Monday, July 13, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(10)

前回のポスティングでは間接税額控除を算定する上で必要となる3つの金額のうち、米国のルールに基づいて確定されるEarningsに焦点をあててみた。今回はそのEarningsの算定を利用して展開される「High Tax Pool」タックス・プラニングの例に触れる。この点が理解できれば今回のオバマ政権の改定案の狙うところも理解できるはずだ。

*米国Earningsを圧縮することによるマジック

米国企業が外国企業を買収する際に支払われる買収価格はプレミアム分の上乗せがあることが多いため、買収価格は外国企業の簿価合計より高いことが多い。

もしも買収価格に準じて買収された外国法人が持つ資産の(米国税務上の)税務簿価をステップアップすることができれば、米国税務ルールで行うE&P算定目的ではより多くの減価償却、Amortization費用を計上することができ、E&Pは圧縮される。

例えば、米国法人Mが2009年1月1日に外国法人Aの株式100%を5,500で取得したとする。Aの資産簿価を1,000とし、差額の4,500はGoodwillのような無形資産の価値に基づくものであるとする。Aの設立国では1,000の簿価を基に減価償却の計算を継続し、減価償却とAmortization以外の課税所得の算定法は米国E&Pルールと同じだと仮定する。減価償却、Amortization前の課税所得を仮に500として、Aの設立国では1,000の資産に対して100の減価償却費用が認められるとすると、Aの設立国での課税所得は400(500-100)となる。Aの設立国の法人税率を20%とするとAは80の法人税を納めることとなる。

もしも米国企業による外国法人の買収時にSec. 338選択のような技を使い((h)(10)ではない普通の338(g)選択 - ECIまたは米国不動産がなければ普通の338を選択しても外国法人側で米国課税はない)、AのE&P算定目的でGoodwillに対する簿価4,500を認識することができれば、AのEarningsを劇的に圧縮することができる。例えば4,500に対して15年でAmortizationを計上することができれば、2009年の米国税務上のAのEarningsは課税所得に比べて300(4,500/15)少なくなり、結果として100(400-300)となる。さらにここからAの法人税を差し引いた最終Earningsはたったの20となってしまう。Aの法人税は米国E&Pの算定に影響を受けることはなく、Aの設立国の規定で算定される80のままだから米国目的ではAの実効税率はナンと80%だったという算定結果が出る。すなわち、「Earnings = 20」、「外国法人税 = 80」となり、これをそのまま間接税額控除算定に適用するとかなり面白いことが起こる。

例えば将来的にMはAから100の配当を受け取ったとする。仮に上の数字だけに基づいて試算をすると、この配当100に関して、Aが既にAの設立国で支払ったと取り扱われる法人税は前述の算式に基づいて「100 x 80 / 20」となり、ナンと400となってしまう。もちろん、Aの本国では80しか税金を支払っていない訳だから、400も税額控除は取れないが80まるまるは控除対象の外国法人税となる。

実際にはAの設立国での税率は20%だから100の配当は本来は25の税金を支払った後の配当と考えられるにも係らずこのような結果となる(もしE&Pの算定法がAの設立国の課税所得算定と同じだとしたら「100 x 80 / 320」でその通りの結果となる) 。

100の配当が80の税引後だという取り扱いとなると、Mはグロスアップに基づき180の配当所得を認識する。これに対して米国法人税35%の税率を適用すると米国では63の税金が発生するが、80の間接税額控除を受けることができるので、この63はゼロとなるばかりか、他の外国源泉所得に対する米国の法人税をも(税額控除限度額の範囲で)圧縮することができる。

*Cross Creditのマジック

もし100の配当に関して25の税引後であるという取り扱いであれば、配当所得は125となり、これに対する米国35%の法人税は66となる。この66から間接税額控除の25を引いたとしても未だ41が米国政府の懐に入ったこととなる。上のE&Pが圧縮されている例では、この41が吹き飛んだばかりでなく、17(80-63)の外国法人税の超過部分で他の(海外で低税率で課税されている)海外所得の米国税金をも減額してしまうという「Cross Credit」が実現されている。

実際の計算はもっと複雑だが、少なくとも方向性はお分かり頂けたと思う。Cross Creditは税務当局から見れば当然「悪」であり、そのために米国では所得のタイプ毎に控除の限度額を算定するバスケット制度が規定されている。しかし、上のような策を利用して見た目の税率そのものを過大計上するプラニングは後を絶たない。また、各国に持つ外国子会社は各々独自のEarningsおよび法人税支払いヒストリーを持つため、各々に異なる実効税率(税金/Earnings)プールが存在する。極めて基本的なタックス・プラニングとして、配当を受け取る際には「High Tax Pool」を持つ国の子会社から配当させることにより有利な外国税額ポジションを実現することができる訳だ。というか、現状の税法ではこのような取り扱いが税法上規定されているということになる。

この点にメスを入れようとしているのがオバマ政権の改定案だ。