前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の3つの柱のうち最後となる「外国税額控除の制限強化」に関して話し始めた。オバマ改定案の内容を理解するには、米国の間接外国税額控除システムを若干話しておく必要がある。
*米国の外国税額控除
税額控除とは、米国で課税される海外源泉の所得に対して外国でも法人税を支払っている場合には、限度額の範囲で外国で支払った税額を米国の税額から差し引いてあげましょう、という仕組みだ。世界の潮流に逆行して、全世界課税システムを頑なに維持しようとしている米国では、二重課税の弊害を取り除く、または軽減するため、なくてはならない規定となる。
米国法人が支店等を介して海外で直接事業に従事している場合には、米国法人が直接海外で法人税を支払うことになるため、その税額そのものが税額控除の対象となる。これは米国法人が自ら本当に「直接」支払っている税金に係る控除なので「直接」外国税額控除となる。
一方で米国法人が「子会社」(または非支配持分を持つ海外投資先)を介して海外で事業を行う場合、米国法人自らは外国で法人税を支払うことはない(配当時に課せられる源泉税は別として)。米国法人が受け取る配当は外国で既に法人税を支払った後の「税引後」の所得を原資とするため、配当がまるまる米国で課税されると部分的に二重課税となる。この点を解消するのが「間接」税額控除だ。
*間接税額控除
間接税額控除の基本的なコンセプトは、米国法人が外国法人から配当を受け取る場合、「1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税」に「配当額」と「1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」」の比率を掛けて算出される外国税額を「米国法人が直接支払ったものとみなす」というものだ。
ここでいう「Earnings」という用語だが、これは外国法人が設立されている国の税法に基づく所得を意味するものではなく、GAAP上の所得を意味する訳でもない。ナンとこれは米国税務上のコンセプトであるE&Pの計算法を適用して米国用に計算される金額である必要がある。これは単に別のセットの帳簿を保存しなくてはいけないので面倒だ、という管理上の問題を生み出すだけではなく、とんでもないプラニングを可能にするマジックの種でもある。この点が今回の改定案に大きく関係してくるので、後に詳しく触れる。
間接税額控除目的で、外国法人から配当を受け取る際に、米国法人があたかも自らが支払ったかのように取り扱うことのできる外国の法人税は直接所有している「First Tier」の外国法人が支払う法人税に限定されない。
間接税額控除の対象となる海外法人は、米国法人が最低10%の持分を所有する「First Tier」外国法人に始まり、そのFirst Tier法人が所有するSecond Tierからさらに最終的にはSixth Tier、すなわち子会社、孫会社、曾孫会社に留まらず6段階下がることができる。ただし、各々の段階で少なくとも直接10%の持分がある(6段下の外国法人は5段目の外国法人に少なくとも直接10%所有されている)必要があるのに加えて、間接税額控除を計上する米国法人が少なくとも5%の間接持分(各段階の持分を乗じて算定される)を持つ必要があるとされる。
例えば米国法人Aが外国法人FC1に40%の持分を持っているとする。更にFCは別の外国法人であるFC2の30%持分を持っているものとする。この場合、AはFC1に関して少なくとも10%の持分を持っていることから、FC1から配当を受け取る際に、FC1の支払っている外国の法人税の一部(上述のEarningsに基づく按分計算で)をあたかもAが自ら支払った法人税のように取り扱うことができ、外国税額控除の対象とすることができる。
さらに、FC2はFC1に少なくとも直接10%所有されている上に、Aから見た間接持分が12%(40% x 30%)となり5%以上であることから、FC2も間接税額控除システムの対象法人となる。すなわち、FC2がFC1に配当を行ったとすると、やはり上述のEarningsに基づく按分計算に基づき、FC2が支払ってきていた法人税の一部があたかもFC1が直接支払った法人税であるかのように取り扱われることとなる。FC1は外国法人であり、米国で間接税額控除は計上しないが、FC1が直接支払ったと取り扱われるFC2の法人税は、FC1の税金にプラスされ、最終的にAがFC1から配当を受け取った際にAが支払ったとみなされる税額にプラスの影響を与えることとなる。