Tuesday, September 20, 2011

損失を持つ子会社の利用法(3)

前回までのポスティングで無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法のいくつかに関して触れてきた。その流れで連結納税の対象となっている子会社株式の税務簿価の算定法に関して書いたが、今回は簿価がマイナスとなるケースに触れる。

*Excess Loss Account

簿価というものはゼロが最低というのが基本的な考え方なので、技術的に言うとマイナスの簿価というのは存在し得ない。だが子会社株式に対してInvestment Adjustmentを加えていくと簿価がゼロを下回ることがある。このマイナスの簿価を「ELA(イー・エル・エーと発音するアクロニム!)」と呼ぶ。ELAなどと言うと専門家っぽいが実態は単なるマイナスの簿価である。

このELAをもった状態で株式を売却でもしてしまうと、売却代金が僅かであっても、ELAの金額は丸々ゲインとなるので注意が必要だ。例えば、二束三文の子会社をようやく誰かに$100で買ってもらうとする。受け取る売却代金は$100なのでゲインの上限は$100かのように思えるがELAがあるととんでもないことが起こる。もしELAが$1,000,000あると、ナント$10,000,100のキャピタルゲインが発生するこになる。

*ELAとSec.338(h)(10)

このような局面でも場合によって有益なのがSec.338(h)(10)選択だ。上で触れた通り、Sec.338(h)(10)選択を行うと、株式売却という取引形態が税務上のみいきなり資産売却プラス清算に変わる。この場合は、株式が無価値だと非課税清算規定が使えないので、みなし資産売却の後のみなし清算でEquity Holderとして何らかの分配を受け取る必要がある。何らかの分配をEquity Holderとして受け取っていると、みなし清算はSec.332の「適格非課税清算」となり、ELAの認識はない。手品のようだが本当の話だ。ここでは税務上の連結子会社の話しをしているのでSec.332の持分規定は当然満たされているという前提だ。それにしても、無価値の株式から通常損失を取らせてくれたり、巨額のELAを消してくれたりと、Sec.338(h)(10)は緩急自在さには驚かされる。

*繰越欠損金の移管

グループ内の損失子会社のもうひとつの代表的な利用法に繰越欠損金(NOL)の有効活用がある。米国子会社を最初からひとつの持ち株会社の下に付けていればNOLはグループ内で自由に通算できることから悩みは少ないはずだが、日本企業は日本の親会社等がバラバラに兄弟会社という形で米国子会社を持っているケースが少なくない。これは連結納税ができないばかりか、低税率区分を共有させられたり一般には不利な形態と言える。唯一のメリットは上で触れたUnified Loss Ruleとかの面倒な連結納税規定を心配しなくていいことくらいだろう。

連結納税の対象とならない子会社のひとつに損失を抱えていて使えきれないNOLがあるとする。一方で収益を上げている子会社がある場合には、合併で吸収してしまい、適格再編としてNOLを継承させるというのが一般的な対策だろう。どうしても事業を一緒にさせたくない場合には、儲かっている子会社の下に単独メンバーLLCを組成してそこに損失を持っている子会社を合併させてしまえば、税務上は儲かっている法人に合併したも同然の扱い(普通のA型再編)となる。もちろんLLCではなく株式会社をMerger Subとして利用して三角合併させるという手もあるが、三角合併はForwardであっても通常の二社間合併より適格要件が若干増えるので注意が必要だ。

損失を抱えている子会社が債務超過の状況にない場合には上のような再編は十分に可能性があるといえる。一方で損失を抱えている子会社が債務超過の状態にある場合には、その会社を消滅法人として適格再編を実現するのは難しいことがある。いわゆるNet Value規定が草案されているし、判例に基づいても債権者=株主の状態にある状況以外では適格とするのは困難だろう。

その場合のウルトラCとしては債務超過に陥っている法人を「存続法人」とするいう手法が考えられる。気分的に損を出している法人を存続させるのは抵抗がある、かもしれないが実を取るという意味では検討の価値ありだろう。米国の適格再編に求められるNet Value、持分継続、事業継続、等は消滅法人に係る規定であることから、この方向にすれば債務超過法人が再編の当事者であっても、再編の適格性には問題はないものと思われる。NOLの使用を主たる目的にしているような場合には、NOLの使用に関してはSec.269のような「Anti-Abuse」規定の適用有無をよく検討する必要はあるが。

という訳で経済状況の不安定な今日この頃に適用可能性があるプラニングのいくつかに関して触れた。

損失を持つ子会社の利用法(2)

前回のポスティングでは無価値の子会社株式を通常損失として計上する方法に関して書き始めた。無価値となった子会社を清算するのが基本的な考え方だが会社法上、本当に清算しないでも税務上は清算したかのように取り扱うことができることがある。今回のポスティングではそんなみなし清算を実現できる取引形態のひとつであるSec.338(h)(10)選択の話しから入りたい。

*Sec.338(h)(10)と無価値株式

Sec.338(h)(10)は連結納税をしている(またはすることができるが敢えて選択していない)子会社を売却した際に、売り手となる親会社と買い手がJointで選択することで適用が可能となる。通常のSec.338(=(g)選択)と異なり両者合意の必要がある。Sec.338(h)(10)はS Corpの売却にも利用できるがここでは連結子会社を例に話しを続ける。

Sec.338(h)(10)選択をすると、実際の取り引きは株式売却であるにも係らず、売却の対象となる子会社は「資産を売却して清算」されたかのように取り扱われる。もちろんこれは税務上のみの「フィクション」なのだが、税務上は実際に資産が売却されて清算されたのと同様の扱いが適用される。資産を売却してポジティブな(売り手の株主に対して)清算分配があっては株式が無価値だったとはならず、普通の子会社の非課税清算(Sec.332)となってしまう。それでは通常損失が取れずに意味がない。かと言って本当に債務超過だと買い手が見つからない。こんなジレンマを解決してくれる方法がある。

損失がかさんで無価値になっている子会社というのは親会社から資本出資ばかりでなく、借入をしているケースが多い。その場合には株式売却取り引きの一環で親会社が貸付を資本金に転換する、または債務免除するケースが多い。でないと株式の価値がなく、買い手が見つからないからだ。しかし「株式の価値が出たら通常損失にならないのでは・・・?」と不思議に思えるだろう。

ここでキャッチとなるのは、IRSは債務超過の状態にある子会社に追加出資、債務の資本転換、債務免除したりして瞬間的にポジティブにしてもそのような取り引きは無視するというポジションを取る点だ。これはもともとIRSに有利になるような局面で主張されているポジションだが、逆に納税者に有利となる局面にも適用可能であると思われる。

となると実際には債務免除して買い手が見つかるが、税務上は債務が残っているので、みなし清算で分配される金額はまず債務返済に充てられ、Equity部分に対しては$1も返ってこないという位置づけが可能となる。という訳で通常損失の認識が可能というかなりめでたい結末となる。

さらに、免除した取り引きが認められていないので税務上は存在し続けている貸付に関しても全額戻ってこない場合には貸し倒れ損失の計上までできる可能性がある。もちろんSec.338(h)(10)なので買い手側は資産の税務簿価ステップアップもできる。

といいこと尽くめのプラニングだが、これを利用する際には必ず専門家のアドバイスが必要となる。特に親会社による貸付が実態として「Equity」投資とみなされる可能性には気を付ける必要があるだろう。損失がかさんでいる子会社に追加融資をする際に、現実的な返済計画がないとEquity投資となるからだ。ただし、納税者としては「貸付」という形態を選択している以上、申告書上Equity扱いするのはSec.385(c)の関係で難しい。IRSがEquityだと言わないような事実関係を残しておくか、またはIRSが「これは実質Equityですね・・・」という場合には、「それはそうだが、普通株式ではなく、種類の違う優先株式とみなされるはず・・・」と抗弁して普通株式は依然無価値というポジションを取るしかないだろう。

*子会社の税務簿価

子会社の株式が無価値となり通常損失と計上する際、損金算入できる金額は子会社株式に対する税務上の簿価だ。当たり前のポイントだが、実はこの簿価の算定が連結子会社の場合かなり難しい。

連結子会社に関しては、会計上のEquity Accountingに似たコンセプトで株式簿価を毎年調整する必要がある。これは税務上のInvestment Adjustmentと呼ばれるコンセプトだがこの計算は複雑だ。さらに簿価があっても子会社の株式からの損失計上は経済的に二重取りという結果になることがあることから、実に複雑怪奇なLoss Disallowanceが規定されている。

Loss Disallowanceいうと、僕のように古い人間に取っては「Right Aideケース」という有名な判例で財務省規則そのものが裁判所により財務省側の越権行為として不法とされて大混乱になったという大事件が思い出される。この判例により、財務省、IRSはその後何年も紆余曲折を経てようやく傷を癒し「Unified Loss Rule」という体系だった規則を構築することになった。このUnified Loss Ruleの内容はここで書いても意味がないほど難しいものだが、興味があったらGoogleで財務省規則1.1502-36を検索して読んでみるといい。Basis redetermination、Basis Reduction、Net positive increase、Disconformity amount、Net inside attribute amount、Attribute reduction、等々、Sub C Lawyerの興奮間違いない用語が連発されていて読み応え十分と言える。実際の適用の機会があれば、この辺りは専門家に任せて「最終的にいくらの簿価が損金算入可能?」という計算を云十万ドル(?)の費用で検討してもらうしかないだろう。Big 4でタックスのシニアマネージャーくらいやっている方であれば一応趣旨程度は理解しておいて欲しい規定だ(暗記の必要はない(笑))。

子会社の簿価の計算でもうひとつ注意事項がある。Excess Loss Account (ELA)だ。上の無価値の子会社株式の簿価を通常損失として計上するというような話しは税務簿価がポジティブであってこその話であることは言うまでもないのだが、実際に簿価を算定したらナンとマイナスなんてこともあり得る。そんな時はどうするか?ELAに関しては次回のポスティングで触れたい。

損失を持つ子会社の利用法(1)

米国企業が海外に眠らせている巨額の埋蔵金をどのように米国に非課税で持ち帰るかという「Repatriation」プラニングとかSch. UTPとかについて書いている間にいつの間にか9月15日の法人税申告書の締め切りも過ぎてしまった。そろそろ年の後半にも入ることだしポスティングの内容も新しいタイトルに入ることにする。

米国景気の先行きも相変わらず不透明な中、損失を抱えている子会社を持っている米国企業も多い。日本企業の米国現地法人でも結構見られる局面だ。そのような子会社を処理してしまおうと決定した場合、処理法そのものにはいろいろな方法があるが、税務上できるだけ有利な方法を取るのが当然好ましい。最近、頻繁にお目にかかるのが価値が低くなったまたは価値がなくなった子会社株式の処理に係る税務上の問題だ。

*キャピタルロス

損失を抱える子会社を誰かが買ってくれるというとラッキーな局面のように思えるが税務上は考えなくてはいけないことが多い。

まず、株式の売却損は通常キャピタルロスとなるというダウンサイドだ。米国税務でキャピタルロスというのは極めてネガティブな響きを持つ(一方でキャピタルゲインというのはいい響きだ)。キャピタルロスはキャピタルゲインとのみ相殺が可能なため、キャピタルゲインがない場合には使い道がない。使えないキャピタルロスは繰り戻し、繰り越しが可能だが、実はキャピタルゲインというのはなかなか発生しないものだ。通常の事業からの所得はキャピタルゲインとはならないし、投資資産は値上がりしていないと(当たり前の話し)キャピタルゲインとはならず、他の投資でキャピタルロスが出ているようなご時世にはなかなか含み益を持つキャピタル資産が手元にないのが実態だろう。キャピタルロスが使い難いということは、損失を出したにも係らず、会計上の税効果も認識できないケースが多く、実効税率も上がり踏んだり蹴ったりの状況に陥ることも珍しくない。

資産を買った時点の納税者の資産使い道に係る「Intent」ひとつで売却益が通常益にもキャピタルゲインにも成り得た香港の税制が懐かしい。しかも香港ではキャピタルゲインは非課税。

*無価値となった80%子会社株式

損失を抱える子会社株式からの損失を通常損失(=Ordinary Lossでキャピタルロスではない)として他の所得と自由に相殺できる局面がある。80%以上の持分を持つ子会社の株式が「Worthless(=無価値)」となった場合だ。その場合には、この子会社が実業に従事していて、その事業から所得を得ていた限り(=Gross Receipt Testといって投資所得で成り立っていなかったことの確認テストを満たす必要がある)通常損失として損金化することが認められる。

ここでの重要なポイントは株式に少しでも価値があってはいけないという点だ。このことから第三者が株式を有償で買い取ってくれた場合には、いくら価値が低くても無価値という取り扱いをするのは難しい。備忘価格のような感覚で$1で売りましたというような局面では可能性はなくはないが、クリーンに無価値というためには通常は「清算してEquity Holderとしては$1も受け取れなかった・・・」という状況が一番説得力がある。

*税務上の清算

無価値となった子会社を「会社法上、本当に清算して」株主には$1も戻ってこずに通常損失を取ることももちろんできるが、タックスプラニング的にはチョッと単純過ぎて面白さに欠ける。税務上、清算と取り扱うことができる取引は他にもあるからだ。

例えば今まで米国税務上「法人」扱いを選択していた外国の子会社(Eligible Entity)であればCheck-the-Boxで支店扱い(Disregarded Entity)または80%オーナー以外に被支配株主が存在するのであればパートナーシップ扱いとすることで「税務上のみなし清算」と取り扱うことができ、子会社が債務超過の状況にあれば親会社側で通常損失を計上することができるだろう。

また米国内の子会社であればLLCに「転換」させることで同様にみなし清算の効果を得ることができることもある。これは株式会社を州会社法の規定に基づきLLCに合併させる(いわゆるInter-Species Merger)という手法で可能だ。

*Sec. 338(h)(10)選択

もうひとつ潜在的に面白いみなし清算にSec.338(h)(10)選択の利用がある。Sec.338というと買い手側で法人資産の税務簿価をステップアップさせるというメリットを直ぐに思いおこされるが、他にもいろんな効用がある素晴らしい規定だ。Sec.338を利用して外国で買収する法人のE&Pを圧縮させる手法に関しては以前の国際税務改正案のところでかなり突っ込んで書いてみたが、それも一例だ。

ここでは、無価値の株式を第三者に売却した上、更に通常損失まで計上してしまおうという都合が良すぎる取り扱いをSec. 338の中でもSec.338(h)(10)が可能にしてくれることがある点が関係してくる。この点は次回のポスティングで詳しく触れたい。

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。

2011年米国タックスの行方(8)- Sch. UTP(続5)

そろそろUTPの話しも「Wrap Up」したいタイミングなので今回は今まで触れていない点を全て盛り込む。

*不確実なポジション内容の簡単な説明

Sch. UTPで開示されるポジションの各々に関しては「簡単な(Concise)」説明が求められる。IRSによるとこの説明はポジションに関係する簡単な事実関係・背景、IRSがポジションの内容、事の性格を理解するための情報のことを意味し、通常は2~3の文で事足りるだろうということだ。

IRSが公表している例のひとつを紹介すると(原文はもちろん英語なのでニュアンスが伝わりきるかどうか分かりないが)次のようになる。前提となる背景は「M&Aを複数仕掛けたが、買収に漕ぎ着けたのは1件のみで、他は交渉が決裂したり、また買収を断念したりした。買収に係る調査費用・交渉費用のうち、成約した案件(ひとつ)に配賦された金額は資産計上されたが、他の案件に配賦されたコストは全額損金算入された。会計上(=FIN 48)、他の案件に配賦されたコスト、すなわち損金算入されたコストが過大な可能性があるとして、その分引き当てが計上された」というものだ。

このような背景に対して適切とみなされる簡単な説明は次の通り。「M&A関連で一件買収に成功した案件および買収に至らなかった複数案件に関して調査費用、交渉費用が発生した。これらの費用は買収成立案件および未成立案件に配賦されている。不確実なのは配賦金額が適正であったかどうかという点。」

それにしてもこんな説明を出したらIRSが税務調査に来て、成約した案件にもっとコストを配賦しなさい、という指摘を受けるのは間違いがないような気がしてしまう。

*連結納税

連結納税を行っている場合、Sch. UTPは連結グループで一枚報告すれば良い。連結ベースでSch. UTPにて税務ポジションを開示する場合、そのポジションがどこの子会社に帰属するかという情報は開示の必要なしとされている。

*IFRSその他の会計原則

FIN 48は米国会計原則(GAAP)であるSFAS 109のサブセットであることから、米国GAAPに基づかない決算書を発行している場合には、FIN 48と異なる考え方で引当が計上される、またはされないことになる。例えば、今流行のIFRSに基づく決算書には(同様のコンセプトはあるとしても)、FIN 48そのものの適用はない。更に日本企業のように親会社が日本GAAPで決算書を作成し、日本で監査を受けているケースもある。

いずれのケースも、会計監査を受けていて(または監査済みの決算書に米国法人が含まれていて)、そこに不確実性のある税務ポジションに関する引当が計上されている場合には、どのような会計原則に基づく場合でもSch. UTPでの開示が求められる。

異なる会計基準でも(偶発債務っぽい)引当があればポジションの開示が必要ということだが、そもそも会計上の引当計上基準が異なるにも係らず一律に決算書ベースでSch. UTPの開示義務が決定されるというところは若干適用が難しい。「Sch. UTPは税務申告用に特別な作業をほぼ必要としない納税者フレンドリーな規定なので皆さん安心して下さい!」というIRSのキャッチフレーズ上、余計な調整はさせたくなかったのだろう。

また、米国GAAP以外の原則に基づき引当は計上されているが、FIN 48で税務ポジションの単位となる「Unit of Account」の考え方が米国GAAPと異なる際には、FIN 48の考え方に置き換えた形のUnit of Account毎での開示が求められるようだ。今後、米国企業がIFRSに移行していく過程で(本当に移行があれば?)この辺りの考え方はもっとクリアになっていくだろう。

*欠損金の課税年度

不確実な税務ポジションが存在する課税年度が欠損金の年でも、FIN 48の引当がその年に計上される限り、Sch. UTPはその年に税務ポジションの開示をする必要がある。逆に後年にそのNOLを使用して実際にベネフィットを認識した年には、再度そのポジションを開示する必要はない。

*過年度のポジション

2010年度がSch. UTP適用の最初の年となることから、2009年またはそれ以前に計上されているFIN 48の引当は開示の対象とならない。これは2010年またはそれ以降に、過年度の繰越欠損金(NOL)を使用して、そのNOL金額にFIN 48引当対象となる金額が含まれていたとしても、2009年またはそれ以前のポジションに関しては開示の必要はないとされる。

2010年またはそれ以降のポジションに関しては、過去にSch. UTPに開示されていないポジションが後年にFIN 48で引当が必要と判断された場合、その時点でSch. UTPの開示が求められる。例えば課税年度2011年に関して2011年の決算書では引当が必要ないと判断されていたポジションに関して、2013年に状況が変わり(例えばIRS税務調査が入り)、引当が計上されたとすると、2013年の申告書のSch. UTPで当ポジションの開示が必要となる。

*申告書提出前に引当の変更があったら?

米国の法人税申告書は期末から8ヶ月半の間に提出されればいい。2ヵ月半の時点で延長は必要で、もちろん延長なしで提出してもいいが、実際のところほぼ必ずと言っていいほど延長される。12月決算の場合は3月15日に延長して、9月15日までに提出というパターンだ。

申告書提出までに結構時間があることから、場合によっては期末の監査報告書ではFIN 48に基づく引当がされていても、申告書が提出されていないその後の四半期決算書で引当を戻すようなケースもあり得る。その場合には、四半期決算が監査を受けていれば、申告書提出時点で引当がないものは開示の必要はない。一方で四半期決算が未監査の場合には、期末の引当をそのままSch. UTPに載せる必要がある。

*Sch. M-3への影響

Sch. UTPが定着すると、会計上の税引前利益と課税所得の差異調整(Reconciliation)を開示するSch. M-3での開示を簡素化できるのではという推測があるが、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

というわけで駆け足気味にUTPに係る話しは当面これにて終了としたい。

Monday, August 15, 2011

グーグルのモトローラ買収

グーグルのモトローラ・モビリティー買収のニュースは月曜日の朝いきなり何の前触れもなくやってきた。ビジネス関係のニュースは朝からこの話題で持ちきりなのでSch. UTPシリーズの最中だがチョッと脱線させてもらう。買収価格はナンと63%プレミアムで一株$40。買収総額は125億ドル。しかも全額現金買収となる(さすがリッチ)。

この買収、ビジネス戦略としては一瞬実に変に思えた。アンドロイドは世界中の人が知っている通り、オープン・プラットフォームであり、モトローラ以外の携帯機器メーカーも沢山利用している。アンドロイドが世界一のシェアに輝くことができたのも、そんな携帯機器メーカー(「パートナー」?)の存在があったからこそだし、そんなことは当のグーグルが一番良く知っているはずだ。にも係らず、ここでモトローラ・モビリティーという携帯機器メーカー1社を買収してしまうと、せっかくアンドロイドを搭載してくれているサムソンとかHTCとかの他の携帯機器メーカーとの関係はどうなってしまうのか、という疑問が出てくるからだ。まさかモトローラ・モービリティー1社のOEMになってしまうのか?

今日の東時間朝の8時半に「Short Noticeで」開催された「Google to Acquire Motorola Call」と題された今回の買収に係るアナリスト向けのカンファレンス・コールでは、買収をドライブしているのは携帯機器ビジネスではなく、実に15,000(Pendingのものも加えると25,000とも)に上ると言われるモトローラの携帯関係のパテントだということが明らかにされた。すなわち、モトローラ・モビリティーが所有する素晴らしいパテント・コレクションの全てを一気に手に入れることができるチャンスだと。携帯機器ビジネスは「ついでに付いてきてしまった」に近い感じで、モトローラ・モビリティーは別事業として、ひとつのアンドロイドユーザーとしてこのままの状態で残るそうだ。「セグメント・レポートも提供する別事業」と強調されていた。

このコールではパテントの価値がかなり強調されていたように思う。僕は業界の専門家ではないので、これらのパテント所有がグーグルにとってどのような重要な意味があるか完全に理解した訳ではないが、グーグルのような会社はアンドロイドとかのテクノロジーに対して日常的にパテント侵害の訴えを起こされているようで、多くのパテントを持ってしまうことで、アップルとかマイクロソフトとかからのそのような訴えを最小限化できるという側面があるようだ。したがって今回のディールはオフェンスよりもディフェンスの側面が強いようだ。それにしても125億ドル(面倒なので100円換算で1兆25百万円!-そろそろ100円換算も現実的ではないが計算が簡単なので・・50円になったら変えます)でディフェンスというのも凄い。グーグルの手持現金を考えると、こんなディールは複数簡単にできるだろうし、現にコールでも「まだまだいろんなことができる弾力性は残る」と力強い発言がなされていた。

パテント取得が主たる目的であることは間違いないとしても、市場には若干警戒的な見方もある。「実際に携帯機器ビジネスを買収したとなると、他のメーカーは梯子を外されるかのように、ある日アンドロイドの最新バージョンはモトローラ・モビリティー製の「G-Phone」にしか搭載できなくなったり、またはそこまでは酷いことはしないにしても、最新の機能はG-Phoneにしか特別に供与されなくなってしまうのでは」という見方だ。しかし、カンファレンス・コールを聞いた感じではグーグルはオープン・プラットフォームに100%コミットしているように聞こえた(僕ってもしかして騙されやすい?)。ラリーページは「アンドロイドのエコシステムを守るために素晴らしいディールだ」と繰り返し訴えていた。アンドロイドのビジネスモデルを考えるとこれは当然のことのように思える。

個人的にはアップルがI-Phoneでやっているように、ハードからソフトの全ての側面をグーグルが管理するG-Phoneが誕生するのであればもちろん使ってみたい気がする。I-Phoneの初代モデルを並んで買ったあの「ワクワク感」がまた味わえるかも、という期待はみんなどこかに持っているのでは?

ちなみにモトローラ以外のアンドロイド搭載携帯機器メーカーは、パテントを守ってくれるという条件で買収には賛成だそうだ。前日(日曜日)にアンドロイドの5大ユーザーに説明をしたということであった。それにしても日曜日にいきなりグーグルから「明日発表するけど賛成してくれるよね?実は両社の取締役会でも全会一致で承認済みで・・」と持ちかけられたサムソンとかのビジネス・パートナー達は相当面食らったことだろう。

*買収に関するタックスの話し

さて、今回のディールに係るタックス関係に若干触れる。冒頭に触れた通り、今回の買収はキャッシュ・ディールだ。ということは「課税」取引となる。株式買収なので(上場企業の買収となるため、形式的にはReverse Subsidiary Mergerと思われる)株主は株式のキャピタルゲインに課税されるが、モトローラ・モビリティーという法人レベルでの課税はない。買収に係る課税関係を考える上で、法人レベルと株主レベルの双方を考えるのが基本中の基本だ。法人レベルでも課税される資産買収は最終的に法人・株主で二重課税となるので、通常は不利な形態となる。

グーグルが数年前にYoutubeを買収した際は、買収対価は現金ではなくグーグルの株式だった。今回のディールと対象的だが、カンファレンス・コールで「なぜ今回はストック・ディールではなかったのか」という質問が出た。「よくぞ聞いてくれた」という思いで、どのような回答がされるのかと固唾を呑んで待っていたが、3つの質問の最後であったため、(おそらく忘れて)回答はされなかった(残念・・・)。Youtubeは個人オーナーが巨額のキャピタルゲイン課税を嫌ってストックディールとなったのかもしれない。当時のカンファレンス・コールで「株式対価としたのは非課税再編とするため」という回答があったのを記憶している。

また、今朝のアナリスト向けのカンファレンスコールでは「モトローラの持っている繰延税金資産をグーグルが使えるか」という質問があった。Google側の回答は短く「確かにモトローラ・モビリティーにはNOL(税務上の繰越欠損金)があり、その利用は企業価値の評価に加味している。では次の質問に・・・」というものであった。グーグルがモトローラ・モビリティーを現金買収して子会社化する場合、株式買収なのでモトローラ・モビリティの持つNOL等のTax Attributeはそのまま残る。もちろん、法人の持分変更がある際には、NOLの使用はいろいろと制限される。いわゆる「Loss Trafficking」を規制するものだが、代表的なものとして、50%超の持分変動があった後のNOL年間使用額を制限するSec.382 、連結納税グループに後から入る際にNOLの使用対象を制限するSRLY規定、節税を主たる動機とした買収の場合にNOL使用を否認するSec. 269がある。

Sec. 382とSRLYが同時に適用される場合(正確には6ヶ月以内のOverlap)には、SRLYの適用がなくSec.382のみを考える。また、今回のようなディールには十分なNon-Tax目的があるので(パテント!)、Sec.269の適用はあり得ない。となると、他人のNOLでありながらGoogleはSec.382の制限枠内で自分たちの所得とモトローラのNOLを自由に相殺することができる。Sec.382の規定では、買収価格が高いと買収後に毎年使用できるNOLの金額も自ずと高くなる。BIGとかBILとか難しいことを考えなければ、125億ドルの買収価格にAFRのTax Exempt Rateをザックリ4%として乗じて、年間制限額は5億ドルとなる。かなりのNOLを使うことが可能なのが分かる。

大型ディールはいろいろと面白い。果たしてG-Phoneは登場するか?

Monday, August 1, 2011

2011年米国タックスの行方(7)- Sch. UTP(続4)

前回までのポスティングでSch. UTP誕生の経緯、適用対象者、開示が求められるポジションの決定法等に触れてきた。今回は開示が必要とされるポジションに関して、具体的にどのような情報をどこまで開示する必要があるのか、に関して触れてみたい。

*不確実ポジションの何を開示するか?

基本的には不確実性のある税務ポジションの「存在」を開示する。したがって決算書上計上されているFIN 48の引当金の金額そのものを開示する必要はない。Sch. UTPが提案された初期段階では、不確実ポジション各々の「Maximum Exposure」、すなわち最悪のシナリオに基づく追徴額の開示が求められるという内容だったが(FIN 48の引当金額は50%基準なのでMaximum Exposureではない)、さすがのIRSもこの提案は引き下げ、最終的には下で触れる「ランキング」に取って代わられている。

開示対象となるポジションには納税者自らが1からナンバーを付ける。ポジション1、2、3のような感じだ。このナンバーは単なるID番号なので、どのような順番で付けても良い。「1から始めて、数字は整数のみ、番号は飛ばさないで付けて下さい」と1億ドルの資産規模を誇る大会社に対する説明というよりも、中学生の教科書レベルに丁寧な説明が記載されている点も米国っぽい。

各ポジションに税法の条文のうち最も関係が深い条文番号(Section Number)を開示する。次に「Timing Code」と呼ばれる「一時差異のTemporary」を意味する「T」、「永久差異のPermanent」を意味する「P」のアルファコードを選択する。
法人がパススルー事業主体のパートナーになっていて、開示対象となる税務ポジションがパススルーされてきている場合には、その大元のポジションを取っているパススルー主体の納税者番号(EIN)を開示する必要がある。

*順序付け(ランキング)

最初にSch. UTPが発表された時点では、開示されるポジションに関して各々に関して最高でいくらの追徴対象となり得るか(「Maximum Exposure」)の記載が求められるとされていた。この開示要求は大反対にあい、さすがのIRSもドロップせざるを得なかった。その代わりに導入されたのが、ランキング制度で、開示する各ポジションの引当金額の大きいものから順位を付けて開示することになっている。

このランキングをする際に参照するべき金額だが、決算書で各ポジションに関して引き当てられている金額を基とする。ペナルティーとか金利が各ポジション別に分かるのであれば、その金額も含めると個人的には理解している。一方でペナルティーとか金利が各ポジションに関して特定されていない場合には含まないでランキングをするようだ。

また、ランキングとは直接関係はないが、引当金ベースで全ポジションの10%以上の金額をひとつのポジションで占める場合には、そのポジションを「Major Tax Position」と呼び、どのポジションがそれに当るかを表示する必要がある。もちろん複数のMajor Tax Positionが存在する場合もあり得る。

そして、各ポジションの内容の「簡単な説明」が求められる。どのような説明が必要かという点は次回のポスティングで触れたい。