Saturday, April 13, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (12)

前回のポスティングではKiller B規則の2014年Noticeをカバーした。去年の10月に公表されたKiller B新規則案にトリガーされて書き始めたKiller Bシリーズ。2006年Notice、2007年Notice、2008年暫定規則、2011年最終規則、2014年Noticeまでカバーしてついに今日は新規則案の前座としては最後になる2016年Notice。トリ寸前だ。Killer BシリーズもますますFinal Phaseになってて寂しいよね。この感じって読み始めたら止められないタイプの面白い物語読んでる間、完全にその世界に入りこんでて物語が終わると今まで登場人物と一緒に暮らしてたのに誰も居なくなっちゃったみたいなのと同じ。世界広しといえども、Killer Bの話しが終わって寂しくなる人は中々いないって?そうだよね。まあ、次の物語読み始めると次の世界が展開されるように、ポスティングも次のテーマに移ったら直ぐ今度はそっちにハマるからいいね。Killer Bの次はどんなテーマになるでしょうか。

2016年Notice

難攻不落でSection 367(b)の西を守ってたはずのKiller B最終規則城は米国MNCの城攻めに合って屈してしまい、2014年Noticeで補強されて今度こそって感じだったんだけど、相手は何といっても上杉謙信の上を行く米国MNC。またしても2014年Noticeの裏を書くストラクチャリングで圧倒され更なる改修工事が必要になった。そこで登場するのが2016年Noticeだ。2014年Notice後に散見されるようになった取引は単なる2014年Notice準拠のKiller Bってだけではなく、Killer Bの後にもうワンステップ追加された「Killer B+」とでも言うべきRepat戦略。

「Killer B+」

2014年Notice後に蔓延し始めたストラクチャリングの代表的なものは次の通り。米国企業USPが米国外100%子会社FPを所有し、FPはさらに100%子会社FSを所有しててFPにはE&PはないけどFSには潤沢なE&Pがあるとする。早速Killer Bチックな設定だね。米国外の埋蔵金E&Pを米国で課税されることなく還流させるための手法として進化してきたストラクチャリングがKiller Bだからね。2017年のTCJAで全ては変わってしまったけど、2016年Noticeなんでこの時点ではまさかクロスボーダー課税がGILTIとか245Aとか今の姿になるなど露知らずっていう時代だ。

ちなみに外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を監視するっていうのがKiller B規則を含むsection 367(b)全体の立法趣旨・テーマっていう点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)」等で触れてるけど、その一環でCFCの事業資産が非課税組織再編や非課税清算を介して米国親会社に非課税で還流されてくる取引も当然section 367(b)の監視下にある取引。この手の取引では、CFCを非課税組織再編や非課税清算で米国株主に統合すると、CFCのE&Pは一度も課税されないにもかかわらず、そのE&PでファイナンスされたCFCの資産簿価がそのまま米国親会社にフローアップしてくる。そこで米国へのInbound資産移管に網を掛けるため、section 367(b)の規則の一つにInbound取引時には米国親会社がCFCを所有していた期間に生じた自己持分相当のE&Pを全額課税するっていうのがある。ここでは「Inbound資産移管E&P課税」って呼んでおく。

でも非課税清算等で受け取る資産はステップアップしないんだからいいじゃん、って思うかもしれないけどピュアな国内取引と異なり、CFCの資産簿価がCFCのE&Pにサポートされている限りにおいてその部分の簿価は米国で課税されていない所得を原資とした簿価。チョッと分かり難いかもしれないけど、B/S的に資産簿価は米国親会社による出資、CFCの負債、またはCFCが稼得した所得(イコールE&Pと仮定)のいずれかでサポートされているんでE&Pに課税できてれば全ての簿価はそのまま使ってOKってことになる。資産の簿価っていう属性は将来のNOLと同じっていう点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (10)」で触れた。NOLは資産簿価の化石って考えると双方の価値が理解し易い。NOLとの比較において簿価の有無や大小に比較的無頓着なケースを見ることがあるけど、これらの属性の価値は基本的に同じだ。結晶化(?)してるかどうかの違いだけ。米国MNCは資産簿価の大小、また株式、有形資産、無形資産その他、どんなタイプの資産に簿価が付くかに細心の注意を払う。結果ここで話しているKiller B+みたいな発想に至ることになる。

で、ポスト2014年NoticeのKiller B+の例を続けるけど、Killer B規則の考え方を適用するとFSによるFP株式取得はFSによるFPへの分配になって、FSのE&Pの範囲で配当になる。FPにはE&PはないけどFSには潤沢なE&Pがあるっていう設定だから覚えといてね。でもFSは外国法人なんで配当に対する米国源泉税は通常関係ない。また配当を受け取るFPは米国外法人なんでそれが間違ってECIなんてケースは100年に1回あるかないかくらい珍しいだろうから、FPには直接米国法人税が課されることはない。FPはCFCなんでFPが受け取る配当が元祖CFC合算課税のSub F所得になるとUSPはその時点で自己所得に合算しないといけない。Sub Fには複数の例外があってこの手のケースで一番適用可能性が高いのは配当原資がFS側でSub FでもECIでもない事業所得の場合、グループ全体で考えると配当の性格はPassiveなポートフォリオ投資のリターンではないんでSub Fの趣旨的にSub Fで網を掛ける必要はない。Look-through規定だ。CFC課税の「Look-through」って複数あってConfusingだけど、ここでいうLook-throughは関連者から受け取る配当の原資が阿漕な所得でなければOKっていうsection 954(c)(6)に基づくSub F免除だ。まだTriangular Reorganizationにも至ってないけど既に複雑になってきてるね。Killer B+だからね。

Triangular Reorganization

で、USPの米国外100%子会社USSがFPやFSとは別の持分チェーンで米国外100%子会社FTを所有してるとする。FTをFP/FSと同じ持分チェーンに取り込んでインティグレーションするっていう事業目的でTriangular Reorganizationを通じてFSはFT株式をUSSから取得する。取引ステップはKiller Bそのもので、FSは最初のステップでFPから現金対価(Noteかもしれないけどここでは現金で統一しておく)で取得したFP株式を対価にFTの100%株主であるUSSからFT株式を取得する。B型再編になり絵に描いたようなKiller Bだ。Killer BのBはB型再編って覚えてるね?でもKiller BはB型再編で実行される必要はなくて、AやCのTriangular Reorganizationバージョンでも全く同じことができる点はKiller Bシリーズをフォローしてくれてる読者の皆さんなら既にご存じの通り。

Inbound資産移管

で、Triangular Reorganizationの後、Killer B取引とは別プランでUSPはFPを吸収する。手法は大概においてUpstream Mergerなんだろうけど100%子会社のUpstream Mergerは税務上はLiquidationになる。80%以上の議決権・価値を所有する子会社のLiquidationは原則適格Liquidationで非課税だ。このInbound資産移管によりFPが所有する資産はUSPに移管されるけど、移管されるFPの資産にはKiller B取引下でFSがFP株式の取得対価としてFPに移管した現金が含まれる。ということは蓋を開けてみるとE&Pを潤沢に持つFSの現金がFP株式取得、FPの適格清算でUSPに還流している。

でも、Inbound資産移管は上で触れたsection 367(b)のInbound資産移管E&P課税でFPが課税されるんじゃないの~って思うよね。適格清算でも未だに米国で課税されていないE&PはInbound資産移管時に課税対象っていうのがルールだからね。さてどうなるでしょうか。

2014年Notice下のKiller B規則適用

上の取引例に2014年Notice時点で存在するKiller B規則を適用してみると次のような取り扱いになる。まずTriangular Reorganization部分だけど、これは今までのKiller Bのポスティングで触れてきた通りの取り扱い。USSがFT株式の対価としてFP株式を受け取る取引は2014年のPriority規定で触れた「Indirect stock transfer」に当たる。すなわちUSSはsection 367(a)目的でFT株式をFPに移管したと取り扱われる。移管対象となる株式がFT株式って言う米国外法人の株式なんで、通常はGain Recognition Agreement(GRA)をIRSと締結することで株式移管時点の課税を避けることができる。GRA自体ディープな話しだけどここでは敢えて超乱暴にまとめとくと、本来section 367(a)で課税される株式移管時に一旦IRSとGRAを締結し、移管から5年以内に移管された株式の移管先からの更なる譲渡、または移管対価で受け取った株式の譲渡等のトリガー取引がなければsection 367(a)課税から免除されるっていう有難い制度。トリガー取引で過去遡及して課税される場合、元々の株式移管の課税年度の申告書を修正して追加払いの法人税には金利も課せられる。

Section 367(a)に抵触する外国法人株式の移管でGRA締結可能なケースは通常であればGRAを締結する。じゃないと即、課税所得になっちゃうからね。したがってアドバイザーとしてはGRA締結に落ち度はないか、全ての移管株式をカバーしているよねとか、その後5年に不要に譲渡益をトリガーさせないための内部管理とかがフォーカスとなる。ところがKiller B+取引ではUSSもGRAを締結するにはするんだけど、その際にFT株式の全株式に関してGRAを締結しないで敢えて超少数のFT株式をGRA対象外とする。この部分は当プランニングのキーとなる部分。FT株式の僅かな部分にGRAを選択しないっていうことは当たり前だけど、その部分のFT株式含み益はsection 367(a)で課税所得になる。少額の課税所得を敢えて認識っていうエキセントリックな怪しい行動でPriority規定を巧みに使うための技なんじゃないの~って予感させてくれる。で、本当にその通りなんです。Killer B+では、この超少額のsection 367(a)所得をKiller B規則の所得と比較してFP株式取得にKiller B規則を適用するかどうか判断する。

Killer B+とPriority規定

じゃあ、section 367(a)下の僅かな所得の比較対象になるKiller B規則下の所得が何かっていうとここも面白い。ここで登場するのが2014年Noticeだ。Killer B規則ではFSによるFP株式取得対価の支払いをみなし分配と取り扱って課税関係を決める。その際、section 367(a) にも抵触する取引ステップがあると、Priority規定に基づきKiller B規則とsection 367(a)でどちらがより高い所得を生み出すかに基づきどちらの規則で課税関係が決まる。この比較算式に使用される所得額に関してはさんざん紆余曲折があり、Priority規定のIRSの視点からの悪用を封じ込めるため、2014年NoticeではPriority規定適用検討時にsection 367(a)所得と比較するべきKiller B規則下の所得は「源泉税対象となる配当」および「実際にPに課税される範囲のみなしキャピタルゲイン」、そして「PがCFCの場合でPが認識する配当やみなしキャピタルゲインがSub FとしてPの米国株主に合算される額」に限定した。

上述の通り、Killer B規則で分配と取り扱われるFP株式取得対価の支払いは、FSのE&Pの範囲で配当扱いになる。でもFSは米国外法人なんで配当に対する米国源泉税は通常関係ない。配当を受け取るFPも米国外法人なんでFPが受け取る配当や分配がみなしキャピタルゲインとなっても直接FPに米国法人税の適用はない。FPが受け取る配当やみなしキャピタルゲインが元祖CFC合算課税のSub F所得になるとUSPはその時点で自己所得に合算しないといけないけど、section 954(c)(6)のLook-throughでSub Fからも免除される。となると2014年Noticeが規定するPriority規定適用時のKiller B規則所得はゼロになる。一方のsection 367(a)を見ると僅かな所得があるんでこちらが勝つことになってKiller B規則の適用はナシとなる。USSは僅かな所得に法人税を支払う。

そして最後のステップ、すなわちKiller B+をKiller B+たらしめる最終ステップのUSPによるFP吸収合併(または類似取引)だ。このステップは上述の「Inbound資産移管E&P課税」で課税されるんで結局苦労してsection 367(a)で僅かな所得認識を演出してPriority規定でKiller B規則から逃れてもこれで万事休すじゃんって思った読者は上杉謙信。米国MNCは上杉謙信よりも強力な攻略でKiller Bを落城させる。

城攻めのカラクリは次の通り。まずFPにはそもそもE&Pはない。これはKiller B+実行時にFPを新設したりしてそのようなストラクチャーにしてるからでこのポスティングでもKiller B+取引の説明冒頭に前提条件としている。そしてPriority規定でKiller B規定が適用されないんでFSによるFP株式の取得対価は分配にも配当にもなってない。したがってFSにE&PがあってもFP株式取得を通じてFPのE&Pが増えることはない。となるとストラクチャー的にはInbound資産移管E&P課税の適用対象取引でも、肝心のE&PがないんでUSPに課税される金額は存在しないってことになる。

う~ん米国MNCっていうかMNCにアドバイスしてるBig 4の国際税務チームやメジャーなLaw Firmは凄いね。僕もEYの国際税務Nationalチームだっからこの辺の変遷は生で見てきたけどIRSの解釈は異なる部分はあるとしても当たり前だけど全て法的なApplicationは正しいからね。ということはBig 4とかは虎千代の教育係の天室光育だったってことか~(?)。2014年Noticeで網を掛けようとした取引は、Priority規定を適用してsection 367(a)をTurn-offするケースだったけど、Killer B+では少額のsection 367(a)でKiller B規則をTurn-offしてる。

他にも似たようなバリエーションとして、USPがFPとUSSを所有してて、USSがFTを所有してるっていう同じストラクチャーでFPにはE&Pはなく今度は上の例のFSではなくFTが潤沢なE&Pを持ってるとする。FPはプレーンバニラの優先株式(section 351(g)非適格優先株式)を対価としてUSP株式を取得、USP株式を対価にUSSからFT株式をTriangularのB型再編で取得する。で、後日FPは自社優先株式のUSSから償還する。このバリエーションのキーはFPの自社株式は2011年最終規則で「Property」にはならないんで(Sub CのPart I、すなわちsection 301~318の目的でも、特に304で自社株式はPropertyにならないのと同じ)、Killer B規則の適用範囲外となる。さらにUSPによるFPへのUSP株式移管の対価は非適格優先株式となることから、適格現物出資にはならずsection 1001の課税交換となり、USPが所有するFP株式の簿価は時価になる。Section 351の適格現物出資になってしまうと「例の」ゼロ簿価っていう不思議の国のアリスに出てくるウサギの穴に入り込んじゃうもんね。ゼロ簿価に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)」を参照のこと。FPによる自社株式の償還はFPにE&Pがないんで配当にならず、またUSPが持つ簿価が時価になってるんでみなしキャピタルゲインもないっていうポジション。経済的にはFTのE&Pを拠り所に償還してるって考えるとE&PのRepatになる。こちらもお見事。

壮絶な知恵比べで2000年台前半から2016年まで進化し続けたKiller Bと財務省規則。2016年Noticeが出た翌年2017年12月22日にクロスボーダー課税を根本的に変えたTCJAが可決される。TCJAでKiller Bを含むsection 367(b)の存在意義が大きく低下した点、およびそれでもsection 367(b)の一連の規則は引き続き必要という財務省見解に関しては特集前半の「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)」で触れた。次回はKiller Bシリーズ最終回として2016年Noticeの対抗策、それに準じて2023年に公表された規則案に触れてみたい。