Tuesday, July 24, 2007

FIN 48(2) 申告ポジションに求められる「確証度合」

FIN 48に係る前回のポスティングでは 1)FIN 48は会計原則であること、2)会計上のタックス費用計算はSFAS 109に規定され続けていること、3)FIN 48はSFAS 109を適用する上での「グレーな申告ポジションの会計処理」一点にフォーカスしていること、4)米国での申告書にはグレーな申告ポジションが含まれることが珍しくないこと、等に関して触れた。

*FIN 48の基本的アプローチ

今回のポスティングではFIN 48は具体的にどのような会計処理を求めているのかという点に関して取りまとめる。前回のポスティングで触れたが、問題の根源は、申告書上で支払われているCurrent Tax、またはその申告書を基に算定されているDeferred Taxに係る企業のタックス費用、債務は最終的に企業が支払うこととなる税額と比べて過小評価されている可能性があるという点だ。

この潜在的な過小評価をどのように認識し、算定するか、という処理に関してFIN 48は全く新しい考え方を提示している。すなわち、従来は、一般的な偶発債務に対する会計原則(SFAS 5)の一環で、税務調査その他の局面で追加のタックス支払いが見込まれそうになった場合(「Probable」になった場合)には「引当」を計上するというコンセプトでタックス費用の認識も処理されていた。

一方、FIN 48はこの基本的な概念を180度変えて「怪しくなって慌てて引当を積むのではなく、そもそも申告書で計上している費用等は全て怪しいという前提から出発し、例え申告書上で認められている申告ポジションでもFIN 48の規定する一定の確証度を満たさない限り会計上は税効果を認めない」という新たな基準を設定している。前回も述べたが、これは大袈裟に言えば、売掛金に対して貸倒引当金を積むのではなく、売掛金は基本的に回収できないという前提から出発して、回収できる可能性が高いものを積み上げていき、その結果算定される金額のみを売上として認識しなさいと言っているようなもので、極めて「革新的」なアプローチである。

このFIN 48のアプローチを適用すると、SFAS 109下で従来からの伝統的なスタンスであった「企業は税務当局に支払うタックスを会計上のCurrent Taxとする」という概念は崩壊し、「会計上のCurrent Taxは申告書の取り扱いに係らずFIN 48に基づいて決定」という規定が取って代わる。もちろん、同様にDeferred Taxの算定にも影響がある。

*FIN 48が求める「確証度合」

FIN 48は申告書に反映されている(または申告書に反映されるべきものが反映されていない)申告ポジションに対して「二段階のテスト」を行う。この二段階テストをパスした申告ポジションのみが会計上の税効果を認められることとなる。IRSが反対する可能性がある申告ポジションは費用、控除、未申告等、タックスが過少申告されている場合のみだ。所得を本来より多く申告しているケース(そのような間抜けな企業は米国では少ないだろう)があったとしても、IRSは何の文句も言わない。

このことから「グレーな申告ポジションとは費用、控除、未申告等に係るもの」となる。したがって、FIN 48 で会計上の税効果の認識有無が問われる申告ポジションとなるのは、申告書で企業が自らに有利となるように反映させたものに限定されることとなる。結果としてFIN 48下で認識されるタックス費用、負債は企業側からみてベストなシナリオでも申告書と同額、差異があるとするとタックス費用は申告書の金額よりも常に高くなる。ということはDeferred Taxと異なり、FIN 48でネットで資産が計上されることはない。もちろん、過去に認識したFIN 48の負債に関して、新たな進展があり負債の額が減少するようなケースではその時点でタックス費用、負債が減額される。

*第一ステップ「Recognition」

FIN 48のテストにおける第一ステップは「申告ポジションの法的な説得力」に係るものである。FIN 48ではこれを「Recognition」という用語で規定している。このテストでは、申告ポジションに係る全ての必要な事実関係および関連する法律を塾知した専門家が最高裁判所に至る全ての法的プロセスを経てポジションを争ったと仮定して、その法的判断結果を推測するというものだ。このテストはタックス専門の者が申告書を作成する際に「申告ポジションがあるかないか」を検討するプロセスと同様であると言える。違いは、申告書を作成する場合には40%の確証度(=申告ポジションあり)を求めるのに対し、FIN 48のテストでは「50%超-More Likely Than Not」の基準を適用する必要がある点だ。

この第一ステップに基づき「50%超の確率で申告ポジションが認められる」という結果が出たら次の第二ステップに進むことができる。逆に第一ステップで「50%超の確率で申告ポジションは認められるのは難しい」という結果が出たとしたら、テストはそこで終了される。そのような申告ポジションに関しては、会計上税効果を認識することは認められない。

FIN 48に例示がある。それによると(若干内容は簡素化しておく)、A部門のR&Dコストに対する税額控除は税法上大きな疑問点がないが(50%の確証度合を楽に超える)、他のB部門のR&Dコストに対する税額控除に関してはかなり疑問が多く、申告書に計上できる確証度合であるものの(ということは40%の勝率)、FIN 48の第一ステップのテストでは残念ながら「50%以下の確証度合」という結果が出たとされる。その場合、B部門の税額控除に関しては会計上認識(Recognition)することはできない。とはいえ申告書ではB部門のR&Dコストも税額控除として計上されていることから、IRSに支払う金額はその分圧縮されており、申告書だけ見るとCurrent Taxの費用に入ってこない。そこでFIN 48下では、その差額(B部門のR&D税額控除全額)を「負債」として計上する。この負債はDefered Taxの繰延税金負債ではなく、Deferred Taxとは別に表示しなくてはならない。

*第二ステップ「Measurement」

上の例におけるA部門のR&Dコストに関しては認識は認められることとなったが、必ずしも全額に対して税効果が認められるとは限らない。ここで登場するのが第二ステップだ。第二ステップでは、第一ステップを勝ち残った申告ポジションのみがテストされ、申告ポジションをIRS等と争ったとして最終的にいくらで手を打つことができるかという金額を推測する。FIN 48ではこれを「Measurement」という用語で規定している。上の第一ステップが最高裁判所まで行く覚悟(という仮定)で最終結果を想定するのに対して、この第二ステップではもう少し現実的に「企業としてどれ位の金額でIRSと和解できると推測できるか」という基準で金額を算定する。そこで適用されるのがまたしても「50%超-More Likely Than Not」だ。Mesurementに対する50%超の考え方は科学的ではあるが一見分かり難い。

具体的にはFIN 48に次のような例示がある。100の費用を損金算入するという申告ポジションを含む申告書を提出したとする。この100の損金算入に関する法的な説得力は50%超あり、したがってテストの第一ステップは満たしている。第二ステップでは、100のうち最終的にIRSに税務調査されたとして、50%超の確率で和解を得られると推測される「金額」を決定する必要がある。100の費用に係る確証度合は次の通りであると判断されたとする。

全額損金可: 5% (累計5%)
$80損金可: 25% (累計30%)
$60損金可: 25% (累計55%)
$50損金可: 20% (累計75%)
$40損金可: 10% (累計85%)
$20損金可: 10% (累計95%)
全額否認: 5% (累計100%)

累計の確証度合いが50%を超える金額、上の例では60が会計上税効果を認識することができる金額となる。逆に言えば40に関しては会計上は税効果が認められない。なぜ60かというと、100全額認められる可能性は5%しかなく遠く50%には及ばない。80認められる可能性は25%で、100全額認められるケースと足しても30%にしかならない。60認められる可能性は25%だが、80または100全額認められる可能性を加味すると「最悪でも60は認められる可能性」は55%となり、50%超となる。この金額がFIN 48で会計上認識できる税効果となる。申告書では100の費用を計上しているにも係らずである。申告書で100の費用を計上しているということは、税率を35%と仮定すると、35の税効果があったことになる。一方、FIN 48ベースでは60のみが費用として認められるという評価となるため、この申告ポジションは会計上21の税効果しかもたない。したがって、差額の14(35マイナス21)が追加のタックス費用、負債として会計上認識されることになる。言うまでもないが、この時点でIRSに追加で14を支払う訳ではない。

もし翌年、IRSから新たな指針が発表され、100の損金処理という申告ポジションは確実に認められるという推測が可能になったとする。その場合は、翌期に追加の処理が行われ、14の負債を戻す形でタックス費用、負債を減額させる。一方、翌年に発表されたIRSの指針により、100の損金処理という申告ポジションは第一テストの段階で(すなわち法的な説得力に基づいて)50%超の確証度合がなくなってしまったとする。その場合には、その段階で、35全額が会計上の税効果を失うこととなり、以前に認識されていた21が追加で負債計上される。これをFIN 48では「De-Recognition」と呼ぶ。

このような算定は紙の上では可能であるが現実には適用が難しいことも多いだろう。そもそも上の例のように複数の確証度合を数量化するような作業はできるとしても膨大な時間(すなわちコスト)を要する。この試算を行う単位となる「申告ポジション」は申告書上、無数に存在する。申告ポジションをどのような単位を基に確定するかは各企業の実態により異なるが、その決定も簡単にはいかないこともある。FIN 48でテストの対象となる申告ポジションの考え方については次のポスティングで触れる。