる外国法人から米国法人が配当を受け取る際に、一体いくらの外国法人税がみなしで米国法人が支払ったものと取り扱うことができるか、という点に関してもう少し詳しく触れてみたい。

*間接税額控除の「外国法人税」

前回のポスティングで触れた通り、米国法人が外国法人から配当を受け取る場合、「1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税」に「配当額」と「1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」」の比率を掛けて算出される外国税額が間接税額控除の対象となる金額だ。

この計算には次の3つの金額が必要だ。

1) 該当年度の米国法人が外国法人から受け取った配当額
2) 1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税
3) 1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」

この3つの金額のうち、1と2は(為替換算レートの問題は別として)金額が確定している。すなわち、1は実際に該当年度に米国法人が受け取った配当の金額であり、金額確定に特に困難はない。また2は、何が法人税に当たるかという複雑な問題を検討しなくてはいけないような変な税金が課せられているケースを除き、外国法人が支払う税額そのものを把握すれば金額が確定する。

*Earnings

一方で3の外国法人の「Earnings」は外国法人の決算書を見ても、申告書を見ても分からない。なぜかというと、この「Earnings」という用語は外国法人が設立されている国の税法に基づく所得を意味するものではなく、GAAP上の所得を意味する訳でもないからだ。

「Earnings」とは米国税務上のコンセプトであるE&Pの計算法を適用して米国用に計算される金額である。このEarningsはある年の税額控除をする場合に、その年に支払われた法人税は差し引かないが、翌年以降の税額控除計算目的では、税引後の金額となる。

なお、1986年以降に買収等で始めて外国法人が間接税額控除に適格となる事業主体となる場合には、適格となる年初からのみの金額に基づいて外国税金、Earningsの算定をする。年の途中で買収等がある場合でも、その年度の頭に戻って計算をする点、それ以前の期間に係る金額が考慮されない点、注意が必要だ。

例えば、外国法人Bには設立以来、米国株主は直接・間接に存在しなかったものとする。Bは2008年4月1日に200の配当を行う。米国法人であるMが2008年の7月1日にBの10%の持分を取得したとする。この時点でBは初めて米国での間接税額控除の対象法人となる。BはMによる取得後には配当は行わなかったために、Mは直接Bから配当は受け取っていないものとする。2008年を通じてのBのE&Pは500(税引後だが200の配当前)、B設立国での法人税は100だったとする。

この場合、買収は7月1日であるが、2008年1月1日からのEarningsと税額がMによる将来の間接税額控除の計算目的で使用される「1986年以降に外国法人が認識した「Earnings」」および「1986年以降に外国法人が海外で支払った法人税」となる。

したがってMが将来的に間接税額控除の算定を行う目的での2008年末現在のBの1986年以降のEarningsは300(500-200)となる。もし2008年に間接税額控除を算定するのであれば配当の200はEarningsを減額しないが、2009年またはそれ以降の目的ではBのEarningsは過去の配当である200減額修正される。

またBの1986年以降に海外で支払った法人税はMによる買収があった2008年の頭から算定されるため100であるが、この100は2008年中にBが行った200の配当に対応されると取り扱われる部分に関して減額をする必要がある。この200の配当はMがBの10%を取得する以前に行われたものであるが、配当が米国株主に受け取られたかどうか、またその米国株主側で税額控除を計上したかどうか、に係らず配当に対応される税額は1986年以降に海外で支払ったと取り扱われる法人税を減額する。

200の配当に対応する法人税の金額は、トータルの法人税である100に「2008年の配当額である200を2008年1月1日からのEarnings、500で割った比率(= 40%)」を掛けて40と算定される。この40を法人税トータル100から引いた金額である60が2008年末時点での「1986年以降に外国法人Bが海外で支払った法人税」ということになる。

上の例ではBのEarningsが500で法人税が100となっている。しかし、これは必ずしもBの設立国の法人税率が20%であるということを意味するとは限らない。なぜなら、この500というのは米国のE&Pの算定ルールに基づいて決定されているからだ。

次回のポスティングではこのE&Pの算定を利用した驚くようなマジックに触れる。