Sunday, March 31, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (11)

前回はEddie Van Halenのハーモニクスを多用した斬新なギターテクニックがどれだけショッキングだったか、じゃなくてKiller B規則が2011年に一旦最終化されてから僅か3年弱の2014年に公表された2014年Noticeの話しを始めた。中でもSがPからP株式を取得する際に支払う現金のみなし分配後のみなし現金出資に軽く触れるつもりが深みにはまり、2011年最終規則を適用するとPが所有するS株式の簿価にチョッと不思議なことが起こるねってところで終わっていた。

みなし現金出資とS株式簿価

みなし分配とその後のTriangular ReorganizationでPが持つS株式(Reverse Triangularの場合はT株式)の簿価がどんな風に動くかっていうところまでは前回のポスティングで詳細に触れた。Killer BのBに当たるB型再編を例に取ると、SにE&Pが十分にある範囲でみなし分配では簿価は動かず、その後のTriangular BでT株主がT株式に認識していた簿価がPの手のS株式の簿価に増額される。ちなみにこのルールはPが組織再編で調整するS株式簿価はsection 358じゃなくてsection 362の世界の話しなんで当然旧T株主の簿価がTranserされるのはそうなんだけど、旧T株主が認識してたT株式簿価とか実際には把握できないこともあるよね。Tに多くの株主が居たケースは特に。そこで80年代初頭からIRSは簡便法の使用をSafe Harbor的に容認している。旧株主にサーベイを送るのがベストだけど、ターゲットが上場企業だったりするとRetail投資家全員にサーベイ送る訳にはいかないし、仮に送付したとしても開封されない、または開封しても「何ですか、これは?」ってなってそのままゴミ箱、ってケースも少なくないだろう。そこでサンプル、概算計算その他の簡便法が認められている。Transfer Basisのサガだよね。

で、これにSがPからP株式を取得する取引に関して、Killer B規則でみなし分配された金額同額をみなし出資があると考えると、すなわち2011年最終規則を適用すると、Killer BでPがP株式移管対価として受け取っている金額分まるまるS株式の簿価が増額されることになる。Pは自社株をSに移管して、その対価として現金を受け取るとその額に関してS株式の簿価が増えるっていう不思議な現象だ。たかが簿価されど、っていう点は前回のポスティングでも触れた通り。すなわち資産の簿価っていうのは将来のNOLでNOLは資産簿価の化石だから簿価はNOLと同様に重要な属性だ。

そんな重要な属性が意味不明に増額するのはKiller B規則の趣旨に反するということで2014年Noticeは現金みなし出資の取り扱いは全面的に撤廃するって宣言している。この撤廃は単に2011年最終規則で追加されたPからP株式を直接取得するケースばかりでなく、2007年NoticeでデビューしたP以外からP株式を取得するケースにも適用される。みなし分配の後、どうやってP株式がSに移管したことになるんだろうね、っていうオリジナルの疑問が再発してせっかくUnchainedのリフ聴いて快適になったのにまたしてもスタートに逆戻り?って思ったんだけど、実は2014年Noticeはこの点に関して、形式的にはP株式をSが現金対価で取得してるけど、S株式簿価算定目的では単純にTriangular Reorganizationに適用されるルールを適用すると整理している。つまりP株式はPからみなし出資でSに移管されて、Sがそれを対価にT株式やT資産を取得するってことなんだね。ウ~んなるほど。となると結局、2006年の初回Killer B Noticeを読んだ際に第一印象的に考えた簿価算定法に落ち着いたってことなんで、だったらこれでまたチョッとスッキリ。でもUnchainedの域には達してないんで超トリッキーなテクニックでコピー不可領域のMean Streetのイントロでも聴いて「天才とはこういうことか…」って何回も繰り返し聞いたあの日を感慨深く思っておきます。

Priority規定

2014年Noticeが次に問題視しているのが2011年最終規則のPriority規定の濫用。Priority規定に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9) 」で触れてるんで復習しておいて欲しい。Priority規定はsection 367(a)とKiller B規則の双方に抵触する取引に関して、どちらの規定を優先するか、すなわち双方では課税されないっていうルール。Killer B規則はsection 367(b)領域なんで、もう少し広範な(a)と(b)のオーバーラップ規定のサブセットみたいなもの。Killer B規則とsection 367(a)のどちらを適用するかは、各々の規則で「認識される所得」を比較して、金額が高い方の規定のみを適用して、他方はTurn-offするっていうもの。その際、Pが米国外法人でSが米国法人で、配当に対する源泉税が条約で免除されててS株式がUSRPIでない場合、すなわち苦労してKiller B規則でみなし分配を認定してもPに米国税負担がないケース、はKiller B規則の適用はなく、結果としてもし取引がsection 367(a) にも抵触するストラクチャーの場合、自動的にsection 367(a)のみを考えることになっていた。ここでは「No-US-Tax例外規定」って呼んでおく。

No-US-Tax例外規定とKiller B規則下の所得

で、IRSが問題視し、2014年Noticeで網を掛けようとした取引は、Priority規定を適用(悪用?)してsection 367(a)をTurn-offするケース。例えば、外国法人FPがFP株式を対価に米国株主に所有される米国USTの株式を買収するとする。その際、FPは米国子会社USSを新設し、USSに少額のE&Pを認識させる。で、ここからはKiller B取引で、USSがNote(Killer B分析上は現金と同じ。USSには十分な現金が存在しないという想定)を使ってFPからFP株式を取得。USSはFP株式を対価にUST株式を米国株主から取得する。Triangular B型再編だ。USTの米国株主がUST株式譲渡対価として受け取るFP株式は、FP株式の75%に当たるとする。

Killer B規則の適用でUSSのFP株式取得がみなし分配になるけど、USSのE&Pは少額なんで、配当も少額。源泉税対象になるのはこの少ない配当部分だ。USSが過去5年間、またはおそらくUSSは組成されて5年経ってないだろうから組成後一度もUSRPHCでなければUSS株式はUSRPIにならない。となるとE&Pを超える額がFPの持つUSS株式簿価を超えてみなしキャピタルゲインになってもFPには課税はない。USSに対するFPの株式簿価も低いって想定されるんで、Killer B規則のみなし分配はほぼまるまるみなし株式譲渡のキャピタルゲインとなる。しつこいけどこのキャピタルゲインはUSRPIではない株式の譲渡にかかわるもので、ECIでもないだろうからFPは米国で税金は支払わない。

これをPriority規定の視点からどう考えるかだけど、まず上で触れた2011年最終規則の「No-US-Tax例外規定」の適用があるかどうかを検討する。No-US-Tax例外規定の対象になるとKiller B規則の適用はなく、仮に取引がsection 367(a)対象でもKiller B規則とオーバーラップがなくなるんで、普通にsection 367(a)に抵触すればそのルールで課税されたりGRAを締結したりする。インバウンドのNo-US-Tax例外規定はPがSから受け取る配当が条約で源泉税から免除され、かつS株式がUSRPIでないケースに適用があるけど、上の例では少額のE&Pに対して30%源泉税が課せられるようなストラクチャーを敢えて演出してるんで、源泉税の大小にかかわらずNo-US-Tax例外規定対象取引にはならず、結果としてPriority規定で双方の所得を比較、Killer B規則かsection 367(a)で課税かを判断することになる。

分配がE&Pを超過すると、まず株式簿価を減額し、簿価がなくなると超過額はみなし株式譲渡キャピタルゲインが認識される。このキャピタルゲイン部分に関してUSS株式がUSRPIでなければ外国人であるFPに対する課税はない。一定のFIRPTAペーパーワークは付きまとうけどね。でもPriority規定は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)」で触れた通り、税額ではなく所得額に基づく比較。これは2011年最終規則でPriority規定を最終化した際に敢えてそんな設計を選んでいた。さらに2011年最終規則では、比較時にKiller B規則側の所得として加味する金額にみなしキャピタルゲインも含むと明言している。

となると源泉税対象の配当所得は少額だけど、配当所得に加えてみなしキャピタルゲインもKiller B規則の所得額に加算され、これをsection 367(a)でトリガーされる所得額と比較して大きい方の規則を優先することになる。Priority規定の比較時にFPに課税がないにもかかわらずみなしキャピタルゲインも加味しちゃうっていう点は直観的に大丈夫?って思うかもしれないけど、2011年最終規則では敢えてそのような設計チョイスをしてしまってるんで規則解釈的には不合理ではない。

Section 367(a)下の所得

で、比較対象のもう一方の数字となるSection 367(a)下の所得だけど、Killer B特集の初版Early Beatles時代にKiller Bの予備知識としてSection 367全体を軽くおさらいした際に(a)に触れてるんで詳細はその時の「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」を見て欲しい。簡単にsection 367(a)をおさらいしておくと、米国人が組織再編その他のSub Cの非課税規定を利用して外国法人に含み益を持つ資産を移管すると、移管先の外国法人はSub C非課税規定適用目的では法人格を否定され、結果、多くの非課税規定の適用が停止されてしまうっていう規定。その際、移管される資産は事業資産ばかりでなく含み益を持つ株式のケースもSub Cの非課税規定適用対象であればsection367(a)の対象となる。

株式移管に関してはInversion取り締まりの観点から特別なルールが規定されてて複雑。2004年にSection 7874が制定されてInversionの対象となる法人を罰するアプローチが導入されるまで、section 367(a)が米国におけるInversion対抗策だった。Section 7874とは異なり、Inversion的な取引に従事したと取り扱われる法人の米国株主が持つ株式の含み益に課税するアプローチ。このSection 367(a)下のInversion対策規則は財務省規則のsection 1.367(a)-3に規定されてて、1993年のHelen of Troy取引を基に規定されたことから我々の間では「Helen of Troy」規則って呼ばれている。ただ、このHelen of Troy規則はInversion対策としては余り効果がなかった、すなわちInversionは構わずに増えていった点は2016年に5か月23回大特集ボックスセットの「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)」で開始したシリーズで触れてるんで興味あったら読んでみて欲しい。Section 1.367(a)-3は移管対象となる株式が米国法人のものでも外国法人のものでも双方共に適用があり歴史的に異なる規則が規定されてるけど、当然、米国法人株式に対する規定の方が厳しい。

Section 367(a)とIndirect stock transfer

で、上の例に戻るとUSTの旧米国株主はUST株式をTriangular B型再編でUSSに移管してFP株式を対価として受け取っている。「だったら外国法人に資産移管してないからsection 367(a)は関係ないじゃん」って思った人はストラクチャーをフォローしてるんで座布団2枚。でも、ここで登場してくるのがsection 1.367(a)-3に規定される「Indirect stock transfer」だ。Indirect stock transferは前々回のポスティングでその存在には触れたものの、説明すると長くなるからって規定内容そのものには触れなかったんだけど、今回の例に関係する範囲に限定してここでチラッと触れておく。すなわち、外国法人FPに支配される法人S(米国内外を問わない)がTriangular B型再編でT株式を買収する場合、FP株式を(Sから)受け取るTの米国人株主はsection 367(a)目的でT株式をFPに移管したと取り扱われる。となると米国人株主はT株式を外国法人(FP)に移管してることになるんでSection 367(a)対象取引になる。

上の例だとUSTの米国人株主はUST株式を形式的にはUSSに移管してるけど、Section 367(a)目的ではFPに移管したことになる。しかも例ではFP株式の75%を受け取ってるんでUSTがInversionされたかのようになり(50%ルールに抵触するんで)UST株主を法人一社とするとHelen of Troy規則で課税される。場合によっては大きな課税となりかねない。

Priority規定の効能

そこで救世主として登場するのがPriority規定。Indirect stock transferでトリガーされるSection 367(a)対象所得額がKiller B規則の配当およびみなしキャピタルゲインの合計額より小さい場合、Section 367(a)はTurn-offされる。だけど、Killer B規則で確かに形式的に所得は認識はされるけど、少額の配当源泉税以外はFPには実際の課税はないから、Killer B規則下の見た目の所得額が大きい場合、Section 367(a)の潜在的に大きな課税負担を少額の配当に対する30%源泉税と交換することができる。

上の例ではUSSに少額のE&Pを認識させた上でのKiller Bなんで2011年最終規則のルールには表面的に合致しているけど、さらにもう一歩先を行く主張としてUSSにE&Pがないにもかかわらず、もしあったら条約で免除されずに課税されただろうからNo-US-Tax例外規定は当てはまらないっていうものもあった。概念的にはアグレッシブだけど、条文的には「P would not be subject…」という文言で「would」を本当は分配じゃないけどKiller B規則で分配とみなしてるっていう意味に加え「もし配当があれば」っていうニュアンスも含むんであれば可能な解釈のようにも見える。

2014年Notice新規則案

これは大変ということで2014年Noticeでは、これら不適切にも程がある(?)2011年最終規則の解釈・使用法に網を掛けようとした。上で既に触れたみなし現金出資全面撤廃に加えて、Priority規定を次のような改訂するとしている。まず、Priority規定適用検討時にsection 367(a)所得と比較するべきKiller B規則下の所得は「源泉税対象となる配当」および「実際にPに課税される範囲のみなしキャピタルゲイン」、そして「PがCFCの場合でPが認識する配当やみなしキャピタルゲインがSub FとしてPの米国株主の課税所得に合算される額」に限定するとしている。この改訂は2011年最終規則の税額ではなく所得で比較っていう概念は踏襲しつつも、所得が認識されても課税ない場合には比較時の所得に加味しないっていう税効果も考えるハイブリッド的なアプローチを取っている。

No-US-Tax例外規定に関してはKiller B規則のみなし分配に源泉税対象となる配当がなければNo-US-Tax例外規定が適用され、section 367(a)があればそちらで課税されることにするとしている。さらにPがCFCの場合にはNo-US-Tax例外規定の適用はない点を確認するとも提案している。すなわちTriangular ReorganizationでPがCFCの場合、Priority規定を含むKiller B規則の適用があるっていうことになる。2011年最終規則ではPとSが両社とも外国法人でどちらもCFCでなければNo-US-Tax例外規定が適用されるってなってたはずで、その内容とは合致してるけどダメ押し的な確認なんだろうか。

新規則適用開始日

2014年Noticeで提案されている新規則は原則、Notice公表日に当たる2014年4月25日以降にClosingするTriangular Reorganizationに適用があるとしている。とは言え、Noticeって法的な効果は持たないんで概念的にはNoticeの内容を反映した正式な財務省規則が最終化されて初めて過去遡及効果を通じて2014年から法的拘束力を持つことになる。何の前触れもない過去遡及はアンフェアなんで原則認められないと考えられるけど、Noticeが公表されている場合はその日に遡るのは珍しくない。最近、CAMT、自社株買い、IRA拡張再エネクレジット、R&D支出の資産計上とか多くの緊急課題に関して、正式な規則案を出して最終化っていう時間的な余裕がないためスピードの関係からNoticeが乱発されてるけど、納税者にとって有益なSafe Harbor的な規定を含むNoticeは、法的効果はないけど納税者による準拠が許される「Reliance」規定が含まれてることが多い。

2014年4月って文字通り10年前。規則公表をどれだけ待ってて、2023年末に案とは言え規則が公表されたときのExcitingな驚きはここまで読んでくれた読者には分かってもらえるね?現時点では規則案なんでNotice同様に法的な効果はない。ただ、2014年Noticeでは、Noticeで問題視している取引は既存の2011年最終規則に基づいてもIRSによるチャレンジの可能性ありと釘を刺している。

以上が2014年Noticeだったけど、Killer B物語はNever Ending Storyのようにまだ続いていく。2016年Noticeだ。次回は2023年の規則案が出る前の最後のNoticeとなるこの2016年Noticeに関して。