Thursday, August 29, 2024

2024年11月米国選挙と2025年TCJAクリフ (5)

元民主党でIndependentとして大統領選に出馬していたRobert F Kennedy Jr. (RFK Jr.)が撤退そしてトランプ公認を発表したり、まだまだ紆余曲折が続く大統領選挙。RFK Jr.はその名の通りRobert F Kennedyの息子だからトランプを公認とはね…。

そんな中、税制動向にかかわるコメントもちらほら出てきたんで代表的なものに触れておきたい。ただ前回触れた通りTrifectaにならないと税法は通らないし、またさらに言えば、Trifectaを得たとしても大統領の意向が最終的な法律に反映されるとは限らない。選挙活動中の公約は選挙目的だから実権を握った後のスタンスと同じじゃないし現時点のポリシー提案はディスカウントして聞いておくべき。特に今回の両候補の話しは…。

法人税率

ハリスは選挙運動広報のJames Singerを通じて法人税は28%に引き上げる方針を確認。もともとバイデン政権が28%を目指していたんで想定通り。

法人税率ってヘッドライン的に注目度合いは高いけど、米国の歳入に占める法人税の割合は実は高くない。2023年会計年度ベース(2023年9月期)でトータル歳入は約$4.5Tで、うち法人税は$368Bだから8%程度だ。一方個人所得税が$3,713Bを占める。法人税は21%だから単純計算すると法人税1%当たり$17.5Bの歳入になる。ってことは7%Headlineレートを上げると$122.5Bの増収。10年間で$1.2Tだからハリスが提唱する諸々のGoodiesの一部はファイナンスすることができる。

法人税が歳入に占める割合が低いのは、Corporationっていう形態自体が少ないのが大きな理由。LLCでCorporation同様にLimited Liabilityのシールドが得られ、ケースバイケースだけどClosely Heldの局面で1人のメンバーが持つLLC持分が差し押さえられたりしても、他メンバーの視点からLLC側のProtectionはCorporationより強力なケースもあるし、企業統治もCorporationよりかなりFlexible。LLCっていうのはCorporate Lawで統治が規定されるCorporationと異なり、メンバー間の契約で統治形態を含む権利関係が決まる。LLCは契約のCreatureだ。守秘面でもベールに包まれてるし、なんと言ってもCorporationと違ってパススルー課税の選択が可能。LLCのようなパススルー主体は最終的に所得が個人にフローアップしていくことが多いんで歳入は個人所得税としてカウントされる。もちろんCorporateベンチャーもあるんでそれらはJVメンバーのCorporateに配賦されるけどね。

ちなみにLLCが秘密のベールに包まれてるっていう点だけど、LLCはDelaware州等の州会社法(LLC法)に基づいて組成されるんで、一般市民ばかりでなく連邦政府にも実態が分からない。そこでCorporate Transparecy Act(「CTA」)ってい法律ができ行政府の複数の省庁で構成されるFinCENが規則を策定して、連邦政府にLLCを含む主体の最終的な個人Beneifical Ownerを開示させようとしてる。連邦と州の権限を規定するFederalism(およびAntFederalism)の観点から連邦にそんな権利はなく憲法違反っていう訴訟がアラバマ地方裁で起こり原告が勝利している。当訴訟の原告以外には判決の効果は及ばないけどCTAの行方は不透明。この手の訴訟や議論は他国では考え難いかもしれないけど、米国は元々州の集まりだった状態で各州が憲法を批准してようやく立派な連邦政府ができあがって来たっていう歴史に基づき連邦政府の権限は限定的。税金にしてもその歴史からWealth TaxみたいなDirect Taxは負担額を各州の人口数でApportionしないといけないとか(実質そんな法律は不可能)、1800年代から連邦の課税権には紆余曲折があって、1895年には究極の最高裁判決Pollockで止めを刺され、1913年の16th Amerndmentで連邦にIncome taxを徴収する権利(正確にはApportionなしでIncome taxを課すことができる権利)が認められるに至っている。この辺りの歴史から税制を取り巻く法的環境が他国とはかけ離れてて、国際合意とかで他国がいろいろ決めても連邦憲法的にできることとできないことがある。例えばUTPRなんかは仮に16th AmendmentはパスしてもSubstantive Due Process条項違反で違憲になる可能性があるんじゃないかなって思う。2017年のCFC留保所得一括課税の合憲性が問われたMooreケースも米国ならではの争いだろう。Mooreは超Deepで面白いからそのうちね。個人的には口頭弁論(Oral Argument)まで聞いたくらいのオタクぶりだからね!他にも最高裁の口頭弁論はThrillingなんでLoper Brightとかも聞いたけど憲法論は歴史の勉強にもなる。いろんなケースの口頭弁論聞き過ぎて声で9人のJusticeの誰が話してるか分かるまでになった。SotomayerとKagan、またRobertsとAlitoの区別は注意して聞いてないと分かり難いけどね。声や話し方が似てるっていうのもあるけど、質問内容的にこの組み合わせは似てるからね。

ということでCorporationの話しに戻るけど、上場企業(PTPはQualifying Income条件を満たさないと法的形態はパートナーシップやLLCでも税務上は強制的にCorporate扱い)、VCファンドからラウンド毎にファンディングしてもらうスタートアップ、日本を含むInbound企業の外国親会社に所得がパススルーして欲しくない米国現地法人(少なくともUpper TierのCommon Parent)とか、仕方なくCorporationにならざるを得ないケースを除き、わざわざ二重課税のCorporationを選択して事業を行うケースは少ない。結果としてCorporationの数は相対的に少ない。チョッと前になるけど、法人数と法人税額の日米比較とか2021年バイデン政権発足当時(こんな風に政権終わっちゃうなんて誰も想像しなかった頃。懐かしいね!)のポスティング「財務省によるバイデン「The Made in America Tax Plan」補足説明」で触れてるんで読んでみて欲しい。

軽くオサライすると、法人課税対象のC Corporation数は170万社程度(Tax Foundation調べ)。一方パススルー主体(S Corporation含む)は740万社、DREのオーナーを含む個人事業主2,300万人。一方日本は国税庁のデータによると法人数は約270万(最近のデータでは280万)って米国より100万社多い。日本の個人事業主の数ははっきりしないみたいだけど、フリーランサーが1,000万人程度らしい(ランサーズ調べ)。数は変わってきてるだろうけど方向的に$368Bを170万社で割ると一法人当り$216K。日本の法人税は直近のデータで約147,000億円。為替レートが乱高下するんでいくらでドルに換算するべきか悩むところだけど150円換算すると$98B。280万社で割ると一法人当り$35K。米国の170万社にはMagnificent Sevenみたいな巨大な企業も含まれるんで平均出してもあんまり意味ないけど、歳入に占める法人税の割合を基に「米国企業は他国との比較でFair Shareを払っていない」っていうコメントは会社法その他の環境が違い過ぎて正しくない。

で、トランプの法人税率は?っていうと本人は20%がきりがいい、とか2017年税制改正のブループリントで最初に提案されてた15%に言及したりしているけど、まともな提案には聞こえずTCJAの21%温存が現実的だろう。後日話すけどTCJAの多くの規定、特に個人所得税関係が2025年末で自動的に失効する。TCJAのCliff問題だ。ただ、21%の税率は法改正がない限りPermanent。政策オタクで2017年税制改正を主導した一人ポール・ライアンが「新たな法律で延長できる可能性が高い規定は自動失効になっててもいいけど、ポリティカルに延長が困難であろう規定は自動失効させない」って趣旨の発言をしてたけど、なるほど予算調整法でできたTCJAでも21%はだからPermanentなんだね。

バイデンのIRAも予算調整法でエネジークレジット規定の多くは10年で失効するけど、CAMTはPermanent。ただ、CAMTは未だに規則案も出てないほど非実務的(?)な規定だし、支払ったCAMTは後年クレジットが取れるんであくまで時間差。BookベースはWorkしないから1987年~89年だけの短命に終わった以前のBusiness Untaxed Reported Profits (BURP) みたいに予算調整法云々とは関係なくそのうち廃案になるんじゃないかって思うけどね。BURP(バープ=おくび、あいき、つまり「げっぷ」)っていう略が全てを物語ってる感じ。規則の出来や内容はともかくCAMTは「キャムティー」だから略は可愛いよね。GILTIにしてもBEATにしても略した時に何になるかを考えて命名する近年の規定と違って1980年台後半はそういうどうでもいい観点はなかったのかもね。

トランプはCAMTの廃止には触れていないんで基本的には当面温存されるのかもしれない。ちなみにCAMTは結構な歳入になるってプロジェクションされてはいたけど、前述の通り将来年度にクレジットになるんで歳入増は初期的な現象。単年ベースで最高時に$35B程度って言われてる。だったら一層のこと法人税率1~2%引き上げてCAMT撤廃してくれた方がコンプライアンス負荷面からマシって思う大企業も多いのでは。米国にはないけど他国のピラー2対応とか税務室が充実しているはずの米国企業もさすがにコンプライアンスは限界に達してる感がある。

ということで今日は法人税比べでした。