Section 899法案の話しに戻りたいけど、世間は当然のことながら関税の話しでもちきりで、米国で言うところの「wall-to-wall」。そんな状況なんで、もう一回、Liberation Dayから一夜(数夜?)明けた「Morning After」特集。
Morning Afterっていうと映画ポセイドンアドベンチャーのサントラを思い出すね(そんな古い映画知らないって?)。原曲はMaureen McGovernの郷愁感ある名曲。ポセイドンアドベンチャーって言えばGene Hackmanだけど、先日のSanta Feでの出来事はビックリでした。
映画ポセイドンアドベンチャーでは「Nonnie」っていうチョッとJoni MitchellみたいなArtisticな女の子がMorning Afterを船内のラウンジみたなところでリハっぽく歌ってるシーンがあるけど(バンドメンバーのLooksが70年台前半丸出し(笑))、あれはリップシンクで声はCarol Lynleyだったということ。Maureen、Nonnie(Renee Armand)、Carolって三つ巴で結構ヤヤコシイね。
Liberation DayとGlobal Tax Deal対抗策
で、あんまり脱線しないうちに本題に戻ると、まずLiberation Dayの声明で気づいた点はReciprocalの対象となる貿易相手国の関税、VAT、非関税障壁の話しに「Global Tax Deal」が含まれてなかったこと。そもそもReciprocalの計算は、貿易相手国のエントリーコストではなく米国との貿易収支の均等に基づくRicardianモデルって言われてるんで、計算方法からも相手国がGlobal Tax Dealを導入しているかどうかは検討要素に入ってないことが分かる。関税の話しなんだけど、通商は専門外で、どうしてもまずは法人税関係に気を取られてしまう悪い癖だね。
Global Tax Dealに関しては以前のポスティング(「Global Tax Deal大統領令」と「America First Trade Policy大統領令」)で触れた通り大統領令は大別して2つ。まず一つ目のGlobal Tax Deal大統領令はピラー2を含む域外・差別的課税を可決したり、可決しようとしている国をリストアップして、行政府として法的に取ることができる対抗策オプションを3月21日までに財務長官が大統領に報告するっていうもの。この報告書は公開されてないけど、歳入委員会のポスティングに、財務長官がタイムリーに報告を終えた点を評価しているコメントが掲載されてたんでBessent長官は期日に報告を終えてるって推測される。報告書そのもののコピーは海賊版でも流出してないんで見ることはできず内容はベールに包まれたままだ。う~ん、魔法の鏡で見てみたい。もしもブルーにしてたら偶然そうに電話する?
この手の局面で行政府として法的に取ることができる対抗策の代表って言えば他でもない関税だから、Liberation Dayの公表にこの点が加味される可能性もあるのかなって思ってたんだけど、実際には特に言及はなかった。別枠で検討中かもね。トランプ政権は「やるぞ」って言ってたことはどれだけ物議を醸しても基本やってきてるんで何らかの対処は取るんだろう。OECD加盟国やIFが近々に協議するとかいう話しは聞くけど具体的には公表されてない感じ。いずれにしても仮に現時点で集まったとしても関税の話しが充満しているんでGlobal Tax Dealどころの話しじゃないしね。
もう一つのAmerica First Trade Policy大統領令でもGlobal Tax Dealに触れてるけど、こちらは他でもないsection 891の対象となり得る国を4月1日を期限に財務長官にリストアップするよう求めているもの。以前から触れている通り、section 891の認定は単に域外課税や差別的課税を制度として持っているっていう以上のものが求められるんでどんなリストになってるかこちらも魔法の鏡の世界だけど、内容はともかくこちらもリストも提出済みって考えていいだろう。ポスティング中のsection 899案はsection 891をModernizeしてるものだから、もしかしたらsection 899の立法動向、例えばScoring可否の観点からBudget Reconciliationに入るのかどうか、を見てそちらでいけそうだったらsection 899に注力するのかもね。Section 891は既に法律にあるんで、America First Trade Policyで問題国のリストアップが完了してるとすりば、直ぐにでも発動可能でバックストップ的に取ってあるのかもしれない。
税制改正動向
関税があったりなかったりして米国経済に不確実性が増している中、少なくとも短期的な関税ショックを中和するため国内経済「成長志向」の税制改正の早急な可決がますますMustになった。そんな中、上院は以前に可決していたBudget Resolutionの代わりに新たな下院のResolutionを改訂した新上院Resolutionを通している。その後、下院が新上院バージョンをギリギリ可決させてようやく正式にBudget Resolutionに基づく立法プロセスがキックオフ。両院Budget Resolutionの内容に関しては、今後予想される動向や関税との関係も含めて次回ポスティングで別特集してみたい。
僕の専門分野は60年台後半から80年台までのギタリストのテクニック分析と米国のIncome Taxなんで、関税の話しは専門外。なんで関税に関するコメントは米国で一般市民と暮らしている中で見えるポリティクスや、投資銀行や法曹界の集まりで聞いた話しをベースにしてるんで、総合的な分析を提供するような大それた意図はないからねって予め断っておく。ただ、日本で米国の話しを聞く限り、米国の一般トレンドの実態が伝わってないことが多いとは感じるんで肌感覚の観測として参考になればなによりです。
トランプと米国関税の歴史
トランプを語る際に、彼の意見に賛成するかどうかは別として、トランプが思ってることややりたいことをそのまま普通に(延々と)語るっていう、政局やオーディエンスを見て話しを変えたり(カマラハリスみたいにアクセントまで変えたり…)するポリティシャンとは別のAuthenticityを一つの特徴として挙げることができる。
この一貫した信念は、通商面で米国が他国にいいように利用されてて米国政府の無策も手伝い、結果として米国が凋落しているんでどこかで方向転換しないといけない、っていうスタンスも同じ。トランプ1.0の2016年どころか今から遡ること40年近く昔の1988年には当時不動産業で一躍有名になっていたヤング(って言っても40歳くらい)のトランプがthe Oprah Winfreyのショーで米国の不均衡な貿易収支を大きな問題としている。凄い若いけど言ってることは基本、Liberation DayのRose Gardenの趣旨と同じだ。トランプの通商ポリシーはRobert LighthizerやPeter Navarroに影響されて形成されたって思われてるかもしれないけど、そうじゃないのが分かる。トランプはOprahのショーでのやり取り以外にも当時から既に大手新聞に公開書簡を送りつけて米国の通商・国防ポリシーに警鐘を鳴らしていた。Oprahのショーのやり取りは最近YouTubeで多く閲覧されてるんで興味あったら見てみると面白い。
トランプの一貫性を見ることができる40年前の出来事。当時の問題国はもちろん日本。米国にあれだけ経済的に恐れられるってなんか懐かしいね。Super 301が連日新聞の一面で報道され、お茶の間に米国通商代表(USTR)っていう機能とかカーラ・ヒルズの姿が定着していたあの頃。
当時、米国と交渉したノウハウ(プラス恐怖?)は日本政府や産業界に継承されてるはずで、以前のポスティングでも触れた通り対米通商交渉に日本は「一日の長」があるって言えるかもね。そのお陰かどうか分かんないけど、Reciprocal関税に対して真っ先にトランプ政権に交渉を提案し、米国側はそれに応じてBessent財務長官とUSTRのGreer自らが交渉に関与するってことで、ここ数日、米国では同盟国の模範(?)みたいに報道されたりしてる。「中国とは違って…」っていう切り口。ただ、国家間の同盟は国家の自己利益に基づくんで相手国による称賛には要注意かもね。イスラエルのNatanyahu大統領は既にトランプ、Bessent、Greerを訪問してイスラエル側の米国製品に対する関税撤廃を提案。
ちなみに日本が当時直面してた米国側の対抗措置は上述の通りSuper 301っていう措置だったけど、Liberation Dayを含む今回のトランプ関税の根拠条文とは異なる。関税も歳入法なんで連邦憲法下では三権分立上、議会に制定の権利がある。1913年に憲法修正(16th Amendment、Mooreの世界だね)があるまで連邦政府は所得税(Income Tax)を課す権利はなかったんで(正確にはそのような税金は州の人口で負担を按分しないといけないっていうことで実質制定不可能だったんで)、それまでの連邦の歳入は主に関税、酒税、タバコ税とかだった。そのままにしておけば連邦政府の肥大化もなかったはずなんだけど、戦費の関係で1913年に憲法が修正され、その後、連邦の歳入に占める関税の比率は急激に低下した。それで議会が興味を失った訳じゃないんだろうけど、議会は複数の法律で徐々に大統領に関税策定権を委譲している。
具体的にはまず1962年の「Trade Expansion Act」。このTrade Expansion Actのsection 232は国家安全保障の視点から「特定品目」を取り締まるもの。品目単位での締め付けが特徴で、トランプの鉄鋼、アルミ、自動車に対する25%っていう関税(Liberation Dayより前に発表されてたもの)がこれだ。最近section 232っていう条文を良く耳にするけど、税法のInternal Revenue Codeでは200番台っていうとSubchapter BのPart VIIからXIまでをカバーしてて大概Deductionできる費用そうでない費用とかCapitalizationの世界だけど幸いにも今日のIRCにsection 232は存在しない。
で次は1974年の「Trade Act」。不公正な通商政策を取り締まるもので有名なのがsection 301。USTRが広範な調査権を持つ。そして1977年の「International Emergency Economic Powers Act」。国家安全保障に対する重大な脅威への対処で「IEEPA」っていう用語はまさにこれ。Liberation Dayに公表された10%のUniversalベースラインTariffも(中国以外には)90日間施行が中断されているReciprocal関税も、双方ともこのIEEPAに基づく。
日本がその昔苦しんだSuper 301っていうのは実はTrade Actのsection 301そのものではなく、 1988年のOmnibus Trade and Competitiveness Actで時限的にsection 301を強化したもの。Superっていうのは強化版っていう意味の俗語じゃないかな。
Section 232と異なりsection 301は「もちろん」IRCにも存在する。Subchapter Cのトップバッターだ。Distributionがいつ配当になるかとかを規定しているDay-to-dayに適用がある条文だけど、302との関係とかJohnsonの考え方とか実はDeep。Johnsonと言えば先日のPTEP財務省規則案でPTEPアカウントはUS Shareholderベース(しかも連結納税グループはグループ単位。これは驚き)だけど、株式簿価(961(a))はJohnsonベースなんで、異なるブロック、例えば後から追加出資とか、のCFC株式を所有するUS ShareholderはPTEPのDistributionがあると思わぬ結果になる。いつかPTEP規則案も話したいけどいつになることでしょうか。
なぜ関税?(Reprise)
インフレや米国企業のサプライチェーンに影響があるにもかかわらず、なぜここまでして関税?っていう点は以前3月9日の「トランプJoint Sessionスピーチ・税制改正・関税」の「なぜ関税?」っていう部分でチラッと米国ドルのReserve Currencyが結果「Resource Curseになり」国家として取り返しがつかないところに来てしまい、相当な無理を覚悟に大きく舵を切らないと米国は滅びるからかなって憶測的に触れたけど、Liberation Day前後の関税を取り巻く政権重鎮、特に辛抱強く背景を語る財務長官Bessent、もう少しAggressiveな商務長官Lutnickらの話しから、まさにそこに理由があるって確信が持てた気がする。
Vance副大統領が2023年に発言していた内容と同様、米国のResource Curse、すなわちドルがReserve Currencyっていうとてつもない特権に胡坐をかいてるうちに既に取り返しがつかないレベルの国家財政悪化に陥り、またその副産物として米国の製造業が空洞化してしまったっていうトレンドをどこかで反転させないと大変なことになる、っていう危機感だ。株価や物価は少なくとも短期的に未知の影響を受けるだろうから短期サイクルで動く米国ポリティクス的に通常の政権では手を付けることはできないし実行する気概はないだろう。また現状のシステムに既得権を持つ者も多いから強力なプッシュバックがある。
そんな環境で通常の政権であれば、長期的に国のためにならないって分かってても大きな混乱を伴いかねない経済政策は取れないんで、どうしてもBusiness as usualで続行となる。賃金が低く労働環境も怪しい国の製品を安いという理由で活用。Global Tradeだ。そして米国は国債を発行し続け、その間、連邦政府はどんどん大きくなり更に巨額の歳出を繰り返す。ドルがReserve Currencyでなくなるまでパーティーが続いていくような状況。財政の極端な悪化と同時に中国との比較で軍事力の低下、技術に関してはコストを掛けて先端を行っても直ぐに中国に盗まれる。物を製造できない国は国ではない(?)状態。こちらもGlobal Tradeだ。結果、ミドルクラスが縮小しアメリカンドリームは消える。このトレンドは米国企業もシステムを利用してきたっていう側面は十分にある。また政府による不干渉を好む従来の共和党プラットフォームとも相いれない。元上院リーダーのMcConnell等が関税に反対しているのはこの点を考えれば納得がいく。
Global Tradeの弊害は米国の視点からは2000年のWTO加盟以来好き勝手してる中国が主たる犯人。最初から中国対応にフォーカスして他国は一律10%とかすれば分かり易かったとは思うんだけどね。ただ、常に中国は別格扱いなんでReciprocal関税90日の中断もなく中国にはそのまま145%。
関税で時間を稼いでる間にトランプ政権が実現したいって強調しているポイントの製造業回帰は実現可能なんだろうか。製造業回帰って言っても単にアセンブリーを米国が取り返すってことじゃなくて、R&Dや技術革新は製造業に従事していないと徐々に衰退していくっていう危惧に基づきFull Fledgeな機能を米国に置くのが目標。Global Trade初期にはR&Dやエンジニアリングのハイマージンな機能は米国に残し、一方で中国の安い労働力を利用して製造するっていうモデルを想定してたかもしれないけど、いつの間にか技術も取られてしまったって言う反省。実際にどれだけ早く製造業を戻すことができるのかのひとつの問題に、長期に亘る空洞化で製造業回帰に求められるスキルがそもそも米国労働市場に存在するのかっていう問題もある。またオートメーションが徹底してる今日の工場では製造業が米国に多額の投資をしたとしても多くのポーションがロボットに費やされる。この点は国家安全保障の観点からは懸念は少ないかもしれないけど、一般市民の雇用の観点からは製造業回帰イコール爆発的な雇用っていう狙った図式にならないリスクもある。
また、国別のReciprocal関税は米国製造業回帰に必要な機械設備も対象になるリスクもあるんで関税除外品目リストは流動的なものだろう。現になかなかポスティングに至らない中、さっきPCや携帯は中国からの輸入でもReciprocal関税免除みたいな報道が流れていた。
関税はオンだったりオフになったりが激しいんで政権が目指す姿との関係がイマイチ分かり難いけど、結局10%は恒久的な財源に近く、一方Reciprocal部分は交渉材料。ただし国家安全保障の観点から中国は別枠扱いっていうのが大枠だろうか。
Global Reorderは時間との戦い
上述の通り、Global Tradeの不味いトレンドはどこかでリバースさせないと事態は悪化の一途なのは分かってるんで「どこかでリバース」させてGlobal Reorderに持ち込もうとしててそれが「今」!Van Halenいうところの「Right Now. Not tomorrow」?
今回の政策が吉とでるか凶とでるか、は前代未聞なんで誰にも分からないだろう。ただ、この20年~30年のトレンドで米国の視点から弊害が累積しているにもかかわらず、チョイスとしては大胆な施策を講じることができず、同じトレンドに乗ったまま徐々に国家として衰退していくか、前代未聞の策で一気にトレンドをリバースするよう試みるか、って2つの分かれ道。通常はポリティカルに前者になる。結果過去の大国は徐々に衰退している。英国、オランダとかが思い浮かぶけどスペインやオットマンもその部類。古くはローマ帝国もあるしね。各々異なる事情はあったにせよ、巨額の国家財政赤字、国家安全保障の低下、社会政策失敗、は共通している。
後者は…、誰もトライしたことがないんでDestination Unknown。個人的にはもちろん何が起こるか分かる術もないけど、マーケットが期待しているって思われるのは現政権の財務長官Scott Bessentのマクロヘッジファンドで為替や国債の動きを熟知している手腕。Bessentなら市場が混乱し、ヘッジファンドがマージンコールに応じるため手持ちの米国債を多額に手放すであろう点や中国所有の米国債をどう取り扱うか、等は複数のシナリオを想定しているはず。学者っぽいエコノミストはあれこれコメントが多いけど、コロナになった頃やその直後のMMTに基づく巨額の歳出に対するコメント等から見る限り、結局のところ先のことは分かってないケースが多かったんで、今回もレガシーメディアとかで報道されるコメントは確証の得られない眉唾かもしれない情報として処理しておくのがベターかもね。Scott Bessentやトランプおよびその取り巻きは、未だかつて見たことがない大国凋落のトレンドをリバースするっていう離れ業を奇想天外なGlobal Re-orderで実現する掛けで出てるってことになる。
問題は短期的混乱を政権が受け入れるとしても、それがどれほどの規模でどれだけ続くかっていう誰にも分からない問題。中間選挙とかの理由で米国ポリティクスは超短期視野に基づくんで2026年前半には一般市民が経済はTake-offしてるねっていう実感を持たないといけない。レガシーメディアはトランプ政権には統計的に90%超ネガティブ報道(民主党には逆)なんで、米国のレガシーメディアが2016年以降一般市民の多くからニュースソースとしては見捨てられつつあるとは言え、Wall-to-wallのネガティブカバレッジは耳に入るんでこれらのキャンペーンも克服しないといけない。トランプ政権はルビコン川を渡ってしまったのかもって考えると歴史に残るHigh Stakeな状況に居るんだね。
今日は余り専門じゃない通商やGlobal Reorderの話しだったんで私的なひとつのObservationとして軽く読んでおいて下さい。米国ってダイナミックなんでもっと書きたいところだったけどきりがないんでこの辺で。次回は両院一致のBudget Resolution。